軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五十話 温泉に入ろう

◎トルダ温泉街 ルイーズホテル 夜

「くっくっくっく。何の冗談よ、これ」

『うるさいわ』

目の前で軽く爆笑しているお姉さんと、ぐぬぬ顔のチビグリフォンことメフィルス元王様がいる。

(長耳だ)

(エルフだ)

風音と弓花が感動してそのお姉さんを見ている。

「あの、あなたがお爺さまのご愛人のルイーズ様ですの」

ティアラはその若々しさが信じられない様子だ。

「ええ、そうですよ。ティアラ・ツルーグ・ツヴァーラ王女様」

ルイーズ・キャンサー。エルフ族の冒険者であり、ルイーズホテルオーナーであり、メフィルス元王の愛人、それが目の前の女性の肩書きだった。

「ティアラ・エルマーです、ルイーズ様。今のわたくしは王家の一員ではありませんの」

それもしきたりの内で、修行中は他国に利用されぬように一時的に王家からは外される。

「なるほどねえ。じゃああまり堅苦しいことは言いっこなしかな?」

「はい、それでお願いします」

そう返すティアラにルイーズはまた笑いながらちびグリフォンの頭を叩く。

「なによぉ。ひねくれ者のあんたの孫にしちゃあまっすぐに育ってるじゃない」

『何をいうか。余のどこがひねくれていると』

「そりゃー言って良いものかな。ジンライくん?」

「お好きにしてくださいルイーズ姉さん」

「姉さん!?」

その言葉に弓花が驚く。

「いや、別に実の姉というわけじゃないぞ」

ジンライはそう訂正する。

「ジンライくんはねえ。この人が旅に出てるときのパーティメンバーだったの。あたしもね」

「へぇ。そうだったんだ」

ここでジンライがメフィルスと面識のあった理由が明らかになった。

「あのころのジンライくんは可愛かったわよぉ。もう食べちゃいたいくらいで。ああ、いや食べちゃってたわね。実際」

「ぬ……」

ジンライの言葉が詰まる。そしてルイーズから目を背けようとして、興味津々な表情の弟子と目があってしまい固まる。

「面白いことなど何も……ないぞ?」

ジンライの汗が止まらない。

「毎日毎日肌を重ねてたじゃないのさ、ジンライくんたら。そりゃ面白い話のひとつやふたつやみっつやよっつはあるわよ」

「あのールイーズ姉さんはお爺ちゃんの愛人じゃなかったの」

同じく興味津々な風音がむふぅとした顔で手を挙げて質問する。ちなみにティアラには刺激が強すぎるのか今はもう顔を真っ赤にして耳をふさいでいた。

「それがねえ。その頃のメフィルスはイバリ散らしただけのアホボンでさあ。てんで興味なかったのよ、実は」

『うぬぅ』

「けどジンライくんが今の奥さんの、シンディと子供ができちゃってねえ」

「師匠? ルイーズさんと付き合ってたのに他の女の人とできちゃったんですかぁ」

弓花の非難の声にジンライが慌てて口を開く。

「むう。姉さんはワシのことなど遊びのようなものだと言っていてな。摘まみ食いのつもりだと。だからワシは」

ジンライの言葉にルイーズは「まあねえ」と返す。

「本当にそのつもりだったんだけどね。けど思ってた以上に愛着があったのに気付いちゃったってのもあってさー。泣いたわよ、そりゃあね」

それにジンライが申し訳なさそうな顔をする。そこにはきっと複雑な思いがあるのだろう。

「そんなときにこっちの人に優しい言葉をかけられてコロンとなびいちゃったわけよ」

と、ルイーズはメフィルスを抱き抱える。

「あたしが温泉好きなのを知っていて、ここに囲ってやるーとか息巻いちゃってさー。気付いたらこうなってたわね」

「さすがお爺ちゃん、権力行使で女をゲット! 伊達に長く王様やってないね」

『無論だ』

風音の言葉にメフィルスは堂々とそう返した。いったいなにが無論なのかは不明だ。

「まあ、あんたが死んだって聞いたときにはがっくり来たもんだけど、すぐに連絡が届いてね。未だにあたしなんかに会いに来てくれるんだもんね。愛人冥利に尽きるってもんだわね。愛人らしいことはもう20年はしてないけど」

『しょうがなかろう。歳なのだ』

もはや人ですらないので性欲もない。

「だったらジンライくん、良かったら40年ぶりくらいに汗流しっこするー?」

「いえ。歳ですので」

ジンライはきっぱりと断る。後ろ髪引かれる部分もあったが妙な期待感のある弟子の目が怖かった。そして

(ハイヴァーンに戻る予定もあるのだ。シンディに知れたら殺される)

……そんな思いも強かった。

さてここに来て、ただ一人腑に落ちない顔をしている者がいた。それはティアラである。何故腑に落ちぬのか。それは簡単な話だ。

(あの方が歳を取っていないことにみなさま方がなんの疑問も持っていないのは何故なのかしら?)

今までエルフ族の長寿のことなどを教育されていないティアラにはそれが疑問だった。

◎トルダ温泉街 大浴場

「エルフってそういう人たちなんですのね」

ティアラが湯船の中でたゆんたゆんの物体を浮かせながらそう口にした。ルイーズからさきほどの疑問だったことを聞いたら長寿だからという答えが返ってきたのだ。

「そういうのは確かに教えられていなければ知らない話だよねえ」

風音がそう答える。ティアラは幼いときからそれなりの教育は受けてきたが他種族間の違いなどは礼儀作法ぐらいしか教わってはいなかった。カリキュラムにない以上は知りようがない。この手のことは実際にそうした相手とも接触する可能性のある冒険者たちの方が詳しいのだ。

「あたしは今126歳よ。あと30年辺りから徐々に歳を取っていくようになって300歳くらいで死ぬらしいわよ?」

そう答えるルイーズの前にはティアラに負けず劣らずのたゆんたゆんが浮かんでいた。スレンダーな体型の多いエルフとしては異例な乳だ。

「ふむ」

ソレを見ていた風音は自分の胸を鷲掴みにする。残念な気持ちに溢れた。

「まだ頑張れる」

だがそう、力強く頷いた。諦めぬ気持ちが大事だろうと。

「いや、さすがにそろそろあきらめた方がいいんじゃないの」

しかし、ルイーズよりも遙かにエルフな胸の風音に対し弓花から容赦のない言葉が浴びせられた。

「そんなことないよ。夢は信じてればいつかは叶うんだよ」

未だに叶わない胸を持つ風音が断言する。

「大体弓花だってさ、そんなに人のことを言えるほどの持ち主じゃ」

……と言い掛けて、そして止める。確かに弓花はティアラとルイーズにはボリュームで勝てない。が、十分に戦力となる健康的な張りがあるものを持っていた。最初から風音に勝算などはなかったのだ。

「大丈夫よ。カザネもティアラやユミカと同じくらいの歳になればきっと大きくなるわよ」

「同い年だよッ」

泣けてきた。風音は「帰れ、乳の国へ」と言って一人で隅の方にいってしまう。

「あらら、いじけちゃった」

ルイーズがえへへ、失敗と言いながら湯船に深く浸かる。

「まったく、カザネはあれでいいのです。あんなに可愛いのですからこれ以上可愛くなったらわたくし死んでしまいます」

だらしのない笑みでティアラが言う。どうも隅に行く時に見えた風音の小振りなお尻にキュンキュンいった模様。業の深い娘だった。

「うん。お姉さん、ティアラちゃんのこと少し分かってきたわ」

「ふう、普段は別に気にしてないくせに」

「比べられると気になるもんよ。あたしだってユミカちゃんのちょっとうらやましいもの。張りって大事よねえ」

「知りませんて」

弓花は興味なさそうに返す。

「それにしてもさ」

と、ルイーズがここで話題を変えてきた。

「あなたたちって女の子3人におじいちゃん一人におじいちゃん鳥獣が一匹でしょう。なかなかに個性的なパーティよねぇ」

「そういう風に見ればそうですね」

職種的にも魔法剣士と槍兵二人に召喚師とオフェンスに偏ったメンツでもある。

「あたしの頃はもっと色気付いた感じがあったんだけどな。でもティアラちゃんはアレだしカザネもそういうお年頃って感じじゃないし」

あれーとルイーズが弓花を見る。

「もしかしてユミカちゃん。ジンライくんとデキてたりする?」

弓花はブフォッと吹き出す。

「何言ってるんですか。師匠をそんな風に見たことすらありませんよ」

「うーん、ないか。まあそりゃあそうか」

そしてケタケタとルイーズは笑った。

一方、男衆だが

「炎の召喚獣なのに、お湯に浸かれるんですな」

『火山の力を利用しておるから火のファクターの色が強いのでな。良い湯加減よの』

中身は老人だが見た目はぬいぐるみのようなちびグリフォンがお湯に浸かりながらくつろいでいる。可愛いもの好きが見たら卒倒しそうなぐらいに愛らしい光景だがジンライにはそういった感性はなかった。

「なるほど」

『しかし正直人間止めて良かったわ。王の責務からも解放されたし孫と旅ができて、お前やルイーズともまた会えた。ふふふ、一週間前までいつ死ぬのかとずっと考えておったからな』

「それは……」

軽くは言うが恐らく口にした通りだったのだろうメフィルスの心境を思うとジンライは返す言葉が出ない。

『お主も歳よ。多少は覚えがあるのではないかな?』

「ワシにはまだそこまでは分かりませんよリーダー」

ジンライはかつての呼び方でメフィルスを呼ぶ。それを満更でもないという顔でメフィルスは笑った。

『で、実際のところどうなのだ?』

「どうとは?」

『ルイーズのことは今更よ。余は止めんぞ』

そう言うメフィルスにジンライは苦笑する。

「止めてください。弟子に何を言われるか分からないしシンディにバレたら殺されます。この歳だと本気でヤバい」

おまけに風音は匂いで気付く。ギャオの二の舞はゴメンだった。