軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四百六十七話 その一歩を踏み出そう

風音がダンジョンに入れる旨を受付嬢に聞いてから四日ほど経った。

バトロイ工房にメンテナンスに出していた装備もその間に特に問題なしと戻ってきてはいたのだが、風音たちはA級ダンジョン『 金翅鳥(こんじちょう) 神殿』にはまだ一度も入ってはいなかった。

実のところ、今日まで 神聖物質(ホーリークレイ) を造ったり、タツヨシくんの設計の指示を出してたり、姉とギャオの接触を防ぐためにとジローたちと会ったことを黙ってた直樹を折檻したり、ギャオに教育的指導を施したりと大忙しだった為、風音たちのダンジョン攻略スケジュールはズルズルと延びていたのである。

また、風音たちが忙しいこととはなんの関係もない話だが、昨日には冒険者ギルド事務所の隣接酒場で奇妙な光景が目撃されていた。

綺麗なつぶらな瞳をしたギャオが「カザネさんは素晴らしい人です。ジンライさんも素晴らしい人です。おれっちはお二人のお人柄に触れることで、人として正しい道へと戻れたのです。あのおふたりは迷い子であるおれっちを導く夜空に輝く星のような……」等とまるで人が変わったように白き一団を褒め讃えていたのである。

さらにその姿を見た冒険者たちが、それがジローの仲間を狙った白き一団の精神攻撃ではないかと騒ぎ始めていたのだ。

もちろん、冒険者たちも噂話など大抵が大仰なものであることは理解しているし、酒のツマミについ話を誇張してしまうことなどよくあることだ。しかし、冒険者たちは変わり果てたギャオを見て悟ってしまった。数日前まで酒場の中心で和気あいあいと語り合っていた、女には弱いが憎めない男が今ではまるで蝋人形のような固まった笑顔で、白き一団が如何に素晴らしいかを語っている。

その姿を見れば彼らも理解せざるを得なかったのである。ギャオは白き一団に処罰されたのだと。

また、鬼殺し姫と猫騎士のふたつ名を持つ白き一団の中核メンバーふたりがギャオのいる癒術院に立ち寄ってたのが目撃されていたし、ギャオの仲間であるガーラたちが鬼殺し姫の関与を微妙に濁しながらも否定しなかったことも冒険者たちの推測を確定する根拠となっていた。

そして、いよいよ鬼殺し姫カザネと勇者ジローの対決が間近に迫ってきているだろうことを彼らは予感せずにはいられなかったのである。

「嵐が……来るな」

喧噪に包まれた酒場の中で隻眼の老戦士バルザー・イゴットが、窓の外を見ながらひとり静かにつぶやいた。

空は青く、雲一つないが、しかし老戦士に限らず冒険者たちには見えていた。この街に君臨する善と悪のパワーが激しくぶつかり合って生まれた雷雲が轟く幻影が彼らには確かに見えていたのである。

ともあれ、そんなどうでも良い話は放っておいて、用事も済んだ風音たちはようやくダンジョンに潜れることになったのであった。

◎ゴルディオスの街 金翅鳥(こんじちょう) 神殿 入り口

「はい。それでは、ええとパーティ『白き一団』の5名ですね」

ダンジョン入り口の受付で、冒険者ギルド職員がそう言って書類に判を押す。なお、5名とは、風音、弓花、ジンライ、ティアラ、ルイーズの5人のことで、共に入ることになるメフィルス、ユッコネエ、シップー、タツオや、ロクテンくん、さらにはリヴィアタンの心臓で常時起動するようになった黒マッスルミノスこと黒ミノくんや水晶馬は含まれなかった。

ついでにまだ王都から戻ってきていない直樹たちや、改造中のタツヨシくんシリーズ、ヒポ丸くんらも今回はお休みである。

「そんじゃ、行こうか」

入り口での受付記入も終わり、風音の言葉と共に一行は歩き始めた。彼らは 金翅鳥(こんじちょう) 神殿の入り口を抜け、いよいよダンジョン内部へと入ることとなったのだ。

◎ 金翅鳥(こんじちょう) 神殿 一階層

そして、神殿の入り口から過ぎてしばらくした頃。

「おーこれぞまさにダンジョンって感じだねえ」

風音が歩きながら、そのようなことを口にしていた。目の前に広がる石造りの迷宮に風音は若干興奮気味のようであった。

「オルドロックの洞窟もダンジョンって感じだったけど、遺跡の迷宮ってのもそれはそれで風情があるわね」

弓花も風音に続いてそんなことを口にする。

このダンジョンの入り口付近はどうやら外見通りの石造りの通路で構成されているようである。壁の隙間から金色の光が差し込んでいるのは恐らくはこの遺跡の外で燃えている炎の光だろうとは思われたが、ダンジョン内部は外界とは空間そのものが別となっているはずなので正しいところは不明である。

「それで、どうするのだカザネよ。分けるか、そのままで行くか?」

途中まで進んでいくとジンライが風音に尋ねてきた。

直樹たちのパーティはいないが、当初の予定の内の二組に分かれることは可能である。だが、風音はジンライの言葉に対して首を横に振った。

「今回は全員で進もうよ。まずは慣らしときたいしね」

「そうか。分かった」

風音の言葉に、特に拘っているわけではないジンライは頷いた。そして一行はさらに先へと進んでいく。

なお、このダンジョンはゴルド黄金遺跡のときには67階層まで攻略されていたのだが、カルラ王が 金翅鳥(こんじちょう) 神殿に変えてしまったために内部はゴルド黄金遺跡とはまったくの別ものになっているようであった。

つまりは現在風音達が歩いている一階層ですら、まだ攻略されきってはおらず未攻略の場所が多く存在しているのである。

そして、進みながら風音はウィンドウを開いて考える。

(さてと、この『魔物創造』ってのはここでなら使えるのかな?)

風音はウィンドウからスキルリストを開き、『魔物創造』の項目を選択する。すると次のような選択肢が表示された。

魔素値:1

・ゴブリン[5]

・スライサーバット[4]

(魔物の名前だねえ。赤くなってて押せないみたいだし、まだ魔物を生み出せないってことみたいだね。魔素値の数字が多ければ作り出せるのかな?)

風音が街の中で試したときには魔素値はゼロで魔物の名前の表示もなかったのだが、ダンジョンではちゃんと表示されるらしい。

『ゴブリンとスライサーバット? 母上、魔物の名前が並んでますね』

頭の上にいるタツオがウィンドウを見ながら風音に尋ねた。

「うん。どうも『魔物創造』は、出没する魔物を造れるっぽい感じだね。魔素が足りないから、今は無理のようだけど」

「魔物を生み出せるか。あんたも最近ますます人間離れしてくわねえ」

弓花の言葉に「弓花ほどじゃないよ」と風音も反論するが弓花も「またまたー」と笑って返していた。さらに横で聞いてたジンライたちはどっちもどっちだろうと思っていた。違いがあるとすれば、魔王か魔獣かというところだろうか。

「まあ、これ以上パーティを増やすのも……というのもあるけど。少なくともこの階層で造っても弱いし役には立たないだろうね。魔素値と出没魔物名が分かるんなら、その情報だけでも有用ではあるんじゃないかな?」

「そうね。予め出てくる魔物が分かるのはありがたいわ」

風音の言葉にはルイーズが頷いた。例え低階層でも油断のならない魔物もいる。選択に出ていたスライサーバットなどもそうした魔物の一種だ。空からの攻撃は慣れない冒険者には避け辛いものだし、スライサーバットは集団で行動することが多く、場合によっては新米冒険者では全滅もあり得る相手であった。

「魔物の種類が分かるのは助かるが、ワシとしてはこの壁の光の方が気になるな」

ジンライの言葉を聞いて風音も壁に視線を移す。壁の石と石の隙間から黄金の光が射しているのである。

「外の炎と同じ色だよね」

「ああ、その炎が出るような罠があるやもしれん。一階層にそんな危険な罠があるとは思えんが……あの鳥のことだ。気をつけておいた方が良いだろうな」

ダンジョンが生まれ変わること自体が普通ではないのである。油断は禁物であった。

「了解。ま、ゴブリンはともかくスライサーバットは倒しておきたいかな。スキルももらえそうだし」

「どのみち、こんな入り口付近じゃ魔物も罠もいないんじゃないの? まずは先に進みましょ。様子見だからってノンビリやってないで、レアアイテムでもゲットして多少は稼いでおかないとね」

その弓花の言葉は平静を装ってはいたが、若干の焦りの混じった言葉だった。それを仲間たちも気付いていたが、特にはツッコミを入れることなく頷いて速度を上げて先へと進み始めたのである。

仲間たちは知っていたのだ。今の弓花はお金という重みから解放された存在であることを。

実は、銀から 神聖物質(ホーリークレイ) を、さらには 神聖物質(ホーリークレイ) から神聖銀の抽出までをも親方は成功させていた。しかし、神聖銀を取り出すにはあまりにも多くの銀が必要だった。

それを知った弓花は必要分の銀を確保するために大きな屋敷をひとつ購入できるほどの金を支払い続け、それでもまだ足りずにティアラに借金をしてどうにか鎧分の 神聖物質(ホーリークレイ) と槍の刃分の神聖銀を確保したのだ。

そして仲間内での貸し借りとは言え、風音ですら成し得なかった借金という十字架を背負った女がここに誕生していたのである。