作品タイトル不明
第四百九十八話 ダブルチンチクリンで和もう
「おーい、終わったかー?」
ぺったんぺったん(胸の擬音)とレームとその頭の上に乗ったタツオがオーリと風音のいる場所へと歩いていく。奥の角から眺めていたが戦闘がようやく終わったので、恐る恐ると言った感じでレームは顔を出してきたのであった。
「うわっ、全員寝てやがる。こえーな、何したんだよ、おい?」
歩きながらレームは周囲の状況を見てかなり引いてた。
この監獄の中に入るのも渋っていたのだが、中に入ったらすぐさま監獄の兵たちとの戦闘開始となって尚更生きた心地がしなかった。さらには戦闘終了後の兵士たちが全員眠っている状況も不気味で仕方がない。レームは兵たちがいきなり起き上がったりしないかと戦々恐々としながら、風音たちの前までなんとなく忍び足でたどり着いたのである。
「ちょっとお願いしただけだよ。寝てくださいって」
対する胡散臭い返答にレームはジト目で風音を見るが、事実から言えば大体合っているのが恐ろしいところではあった。
「はぁ、まあいい。けどその仮面は何だよ? いきなり被りやがって」
「ん、これ?」
風音は手に持つ覇王の仮面を持ち上げる。見るからに恐ろしげな仮面で、実際にレームが被った場合、権力欲にとり憑かれて発狂する可能性もある魔法具である。
「まだ正体を知られたくないのと、これはこれで意味のある仮面なんだよね」
うんうんと一人頷く風音だが、レームは腕を組みながら仮面をジッと見て「コワッ」と言って目をそらした。
なお、覇王の仮面は『魔王の威圧』の効力を高めることが出来る。さらに風音のレベルアップした『魔王の威圧』は言霊に威圧を乗せることが可能となっており、風音は覇王の仮面+『魔王の威圧』を言霊に乗せて、兵士たちに使っていた結果が先ほどの戦闘であった。
「カザネ、そっちの子たちはどちらさまだろう?」
状況がまったく掴めていない男、パーティ『オーリング』のリーダーであるオーリが挙手して風音に尋ねる。
目の前にいるのは黒いドラゴンの子供に風音と同じくらいの小さな女の子である。オーリはタツオのことを知らないし、当然レームとも会ったことはない。下手をすると幻覚を見ているのではと思うほどに、この場に似付かわしくない少女たちがいたのだから、オーリが困惑するのも当然ではあった。
「タツオは私の息子だよ」
『息子です!』
風音の紹介にタツオがくわーっと両手を挙げて鳴いた。ちなみにレームの頭の上でである。
「え、息子? それってどういう意味で?」
思わずレームが質問してしまったが、タツオはくわーっと鳴いた。
『父上と母上の正真正銘の息子です』
その言葉を聞いてレームが風音を見ると、風音は「ほれッ、旦那様のくれた指輪ー」と虹竜の指輪を見せつけた。神竜帝ナーガとのことは現時点では秘密ではあるが、竜族との結婚を話すこと自体は問題ではないのである。
そして、風音が見せたのは神竜帝ナーガのレインボーハートの、さらに核部分で造られた指輪だった。見るものが見れば目玉が飛び出すような、この大陸中でもっとも稀少価値のある指輪のひとつである。
レームも一応は王族の端くれ。その指輪が冗談で渡せるものではないのは見て分かったので「お、大人だな……」と返していた。
なお、今の発言で、さきほどのことで若干風音にトキメいていたオーリの恋心が急速に萎んでいったのは秘密である。それはつまり、オーリが直樹に殺害されずに済んだということでもあった。死亡フラグは回避された。
「そんでこっちはレーム。トゥーレ王国の女王様?」
「疑問系にすんじゃねえ。にじみ出る高貴な気配からそれぐらい分かんだろ!」
「え?」
本気で首を傾げる風音にレームが「ガーーー」と吠える。そんなチンチクリン二匹がじゃれ合っている姿は大いに和むし、思わずオーリは目の前の光景を前にほっこりしてしまった。なお、オーリは良い意味での、嘆かわしくない部類の子供好きである。そこを間違えてはいけない。
ともあれ、風音の今の説明だけではオーリにはさっぱり状況が分からない。もちろん、それだけで理解できるとは風音も思っていなかったので、説明はちゃんと続けられた。
「えっとね。レームは王族の端っこの血筋の田舎者だったんだけど、ワルギレオが他の王族を殺しちゃったんで、仕方なく女王様にさせられてたんだって。でも素行が悪くて、ここに閉じこめられてたらしいよ」
「間違ってねえけどムカつくな、その説明!」
大筋では間違っていなかったがレームには不評であった。閉じこめられた理由は、もう少し複雑な理由もあったのだが無視された。
「なるほど。で、この国の女王様を外に出したりしてカザネは大丈夫なのか?」
監獄内で大暴れしたオーリではあるが、国に直接喧嘩を売ろうというほど無謀ではないのだ。しかし、オーリには風音の行動はトゥーレ王国という国そのものへ敵対行動のように思えた。そして、その認識は正しい。
「ゆっこね……いや、ミンシアナの女王様もバックにいるからちゃんと逃げ出せれば大丈夫だよ。オーリさんたちも同様に」
しかし、風音もオーリの問いへの答えは抜かりなく用意している。オーリは一瞬呆気にとられ、続けて頭が痛くなったが、とりあえずはその答えを受け入れて頷いた。
「ミンシアナの女王様ね。よく分からないけど、分かったよ」
一介の冒険者にはまったくピンとこないスケールの話をされてオーリも混乱しているがさすがに状況的に冗談ではないだろうことは分かる。或いは自分を安心させるための嘘ではないかともオーリは考えたが、どうであれ今はその真偽で時間を潰すわけにも行かないのでオーリは頭を振って考えを切り替える。
「ところでカザネ。ここには私以外にもバックスたちも捕まっているんだ。知っているか?」
「うん」
その言葉に風音は当然とばかりに頷いた。
オーリとしても風音がバックスたちのことを知っているだろうとは思っていた。トゥーレの女王を脱獄させるのが目的だとしても、ただの偶然でオーリを救いにきたとは思えない。ならばとオーリは口を開いた。背に腹は代えられない。躊躇などしている余力はオーリにはない。
「力を貸してくれないかカザネ?」
オーリはそう言って立ち上がろうとする。
しかし、体力はもう限界だ。オーリは壁に寄りかかったまま崩れ落ちようとして、
「大丈夫だよ」
駆け寄った風音がオーリを支える。そして言葉を紡いだ。
「今、まさに助けに行ってるところだから」
笑みを浮かべた。
「みんながね」
そして、風音の言葉と共に監獄内に振動が走った。
◎大監獄ケストラーデ 牢屋
「おおおおおりゃぁああああっ!!!」
石壁が砕かれ、燃え、崩れていく。その光景をバックスたちは呆然と見ていた。
「もういっちょお!!」
彼らの前には燃えさかる6メートルはある大太刀を両腕で抱えて滅多斬りして牢獄を破壊しているマッチョ男がいた。
それは深化し炎の大太刀と化した弓花と、『狂戦士化』し赤く染め上がった長髪のマッチョ直樹であった。
「クソッ、連中を抑えろッ!アダマンゴーレム、やれぇえっ!!」
ゴーレム使いのかけ声に、走り出すアダマンゴーレムを、
「ザッケンナァアアアッ!!」
『狂戦士化』で直情的になっている直樹はそのまま一刀両断で斬り裂いた。真っ二つに裂けたアダマンゴーレムがその場で崩れ落ちる。
「バカな……」
ゴーレム使いは目の前の光景に愕然とするが、アダマンゴーレムが斬られたのは直樹の技量というよりは、大太刀となった弓花が纏う炎が『神々の炎』であるが故の芸当である。
「すげえな。神々の炎かよ。なんなんだよ、こりゃ」
その光景を見ているバックスが目を丸くして呟いた。ドワーフであるバックスは大太刀の白い炎がなんであるかをよく知っている。決して戦闘に使うようなものではない筈のドワーフの宝が、燃え盛って刀を包んでいた。
そして直樹はさらに周囲を破壊し続け、牢獄は崩壊した廃墟のようになり、とっくの昔に脱出可能の状態となっていた。
「ちょっとね、直樹やりすぎだから」
概ね破壊し尽くし終わって『深化』を解除し竜人状態に戻った弓花が呆れ顔で苦言を言う。もっとも直樹は「グギギギギ」と『狂戦士化』後の筋肉痛にのたうち回っていた。
「なんかとんでもねーことになってるな」
バックスの言葉に、牢屋の中にいるアグイとオルトヴァ、さらには転移してやってきたカンナ、ライル、エミリィが苦笑いをしていた。
風音のメールを受けて転移してきた直樹たちによる第一撃はこうして完了したのであった。
すでに一般牢は半壊状態。他の囚人たちが唐突な状況に怯えているなか、オーリの救出とバックスたちの救出を完了した白き一団は次なる計画を進めるために動き出す。
布石は打ってある。カザーネサマーという名の謎の人物がいったい何者なのか、それを知らしめるための舞台が徐々に整いつつあったのだ。