作品タイトル不明
第四百六十九話 一日目を終えよう
スライサーバットとの戦闘も終わった。被害は冒険者三名が重傷。内一名が気絶したまま今も意識が戻らない状態である。
「い、一時的なものだよ」
風音はそう言っていたがガムジという冒険者が喰らったのは『フィアボイス』と『魔王の威圧』のダブルボイス攻撃であったのだ。
なお、『フィアボイス』はレベルが上がったことでパッシブ化し、風音の感情に合わせて効力を増減できるようになっていた。『魔王の威圧』の方はレベルが上がったことで威圧が言霊に乗せられるようになったようである。
それらダブルの『止まれ』命令が効き過ぎたのが、ガムジの気絶という結果だった。
「見たところ、心臓も止まっておらんし、いずれは目覚めるだろうが、気を付けておけよカザネ」
「そうだねえ。普段はスキルをオフにしとかないと危ないね」
ジンライの言葉に風音もションボリしながら頷いた。強すぎる力は意図せず人を傷つけることがある。ダンジョン内にいたことで若干その度合いを緩く考えていた風音には手痛いミスだったのだ。故に猛省していた。
それから風音たちは傷ついた冒険者たちの治療を行い自分たちで歩けるほどに回復させると、気絶した男を担ぎ上げながらたち去る彼らを見送ったのである。
実は風音たちも一緒について行った方が安全だろうとは言ったのだが、冒険者たちは「これ以上は……」と言いながら怖々と辞退していたのであった。
だが彼らは三人、それもひとりは意識がないのだ。それも原因は風音にあった。故にやむなく風音は弓花に頼んで魔狼クロマルを召喚してもらい、付き添わせることにしたのである。
このクロマルは熟練の冒険者でも怯むほどに目つきが悪く、剛毛で大きくて、見た目こそ恐ろしいものだが弓花の指示には忠実に従う召喚獣である。例えA級ダンジョンといえど、一階層の魔物ならば問題なく対処出来るだろうし、入り口まで送り届けた後はそのまま召喚解除して戻ることも出来る護衛にはうってつけの存在であったのだ。
クロマルも弓花の役に立てることが嬉しいのか、シッポをパタパタ振りながら何者をもかみ殺さんばかりに咆哮していた。
そして風音達は、気絶させたお詫びは後ほどキチンとするということと、誤解はちゃんと解くから変なことを口にしないようにと強調して言い含めてから彼らを見送ったのである。
「みんな疲れ切ってたよ。あんなに心折れるまで魔物に追いつめられていたんだねえ」
「まったく、ワシらがいて本当に良かったな」
風音の言葉にジンライがうんうんと頷いていた。良いことをした後は気持ちがよいモノだ。男たちはどうにも上の空だったが、何度もしっかりと懇切丁寧に言い聞かせたので風音たちの意図することは伝わったはずである。
「こうして人助けをしていけば白き一団に対する変な誤解もきっと解けていくんじゃないかな」
『そうであるな。奴らにとっては余らはさしずめ勇者のように映っておっただろう』
『母上の偉大さに皆が気付く日も近いことでしょう』
「にゃにゃー」
そして、風音とジンライとメフィルス、それにタツオとユッコネエの高笑いがダンジョン内を木霊する。人助け完了である。
なお、魔狼の監視の元で恐々と歩いていく冒険者たちが背後から届いたその笑い声にビクッとなりながら、さらに足取りを重くしていたことには当然風音たちは気付いていなかった。魔狼がチラッと見て牙をちらつかせたので、歩くペースは戻ったようだが。
「けど、この翼がカルラ王っぽく見えるとかねー」
一方で見送りも済んだ風音がバサッと金の翼を広げる。カルラ王の翼が融合したことで天使の腕輪は金翅鳥の腕輪へと変わり、その能力も変質していた。
「かといって使わないのも損だろうしな」
ジンライの言葉に「だよねえ」と風音が頷く。
この翼は空を飛べるし、近距離限定ではあるが黄金の炎を出して攻撃も出来る。
さらにさきほどスライサーバットから手に入れた『ウィングスライサー』は『六刀流』等と同じ人間にはない部位を使う魔物専用スキルだが、翼を出せる風音にとっては非常に有効なスキルであることは即実戦投入出来たことからも明らかであった。
「念のため、この腕輪は冒険者ギルドには報告しておこうか。他の冒険者に攻撃されてもたまらないしね」
「そうしておいた方がよかろうな」
風音の提案にジンライも頷いた。
あらかじめ冒険者ギルドに装備の報告をしておくことで、なにかしらあった際に便宜を図ってもらえることがあるのである。
自らの手の内を明かすことは同業者が敵に回ることもある冒険者にとって危険なことではあるが、風音たちの手札は金翅鳥の腕輪だけではないし、カルラ王のいるダンジョンでカルラ王と間違われるリスクよりはマシだろうと風音は考えたのである。
そんな思わぬトラブルもあったが、風音たちは続けてダンジョンを攻略していく。そして、一階層の左辺り、大体三分の一のマップを埋めた頃には夕方になっていたので風音たちはダンジョンを出ることにしたのである。
なお、帰りに弓花が直感で隠し部屋をひとつ発見した。
宝箱の中身は炎の短剣。直樹の持つ竜炎の魔剣に比べて随分と落ちる魔剣ではあるが、売ればそれなりにはなる。風音は貧乏性なのでなんとなく倉庫にしまっておきたかったのだが、主に発見主の弓花の要望で売り払い決定となったのであった。
◎ 金翅鳥(こんじちょう) 神殿 入り口
「お疲れさまでした」
風音たちが 金翅鳥(こんじちょう) 神殿の入り口に戻ってくるとそこには冒険者ギルドのダンジョン管理官が待機していた。
彼は入り口でダンジョンの内部の魔物を監視しながら冒険者たちの出入りの記録を行っているギルド職員で、名をシーザーという40代の武装神官だそうである。
金翅鳥(こんじちょう) 神殿はA級ダンジョンであるため、ここに配置されたシーザーも相当の猛者のはずだが見た目は物腰柔らかい感じの穏やかそうな男であった。
「はい、どーもぉ」
風音が笑顔で出迎えるシーザーに挨拶を返す。
このシーザーは風音たちが白き一団だと知っていても動じたりしない、ゴルディオスの街でも数少ない普通に話せる人でもあった。
「この時間に戻ってきたということは、今回は一階層を軽く見て回ったというところですかね」
「そうだね。思ったよりも広くてちょっとビックリしたよ」
シーザーの質問に風音が笑って答える。
風音たちが以前に入ったことのあるオルドロックの洞窟の一階層よりも、この 金翅鳥(こんじちょう) 神殿の一階層の方が広いのは確かであった。
「それと何時間か前に大きい狼と一緒に冒険者の人たちが来てたと思うんだけど、そっちは大丈夫でした?」
「あーはい。そこでしばらく倒れ込んでいましたが、お仲間の人がやってきて連れて行かれたみたいですね」
管理官はそう言って、入り口の角を指さした。
傷は癒したが、装備や服には血がこびりついていたのだろう。風音たちが助けた冒険者たちが座っていただろう場所には赤いシミがいくつかついていた。
「そっか」
風音はシーザーの言葉を聞いて唸った。
「うーん、匂いで追うことも出来るけどどうしよっか?」
そして風音は後ろにいるジンライに尋ねたのだ。
「まあ、もう夜だしな。後で冒険者ギルドにでも行って探してみれば良かろう。匂いで探せるのだろう?」
そのジンライの言葉には風音も頷いた。
ここからでも追えるが、しつこくしても逆効果の場合もある。あくまでフレンドリーに誤解を解くことを前提に動くべきなのだと風音も考えた。
「それとアイテム換金とかはこっちだと無理かな?」
続けて考えることは炎の短剣の処分である。
オルドロックの洞窟では、ダンジョンの入り口自体が臨時の冒険者ギルド事務所のようになっていたのだが、この 金翅鳥(こんじちょう) 神殿の入り口にあるのはただの監視小屋という感じであった。なので、当然換金は出来そうもない。
「そうですね。冒険者ギルド事務所でお願いします。しばらくすれば、その降りた神殿の前の広場に換金所が出来ますんで」
「りょーかいです。それじゃあ、またよろしくお願いしまーす」
風音はシーザーにそう返して、仲間たちと共にダンジョンの外へと出て行く。既に時間は夜に差し掛かっていた。
こうしてダンジョン攻略一日目の白き一団の成果は、冒険者3人救出に炎の短剣一本入手となったのである。元々が様子見だったのだから、そこそこ上々というのが本日の風音たちの自己評価であった。