軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四百八十七話 街に入ろう

監獄都市ドルアージ。ベルヴェラーザ山脈の中腹に造られたその鉱山街は、ゴーレムマスター教会が大監獄ケストラーデを造り上げたことで、その様相を大きく変えていた。

犯罪者に採掘をさせることで鉱物の採掘量が増え、衛兵たちが増え、併せて国の横暴も目立つようにもなっていた。もっとも、それでも一般採掘者の採掘権は失われてはおらず、またアダマンチウムへの一攫千金の夢が消えぬ以上は人々も変わらず掘り続けていた。

故に監獄都市などと呼ばれてはいても、今もドルアージには自らの意志で多くの人がやってくる。金と夢を追い求め、彼らは今日も山に潜っている。

そして、そんな街に今日あるパーティが訪れていた。

◎監獄都市ドルアージ 正門

「はい次……と、珍しいな」

その日、街の門番がいつも通りの入門受付を行っていると、昼を過ぎた頃合いに一際目立つ集団がやってきていた。

「竜人さんかい。そんな大勢で里を出てくるなんて珍しいな」

「良く言われます。ま、私たちも若いし外に憧れる者もいるってことですよ」

門番の言葉にポニーテールの竜人少女が答えた。それは青く輝く髪をした、透き通るような肌の、まるで高級人形のような人間離れした美しさの少女だった。

「なるほどなぁ。ま、竜人は力が強いって聞くからな。あんたらなら稼げるかもしれねえな」

そう言って門番は竜人たちの集団を見る。ポニーテールの少女の他には仮面をつけた小さな人物と竜人が2人、それに黒竜の子供と人族が一人いた。いずれも手配書に載っている顔はなく、一人を除けば中に通すのは問題がなかった。そして、そのひとりに門番は視線を向ける。

「ええと、リーダーはカザーネサマー? さんって言うのか。アンタ、その仮面の中を見せてもらえるか?」

門番の言葉にザワッと竜人たちがざわめいた。その彼らを手を挙げてカザーネサマーは制した。

『外さないといけないのかな?』

仮面の奥から響く声はやけに恐ろしい声だった。門番はゴクリと唾を飲み込みながらも、職務を果たすべく「規則だからな」と返す。

「この中は犯罪者たちが収容されている施設もある。不審な連中を近付けるわけには行かねえのさ。理解してもらえると助かるが」

『なるほどねえ。いいけど、驚かないでくれよ』

そう言いながらカザーネサマーは被っていた仮面を取ると、門番は思わず悲鳴をあげそうになった。

「昔にドクドクンゾンビと闘ってたときに消化液を被っちまってね。再生魔術も間に合わなかったんで、以来この有様なのさ」

「あ、ああ、なるほどな」

「そんなわけで、もういいかね? 素肌を晒すにはここの風は痛いんだよ」

「すまなかった。もう被っていいぞ」

門番は腰が引けながらもカザーネサマーにそう返した。そしてカザーネサマーは頷くと焼けただれた顔を仮面で隠したのである。

その仮面も威圧的でどこか恐ろしいものがあったが、仮面で顔が覆われたのを見て門番はホッと胸をなで下ろした。

「よし、入場料も確かに全員分いただいた。通っていいぞ」

門番がそう言って鐘を鳴らすと、通路の先の扉が外側から開いた。

『そんじゃ行こうか』

カザーネサマーが声を出して進むと竜人たちの集団も続き、正門を越えて街の中へと入っていったのである。

そして、正門を出たカザーネサマーが『ふぅっ』と息をついた。そのカザーネサマーの正体が誰かと言えば勿論風音であった。

「エグかったわねえ、あれ」

覇王の仮面をつけた風音に、竜人化した弓花が声をかける。その後ろではカンナとライル、そしてライルの竜気で竜人化しているエミリィが苦笑していた。

『母上ー、痛くないですか?』

「んー別に大丈夫だよ。狂い鬼の能力で、ソレっぽく見せてるだけだしね」

風音の頭の上に乗っているタツオにそう答える。風音はオーガの能力である『変化』の術を使ってその顔を変えていた。その他のメンバーは顔バレしていないというカンナと姿の変わったライル。また竜人化で種族をごまかせる弓花とエミリィである。

他のメンバーは街の外で地中に埋めて隠した風音コテージの中で待機で、今回は白き一団を知らせる証拠を残さずに事を終える予定であった。

「それで街の中に入ったのはいいけど、これからどうする? とりあえず遠隔視で監獄を探ってみる?」

「あー、それはやめた方がいいと思うよ」

弓花の口から出た提案は即座にカンナから止められる。そして、その理由を問われる前にカンナは自ら口を開いて説明に入った。

「ああいうところは遠隔視とかその類のものに対しての防護術や探査の術も張ってるからね。さすがに一回や二回で逆探されるとは思わないけど警戒される分、潜入が厳しくなるから」

そこまで言ったカンナの説明を聞いて弓花が「なるほどー」と返した。風音も敢えて危険を冒す必要はないなと頷いた。

「となると、まずは情報収集かな?」

エミリィの言葉に「そうだねえ」と風音が返す。

「鉱山で犯罪者が採掘作業をしてるんだよね。そこらでオーリさんたちと接触出来ればと思うんだけど……となるとやっぱり一度私たちも採掘作業をしてみる方向で動いてみた方がいいんじゃないかな」

『さすが母上。慧眼です!』

その話を聞いて、弓花は「ああ、掘りたいんだなあ」という顔をしたが、特に異存もなかったので言葉にまではしなかった。だが、エミリィが挙手して口を開いた。

「えーと。その前にちょっと宿屋を先に見つけない? 一度元に戻りたいんだけど」

「ああ、そうだねえ。そんじゃ、宿を探そうか」

すでに竜人化をしてから一時間近く経つ。戦闘用に竜気を放出しているわけではないがエミリィの変化も限界に近いようだった。

◎監獄都市ドルアージ 宿屋ミカミカン

「ぷはーーー」

エミリィが身体の内側からの竜気を一気に解放する。すると牙や爪などが消えて赤黒い髪が元の赤茶の色に戻っていく。その竜人化がエミリィが王都ミンシアナの竜騎士に頼み、ライルと竜騎士契約をして得た新しい力だった。

「ずーっと締め付けられてる感じがするんだよね。よくユミカは平気だよね?」

エミリィが息をついて弓花を見た。

「慣れると案外気にならないもんだよ。エミリィも竜気の供給さえあればずっと変化し続けられるようになるって」

「そうかなぁ」

弓花の言葉はミンシアナの竜騎士にも言われていたことではあったが、エミリィは半信半疑であった。

「ぷはーー」

その横で風音が覇王の仮面を外して息をついていた。さすがに仮面をずっと付けてるのは息苦しかったようである。しかし、その風音を見て全員がギョッとした顔をしていた。

「……怖いから解除して」

そのなかの代表として弓花から声が挙がり、風音は「あっ」と言いながら変化の術を解除すると、ただれた顔が元の愛らしいチンチクリンフェイスに戻った。

「変化自体はかかってる私には特に違和感なくなるから気づかなかったよ」

「まあ、外では自然とそのままでいられた方がいいんだけどね。見てると寿命縮みそうだから気を付けて」

弓花がそう返した。そしてタツオが『元の母上です』と言いながら頬摺りをしている。

「ま、俺は解除しようがないんだけどな」

すでに竜そのものとなったライルがそう言った。もっともその顔にはとくに悲壮的なものはなく、冗談半分のようである。

『ふん。そこのカザネのように変化の術でも覚えれば元の姿とやらに表面上は戻れるぞ』

「嫌だよ。めんどい」

ジーヴェの槍の言葉にライルがそう返した。

「そんじゃ、直樹には今無事潜入したってメール送っといたけど、これからどうしよっかね」

直樹は待機組の連絡係であった。

「風音ちゃんのアイディアを採用するならまずは採掘ギルドに登録かな。そんで、犯罪者の採掘状況を確認する必要があると思う」

「そうだねえ。エミリィはちょっと厳しそうだから、待機の方がよいかな?」

風音はグッタリしているエミリィを見る。その視線にエミリィも申し訳なさそうに頷いた。まだ竜人化も覚えたてで、あまり無理が利かないのがここに来て判明したのである。

そして、エミリィを除いた一行はひとまずは採掘ギルドに向かうことにしたのである。