作品タイトル不明
第四百七十三話 彼らと会おう
◎ 金翅鳥(こんじちょう) 神殿 第二階層
「ギィィガッ」
「ギャルアック」
ゴブリン。
それは、このフィロン大陸内でも比較的人里に近い場所に生息し、人を襲うこともある魔物の一種である。大きさは人間の子供相当で背が低く、能力はそう高いわけではないが時折強い個体も存在するために油断はならない。
また多少知恵が回る種であると言われており、それなりに経験を積んだ冒険者でも集団で襲いかかられると倒されることもある相手だと言われている。
そのゴブリンが6体、風音とジンライの前に立っていた。風音の『犬の嗅覚』により早急に発見されたゴブリンたちは、突然の風音たちの襲来に驚き、また明らかに魔物としての格が上のユッコネエやシップーを見て激しく動揺し叫んでいた。
「ナーーーッ!」
もっともシップーはそんなゴブリンたちの動揺などまったく気にせずに突撃する。風の加護を受けて速度を上げ、雷の力で踏み出して加速する。まるで弾丸のような速度で突撃してシップーはゴブリンの群れに飛び込み二匹を切り裂くと、
「ふむっ」
シップーに乗っていたジンライもふたつの槍を高速で振り回し、残りの4体を切り刻んで倒していた。
「ナーッ!」
「フン、他愛もない」
そうして、ジンライとシップーが瞬く間にゴブリンたちを倒してしまう。そこに風音たちの出番はなく、ジンライの槍に宿るジン・バハルの影も最近ますます薄くなっているようだった。早朝訓練では毎日のように出てきているのだが、次第に弓花のノーマルな状態との差も狭まってきているようで本人にも焦りがあるようだった。
ともあれ、ジンライと相棒のシップーを前にしては6体のゴブリンたちなど大した相手にはならないし、共にいる風音やユッコネエ、タツオの出番がないのも当然のことではあった。後ろに控えているロクテンくんも身動きひとつせずに待機していた。
「やはり、もの足りんな。せめて30階層くらいまでは降りんと手ごたえはないだろうな」
ジンライがそうぼやいた。シップーも「ナー」と鳴いて同意する。
「けど、いきなり降りるのは危険だって言ってたのはジンライさんだよねえ。それにチャイルドストーン持ちを倒さないと結局は最深層までたどり着いても立ち往生になっちゃうしさ」
ジンライの勝手な言い分に風音が抗議の声をあげる。
ダンジョン内のチャイルドストーン持ちのすべてを倒さない限り、最深層の心臓球の間を守る封印門は開かないのはダンジョン攻略をする者にとっては常識的な話だ。
また、拡大期を過ぎた今はまたチャイルドストーン持ちの魔物が増えているだろうし、風音たちにはチャイルドストーン持ちをすべて討伐することも求められていた。なかなか面倒な話ではあるが、こなさなければ最深層にはたどり着けないのである。
「それは分かってはおるがな。もう少し手応えが欲しいところじゃないか」
そのジンライの言葉は風音にも分からないでもないが、現状では地道に進むしかないのである。
「そりゃあ、そうだけどね。弓花たちと分担してもやっぱり一階一階攻略してくのはキツいしさ」
そんな風音たちは現在、第二階層を攻略中であった。
ダンジョン攻略二日目の今日は、午前中に第一階層の残りのマップを埋めて、午後は第二階層に降りて時間になるまでは風音組、弓花組に別れての攻略を行うことになっていた。
内訳は風音・ジンライ・タツオ・ユッコネエ・シップー・ロクテンくんの組と、弓花・ティアラ・ルイーズ・メフィルス・黒ミノくんの組である。
「さっさと進めるためには他にもプレイヤーが欲しいかな」
風音がボソリと呟いた。プレイヤーである風音、弓花、直樹によるチャットと共有オートマッピングを使ったダンジョン攻略は人数が増えれば増えるだけその効率が増していく。だが、その攻略が可能なのはプレイヤーのいるパーティだけである。
『プレイヤーですか?』
ユッコネエの頭の上にいるタツオがくわーっと鳴いて風音に尋ねると、風音もその言葉に頷いた。
「あと2、3パーティくらい、いれば随分と違うんだろうけどね」
風音の言葉にジンライも「そうだな」と口にする。
「であれば、一刻も早くパーティ『レイブンソウル』のオロチと協力できればよいのだがな。同郷であるならば協力関係も取りやすいだろうし」
ジンライの言葉には風音も頷く。
もっともレイブンソウルは今は王都で仲間の治療中である。
また他に風音が知っているプレイヤーといえばゆっこ姉、アオ、ヨハンにオウギ、それに悪魔のユキトやエイジがいるが、いずれもそれぞれ別の理由で共にダンジョン攻略を望むことは出来ない。
「それに、直樹の転移もさ。出来れば私たちだけじゃなくて高ランクのパーティ共有で使用していきたいところなんだよね」
風音たちの目的はダンジョンを攻略し最下層にあるという元の世界に通じる穴への到達である。自分たちだけでダンジョン攻略を成すのが難しく、協力体制が必要である以上、直樹の 帰還の楔(リターナーズ・ステイカー) による『転移』を他のパーティと共に使うことも考慮に入れていた。
「そこらへんは冒険者ギルドに協力を頼めば良いだろうな」
「そうだね。まあ、なんかあったらジンライさんっていう伝家の宝刀があるし」
冒険者ギルド支部長クラスに準じる命令権を持つランクS冒険者のジンライがいれば、ギルド関係の権力的な問題は大体解決できるのである。風音は王族、領主、冒険者ギルド、竜族の権力を使いこなす権力使いでもあった。
「転移と言えばお前のスキル『無の 理(ことわり) 』の系統の無属性魔術でもいけるという話ではなかったか?」
「いやー。どこで覚えられるか目処がつかないからなあ、あれ」
その話は殺魅オルタナティブとの戦闘後の達良コピーとの会話によって発覚したものだ。
殺魅オルタナティブが使用した『無属性メガビーム』と『重金属粒子ビーム拡散放射型自由機動ミサイルランチャー十連式』がイージスシールドを抜けた理由を尋ねると、殺魅オルタナティブの装備が魔術の存在しない『フューチャーズウォー』というゲームの装備だからという答えを達良コピーからもらっていた。
この世界の存在する魔術は一部の例外を除き、各属性の因子を介さなければならないという前提条件が存在している。イージスシールドは八系統の因子に反発して防ぐものだから、無属性の攻撃は防げないのだとのことであったのだ。
「スキル『無の 理(ことわり) 』があれば、他属性との反発の起きない無属性での転移術を生み出せるかもしれないって達良くんは言ってたけどさ。達良くんも無属性魔術は結局不思議な袋なんかの特殊魔術に使用されてることくらいしか分からなかったらしいからね」
「前途は多難か」
「厳しいねえ。自力で転移術を使える知り合いもいないから、そもそも原理もわかんないしさ。ま、今は低階層だし、直樹たちの戻りを待って 帰還の楔(リターナーズ・ステイカー) で行ったり来たりで進んでいくしかないんじゃないかな」
風音の言葉にジンライも頷いた。
そして話題に出た直樹たちの帰りも、後一週間程度だとのメールでの返信が来ていた。直樹の二刀流の訓練とエミリィの竜人化訓練も、それなりに成果が出ているようである。
『難しい話をしてますねえ』
「にゃー」
その風音とジンライの話を半分眠くなりながら聞いていたタツオとユッコネエが互いに鳴きあっていた。
「ああ、ごめんね。そろそろ時間だし、隠し部屋に行こうか」
風音は眠りかかったタツオの頭をなでながら、そう口にする。
現在の時間は15時前。ダンジョン探索2回目の今日の目的は、実のところダンジョンを攻略することが主な目的ではなかった。彼らはある人物たちとダンジョンの中の隠し部屋のひとつで落ち合う約束をしていたのである。そして、すでに隠し部屋の位置は確認済みなので、このまま目的地まで歩いていけばちょうど時間ピッタシにはたどり着けるはずであった。
「さてと、ジローくんは元気にしてるかな」
風音がそう口にする。つまり、そのお相手とはジロー率いる……ことになっているが、本来はガーラがリーダーのパーティ『ブレイブ』である。
町中では変な噂が立つので、彼らはダンジョンの 隠し部屋(セーフゾーン) で会うことにしていたのであった。