軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四百七十話 覚悟を決めよう

アウターと呼ばれる者たちがいる。

彼らは国の法をすり抜けて生きている街の暗部を司る者たちではあるが、一方では街の生活とも密接に関わりを持ち、一種の自警団にも近しい必要悪としての側面も持っていた。

そのアウターたちの集団をアウターファミリーと言い、大概の街にはアウターの組織がひとつ、もしくは複数存在し、主に酒場や娼館の並ぶ歓楽街などを支配しているのである。その上に商人たちとも密接に繋がっており、流通などにも関しても彼らの影響は非常に大きいものがあった。

そして、ゴルディオスの街にもひとつのアウターファミリーが存在している。

名を『ボルネオ』ファミリーという、ゴルディオスの街がまだダンジョン前市場の頃から存在しているアウターの組織である。そのファミリーの三代目ジジル・ボルネオの前には今、三人の男達が並んでいた。

「とんでもないことをしてくれたな、ガムジよぉ」

自身の屋敷の私室で、ジジルはなんとなく木の実をゴリゴリさせながら椅子に座って呼び出した冒険者たち三人を見ていた。

三人のうち、後ろに控えているふたりはジジルの威圧感に怯えているようだったが、リーダーであるガムジは気圧されている様子はなかった。

(……なるほどな。以前に見たときとは違うってわけかい)

ジジルは、ガムジの変貌を感じながら以前のガムジとの違いを考える。

実の所、ジジルがガムジと出会った回数など数えるほどでしかないし、顔を覚えていたのもアウターを辞めて冒険者となると聞いていたからで、それも偶々覚えていたに過ぎない。

そうでもなければ、ジジルは目の前の肝の据わった男を冒険者にすることを許した部下たちを叱りつけていたに違いなかった。

それほどまでにジジルは、目の前にいるガムジが変わってしまったと感じていた。

そもそも彼らは冒険者となっても、ジジルと縁が切れたわけではない。アウターとして呼ばれれば出向く必要があるし、力が付けば用心棒として雇われることもある。故にジジルは未だに彼らの主でもあるのだが、ガムジの中からはジジルという力ある存在への恐れが消えていた。

もちろんジジルへの敬意が消えたわけではない。だが、街のアウターの頂点に君臨するジジルに対しての恐怖という感情が消えていたのだ。

「申し訳ございません、ジジル様」

ガムジは諦観しきった瞳でジジルに対して両手をついて体ごと曲げて頭を下げた。仲間たちも慌てて共に頭を垂れたが、ガムジほどの堂の入ったものではなかった。

(ドゲザか。ここまで見事なモノは初めて見るな)

東洋の伝統的謝罪技法『ドゲザ』。

ジャパネス人もそれなりに存在しているミンシアナ王国などではドゲザは一部ではそれなりに知られているものであった。ジジルもそれを最上位の謝罪の姿勢だと認識していた。ガムジがどこで覚えたのかはジジルは知らないが、その姿がジジルの胸を打ったのは確かであった。

「まあ、やっちまったことは仕方がねえさ。頭を上げな」

ジジルの言葉に3人が頭を上げる。

彼らがこのジジルの前に呼ばれた理由。それは接触禁止の白き一団とダンジョン内で出会ってしまい、さらには彼らの秘密を知り目を付けられてしまったからだ。

「それで、どうだったんだ。噂の連中は?」

実のところ、ジジルは白き一団を実際に見たことはない。

しかし、ルドロックの街のアウターたちを制裁したのを皮切りに、ハイヴァーン公国とリンドー王国にあるアウターファミリーをいくつか潰し、さらには闇に生きる暗殺集団を2つ、もしくは3つ壊滅させたことは聞いていた。

また、南で急に生まれたカザネ魔法温泉街という街の領主カザネ・ユイハマとも関連性があるらしいとの話も聞いていた。

この温泉街の領主と白き一団のリーダーは名が同じであるため同一人物ではないかとの推測も出ているが、白き一団の面々は戴冠式のあった頃のツヴァーラの王都で見かけられていたし、同時期に魔法温泉街で領主が不思議な力で街を発展させていたことも目撃されている。

それらの情報は高い確度を持ってアウターや冒険者たちの情報網に流れ、両者が同一人物である可能性はほぼないと認識されていた。

そのため現在でもっとも信憑性があるのは親類説となっており、カザネ・ユイハマは巨乳と貧乳のふたりいると考えられているのである。

「はい。そうですね。見た目は小さな少女でしたが……とても恐ろしいと感じました。そして……あの背の翼、あの黄金の光はカルラ王と同じものだと」

「おい、ガムジ。それはッ」

「言ったら殺されるぞ」

仲間たちが口々にガムジに叫ぶ。

彼らは風音たちから後ほど説明をするから他言無用と警告されていたのである。しかし、ガムジは仲間たちに対して首を横に振る。その顔は蒼白ではあったが、しっかりと意志の宿った目でジジルを見て、口を開いた。

「ジジル様、我々は白き一団と手を結ぶべきです。触らなければ害はないなどという考えは甘過ぎます」

ガムジの言葉にジジルが目を細める。手下の言葉にしてはあまりにも無礼ではあったが、ジジルはそれを咎めようとは思わなかった。それよりも手振りで続きを促した。

「俺は白き一団に洗脳された、ランクB冒険者のギャオという男を目撃しました。あいつはかつて鬼殺し姫と共に戦った戦友であると聞いています。それがああなってしまった。今なら俺にも分かります。恐ろしい声が今も頭にこびりついています。あの小さな子供に従いたいという、抗いがたい思いが今も心の中に楔となって打ち込まれているんです」

「ガムジ……」

「ギャオはきっとアレを心の芯まで喰らっちまったに違いねえんです。俺は怖い。あれに逆らったら殺されるどころじゃねえ。もっと得体の知れない別の何かにされちまそうで怖いんです。だが、あれを殺すことなんて俺には出来ない。そんな恐ろしいことは絶対に無理だ」

「だから従属しろと? この俺にか?」

ガムジの言葉にジジルが尋ねる。ガムジは、白き一団というたかだか冒険者の1パーティにこの街のアウターの元締めであるジジルが従うべきだと訴えてきたのである。

「俺は……ジジル様、あんたにはあのギャオみたいな姿にはなって欲しくねえんだ。あんな人形同然の死んだような姿にっ!」

涙を流しながら訴えるガムジの言葉にジジルは「チッ」と舌打ちをする。そして、机をダンッと叩いてガムジの言葉を遮った。

「くだらねえ。てめぇ如きが俺の心配なんぞしてんじゃねーぞ下っ端」

「じ、ジジル様。すいません、俺は……」

興奮しすぎて余計なことまでしゃべったと気付いたガムジが肩を落とす。だが、ジジルはガムジにこう尋ねた。

「ところでな、知ってるか。この街でもっとも立派な屋敷は誰の屋敷かってことを?」

そのジジルの言葉の意図は分からぬが、街でもっとも金をかけて造られた屋敷が誰の屋敷かはガムジも知っていた。アウターの先輩に口を酸っぱくして言われていたからだ。

「それは……ジジル様の屋敷でしょう」

そのガムジの言葉は誇張でもおべっかでもなく、厳然たる事実であった。

アウターは冒険者がお金を一番落とすであろう歓楽街一帯を取り仕切っている集団であるし、彼らは商人たちとも密接に関わっている。

特にジジルはゴルディオスの街が街になる前から続くアウターファミリーの三代目である。そのジジルの住まう屋敷は確かにこの街でもっとも立派なものであったのだ。

「なら不足はねえな。あの鬼殺し姫も納得するだろうよ。ウチのドアならな」

ジジルがニヤリと笑い、ガムジの顔に笑顔が生まれた。

「それじゃあ」

「ああ、持ってきな。この街でもっとも立派な俺の家のドアをよ」

そうジジルは言い放ち、椅子から立ち上がって袖をまくったのだ。

ドアを磨く。

謝罪と敬意、それらを込めてジジルは一晩をかけてドアを磨く覚悟を決めたのであった。