軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四十九話 温泉に行こう

◎王都グリフォニア近辺 岩場

「スキル・ゴーレムメーカー・ヒッポーくん及びヒッポーくん」

風音が杖を突き立てると周囲の岩と土が動きだし、二体の石馬が作成される。

「よし、これで帰りの足はできたよ」

「ヒッポーくんですね。お久しぶりな感じです」

「そういやもう一週間くらい呼んでなかったなあ」

覚えてからは毎日のように乗っていたので風音もずいぶん久し振りな感じだった。

結局、風音の体調が完全に回復するのに目覚めてからさらに1日が費やされ、その翌日は大本の予定通り王都を散策していくつか装備を整え、旅立ちは3日後の今日になっていた。

「んじゃあ私は師匠と乗るから、ティアラは風音と乗んなよ。いや、そんな目をしなくてもいいからね」

「ホントに? よろしいんですのね?」

そう疑い深そうに確認するティアラは元より長かった髪を肩まで切りシニヨンにしている。服装は召喚師の中でも炎のファクターの大家ロンドの系統となる赤い儀式服に風音達と同じ不滅のマントを羽織っている格好だ。武器はルビーグリフォンが柄に象られているレイピア。ルビーグリフォンの眷属を呼び出すための召喚具であるとのことだったがまだ風音達はその姿を見ていない。

「いいから。さっさと乗っちゃって」

弓花は若干投げやりにティアラに言い、ジンライとともにヒッポーくんに乗る。

「ふむ。お前も苦労しそうだな」

「あれがなければいい娘なんですけどねえ」

ティアラは特別風音を独り占めしようとかそういう気はないようなのだが、自分だけが風音を独占するのは心苦しいらしく弓花にも薦めてくるのだ。別に弓花はそんなものはいらないのだが。

「まあそのうち慣れるでしょう」

そう言ってヒッポーくんを走らせる。

「そんじゃあ弓花たちに併せて行こうか。早くしないとアウディーン様がまた来そうだし」

「ないとは言い切れませんわね」

『ああ、カザネのことを狙ってくるやもしれぬ』

グリフォン姿のメフィルスの言葉に風音は苦笑い。

メフィルスの説得でティアラを旅立たせることを渋々了承したアウディーン王(アウディーンは王になった。戴冠式は数ヶ月先とのことだが)だったが意外な抵抗を見せ、

「カザネといっしょがいいと言うなら私がカザネと結婚すればいいじゃないか」

と、爆弾発言を落としてきたのだ。娘かわいさにバカなことを言うなと風音は一蹴したが、ティアラとメフィルスの考えは違っていた。

(本気でしたわよね)

(間違いなかろうよ)

どうもブレアと戦ったときに惹かれるものがあったらしい。風音が子供でなければ(アウディーンは10才くらいと認識している)、アウディーンの性格ならば夜這いをかけかねないとメフィルスは考えていた。そういうお国柄である。

或いは風音の可愛さのあまり歳など構わずに特攻するのではと考えたティアラは風音の貞操を守るべく一刻も早くこの国を出るべきだと主張していた。

なおブレア・デッカーマンこと悪魔ディアボは未だに発見されていない。

『捜索は続けてはいるのだがな』

メフィルスはそう言っていたが、悪魔相手では見つけるのはほとんど不可能だろうということだった。一応ブレア・デッカーマンとして賞金首付きにするぐらいしか打てる手はなかった。

「そういえばジークってあと五日は出せないんだっけ?」

併走する弓花から質問が来た。

「えーと、そうかな? どうしたの?」

「いや城の外に出たらちょっと心配になっちゃって」

「ジークというと、わたくしを救ってくれたという太古の召喚英雄ですわよね?」

後ろから風音をギューっと抱き締めて胸をたゆんたゆんさせているティアラが尋ねる。見事な揺れ具合である。風音の胸は動くという概念が存在しないようなシロモノだというのに。

(あーそういう話になってるんだ)

弓花がすまんと謝る仕草をしている。風音が寝ている間に聞かれたのだろう。風音は横に首を振る。そういう解釈でいるなら手間も省けてよいと風音は考えた。

「うん、あいつもしばらくは呼べないしね。一回呼んだら10日呼べないんだ」

「そういう制限がありますのね」

ティアラはなるほどと頷く。

「だから、それまでに来られたらマズいんじゃないかなーって思って」

弓花は心配そうに風音を見ている。ディアボは去り際に相当不吉なことを言って帰っていったのだ。

「うむ、確かにワシもあれには勝てる自信がないが」

風音はうーんと唸り、そしてこう口にした。

「いつか必ずと言ってたからしばらくは来ないんじゃないかな。それにどうせアイツ相手じゃどこにいても同じだろうし」

ジンライが苦い顔をする。易々と王城に侵入した敵だ。確かにどこにいても危険度は変わりはないかもしれない。

「まあ来たら来たらでなんとかするし、それよりもまずは温泉攻めだよ! 弓花、私たちは今それだけを考えて進むべきなのだよ!!」

そう言って風音はひゃっほーと言ってヒッポーくんを走らせる。

「ちょっと、落ち着きなさいよ。もう」

弓花がまったくと言いながら追従して速度を速める。

温泉攻め。風音の言うとおり、時代は温泉なのである。風音たちはウィンラードへ帰る途中にある温泉街に寄ることになっていた。大仕事を終えた後には温泉、それは疲れをとるために必須であり、この世の必然であり、正義でもあった。時代が温泉を求めていた……と言っても言い過ぎではあるまい。

◎トルダ温泉街 夕方

風音が叫ぶ。

「ここが温泉街! 英語にするとONSENGAI!」

それはローマ字だ。そして唯一意味が分かるかもしれない弓花ですら、頭の上にハテナが出ていた。

「それはローマ字だ」

なので自分でオチを言った。弓花はそれで理解したがスルーした。話すに値しないこともあるのである。

「ふーん、大浴場があって、その周囲に宿屋があるのね」

案内板を見ながら弓花は持ってきている推薦状を確認する。

アウディーンの筆記で書かれているその推薦状はこの街にある上流階級向け宿泊施設宛のもの。ようするにただで高級旅館に泊まれるということだった。

「硫黄の匂いがするねえ」

風音は『犬の嗅覚』がこのようなものに過敏に反応するのではないかと考えていたが、そんなことはなかった。便利なものである。

「アルゴ山脈付近で温泉出るのならコンラッドの近くにもないのかな?」

「街からかなり離れた場所に湯が湧き出ていると聞いたことがあったな」

風音の疑問にジンライが答える。

「へぇ」

「私は秘湯的なやつよりちゃんと寝泊まりできる方がいいわ」

「弓花はロマンがないなあ」

そういう風音も特にこだわりはないのだが。

「それでこのまま進んでいけばいいんですの?」

「そうね。なんか一番奥のところみたい」

『余も昔はよく来たものよの』

「お爺ちゃんも?」

ちなみに風音はメフィルスにお爺ちゃんと呼ぶように言われている。もう王ではないのだから王様と呼ばれるのはおかしいからということで、弓花とジンライはメフィルス様と呼んでいる。

『ああ、この奥の旅館を愛人に任せておっての』

「ああ、そういうこと。というかそれって今目指してるところなんじゃないですか?」

弓花の言葉にメフィルスが頷く。

『まあ、挨拶の意味もあるのよ。対外的には余は死んだことになっておるしな』

「変わり果てた姿になって……って泣かれそうだね」

『なら良いのだがな。アレはそういうタマではあるまいて』

どうも癖のありそうな人物のようだ。

「まあ、とりあえず行きましょうか」

先行きに不安を覚えつつ、弓花は一行を先導し進み始めた。