軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四百九十六話 覚醒進化をしよう

◎大監獄ケストラーデ 絶望の間

ピチャンと水滴のこぼれる音がした。

(水の音……?)

ピチャン、ピチャンと水滴のこぼれる音がした。

その音を聞きながら男の意識は徐々に目覚めていく。

(私は意識を……失っていたのか)

その男、パーティ『オーリング』のリーダーであるオーリは暗い部屋の中で目を覚ました。

「ここは……?」

オーリが周囲を見渡そうと動くことでジャラジャラと鎖が揺れた。そしてオーリは自分が現在いる場所がどこであるかを思い出した。

「そうだったな……変わらず牢獄の中か」

そう口にするとオーリは自嘲的な笑いを浮かべた。

先ほどまでオーリは仲間たちともに異世界を歩いていた。馬のいない鉄の馬車が走り、巨大な鉄の鳥が空を飛び交い、四角い城が建ち並ぶ異世界。争いはなく、食べるものにも困らず、光満ち溢れた人々が笑いあえる世界を旅していた。そんな夢を見ていた。

(ナオキたちの故郷。そして父さんの故郷……)

父親はオーリの思うほどに良いものではないと口にしていたがオーリにとっては父親の故郷は理想郷だった。

それは父親の世界の話を冗談の類と考えていた時期への罪悪感も相まって美化されているだけかもしれないが、オーリのそうした思いはここに閉じ込められてからもより一層強まっていた。

(こう暗いと時間も分からないな。食事の時間も不定期だし、もうどれくらい経ったのか)

オーリは考える。数日のような気もするし一ヶ月は経ったような気もしていた。時間的感覚が狂わされているのが分かるが、基準となるものがないのだから、やはりオーリには分からないとしか言えなかった。

(ま、時間だけはあると思っておこう。今ならいくらでも挑戦は出来る)

オーリはひとり頷いていつも通りの事を始める。

オーリはパーティ『オーリング』のリーダーだ。冤罪でこうして捕まってはいるが、その認識は今も変わらない。オーリングは未だ終わってはいない。

そして、オーリングのリーダーである自分は決して諦めずに仲間を助けることを常としなければならない……と、オーリはその思いを強く持って今を生き続けている。或いは、それこそがこの孤独の中で正気を保つ唯一の手段であったかのしれないが。

もっとも、オーリがこの場で出来ることはそう多くはない。拘束具により魔術や闘気は封じられている。より物理的に全身を拘束もされている。故に、この状況を切り抜けられる手段をオーリは求めていた。

「コマンド……オープン」

オーリは口にする。それはプレイヤーのみが使える魔法の呪文。だから当然ウィンドウは表示されない。

(まあ、分かっているさ)

ウィンドウはプレイヤー本人のみの機能である。

父親がプレイヤーであろうと息子であるオーリにはウィンドウは扱えない。そんな当たり前の事実確認をするとオーリは軽く笑ってから集中を開始した。

現在、オーリは魔力の動きを阻害する拘束リングを付けられている。それは別のところでトゥーレ王国の女王を拘束していたものと性能としては同じものだ。

内部の魔力を外に出すことは出来ないし、魔力の流れ自体のジャミングもされている。肉体はともかくアストラル体の動きが封じられるので、身体能力も大きく落ちる。

(だが、繋がりが切れた訳じゃない)

オーリは己の内のアストラル体を強く意識し体内で魔力を闘気に変換しながら練り続ける。拘束具により魔力も闘気も外側に放出されることはないのだからオーリはただ闘気を練ることを優先出来た。

(もっと、もっと強く……)

意識を集中させる。オーリの魔力総量は一般的に見れば多い。それを闘気に変えてひたすらに収束させていく。それはジンライの『 一角獣(ユニコーン) 』にも通じる闘気の操作術であった。

体内で渦巻く闘気の制御は想像以上に骨の折れる作業だ。僅かなミスで暴発すれば肉体そのものが弾け飛ぶが、オーリは集中を乱さず、失敗することなく為していく。

少しずつ、少しずつ、深く、濃く、己の闘気をひたすらに収束させ続けていく。

(今度こそは成功させる)

ここまでに成功させた回数は未だ一回。一昨日に出来たのみ。昨日はその後の反動により肉体を休ませざるを得なくなり、今日こそはとチャレンジしていた。

己の体力ももう残り少ない。チャンスはもはや数度しかないだろう。

(みんなが待っているんだ)

ナイラが、ユズが、バックスが、オルトヴァが、アグイが捕まっている。カンナは逃げたようだから、もしかしたらこちらのアクションを待っているのかもしれない。

そして、どうであれ彼らを率いる『リーダー』が捕まったままという体たらくはオーリの中では許されない。

オーリは息を吐き、吸う。見えてくる。力のイメージが。

その己の内側に闘気を収束させ呼び起こしていく。思い浮かべるのは年下の親友が操る魔剣の操作。不可能ではないはずだ。これから呼び出すのは己の分身そのものなのだから。

創造する。ひたすらに己の闘気をその形へと収束させる。構築させる。

願望し、

空想し、

妄想し、

幻想し、

夢幻とて具現化させよと、

意志を込めた。

オーリが瞬きをした次の瞬間には、右腕から光が飛び出し、拘束リングが弾け飛んだ。そして、オーリを閉じこめている空間を光の剣は飛んでいた。その姿は普段使っている剣ではなく父親から買い与えられた、今は失われた最初の一振りだ。

なんでもないただの鉄の剣だが、これを握ればひとたび無敵と幼心を振るわせた己の原初の剣がオーリの前に出現していた。

それは『斬心』と呼ばれる剣士としての最高峰の奥義のひとつ。イメージだけで敵を切り裂く心を刃に変える技だ。

「舞え、カリバーン」

オーリの意志と共に父親に名付けられた銘の剣が瞬時に空中を走り、オーリを封じている拘束具を破壊していく。拘束リングも縛つけていた鎖も切り裂き、僅かな間にオーリを抑えつけていたものは破壊され、久方ぶりの自由を手に入れていた。

「な、なんだ。お前、それはっ!?」

突然の破壊音に牢屋の外にいた兵士が、部屋の中をのぞき込むが、その視線にあったのは、光り輝く剣を持ち自由になったオーリの姿だった。

「世話になったな」

オーリはひとこと呟いてから『カリバーン』に念じる。

そして、『カリバーン』は高速回転しながら周囲の壁ごと兵を切り裂いた。

「ギャァアアッ!?」

兵士は片腕を飛ばされ、崩れた壁が激突して、その場で転げた。

事ここに至っては、もはやオーリに加減などする気持など存在していなかった。ここにいる間に随分と彼らには『世話』になったのだ。

自分だけならいざ知らず、仲間たちの様子もご丁寧に教えられていた。日々いたぶられたバックスたちの状況を、嫌らしい笑みで伝えられていた。特にオルトヴァはまだ生きているのかも怪しいほどの屈辱を受けているようだった。

そんな相手に情けを掛けてやる理由はオーリにはない。そしてオーリは止めを刺すべく剣を宙へと浮かび上がらせ、そのまま串刺しにしようとしたのだが、オーリの元へとやってくる、何人もの兵たちの姿が見えていた。

「なんだ、何が起きた!?」

「くそっ、絶望の間の囚人が脱走したぞ」

「相手は丸腰の筈だ。囲めっ」

牢屋ごと破壊された音により兵たちは状況に気付いてやってきたのだ。その集団をオーリは見る。

「ゾロゾロと……しかし、まあ」

オーリは笑って空中に浮かんでいる幻創剣『カリバーン』を握った。

「やっぱり、お前みたいに飛ばしているよりは私は斬る方が性にあっているようだぞナオキ」

オーリはそう言って兵たちへと斬り掛かっていく。ハイヴァーンでも五指に入る剣士が決死の覚悟で牙を剥いたのだ。止められる者などいるはずもなかった。

「おい、なんかセミヌードのイケメンが兵士たちと戦ってるぞ」

「うわぁ、出遅れてる。というか、オーリさん自力で脱出してるし」

『どうしましょーか?』

なお、そこから少し離れた通路では、オーリの匂いを辿ってやってきたチンチクリンふたりとタツオがその様子を見ていた。ちょうどレームを拾ってきた時間分、出遅れた感じであった。