軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四百九十七話 人外に襲われよう

「ウォォオオオオッ」

己の闘気を凝縮して生み出した幻創剣『カリバーン』を振るってオーリはトゥーレ王国の兵たちの中へと斬り掛かる。

「こいつ、速いぞ」

「さっきまで牢屋の中にいたヤツがなんでこんなッ!?」

その勢いはまさに獅子奮迅の如きもので、瞬く間に兵たちは斬り倒されていく。それを為してるオーリの表情も鬼気迫るものがあり、その気迫に圧されて兵たちの顔はこわばっていく。

「くっ、下がれ」

「囲い込め。敵はたかだか一人だぞ」

兵たちは目の前の脱走者が自分たちよりも強いことを理解すると、まともに打ち合うことを諦めて守勢に回りながら囲い込んでいく戦法に切り替えた。

(まったく切り崩せないか)

オーリが苦しそうな顔で剣を振るうが、防御を固めた敵を崩せない。実力に差がある相手に対しての兵たちの選択は正しく、オーリにとっては苦しい状況となっていく。

「よーし。このまま進め」

「抑えつけろ。ぶっ殺せ!!」

盾を正面に出され、次第に壁際へと追いつめられていくオーリの勢いはもうほとんどなくなっていた。

如何に才気溢れるオーリといえど投獄と鍛錬により落ちている体力での全力戦闘は無理があった。

監獄の兵たちの実力も決して低くはない。さらに彼らはこうした事態を想定した訓練も受けており、その成果は疲労と痛みに歪んだ顔のオーリであった。

(逃げ出す糸口すら掴めない……どうする?)

オーリとて無策で特攻したわけではなかった。奥の緊急脱出用の扉が使用できないことは前回の脱走で理解はしていたから、正面に向かって進もうとして兵たちとかち合っただけのことであったのだ。しかし、兵たちの練度がオーリの想像以上に高かった。

「へへ。どうしたよ優男」

「このまま捕まったら、そのケツがブッ壊れるほど使われちまうぞ?」

オーリの動きが鈍るに従って兵たちの顔からゲビた笑みが浮かび始める。しかし、今のオーリには打開する手段はない。そして、20を超える兵たちに囲まれ、オーリはついには壁に追いやられた。

「くっ」

オーリは悔しさをにじませた顔で周囲を見渡す。すでに闘気の剣は消えている。オーリは今は兵から奪った剣で応戦していたが、もはや握る腕の感覚すらなくなっていた。

(イチかバチか……切り抜けるッ!)

兵たちの笑い声の中でオーリは最後に突撃しようとして……

「チェストーーー!!」

唐突に小さな何かが天井から飛び降りてきたのを目撃した。

「何っ!?」

突然現れた仮面の人物に一人、二人と兵士が蹴り飛ばされる。

「こいつっ!」

「殺せッ!」

そして、着地した仮面の人物に兵たちが飛びかかるが周囲にいた兵たちが5人いっぺんに吹き飛んだ。

「なんだ。こいつは!?」

「今、何をされたんだ?」

唐突な攻撃に兵たちが動揺する。

(今のはあの人物から腕が飛び出て……?)

また、突然の状況に困惑しているのはオーリも同様だった。小さな仮面の人物の身体から出現した太く黒い腕が振るわれて兵たちが弾き飛ばされたのが、オーリには見えていた。その腕はとても人間のものとは思えない巨大なものだった。

仮面の人物は警戒する兵たちの前を通り、オーリの元までたどり着く。

「なんだ、貴様はッ!!」

剣を構えて叫ぶ兵士に対し、兵に背を向けたままの仮面の人物が笑った。それを挑発と捉えたのか、何人もの兵が一歩を踏み出した。さきほどの蹴りを見れば近接戦闘に特化しているのは目に見えている。しかし、背を向けている今ならば……と、兵たちが考えたそのときだ。

仮面の人物の背から巨大な鬼の顔が浮かび上がったのは……

「ば、化け物?」

驚愕する兵たちの前に、仮面の人物の背の鬼が笑い、さらには凄まじい叫び声をあげた。

『グォォオオオオオオオオオオオオオオンッ』

「グァアアッ!」

「ヒィィッ!?」

魂の根元へと染み渡るような恐怖を呼び起こす叫びであった。恐慌状態となった兵の何人かが崩れ落ち、その場で失禁し気を失った者すらいた。

「な、なんだ。お前は?」

「こいつ、カザーネサマーだ。酒場で見たぞ」

そう叫ぶ兵たちを仮面の人物は一瞥する。そして、踵を返し正面から向き合った仮面の人物が口を開いた。

『 跪(ひざまず) けッ』

それは明らかな命令口調。当然、トゥーレ王国の兵たちがその言葉に従う理由はない。

「な……んだ?」

しかし、オーリの目の前で兵たちがズラズラと仮面の人物の前に膝を付き頭を垂れた。絶対的な恐怖、その声に従わなければならないという強制力が兵たちの行動を否応なく制限させていた。

「カザーネサマー! 貴様、何のつもりだ!?」

しかし、仮面の人物の言葉に従わない者もいた。数にして5名。いずれも屈強そうな男たちが、顔を歪ませながら気力を振り絞って立っていた。

その睨みつける兵たちを前にして、仮面の人物は、その仮面の中の目を細めて観察する。

『頭が高いよ。誰を前に立っていると思っているのかな?』

そう言いながら、仮面の人物はさらに威圧を高める。当てられているわけではないオーリですら肌がピリピリとするほどのプレッシャーが放たれる。

「おぉぉおおっ!」

「なんという気迫だ!?」

物理域にまで影響を及ぼすほど強力なプレッシャーに兵たちの顔からボトボトと大量の汗が流れ出す。さらにはひとり、ふたりと 威圧(プレッシャー) に勝てずに崩れ落ちた。

「面妖な術を使うなカザーネサマー」

「だが我らが、そのような術に惑わされると思うかッ!」

しかし、残りの3人は屈せず立っていた。血管を額に浮かび上がらせ、怒気がにじみ出ている。どうやら気合いで威圧を防いでいるようだった。

『なるほどね。実力はあるみたいだね』

「舐めるなよ。我らはトゥーレの兵、貴様如き根無しの旅人に屈するほど落ちてはいないわッ」

そう返す兵の言葉を仮面の人物は鼻で笑う。

『囚人虐めが趣味のゲスが偉そうなことを言っても説得力がないよ』

「抜かしたなッ」

怒りによってプレッシャーをはねのけた兵たちが一斉に仮面の人物に躍り掛かる。

『スキル・スパイダーウェブ』

しかし、仮面の人物は慌てず両手を前に出し、白い糸を大量にその手から放出した。

「なんだ?」

「足がっ!?」

その蜘蛛の糸に一人が完全に被って動きを封じられ、ひとりが足に絡まり転がった。しかし残りのひとりは糸を避けきった。

「 殺(と) ったッ!」

そして、一歩踏み出して仮面の人物へと剣を振り下ろす。

『速いッ!?』

その攻撃は後ろで見ているオーリにも、もはや避けようがない一撃だとはっきりと分かった。しかし、聞こえたのは金属の砕ける音だ。

「グルォウッ」

「なんだとっ!?」

兵士の剣は仮面の人物の一歩手前で、巨大な黒い腕に阻まれ、そして折られていた。仮面の人物の身体から生えるように出たソレはまるで大木のような太い腕だった。

「巨大な威圧、蜘蛛の糸に、鬼のような腕……こいつ、人間じゃあないのかッ!?」

兵士がそう叫んだときには仮面の人物から生えたもう一本の腕が飛び出していた。そのまま最後の兵士が殴られ、壁に叩き付けられて崩れ落ちた。

「……ぁああ……」

「化け物……」

その戦いを見て、兵たちは縮み上がっていた。今、仮面の人物が倒したのは、ここにいる兵たちの中でももっとも実力も立場も強い男だった。誰もが逆らえず傍若無人に振る舞う存在だった。それが呆気なく倒されたことで、彼らは目の前の人物に屈した。心が折れた。

『全員、寝れ』

故に続く仮面の人物の言葉に抗えた者はいなかった。そして全員の意識が落ちたのを確認すると、仮面の人物はオーリの前まで歩いていった。

「お前……いや、君は……」

『やあ、間に合ったね』

仮面の中からのくぐもった声だが、オーリには目の前の人物が誰だかはすぐに分かった。

「このタイミング。まさしく神の采配か」

オーリが口にしたのと同時に、その仮面が外された。

「そんじゃ逃げようか、オーリさん」

仮面の下から出てきた顔は当然、風音であった。そして、笑顔で床に崩れ落ちるオーリに手を差し出した。

それはオーリにとってはまさしく救いの手であったのだ。