軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四百六十八話 助けに行こう

「うぉっと」

「馬鹿。押すな。あぶねえだろうが」

風音たちが一階層を進んでる途中で少し前の、離れた場所から声が聞こえてきた。

(うん? こっちに近付いてた冒険者の人たちだね)

風音がその声の主、先の通路の左側からこちらを覗いている男たちに視線を送る。

風音も『犬の嗅覚』で冒険者たちの気配は把握済みではあったのだが、自分たちの方を見てきたので風音も見返したのだ。

「ひ、ひぃっ」

しかし、風音と目があった男たちはそのまま悲鳴をあげて逃げて去っていってしまった。それを見ていたジンライが「ふむ」と唸る。

「随分と嫌われておるようだな」

「というよりも怖がられてるのよ」

ジンライにルイーズが呆れながら言葉を返す。そのやりとりの横で風音も眉間にしわを寄せていた。実はここの所、悪名が轟きすぎているのでは……と風音も気になり始めていたのである。今まで放置してきたツケが次第に風音たちにのしかかってきていたのだった。

「うーん。ここまではずっと移動続きだったきたから人付き合いもそれほど問題にはならなかったけどさ。拠点を構えたとなるとお隣さんとは仲良くしておいた方が良いよねえ」

風音の言葉に弓花も「そうねぇ」とつぶやいた。

「私も 血塗れの狂戦士(ブラッディベルセルク) とかじゃなくて銀狼の聖騎士とかそんな感じの綺麗なふたつ名が欲しいわ。いや、別にふたつ名なんてなくてもいいんだけどさ」

そんな弓花の「銀狼の聖騎士」発言にブフッと風音は吹き出したが弓花は気付かなかったようである。なので風音もそのまま何食わぬ顔で話を続ける。

「ウィンラードやリザレクトとかだと評判は悪くはないんだから、そういうのをなんかこなせば良いのかな?」

『母上の素晴らしさが分かれば、みんな平伏するに違いないです』

タツオがくわーと鳴いたが、風音は別に平伏はされたくなかった。なお、風音はウィンラードでは英雄、リザレクトではチャンピオン扱いである。

「でも、今回もわたくしたち、結構魔物を倒しておりましたわよね?」

ティアラが風音の言葉にそう返した。

確かにティアラの言う通り、今回の魔物騒動でも風音たちはしっかり働いてはいた。しかし、風音たちがドン・ガルーダと戦っているところは誰にも見られていないし、肝心のカルラ王は取り逃がしていた。それに街の戦いでも弓花とロクテンくんらが悪目立ちしていたし、直樹たちの方は地味な上にギャオへの暴行疑惑があった。さらに言えば、疑惑ではなく事実なのでなお悪かった。

また、今回は大金星のジローに話題を持って行かれた感もあり、風音たちの話題はそれほど大きくはなかったということもあったのである。

「いっそ、フーネとあんたの同一人物説に全面的にノってみるとかどうなのよ?」

「いや。あんま、それには頼りたくないねえ」

弓花の提案に風音は首を横に振る。

実は竜船でのヒルコとの戦いで風音たちが救った人々が結成した天使教という組織が最近になってカザネ魔法温泉街にやってきて、ウーミンの天使カザネ信者と合流して温泉街内で勢力を拡大しつつあるらしいのだ。その影響もあって現状の街育成モード表示は以下の通りとなっていた。

名前:カザネ魔法温泉街

特産:魔法温泉・天使教

人口:1754人

領主の評価:信仰の対象

問題:【狂信】

連絡:助けて下さい。

マッカが泣き言を言っている。なんでもマッカはデミクリスタルドラゴンを使役する天使の使いとして天使教の教祖にされ掛かっているそうである。その状況には直樹が戻ってきたら早急に転移で向かって収拾をつける必要がありそうだと風音も若干焦っているほどであった。

とまあ、風音にしてみればそんな状況をさらに複雑にしたいのかと言えばノーであり、当然弓花の提案にはノりたくはなかったのである。

またハーレム爺疑惑を晴らすために、ギャオには風音やジンライがそんな人物ではないことを説明するように頼んでおいたのだが、それがちゃんと効果を及ぼすのかも未知数であった。

「そもそもアスラ・カザネリアン良い魔王化計画も進んでないし、前途は多難だよねえ」

風音の言葉に弓花もため息をついたが、その次の瞬間に風音の顔が上がった。その様子にジンライが眉をひそめる。風音の表情が真剣なモノに変わっていたのだ。

「魔物か?」

ジンライの言葉に風音が頷いた。

「うん。左側の通路の先だね。さっきの人たちが襲われてる。不意打ちされたっぽいや」

鼻をクンクンさせながら、風音がジンライに答える。

(血の臭いがするねえ。あの人たち、ピンチっぽいな)

風音は冒険者たちが怪我を負っているのを血臭で把握する。

ここは一階層ではあるがA級ダンジョンは基本的に他のダンジョンよりも魔物の出没数が多い。低ランクの冒険者では対処が難しい場合も少なくはないのだ。

「ちょっと数が多いから先行くよ。ジンライさんとお爺ちゃんもついてきて。後は警戒しつつ進んでちょ」

『魔物創造』スキルのウィンドウでは今、魔素値は6と表示されている。魔物の表示も赤色ではなくなり、選択が出来るようになっていた。それは恐らく周囲に魔物が生まれてもおかしくはないということだろうと風音は考えた。つまりは不意打ちの恐れもある。

そして、そこまで指示を出すと風音はスキル『ハイダッシュ』で駆け出し、シップーとそれに乗るジンライ、そしてフレイバードと融合して翼を広げた 炎の有翼騎士団長(フレイムパワーリーダー) のメフィルスが共に飛び出したのだった。

それは、実戦が楽しみでしょうがなくてウズウズしている堪え性のないお爺ちゃんズへの風音の配慮の選択でもあった。

**********

「うぁああああッ!」

ランクC冒険者のガムジは今、絶体絶命の危機に陥っていた。

「く、来るんじゃねえ」

ガムジの目の前に、スライサーバットの刃物のような翼が迫ってくる。それをショートソードを滅茶苦茶に振り回して防ごうととするのだが、スライサーバットはその攻撃を容易くかわして易々とガムジの肩口を切り裂いて、またガムジの攻撃圏から離れていった。

「くっ」

ガムジは傷の痛みに悲鳴をあげ、よろけながらも後ろへと下がる。先ほどから少しずつ少しずつ切り刻まれているのだ。

そして、彼らの周囲を飛んでいるのは約10匹ほどのスライサーバットの集団であった。正確な数は飛び回っていてよく分からず、仲間たちも宙に武器を振り回して攻撃しているがなかなか当たらないようである。

「一階層から、こんな数と遭遇するとか冗談じゃねえぞ」

ガムジは震えながら、己の認識の甘さを悔やんでた。

ガムジたちが戦っているスライサーバットは低階層に出没する魔物だが、空を飛び、鋭利な翼で敵を攻撃する危険な相手だ。

特に空中から軌道変更をしつつの切り裂き攻撃は慣れていない冒険者たちでは対処が難しい。風魔術などが使えれば対応も変わるのだが、一般的な冒険者で魔術を覚えている者などそもそも少ない。さらにスライサーバット10匹以上の群れともなるとランクCの三人パーティでは普通に手が余る状況だった。

「ガムジ、どうするよ?」

「どうするも何も逃げるしかねえだろ」

「チクショウ。だからA級ダンジョンなんて俺たちの手に余るって言ったんだよ」

「だったら外で待ってりゃ良かっただろうが」

口々に仲間内で罵倒しあいながらも、彼らはジリジリと下がりつつあった。A級でも低階層ならば他のダンジョンよりも楽に稼げる……そんな言葉を真に受けてやってきた彼らではあったが、手痛い洗礼をこの場で受けていた。

(奴ら、速すぎる。背を向けた途端に一斉に切り裂かれそうだ)

ガムジはそう思いながら、ゆっくりと下がり続ける。打つ手がない。全身に切り傷を負い、出血も多くなってきている。死が近付いてきているのが実感できた。

「ひ、ヒャアアアアアア」

そのガムジの後ろで仲間が魔物に背を向けて逃げ始めた。この状況に耐えきれなくなったのだろう。男は一か八かと逃げ出すことを選択したのだ。

それを見てガムジは「モーロ、あぶねえ」と叫ぶ。3匹のスライサーバットが一斉にモーロと呼ばれた男に飛びかかったのがガムジには見えていたのだ。だが、ガムジの目の前でモーロとスライサーバットの間に別の何かが飛び込んできた。

「スキル・キリングレッグ回転脚」

その何かとはトンファーから炎を出して回転しながら蹴りを出すおかしなチンチクリンであった。チンチクリンはそのまま回転蹴りで一匹を仕留め、風圧で二匹を壁に叩きつけた。

「ヒッ!?」

そのチンチクリンを見てガムジが思わず声を上げた。

目の前でスライサーバットに攻撃を仕掛けたのは、先日にランクB冒険者を廃人同様にしたと噂の鬼殺し姫であったのだ。

それは、この街のアウター上がりのガムジたちにとって、今もっとも会いたくない相手であった。

(そうか。さっきの俺たちを尾けてきたのか)

ガムジに冷や汗が流れる。実は一昨日には彼らの元にも似顔絵付きで白き一団の連絡は回っていたのだ。

絡み厳禁。会話厳禁。接触厳禁。

これを守らなければ場合によっては縁切りもあるとガムジは先輩アウターから口を酸っぱくして言われていた。そして震えるガムジの前に出てきたのは鬼殺し姫だけでは当然なかった。

「なーーーッ」

「ふん。他愛がなさすぎる」

ガムジの前で巨大な化け猫が飛び上がってスライサーバットを二匹切り裂き、猫の背に乗った男が続いて近くにいた二匹を槍で貫いた。

『まあ、そもそも余は触っただけで倒せてしまうしな』

さらには炎で出来た翼の生えた騎士が飛んできて三匹のスライサーバットを燃やし尽くていた。

そして、残りのスライサーバットの数は二匹。ガムジは続いての光景に息を飲んだ。

「スキル・ウィングスライサーッ!」

ガムジの目の前を黄金の翼が横切ったのである。鬼殺し姫が背中に翼を生やして、それをまるでスライサーバットのように使って残りのスライサーバットたちを切り裂いたのだ。さらには、その鬼殺し姫の背に生えた翼の色が金色であることにもガムジは気が付いてしまう。

「……か、カルラ王」

「え?」

鬼殺し姫がガムジの呟きに反応する。ドクンとガムジの心臓が跳ね上がった。そして、ガムジは自身が恐ろしい事実に気付いてしまったことを自覚した。

ガムジも鬼殺し姫が翼を生やしているという噂話は知ってはいた。しかし、その色が金色だとは初耳だった。さらに言えば、その翼の色はこの神殿を覆う、そして壁の隙間から差し込む光の色と同じであるようにも見えていたのだ。

(つまり、鬼殺し姫は、カルラ王……或いは、その眷属!?)

そう考えてみれば、魔物襲来に併せて白き一団が現れたのも説明がつくのではとガムジは考えた。つまりはあの魔物たちの襲撃は白き一団によって仕組まれたモノだったのだとガムジは理解したのだ。

「んー?」

衝撃の事実の発覚にガムジが身を震わせていると、鬼殺し姫がその不審な様子に視線を向けてきた。それにはガムジの背筋が凍りついた。

(気付かれたか!?)

このままでは殺される……と、そう考えた後のガムジの行動は早かった。彼はすぐさまその場から背を向けて逃げ出したのだ。

「カルラ王、カルラ王がいるぞぉぉおお」

そして、大声を張り上げながら、ガムジは走っていく。

先ほどの戦いを見ていればガムジにも分かる。自分は途中で捕まる。そのまま殺される。

しかし、それでも自分の声が誰かに届けば救える命があるかもしれない。そう、ガムジは願いながら声を張り上げた。

それはアウターという裏家業の下っ端で過ごしてきたガムジのなけなしの勇気だった。カルラ王による魔物襲撃を乗り越えて生まれた冒険者としての自負がガムジの心に炎を宿らせたのだ。

『止まれッ』

だが、ガムジはその炎を燃やし続けることは出来なかった。

唐突に告げられた命令にその足が止まったのだ。恐怖が無数の蛇のようにガムジの足に絡みつき、はちきれんばかりに鼓動している心臓を悪魔の爪がギュウッと掴みあげてきてるとガムジには感じられた。

(怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い)

次第にガムジの心の中が恐怖で埋め尽くされていく。

後ろから迫るものの気配がガムジには恐ろしくて仕方がなかった。ガムジには分かる。自分の背後には化け物がいる。何かとてつもない恐ろしいものがやってきているのだと。そして、

「ヒィィイイッ!?」

ガムジは自らの肩をガシッと掴まれた瞬間に、そのまま意識を失ったのである。恐怖がガムジの精神のブレーカーを落としたのだ。それは彼の生存本能がそれ以上の精神の負担を拒絶した結果だった。

「あれ?」

そして、チンチクリンが首を傾げている前で、ガムジの身体はゆっくりと崩れ落ちたのである。