軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四百七十五話 原因を答えよう

ガーラは目の前の狂い鬼を見て、そして己の左腕を見て、風音の『嫉妬』の言葉の意味を理解した。今のガーラの腕は肌の色こそ討伐した狂い鬼のものに近いが、比べてしまえばひ弱な細腕である。もちろん人間としては大きいが、大木のような風音の狂い鬼の腕を見て、左腕からの慟哭の声を聞いてガーラはハッキリと理解したのだ。

「俺は……まるで使えていなかったのか」

うなだれながら呟くガーラに、アンナが首を傾げる。そこに風音が口を開いた。

「ガーラさんの武器はハルバードだからね。角で造った手甲で殴りつけたりしないし精々が防御に使われたくらいだよね。敵も倒せず、ただの防具として貶められたってストレスを溜めてたみたい」

それは風音が魔物を蹴り殺し続けてきた『狂鬼の甲冑靴』とは全く違う扱われ方だった。或いは同じ角として、もう片方の角との扱いの違いを何かしら感じ取っていたのかもしれない。

「確かに手甲の頃は妙な苛立ちを感じる時があった。だとすれば、これはその仕返しということか?」

ガーラの言葉には風音は首を横に振った。

「いんや、まったく別の問題。高濃度の魔素を浴びたことで狂い鬼の手甲はある程度の自由を得たからね。ちゃんと敵を倒せるように強くなろうとしたらしいよ」

風音がそう言って狂い鬼を見ると、狂い鬼が頷いた。それで合っているようである。風音はまた視線をガーラに戻す。

「問題なのはその変化にガーラさんの身体が耐え切れてないってことなんだよね。今も私の狂い鬼を見たことで、その左腕が焦って成長しようとしてるのが苦痛の原因になっちゃってるの」

「……そういうことか」

ガーラが左腕を見る。その酷い痛みはいわば成長痛だ。しかし、問題はガーラがその痛みに耐えきれるかということだった。

「グガァ」

風音の話を聞いて考え込んでいるガーラの前に狂い鬼が立った。

「狂い鬼?」

風音や他の仲間たちが、その動きに注目している前で狂い鬼は右腕からいつもの黒くてぶっとくて牙の生えた棍棒を取り出すと、その棍棒に力を注いで枝を生やし、もう一本の棍棒へと変えて地面に突き刺した。

「こいつは……?」

ガーラが顔を上げて棍棒を見る。左腕が異常に脈動しているのをガーラは感じる。その棍棒が特殊なものであると訴えている。そして、狂い鬼が風音に向かって吠えたのだ。

「え、ああ。うーん、なるほど」

「なんだ? コイツは何を言ってるんだ?」

ガーラの問いに風音は少し思案し、それから口を開いた。

「ガーラさんが助かる選択肢はふたつだって」

風音が指をふたつ立てて、ガーラに言う。

「ひとつは、その腕を私の鎧に吸収させること。すると腕の中の狂い鬼は私の狂い鬼と融合する。そうなるとガーラさんの腕はなくなるけど死ぬことはないって」

その言葉にガーラが唸る。戦士としては隻腕とは死に等しい。ジンライのように人生の目標を『闘い』にしているようなバトルジャンキーでなければ冒険者の引退を考えるしかないだろう。

「再生魔術で治すのは無理なの?」

アンナが風音に問うが、風音は首を横に振る。

「アストラル体がすでに融合してるから、狂い鬼に吸収されたらいっしょに持ってかれちゃうんだよね。だから、残念だけどそれは無理」

再生魔術は、アストラル体の情報を元に欠損した肉体を元に戻す術だ。ジンライの腕が悪魔に喰われて再生できないように、ガーラの腕もまた再生は不可能となるのである。

「もうひとつは、その棍棒を手に取ること。私の狂い鬼の因子を株分けすることで一段階成長を引き揚げて安定させて強くするって言ってる」

「どういうことだ?」

強くなれる。戦士としてならば惹かれる言葉だ。しかし、最初に腕をなくす選択を見せた以上、リスクはあるはずだとガーラは考える。

「すでにその腕には魔物のコアが出来かかってるから、それを完全なものにして安定させることが出来るらしいよ?」

「コアが?」

ガーラが自らの左腕を見る。感覚を研ぎ澄ませば確かに何か熱いものが腕の中にあるのが感じられた。そして、ガーラは目を閉じた。

「……ガーラ」

アンナが心配そうにガーラを見る。周囲の仲間たちも気遣わしげにガーラを眺めている。しかし、ガーラが目を開いたのは、閉じてからすぐのことだった。

ガーラは悩んでいたわけではない。ただ、覚悟を決めていただけだ。

「ガーラッ」

再度アンナがガーラを呼んだが、ガーラは無言で目の前の棍棒を手に取った。

「うっ、く……」

ガーラが棍棒を手に取ると、牙の生えている黒い棍棒が動きだし、握った掌から根を張り出してガーラの左腕に侵食して黒く染め上げていく。さらにはガーラの腕がボコンッと一回り大きくなり、肩から棍棒と同じように牙が突き上げ、ガーラの額に生えた角も黒く染まって伸び上がったのだ。

そして、ガーラの目が見開かれる。

「ええと、どう?」

変化が完了したのを見計らいつつ、風音が緊張した面もちで尋ねる。

「あ、ああ、かなり馴染んでる。今までと違って……自分の腕という感じがある」

ガーラの言葉に、アンナやメロウ、ジローの顔に笑みが浮かんだ。ギャオは万歳をしていた。

「本当に大丈夫?」

「ああ、随分と調子が良い。この棍棒も長年使ってるハルバードよりもずっと馴染みやがる」

「その棍棒には狂い鬼の黒岩竜やドラゴンイーターの因子が混ざってるみたいだよ。ドラゴンイーターの融合力が身体との親和性を引き揚げてるんだろうって狂い鬼が言ってる。『精進すればお前も良きオーガになれるだろう』って」

「いや、それは勘弁してくれ……マジで」

ガーラは苦笑いをするが、それもまた冗談ではすまない話だ。

「実際、今は鬼人族のハーフだって話で通してるのよね。角も立派になっちゃって、これってもうガーラは魔物ってことなの?」

心配するアンナの言葉に、風音は「一応、人間?」と疑問系で返した。

「まだ人間としての心臓もあるし。ただ肩に出来たコアを破壊されると左腕は死ぬし、心臓を破壊されると魔物化するらしいよ」

「なるほどな」

現在のガーラは人間と魔物の混成、キメラ種の一種であった。

「良いオーガになりたいならさっさと心臓を潰すべきって狂い鬼が言ってる」

「いや、潰さねえよ。冗談じゃねえ」

ガーラがそう言って棍棒を握ると、それは黒い木と牙で出来たハルバードへと変化した。

「へっ、こいつはもう俺の一部で今度こそ俺の中の狂い鬼も共に闘うってことになるんだよな」

明らかに顔のすごみが以前よりも増したガーラが、ニタリと笑う。その口元からは牙が出ていて、その顔は狂い鬼に近付いているようだった。

(うーん、混ざってきてるような気がするけど)

風音は狂い鬼を見る。自分の分身が人間の腕の中でいじましく頑張っている哀れな姿を見るのが堪えられなかったらしく、今日の狂い鬼は妙な積極性があった。

ともあれ、ガーラの腕については一件落着である。ガーラも自らの意思で形作った『黒竜喰いのハルバード』をブンブンと振り回している。

先ほどまでの苦痛に耐えていたガーラとは偉い違いである。その様子を見て風音が口を開く。

「そんじゃあ、今日の集まりの本題に入っていいかな?」

風音は口を開いた。

「おう、こっちは本当に何ヶ月かぶりに気分がスッキリした。なんだって協力するぜ」

「おれっちも頑張ります」

ガーラの言葉に、ギャオがグッと親指を出して声をあげた。確かに微妙に戻ってきているようである。そして、風音の言う本題とは……

「まあ、そっちも気付いてるとは思うけど、私たちの評判が気付いたら悪化していてね。なんだか身に覚えのないことばかり言われてる状態になってるんだよね」

「そうなのよ。私にも変な噂が出てきて怖がられてるし。まったく覚えがないことをべらべら言われてビビられてるみたいなの」

風音と弓花が「ねー」と声をそろえるが、後ろにいたルイーズは(身に覚えはあるわよね)と心の中でツッコミを入れていた。が、あえて口には出さなかった。ルイーズは大人であったのだ。

「分かるぜ、カザネ。俺も身に覚えのない話を聞かされて、めっちゃ褒められたりするんだよ。頭がどうにかなりそうだったぜ」

語られているジローくんの物語は風音の創作ストーリーが元になっているのだが、風音は「気持ちは分かるよ」と頷いていた。その面の皮は非常に厚い。被害者意識のシンパシーを感じているようだった。風音にはそんな資格などないというのに。

「あー、それで参考までに聞きたいんだけど、現在の対策とかって一応しているの?」

「えーと、ギャオに白き一団の良さを宣伝してもらってる」

風音がそう言って、ジンライが頷いた。ふたりの教育の成果によりギャオは白き一団の宣伝スピーカーとなって生まれ変わっていた。白き一団が洗脳に長けていることも知らしめる結果となった行動である。

『ジジルさんも協力してくれてますよね』

ユッコネエの頭の上にいるタツオがくわーっと鳴いて答えた。

「ジジルって、あのアウターの?」

アンナが尋ねる。アウターファミリー『ボルネオ』のボスであるジジルのことはこの街にいる者にとっては有名である。アンナや、他の『ブレイブ』のメンバーも当然知っている人物だった。

「ああ、あのおっかない人ですね」

ファミリーの女に手を出して焼きを入れられた記憶が戻ったのか、ギャオが震えていた。

「うん。私たちの手伝いをしてくれるって言ってたよ」

風音が頷いた。ドアまでプレゼントしてくれていたのだ。それを聞いてメロウが考え込みながら口を開いた。

「んー、その選択はなしではないけど、冒険者の間では逆効果かもしれないわねえ」

「それも考えたんだけどね。ただ、親方の協力もあってお隣さんたちとは一応良好な関係にはなったわよ」

メロウの言葉にルイーズがそう返した。基本的にアウターは街に根ざした存在なので、住人とのそうしたやり取りは得意であった。また、風音たちも実際に話すキッカケさえあれば、後は自分たちで溝を埋めることは出来ると考えていた。

「冒険者もそれなりに、まあ、ガラの悪いのもいるからアウターに出入りしてるのがいるのは黙認ではあるんだけどさ。表だって協力してるってのは体裁が悪い部分はあるし、基本流れ者の冒険者とアウターはあまり水が合わないから良い風には見られないのよ」

「というか、冒険者の間で問題なのは善悪対立が成立してることなんだけどね」

風音の言葉に、全員がジローを見た。

「え、俺?」

英雄ジロー。勇者ジロー。伝説の男ジロー。魔王殺し(予定)の男ジロー。

風音たちが他の街と比べて、この街で受け入れられていない最大の理由がソレであった。

そう、 正義(ヒーロー) に対する 悪人(ヴィラン) として役割が確立されているが故に彼らは今まで受け入れられていなかったのだと結論付けた。

……と、主原因である己らの悪評に目を背けて彼女らは考えていたのである。