軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五十二話 ダンジョンに行こう

◎トルダ温泉街 ルイーズホテル Sクラスルーム

「…………朝か」

風音はティアラの乳房に顔を埋められてる自分に気付き、よいしょっと抜いて出た。

「今日も天気だなあ」

窓の外を覗いて青空が広がっているのを見回す。しばらく外を眺めてうんうんと何事か頷く。

「うん。大丈夫、達良くんのことは整理できてる」

そう自分の心情を結論づける。

「よーし、そうと決まれば温泉でも行くか」

せっかく達良くんが用意してくれたものなのだ。入らなければ損だろうと風音は部屋を出る。

「む、おはよう」

外に出ると風呂から出てきたばかりの様子のジンライがいた。

「んーおはよう。ジンライさん」

そう答える風音からジンライはジリジリと距離を取っていく。

「そ、それじゃあワシは朝の稽古を付けてくるので」

「ああ、『夜の稽古』の後は朝の稽古なんだ。大変だねえ」

風音はそう言うと口をパクパクとして冷や汗を垂れ流し続けるジンライを放っておいて大浴場へと向かった。

(匂いを消そうと必死で洗ってたんだろうなあ。バレバレだけどね)

とはいえ、大人の事情は大人の事情として別枠で考えてる風音にはどうでも良いことだった。

◎トルダ温泉街 大浴場

「あら、カザネじゃない」

まだ朝も早く人も疎らな時間帯だがそこにはルイーズが一人浸かっていた。

「おはようルイーズさん」

風音は欠伸をかみ殺して温泉に入る。

「ふむ、昨日は酷い顔して帰ってきたけど今日は大丈夫みたいね」

「寝て起きたらスッキリしたみたいだよ」

「あんなものを枕にして眠れるんだもの。そりゃあスッキリよね」

「うん、そうだね」

ティアラのおっぱいのことである。ルイーズは昨晩様子を見に行ったときに見ていたし風音もピトッと誰かに抱きついて寝るのが好きなので特に否定もしない。ちなみに風音評価によればティアラのおっぱいの評価はそれなりに高くはあるが総合的には達良くんのモチモチなオナカの方が上らしい。

「男どもが大金を出して欲しがるものをあんたは事も無げに手に入れているのよ」

風音の脳裏に大金を持った男どもの熱視線を受ける達良くんが連想されたが無視した。

「女同士の友情はプライスレスだよ」

「ま、時には赤字になることもあるのを覚えておきなさい」

「はーい」

まあ、どうでも良い会話だ。

「ところでカザネって鼻がいいんだって?」

「昨晩寝た男を当てろってんならここにくる前に分かっちゃったよ」

風音の返しにあらまあとルイーズは笑う。

「ジンライくんたらもうバレてんの」

ケタケタと笑うルイーズに風音はアハハハと笑い返す。

「まあ、一応フォローしとくとあのこも抵抗はしたのよ。でもねえ、したり顔で「見ていれば分かりますよ」なんて生意気言ってくるんだもの。そりゃ身体に聞いたわよ」

それは昨日のオーガ討伐の際に出たルイーズの問いへのジンライの回答である。ルイーズはそれで納得がいかず、結局夜中に忍び込んでジンライに洗いざらい話させたのだ。することはしながら。

「あーそうなんだ」

ちょっと顔を赤くして風音は苦笑する。所詮耳年増、実際に踏み込んだ話をされては返す言葉もない。

「ふふ、まあジンライくんの奥さんにも悪いからこのことは黙っておいてね」

「ラジャー」

風音の限界を察したルイーズはそれ以上の追及をせず、口止めをお願いするにとどまる。

(たぶん、これを言いたかっただけなんだろうなあ)

鼻がよいかと尋ねたのは、昨晩の関係を知られているかの確認のためだろう。

(怖いな。ルイーズさん)

権力者の寵愛で地位を築き上げた女である。それは様々な意味で強い女性だ。風音は話題を変えることにした。

「そういえばルイーズさんって今日から私たちのパーティに入るんだよね。ホテルってどうするの」

「あー、あのホテルはオーナーってだけで運営は任せてあるからねえ」

「そうなんだ。でも昨日はずっとお部屋の案内とかしてたよね」

「あれはね。メフィルスが来たときにはあたし一人が受け持つことになってるのよ」

愛人の仕事乙である。

「それにあたし、ここを離れて結構冒険出てるのよ。水晶結界のルイーズといえば中々有名なんだから」

残念ながら他の冒険者の情報など風音はあまり聞いたことがないので当然知らなかった。

「鬼殺し姫なんて呼ばれてるカザネには敵わないけどね」

「そっちも聞いちゃったんだねえ」

ちなみに弓花には特に付けられた呼び名はない。敢えて言うなら鬼殺し姫の相棒くらいだろうか。

「そういえばさ。あなたたちが昨日なにをショックに受けたのかって気になってたんだけどさ」

「あーそれは」

どうごまかそうかと考えてた風音にド直球の言葉の爆弾が投げつけられる。

「ズバリあなたたちってプレイヤーでしょ?」

その言葉に風音はギョッとした顔でルイーズを見た。

「なんで知ってるの?」

まさかゼクシアハーツのなんらかの関係者か……と風音が考えたところでルイーズが言葉を返す。

「あら、そんな顔しないで。ジンライくんも、あなたたちに気付いてないけどプレイヤーって言葉くらいは知ってるはずよ」

風音は「え、そうなの?」と呆然と返す。

「それくらいには有名なのよ、プレイヤーっていう異常に強い異邦人たちがいるって話はね。まあ敢えて自分の事情を話す人も少ないし実際にプレイヤーと知って会ったことのあるのはあたしも一人だけしかいないけどね」

「名前は聞いてる?」

「アユミ・ニシムラと言っていたわ。知ってる人?」

聞いたことはなかったので横に首を振る。

(有名なプレイヤーならハンドルネームやプレイヤーキャラの名前で分かるかもしれないけど)

「もう80年は前のことだからほとんど忘れちゃったけどね。帰る方法を探してるって言ってた。この街で知り合って石碑を見た後あんたたちみたいに呆然となってたわ」

「そっか」

確かにその人もショックだったのだろう。600年、いや80年前なら520年前か。そんな昔に同じように異世界に飛ばされた人間がいて帰れずに死んだと知ったのだから。そして、それはつまり誰か最初に飛ばされてから現時点で600年は経過しているということでもある。

「その人も帰れなかったんだよね」

帰ったところで520年後、それはもはや別の異世界と変わらないだろう。

「さあね。その後は一度も会ってないし」

「そっか」

「まああまり気に病まない事ね。故郷が懐かしいのも分かるけどここだって悪いものじゃあないでしょ?」

「うん、それは分かってるよ」

風音はそう言ってお湯に深く浸かる。考えても仕方がない。

そして風呂を出て準備を整え、一行は昼になる前にダンジョンへと向かった。

◎C級ダンジョン オルドロックの洞窟前キャラバン

「ヒッポーくんやばいわね。速いしお尻が痛くない」

温泉街外でヒッポーくんを造ったときはルイーズも驚いたものだが、その乗り心地は他の人たちと同様に大絶賛だった。

「あれで森の木々も容易にすり抜けるからな。しかし今回のは一回り大きかったな」

ジンライの言葉に風音はそうだねと返す。

「一応3人乗り用に少し大きくしてあったからね」

普通のヒッポーくんでも3人乗れるが、狂い鬼戦などで乗ったときに若干の余裕が欲しいと感じていたのである。

用意したヒッポーくんは2体で風音・ティアラ・弓花とジンライ・ルイーズの配置でジンライの方は二人だけだったのだが、三人乗りと二人乗りを別々に造るよりも三人乗りを一緒に作成した方が魔力消費が少ないのでジンライの乗っている石馬も大型だった。

「いいわあカザネ。一家に一人欲しいわね」

「あげませんわ」

ルイーズの視線にティアラが風音を抱き締めて防御。

「ケチねえ」

ルイーズが肩をすくめる。

「それじゃあ、とりあえず宿を取りましょうか」

「そうだね。でもこれってどういうもんなの?」

風音が周囲を見回す。仮設っぽい建物が乱立していて混沌としていた。感じとしてはコンラッドやウィンラードの市場に近いものがある。

「ここはC級ダンジョンといってな。まだできて間もないダンジョンなんだ」

ジンライが風音の質問に答える。

「ダンジョンができると冒険者が集まる。その冒険者相手に商売をしに商人が集まるとこんな風になる。ダンジョンが定着して人の入りも増えていけば周囲の設備も整えられていき、やがてちゃんとした街の形になっていく。実際ウィンラードもそうしてできたと聞くぞ」

風音も弓花もウィンラードの成り立ちについては初めて聞く話だった。

「でもダンジョンを攻略したら終わっちゃうんだよね?」

ジンライはその言葉に頷く。

「だが終わるというのがなかなか難しい話でな。知っているとは思うがダンジョンのコア『心臓球』は最深部にあるが、その過程でチャイルドストーンというのを破壊せにゃならんのさ」

「チャイルドストーン?」

「サブ的なコアのことよカザネ。そいつを破壊していくと『心臓球』への道は開けてくるのだけれどね。ダンジョンの中は広大でそれを探していくのだけでもう大変なのよ」

「広大?」

ルイーズのその言葉の意味がイマイチ分からないという顔の風音。それは以前にダンジョンを調べたときにも理解できない部分だった。

「それはソレこそ入ってみれば分かるわよ。あと、どうせたどり着けないけどC級の心臓球は基本的に取っちゃダメだからね」

「それは確か、ダンジョンが活性化しているときは周囲の魔物が抑えられるからだったっけ?」

「そういうこと」

ダンジョンは周囲の魔力の流れを変え自分のエネルギーにしてしまうことで周囲の魔物の発生も減少する。というよりはダンジョン内に集中するといった方が正確なのだが、国としての治安維持装置としてもダンジョンは有効に活用されている。

「力のある国によってはA級までは放置というところもあるがな。S級になるとほとんど手出しが難しくなってその土地自体を封印処理する必要があるからそれまでには攻略しておきたいわけだ」

なお世界最大のダンジョンの名はオルドナガル大陸北部の『腐食領域』だと言われている。できて数千年が経過し、もはや人が立ち入ることすらもできない攻略不可能な完全なる異界である。