作品タイトル不明
第四百七十二話 合体を試そう
◎ゴルディオスの街 西地区 白の館 中庭
風音はアウターの長から良いドアをもらった。それはそれは恐ろしく綺麗に磨かれた頑丈そうな良いドアであった。
そのドアの前に立った風音が満足そうに頷いていた。
「ゴーレムメーカーで作って色を塗ったものに比べて、やはりちゃんとしたものは違うねー。私にははっきりと分かんだね」
「まあ、俺にも分かるけどな」
風音の言葉に妙な対抗意識を持って、親方が口にしていた。
すでにジジルは白の館から帰っていた。一旦は家の中に入ったジジルではあったが、話すことがそれほどあったわけでもないので15分ほど言葉を交わした後はすぐに帰っていったのである。
なお、ジジルからの要求を要約すると「これから仲良くしましょう」「絡んで苛めないでね」となり、それらの条件を飲むことでジジルたちも風音たちと街の住人たちとの仲を取り持つように働きかけると言って、風音たちもその要求を飲んだ。
「な、俺の言ったとおりだろ。お前さんらもこれで気軽に街を出歩けるってもんだな」
「うん。カルラ王とかそういう誤解も解いてくれるって言ってたし、至れり尽くせりだね。さすが偉い人は違うね」
「あーそうかい」
風音とカルラ王の関係についてはジジルはなにやら確信があるような顔をしていたように見えていたのだが、親方も余計なツッコミは入れずにその話を終える。今の親方には他にもっと大切なことがあるのである。
「ともかく、今はコイツらに集中しようか」
親方の言うコイツらとは、白の館の中庭に置かれたタツヨシくんたちとヒポ丸くんである。アダマンチウム製のフレームとマッスルクレイに動力石、それに神々の炎で溶かして作り上げたヒヒイロカネの魔導線と各部位を接続するためのヒヒイロカネ製アタッチメントで構成されている。
外装は黒岩竜の竜骨とアダマンチウムを組み合わせたものが現在も作成中であり、完成まではまだしばらくの時間を必要としてたが内部構造に関しては大凡の完成に近づいていた。
今回のタツヨシくんと今までのタイプとのもっとも大きな違いは、ヒヒイロカネ製の魔導線が内部に張り巡らされて魔力を流すようになったことで反応速度や魔力伝達力が大幅に上昇したことにある。
浮遊島の 神機兵(マキーニ) というロボットは薄く延ばした細い線を束ねた神経網と呼ばれるモノを使用していたのだが、現状では風音たちがそこまで細かいものを作成することはできないため、この魔導線はヒヒロカネの線を10本束ねたものとなっていた。
「ここまでは思ったよりも早く出来上がったが、実際どうなんだ?」
「こればっかりは試してみないと分かんないからねえ」
親方の問いに風音はそう返す。
合体タツヨシくんであるタツヨシくんケイローンの構成は主に、下半身をヒポ丸くん、上半身と肩までをタツヨシくんドラグーン、両腕をそれぞれウワンとサワンが担当して変形するように出来ている。
しかし親方も、タツヨシくんとヒポ丸くんのそれぞれを単独で動けるようには調整して組み上げることは出来ていたが、実際に合体出来るかどうかまではゴーレムメーカーで直に動かしてみなければ分からない。
「そんじゃあ、ちょいと試してみるよ」
風音が杖『白炎』を取り出して前に出た。その杖を見て親方が目を細める。
「そいつはまだ使ってるんだな?」
「まあねえ。これより良い杖ってのもなかなかないしね」
現在、風音が使用している杖『白炎』は風音が狂い鬼との討伐の際に親方から貰い受けたものである。1.2倍の強化補正と消費量85%にダウンという優れモノで、市販で売られている杖の中ではダントツの性能を誇っていた。風音も主にゴーレムメーカーを使用するためにトンファーと共に腰に下げている。
「アガトのところだとそれが一番強力だからな。それより良いものだと、魔道大国アモリアの匠にでも依頼をかけるしかねえ。ダンジョンで手に入ることもあるが、ありゃ運だしな」
「そういうのは低階層には出てこなさそうだしね。アモリアには魔法具オークションに行く予定があるから、そっちで探してみるようにするよ」
風音はそう言いながら杖を振って、それぞれの動力石を通してゴーレムメーカーを起動させる。
「お、動き出したな」
親方の言葉の通りに、目の前の外装の剥がれたゴーレムたちが一斉に動き出す。中でもタツヨシくんドラグーンは最初に起動したためにその動きが速かった。さらにドラグーンは浮いていたのだ。
「成功かい」
「うん。浮遊石装備も問題ないようだね」
風音の言葉通りにタツヨシくんドラグーンの内部には竜船内部で手に入れた浮遊石が埋め込まれていた。その分容量が増したことと、ケイローンの上半身部分を担当するためにボリュームアップが図られている為、そのサイズは以前に比べて一回り大きくなっていた。
「パッシブ化したフライ効果のある浮遊石を、ゴーレムに付与したフライの魔術で制御することで魔力をチャージせずとも継続して飛べるようにしているわけだな」
「うん。そんなに高くは飛べないけどね」
ケイローン時は付与魔術フライがドラグーンのコアによる制御のため継続飛行は出来ないが、それでも3メートルほどの跳躍などは可能となる予定であった。
「ウワンとサワンも普通に動けるようだね。この二体はほとんど完全に新設計だからちょっと不安だったんだけど」
「つってもまだ頭部は完成してねえがな」
タツヨシくんウワン、タツヨシくんサワンはそれぞれがケイローンの右腕、左腕になる予定である。またケイローンの掌はそれぞれの頭部が変形する予定で、指先までの機構は複雑なためにまだ作成中の段階であった。そのため、今のウワンサワンは首なしである。
そして、最後にヒポ丸くんではあるが、こちらはベビーコアの起動により強力な魔力が放出されていた。魔導線により全身に魔力が行き渡っているおかげで、以前に比べて部分的な異常放出は抑えられてはいるが、それでもその放出量は非常に高い。
「やっぱりアダマンチウムの装甲で覆っておかないとダダ漏れだねえ」
「だなぁ。鋼鉄じゃあもう抑えが利かねえしな。つか、ヒポ丸くんがダンジョン化しそうでコエーんだが大丈夫なのかね?」
「さあ?」
親方の問いに風音が自信なさげに言葉を返す。
この世界における最大のダンジョンは『クリカラの巨岩男』と呼ばれる世界最大級のゴーレムである。つまりは心臓球をコアとしたゴーレムである。ヒポ丸くんもその類似と言えるわけで可能性はなきにしもあらずであった。
「と、とりあえず、合体させてみるよ」
「お、おう」
そしてふたりは考え込んでも仕方ないと互いに頷きあって、そのまま作業を進める。現状においてタツヨシくんたちの変形機構はとりあえずは完成している。変形後のパワーアシスト用二重構造部分や外装はまだないが、接続して動かすだけならば可能なようには仕上げているのだ。
「そんじゃあ、タツヨシくんたち、合体しちゃってー!」
その風音のかけ声と同時に、それぞれが動き始める。
最初に動いたのはヒポ丸くんであった。風音の指示に従い、首から上の頭部の部分が左右に分かれ、ヒヒイロカネ製アタッチメントが出現する。
その台座のようになった部分にタツヨシくんドラグーンが腰を下ろし、アタッチメント同士が接続される。
続けてドラグーンの足と馬の頭部の左右がせり上がり、ドラグーンの腕と合体して変形していく。そのまま馬の頭部とドラグーンの手足が肩部となり、その肩部に出現したヒヒロカネ製アタッチメントにウワンサワンがぶら下がったかと思えば、それぞれが腕の形へと変形していった。
「おお、本当にくっつきやがった」
親方が思わずつぶやいた。その姿は実に3メートル半。巨大な半人半馬のマッスルクレイ製ゴーレムがここに生まれたのである。
「一発オーケーかぁ。親方の腕の良さが出てるね」
「へっ、俺は設計通りに造っただけだぜ」
風音と親方がそれぞれ褒め合い、どちらも笑みを浮かべていた。どうあれ、実物が思った通りに出来上がるのは気持ちの良いことだ。風音はうんうんと頷きながら、タツヨシくんケイローンの周囲を回り、おかしなところがないかを確認してから、そのまま指示をとばした。
「ケイローン、右腕上げて」
風音の言葉に従ってタツヨシくんケイローンが右腕を上げる。続いて風音は左腕も上げるように命令し、それもこなされるのを確認すると中庭を走らせてみる。
「うん。バランスも悪くないみたいだね。そしたらドラグーンコアは跳躍制御モードに。ケイローンは走行に跳躍を加えて動いてみて」
風音の指示が続き、タツヨシくんケイローンが走りながら3メートルほど跳び上がる。ジャンプのタイミングに合わせてフライを発動させるようにドラグーンコアにプログラムしてあるのだ。それもまた、上手く動作しているようだった。
「そんじゃあ、あの目標に向かってトリプルで一斉斉射ゴーッ!」
そして本日最後の試験である。風音が指さした方向には巨大な分厚い土の壁がある。それは温泉掘りで出した土塊を使った試射用の的だ。
その壁に対してケイローンとウワン・サワンのそれぞれのコアが起動し、三連発のファイア・ヴォーテックスが放たれた。そのまま大きな爆発音と共に土壁が粉砕される。
「こりゃ、また……」
その破壊力を親方が呆れた様に見ている。
ファイア・ヴォーテックスがまるで重なり合うように同時に発生して、その威力も相乗効果により大きく向上していたようだった。
「すげえな。この威力は」
「完全に同時発射だからね。ふふふふふふ、完成が楽しみだよ」
3メートルある厚みの土壁が見事に粉々である。さらにタツヨシくんケイローンにはもうひとつ、強力な武器も存在しているのだ。風音も親方もニマニマとタツヨシくんケイローンを見て笑っている。
恐るべき強さのゴーレムの完成がもう間近に迫っている。彼らは笑わずに入られなかったのである。