軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四百七十八話 盗人を裁こう

風音たちが 金翅鳥(こんじちょう) 神でカルラ王と対面しているのとほぼ同時刻。地上のゴルディオスの街ではタツヨシくんたちの調整がモンドリーによって行われていた。

モンドリーの行っている調整は装甲間の擦れなどで途中で動きが阻害されてしまうことはないかを実際に動作させてチェックし、セッティングを行う作業である。内部のフレームの動きはすでに確認済みで問題はなかったが、実際に装甲部を取り付けてからの動作確認はゴーレムメーカーでの負荷チェックだけではなく、人の手での確認も必要であった。

◎ゴルディオスの街 白の館 中庭

「よし、擦れてもいないし、ぶつかって動きが阻害されている箇所もない。しかし、上手く出来てるね」

モンドリーがタツヨシくんウワンの右腕を動かしながら最後の確認を終える。すでにチェックを終えているドラグーンやサワン、ヒポ丸くんはその後ろで待機していた。

「それじゃあ、後は合体させたケイローンの状態での確認だけか。ここまでほとんどノーミスなんだから恐れ入るよ」

モンドリーもゴーレム兵の動作項目をリスト化したメモも用意してチェックしているのだが、風音の『直感』などに頼って引かれた図面は、そのほとんどがミスなく書かれているようだった。そのため、ここに至るまで僅かに装甲間を緩めて調整する程度の作業で済んでしまったのである。

「しかし、コイツはすごいな」

モンドリーは改めてタツヨシくんたちを見た。

マッスルクレイによって動作するアダマンチウムと黒岩竜の骨で出来たゴーレムの兵隊たち。

風音はこのゴーレム兵の力不足を嘆いていたが、それも白き一団として見ればの話ではある。実際に槍使いも並以上である上に、強固な装甲に護られ攻撃は通らないし疲れもしない。普通に闘うだけならばモンドリーなど手も足もでない恐るべき兵なのだ。

「けど、うちにもゴーレムを入れる話があるのか」

それからモンドリーは朝方に風音に聞いた話を思い出した。どうやらバトロイ工房にもタツヨシくんのような人型のゴーレムを入れる予定があるらしいとのことだった。それはこのゴーレムに魅せられつつあるモンドリーにとっても朗報である。

「けど、こんなのばかり増えていったら僕たちの仕事ってなくなっちゃうかもしれないなあ」

研究員であるモンドリーは兎も角、ゴーレム鍛冶師を量産化できるなどということになれば、生粋の鍛冶師たちからは反発はあるだろう。もっとも現時点においては生産コストの高さからモンドリーの心配するような事態が起こることは当面はなさそうではあるが。

そして、モンドリーが確認用のチェックリストを見ながら、続けて合体のチェックに入ろうと考えたときであった。その場に聞き覚えのない声が響いたのは。

「これがマッスルクレイ製のゴーレムか。やはり実物は違うな」

モンドリーがその声のした方向に視線を向けると、ひとりの男が白の館の玄関の前にいたのである。

(なんだ、あの男?)

モンドリーがいぶかしげな視線で男を見た。

歳は二十代半ばといったところだろうか。目つきが鋭く穏和な印象はない。性格が悪そうな男だとモンドリーは第一印象で感じた。また、身に付けているものは魔術師の装備のようではあるが、装飾華美で上流階級の出のようでもあった。

男はモンドリーの視線に口元をつり上げて笑いながら、口を開いた。

「こうして俺が赴いたというのに挨拶もないとは無礼な男だな。この国の人間とはいえ、ゴーレムに携わる者であれば、我が従僕も同然であろう。頭を下げろ」

「はぁ?」

それこそ無礼な言葉にモンドリーは困惑する。

(なんだ、こいつは? この国? 他国の者か?)

「あんた、いったい」

しかし、モンドリーの言葉の途中で男は手に持つ杖で地面を突いた。そして、スペルを唱えだしたのだ。

「土塊の従者の 腕(かいな) よ・我が声を聞き・我が力となれ」

モンドリーは戦闘訓練などロクに受けてはいないが、魔法具などの開発にも携わっている。故に男からの魔力の流れを察知し、魔術が発動したのを理解する。

そして、男の周囲から土の腕が現れたのだ。

「ゴーレム使い?」

驚くモンドリーに対し、無数の土の腕が玄関を破壊して迫ってくる。

「くっ、ドラグーン。僕を守って!」

突然の事態にモンドリーはとっさにタツヨシくんドラグーンに助けを求める。その声に応じたドラグーンは迫る土の腕をアダマンチウムの大槍を振るって破壊する。

「ほう?」

男が興味深そうにモンドリーを守るタツヨシくんドラグーンを見た。ドラグーンはモンドリーの前に立ち、巨大な槍を向けて男を牽制する。タツヨシくんウワンとサワンがその後ろでモンドリーの護衛に回る。

「連携がとれているのか。お前の指示ではないな。であれば自立的な行動ということであろう。素晴らしい」

その男にヒポ丸くんが勢いよく飛びかかり、前足で押しつぶそうとするが、

「土塊の盾よ・我を守れ」

男の前に土の壁が現れ、ヒポ丸くんの攻撃は防がれた。

(間違いない。ゴーレム使いだ)

モンドリーは眉間にしわを寄せて男を見た。それなりの術師である上に身分も高そうで、ゴーレムに対してなにかしらの自負を抱いている様子である。

そうした条件が当てはまる者たちを、モンドリーは知っていた。マッスルクレイの研究の邪魔をさんざんしてくれた連中だ。モンドリーが怒りを覚えるのも無理はないことだろう。

「トゥーレ王国の人間が何の用ですか?」

確信を持ったモンドリーの問いに男が鼻で笑う。

「ふん。多少は頭が回るようだが、何の用なのかは決まっているだろう」

すでに詠唱が完了していたのだろう。男の正面に3メートルはある巨大なゴーレムが生まれつつある。

「我が国の所有物を返してもらいに来ただけだ」

「でかいゴーレムだな。タツヨシくん、ケイローンに合体をッ!」

モンドリーの指示にタツヨシくんたちとヒポ丸くんが動き出す。ヒポ丸くんの頭部が分かれ、その首の上にドラグーンが乗り、さらに両腕にウワンとサワンが繋がってひとつの形となっていく。

以前のむき出しの状態での合体に比べて装甲が被さったことで重量感は増している。またウワンとサワンの持っていた盾は手甲としてはめられ、武器はドラグーンの大槍が握られる。

そうして僅かな間に高さ3メートル半はある巨大な半人半馬のゴーレム兵がその場に出現したのだ。

「益々素晴らしい。ロックタイタン、あれと闘ってみよ」

男の指示にロックタイタンと呼ばれた巨大な土塊のゴーレムがモンドリーとタツヨシくんケイローンに向かって走り出す。

モンドリーはそれに怯えた顔を見せつつも、前にいるケイローンの実力を疑ってはいなかった。故に滞りなく指示を行う。

「ケイローン、ロケットパンチだ」

モンドリーの言葉にケイローンは槍を持たぬ左腕を前に突き出し、拳を握りしめて構えた。アダマンチウムの手甲がその手を覆う。

「何だ?」

男が不審そうにその姿を観察すると、同時にケイローンの腕が爆発と共に飛び出した。

「ブッ飛ばせケイローン!」

モンドリー叫びと共に巨大な拳がロックタイタンに突き刺さり粉砕した。

驚く男の前でタツヨシくんサワンは、人型へと戻り、破壊したゴーレムの残骸から出てくると、そのままケイローンへとテクテクと戻ってまた左腕へと変形した。

「奇妙な技を使うな」

男は改めて感心したというような顔で、そう口にした。

ロケットパンチ。それは風音が付与魔術構成を見直した結果、タツヨシくん左腕にファイア・ブーストを付与してロケットパンチ化させたのである。その威力は見ての通りだ。アダマンチウム製の手甲は強固で、土塊で出来たゴーレムなどモノともしなかった。

「まだ、やりますか?」

ゴーレムを壊され、護る存在のなくなった男にモンドリーが尋ねる。

「なるほど。確かに強力だ。まさしく俺様のゴーレムにふさわしい」

男は先ほどと変わらぬ笑みで、いや先ほど以上の笑顔でタツヨシくんケイローンを見た。その態度にモンドリーが苛立ちを覚える。

「何を言ってるんだあんたは? それはカザネのものだぞ!」

「お前こそ何を言う。我らがゴーレムの秘宝を盗んだ盗人の分際で何を偉そうに」

何度となく抗議されたことだ。しかし、同時にその言葉は言い掛かりでしかないことをモンドリーは知っている。

「マッスルクレイはカザネの知識から生み出されたものだ。大体、あんたらのところにはマッスルクレイは現存するものしかなく、製造法も失われていることは調べがついている。盗むも何もあったものじゃないだろうに!?」

モンドリーのもっともな言葉に、男はまるで子供の言葉をあざ笑うかのように言葉を返す。

「ワケの分からないことを言う。ゴーレムの技術はトゥーレのゴーレムマスター教会の所有するものと定められている。例外はない」

男の当然とばかりの言葉にモンドリーが激昂する。

「冗談じゃない。そんな、横暴がッ……!?」

モンドリーがさらに反論しようとしたそのとき、目の前に大きな影が立ちはだかった。そして、モンドリーは己の腹部が熱くなるのを感じていた。

「えっ?」

モンドリーは驚きの眼差しで自分の腹を見る。ケイローンの握った大槍がモンドリーの腹部を貫いていた。そして、モンドリーがケイローンを見ると、その横には破壊された玄関の前にいる男と瓜二つの男が立っていた。同じ男がふたりいるのだ。

その様子にどちらの男も笑う。

「「はははは。いや、確かに素晴らしいが魔術の防衛策はキチンと取っておくべきだな。でなければ、こうして簡単に主の書き換えが出来てしまうからな?」」

どちらの男からも同じ言葉が響き渡る。

しかし、その言葉にモンドリーは「有り得ない」と呟いた。それは純粋な否定の言葉だ。

風音のゴーレムの制御を書き換えるのは不可能とは言わないまでも短時間で可能なことではないハズだ。そのことをアガトのゴーレム馬マイティを調べていたモンドリーは知っている。ミンシアナ王国在籍のゴーレム使いも参加しての結論だ。それを簡単に書き換えたと。短時間で。

「どうやっ……て?」

しかし、その疑問を解き明かす時間はモンドリーにはなかった。

ゴプッとモンドリーの口から血が噴き出た。そして、ケイローンはモンドリーから槍を抜き放つ。その勢いでモンドリーは中庭に放り投げられ、転げて倒れた。

(あ、ごめん……カザ……)

モンドリーの意識が遠のいていく。

そして最後に誰かがモンドリーのそばに近づいてくるのが見えた気がしたが、モンドリーはその人物が誰か把握する前にその意識を深い闇に沈めたのであった。