軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四百七十九話 愚痴を聞こう

◎ 金翅鳥(こんじちょう) 神殿 第四階層

『半月ぶりだなカザネよ』

風音たちの前に現れたカルラ王が口を開いた。その姿はまさしく炎の化身といった印象で、黄金炎の塊のままで顕現していた。それを風音が訝しげに見ている。

「んー、実際に会ってるワケじゃあなさそうだよね」

風音がそう口にするとカルラ王がフッと笑う。

風音は魔力のパスの存在を『犬の嗅覚』で感じ取っていた。故に目の前の炎の化身が、カルラ王その人ではないことも把握できていた。

(それにしても半月か。それなりに時間って経ってるんだねえ)

ならば監視が付くのも頷けるなと風音はこの場とは関係のないことを考えながらカルラを見ていたのだが、風音の後ろにいたジンライは呑気に会話に興じるつもりはないようであった。

「カルラ王ッ!」

ジンライが前に出て名を呼び、殺気の込もった目でカルラ王を睨みつけている。

以前に苦杯を舐めさせられた相手だ。故にジンライが怒りと闘志を燃やしてカルラ王と対峙しようとするのも当然のことではある。もっともカルラ王はそんなジンライを無視していた。視線を風音から動かそうともしない。そのカルラ王の態度にジンライの目が見開き、再びその名を叫んだ。

「カァルラ王ッ!!」

その自身に向けられた声にカルラ王はわずかに肩を竦めると、自分の背の黄金の翼を動かした。それは前回のジンライの槍をも受け止めた時のような一瞬の動作だった。

「チッ!?」

殺気を感じたジンライが飛び下がる。そして、黄金の翼がジンライの立っていた場所の床に突き刺さり、貫かれた床からは黄金の炎が吹き荒れて炎の竜巻が生まれた。

「いきなり仕掛けおるか?」

唐突な攻撃に思わず悪態を付いたジンライにカルラ王はようやく視線を向けた。ただし、その顔にあったのは風音に向けるような親しげなものでも、これから戦おうという戦意溢れるものでもなく、失望そのものであった。

『下がっていろ』

「……何を?」

ジンライの問いにカルラ王が怒りの篭もった声で告げる。

『よもや『まだ』我が炎を克服出来ていないとはな。多少なりとて期待した私が愚かだったということか』

カルラ王の言葉にジンライの顔が歪んだ。しかし、それは怒りによってではない。何かをしくじったと理解し、後悔が生まれた顔だった。

『その距離がお前と私の距離だ。今はこれ以上、私を煩わせるな』

カルラ王はジンライにそう言い捨て、再度風音へと向き合った。

対する風音の表情は硬い。シップーもジンライを侮辱されたことの怒りで放電しているが、カルラ王は気にした様子もなくそのまま風音へと語りかける。

『さて、久方ぶりの再会だが、お前が未だにこのようなところに留まっているのには些か驚いたよ。我が元へと辿り着けていないのは仕方ないにしろ、もう少し深く潜ってはいると思っていたからな』

「こっちにも色々とあるんだよ」

カルラ王の言葉に風音が抗議した。確かに風音たちは第四階層までしか潜っていないが、攻略ペース自体は遅いというわけではない。また、冒険者ギルドの報告でも、現在は第十二階層到達が最高のハズである。それもロクに調べずに階段をひたすら降りてとのことだった。

『一般の冒険者の基準でも、もう少しは潜っていると思うがな』

実際にこの半月の間に毎日潜っていれば第十五階層くらいは超えていてもおかしくはないところなのだ。なおかつ、風音たちが全力で挑めばその倍以上の速度で降りることも不可能ではない。しかし、今の風音たちは他の用事も片づけながらダンジョンをゆっくりと進んでいるところだった。

「それで、そんな文句を言うためにここまで来たの?」

『それもある』

風音は「あるんだ」と思わず口にする。

『基本、私はダンジョンの最深層で待たねばならん。退屈なのだよ』

そのカルラ王の言葉に、風音もそれはそうだろうなとは思った。ダンジョンの最下層など基本何もないし、食って寝るだけの魔物ならば兎も角、知性のあるカルラ王が退屈なのはやむを得ないだろうと。

『思うにこのダンジョンの構造そのものがおかしいのだろうな。魔物が跋扈し、宝があり、こうしてボスもいる。しかし、そのすべては攻略する者たちのために存在しているわけだ。本来こうしたものは護るために存在するのだ。人を寄せ付けたくないのであればより強固にすべきだし、仕掛ける罠も解除できる前提にする意味もない。わざわざ迷路のように複雑に造るくせに、最終的に攻略が出来る前提になっているというのは矛盾に過ぎる』

「そんなこと言われてもね。私は知らないよ」

カルラ王の言葉に風音が抗議する。しかし、カルラ王は首を横に振った。

『知らぬ訳がないだろうプレイヤー。お前たちはそうしたダンジョンに潜る遊びをしていたのだろう? そもそもだ。このダンジョンというシステムは『ゼクシアハーツの追加コンテンツ』として用意されていたそうだしな』

カルラ王の言葉に風音の目が見開かれた。

「どういう意味?」

『言葉通りの意味だ。私も詳しくは知らんよ』

そこまで言ってカルラ王は笑う。

『まあ愚痴だな。聞き流せ』

とても聞き流せる内容ではなかったが、相手はこのダンジョンの主だ。そんな相手の言葉をさらに引き出すすべを風音は持ち合わせてはいない。

『そんなことよりもだ。お前の言葉通り、別に愚痴を聞かせに来たわけではないのだ。私も退屈ではあるが、お前たちも手応えのない相手ばかりで退屈していたのではないかと思ってな』

カルラ王の言葉に風音は思わず頷きそうになった。

まだここは低階層である。なので魔物の量も質も貧弱で、今の風音たちの実力に見合ったものではないのは確かではあったのだ。

『だから、その退屈を紛らわせに来てやったというわけだ。確か、こういうのを強制イベントというのだったかな?』

カルラ王がニタリと笑うと、周囲の壁から黄金の炎が吹き上がり、カルラ王と風音たちの間で炎の塊が出来ていく。

「なんじゃ?」

ジンライが叫び、何かが変化していく目の前の状況に風音はとっさに『魔物創造』のウィンドウを開いて確認する。

魔素値:0

・スカルキングカルラ[68]

・アダマンスカルカルラ(傀儡)[23]

(魔素値がゼロ。使い尽くしてるってこと? でも、こいつらって?)

風音の目の前で、黄金の炎は物質化していき、カタカタと何か巨大な鳥骨らしいもので出来た骸骨の塊がその場に積み上がって行く。また、その周囲でもアダマンチウムのメタリックな輝きのスケルトン兵が20体ほど出来上がっているようだった。それらは骨でできた翼を持ち、鳥の頭蓋骨のスケルトンだった。

『母上、魔物が出てきました!?』

「ふにゃーッ!」

その様子にタツオの目が見開き、ユッコネエが鳴いた。同時に風音たちの前後の通路に壁が出現し逃げ道を封じられる。それを見て風音が苦々しい顔をした。

「ダンジョン内でこれか。嫌な性格してるよねぇ」

風音が目の前のカルラ王に視線を向けて、そう口にした。

このシチュエーションは、ようするに浮遊島でのアダマンスカルアシュラに袋小路に追いつめられた状況と酷似していた。

「ジンライさん。あっちのアダマンスカルカルラだけど……」

「分かっておるわ。コアがないのであろう?」

ジンライの言葉に風音が頷いた。

『どういうことでしょう?』

「えーとね。浮遊島のヴォード遺跡の時みたいに、あの骸骨たちは倒しても無限に再生しそうだなってことだよ」

くわーと鳴いて尋ねるタツオに風音がそう伝える。

「まあ、多分後ろのヤツが操ってるんだろうけどさ」

風音の視線の先にいるのは巨大な骸骨の集合体『スカルキングカルラ』だ。その姿は風音たちのホーリースカルレギオンに近かった。

『この階層で扱える魔素にも限りがあるからな。戦術にて補わせてもらったわけだ』

「ふざけた真似をしおるわ」

カルラ王の言葉を聞いてジンライのこめかみに青筋が立つ。それをカルラ王は鼻で笑いながら両手を広げて告げた。

『さあ、ゲーム開始だ! 足掻けよ冒険者たちッ!!』