作品タイトル不明
第四百八十六話 宙を駆けよう
ブラッドビー。それは血のように赤い色をした、1メートルはある巨大な蜂の魔物である。通常は10匹から50匹ほどの群れで行動し、肉食で積極的に獲物を襲う。このブラッドビーの顎は強力で、襲われれば肉片一つ残らず白骨のみをその場に残すことになるという。
「おー怖い顔してるなぁ」
そんな魔物を観察していた風音は若干プルプルと震えていた。もっとも震えているのはブラッドビーの顔が怖いからではなく虫がウジャウジャと飛んでいる光景が生理的に受け付けないためであった。
そして風音がいるのはブラッドビーたちが飛んでいる場所より若干離れている地点である。叡智のサークレットによる遠隔視で魔物たちの状況を探っている風音の後ろには、メフィルスとユッコネエ、それにカンナがいた。
「そんじゃあ、今から仕掛けるけど」
風音が後ろを向いて戦闘メンバーを見る。
今回、召喚体であるメフィルスとユッコネエを選んだ理由はアナフィラキシーショック効果という二回攻撃後に即死効果を発生させることがあるブラッドビーへの対抗処置であった。召喚体であるならば即死でも復活が可能だ。また風音も一度ならば『致命の救済』が発動するので即死回避が出来るし『竜喰らいし鬼軍の鎧』ならば蜂の針を通すこともない。
なので、この中で不安があるとすればそれは生身で軽装備のカンナのみである。
「即死攻撃持ちなんだから無理はしないでよねカンナさん」
風音としても普通の敵ならばいざ知らず、確率で即死させてくるような相手では慎重にならざるを得ない。だが、カンナの顔はあっけらかんとしたものであった。
「平気平気。風音ちゃんに心配してもらわなくても私も慣れてるから大丈夫だよ」
そう答えるカンナはこの世界に来て7年を生きているベテラン冒険者であった。レベルは36とそれなりに強いだろうということも風音には分かっている。なので風音もこれ以上の問答は無用と理解して頷いた。
「んー了解。そんじゃ仕掛けるよ」
『ふむ。準備はオーケーであるぞ』
風音の言葉にメフィルスが応え、カンナも構える。ユッコネエも「にゃっ」と小さく鳴いた。
「最初はまぶしいから目を閉じていてね」
そう言って風音は懐からメガビームを吸収済みの『光輪』を取り出すと大きく振りかぶった。
「よいしょっとぉお!」
そして、思いっきりブン投げたのだ。『猿の剛腕』で強化された腕力により『光輪』は一直線にブラッドビーの群れへと進み、
「爆破っ!」
風音はちょうど群れの中で光輪の中のメガビームのエネルギーを爆発させた。群れの中心から発生した光と衝撃にブラッドビーたちが一斉にその場から投げ出される。
「よーしっ!」
その光景に風音が思わずガッツポーズを取る。
光輪を暴走させて爆弾代わりにする方法は、範囲攻撃をあまり持ち合わせてない風音にとっては下手に劣化メガビームを出すよりも有効度が高いようであった。
『ふむ。やったな』
「半分くらいは仕留められてるといいんだけどね。そんじゃ突撃だよッ!!」
続く風音の言葉に全員が頷いて一斉に走り出す。
「うわっ、速い!?」
中でもカンナの速度は異常だった。
ユッコネエよりも速くブラッドビーの元へとたどり着き、体勢を立て直して飛び上がった個体をその足で蹴り砕いた。
『やりおるな』
メフィルスもその蹴りの威力を感心して見ている。
もっとも恐るべきはそこからの連続攻撃だった。蹴り砕いた後、他の個体が襲いかかるのを『直感』で察知し『空中跳び』でさらにそのブラッドビーよりも上に駆け上がると、雷を帯びた脚甲の踵落としで倒したのだ。
『カザネよ。ありゃあお主と同じスタイルであるな』
「いや、私よりも速いし洗練されてると思うよ」
メフィルスの言葉に風音はそう答える。
どうやら風音のトンファーのようにカンナは脚甲にファイアーブーストの雷版を装填しているようである。さらにスキルの『神速』と『空中跳び』に『直感』を組み合わせた息もつかせぬ連続空中蹴りが見事なまでに決まっていく。
(スキルを使いこなしてる。さすがにここにいる年月が長いだけはあるなぁ)
風音はカンナの攻撃を感心して見ている。
カンナの固有スキルは『韋駄天』というものだとは風音は聞いていた。目の前で繰り広げられている圧倒的速度と空中機動による連続技がカンナが7年という月日の冒険者生活で手に入れたバトルスタイルだったのであった。
そんな雷を放つ蹴りが次々とブラッドビーをしとめていく中で、続いて 炎の有翼騎士団長(フレイムパワーリーダー) の姿となったメフィルスがフレイムランスで他のブラッドビーを貫き、ユッコネエも爪で切り裂いて黄金の高熱ガスを吐いて撃退していった。一方で風音は、
「うーん……」
ダンジョンで手に入れたスキル『フェザーアタック』を使用し翼から黄金炎の羽を無数に飛ばしてブラッドビーを攻撃していた。しかし10発程度打ち込んでようやく仕留めたところを見ると普通に攻撃した方が倒しやすいようだった。
(単体よりも補助攻撃か。削りに使うくらいしか使えないかな。続いてはと……)
「おうりゃっと」
黄金翼をハサミのように使って風音は近付いたブラッドビーの胴体をまっぷたつに切り裂く。スライサーバットから手に入れたスキル『ウィングスライサー』である。
「こっちは威力は高いし、結構使えるんだよね」
そう言いながら、風音はさらに迫るブラッドビーにトンファーを振るった。
「スキル『ビースティング』ッ!」
そのトンファーが魔力の光が包まれ、先が鋭い針のようになってブラッドビーを貫いた。
「うん。これは行けるね」
スキル『ビースティング』。ブラッドビーから手に入れた攻撃強化スキルである。威力増強率はキリングレッグには及ばないが、アナフィラキシーショック効果、つまりは二回攻撃後に確率即死効果もある。これは使えると風音がひとり頷いていると、カンナたちの手によりブラッドビーはすべて駆逐し終えていたようだった。
「よっし、これで全部だね。いやー、やっぱり君たちは噂通り強いね」
そうにこやかに言いながらやってくるカンナに風音も笑う。
「いやいや、カンナさんの方こそさすがって感じだったよ」
『確かに相当の腕前のようだな』
「にゃー」
風音の言葉にメフィルスとユッコネエも同意する。今回、ブラッドビーをもっとも仕留めたのは風音の光輪爆弾だが、戦闘で倒した数はカンナがもっとも多かった。その言葉に照れ笑いをしながらカンナは自分の足を叩いた。
「まあ、どっちかっていうと逃げ足専門なんだけどね、私のスキル『韋駄天』は」
逃げ足とはいえ、その足でタツヨシくんケイローンの攻撃をかいくぐりモンドリーを抱えて逃げることで救うことが出来た。オーリングのメンバーが捕まったときもいち早く逃げ出して、そのまま風音たちに助けを呼びに行くのも成功しているわけで、彼女が非常に優秀な冒険者であることは確かであった。
**********
「綺麗な色してるわねえ」
戦闘終了後は、魔物の素材採りである。ペリペリとメンバー全員でブラッドビーの殻を外している。その中で弓花が殻の一つを手にとって呟いた。
「防御力はそれほどないけどこのメタルレッドの見栄えが良いってんで加工して鎧やプロテクターにするらしいよ。某高級外車みたいな色合いだものね」
カンナの言葉に「へぇ」と感心しながら弓花は作業に戻った。
「そういえばさ。素材と言えば、これから向かう監獄都市ドルアージって鉱山街なんだよね?」
風音がはがした殻の表面を見ながら、カンナに尋ねる。カンナも詳しくはないそうだがドルアージのことは知っていると風音は聞いていた。
「そうだね。あの街は囚人を使って採掘を行ってるけど、別に囚人だけが掘ってるわけでもないらしいよ。行ったことはないけど」
「何が採れるんだろ?」
風音の問いにカンナがメモ帳を取り出してペラペラとめくった。
「えーと、金と銅とアダマンチウムだね。特にアダマンチウムは稀少な鉱物だし、かなり高く売れるから一攫千金狙うならドルアージに行けって言う話をトゥーレの王都で聞いたんだよね」
その言葉を聞いて風音のテンションが少しだけ下がった。
「私のこの脚甲もスプリングホッパー素材を魔鋼とアダマンチウムで補強したものだし……って、風音ちゃんなんかテンション低い?」
「うーん。こういうのがね」
風音がアイテムボックスから金属製の鳥の頭蓋骨を取り出した。
「鳥の骨? いや、これって金属だよね。あれ、アダマンチウム?」
驚いた表情のカンナに風音は頷いた。
「そうなんだよ。アダマンスカル系と何度かやり合って随分と在庫があるんだよねえ」
そこまで聞いて風音のテンションが落ちた理由がカンナにも分かったが、しかし風音の言葉はまるで鉱山に掘りに向かうような言い方だった。
「まあ、別に採掘目的でいく訳じゃあないんだしね」
故にそんなもっともな言葉を返したカンナに風音が頬を膨らませて唸った。
「うー、それは分かってるけどさ」
「それにアダマンチウムの鉱物の中にはさらに稀少な 魔金剛石(マナダイア) とかいうのも出るらしいわよ。加工後のソレだと多分持ってないよね」
その言葉を聞いて風音の目が輝いた。つい数秒前までブータレてたチンチクリンとは思えない変わり様である。
「魔術の杖用の媒介結晶だよね、それ?」
「ゲームだとアイテムとして入手するだけだったけど、こっちでは採掘でも採れるらしいわよ」
カンナの言葉に「そっかー」とパァと風音は顔を明るくする。そして上機嫌になった風音はまた黙々と素材採りの作業に戻っていったのである。
(いや、だから採掘に行くんじゃないよね?)
カンナは改めてそう思ったが、敢えて風音の気分を害すこともないと考え直し、とりあえずは自分も素材採り作業に集中することにしたのであった。
そして、素材を取り終えた風音たちは、そのまま街道を西に進んで3日後には監獄都市ドルアージへとたどり着くこととなる。そこは岩山に囲まれた巨大な監獄らしい建物が中心にある街であり、そこにオーリングのメンバーが囚われているはずであった。