作品タイトル不明
第四百六十四話 合体の話をしよう
ここまで多少の改良こそあったものの変化のなかった弓花の装備がようやく変わる。それもすべて 神聖物質(ホーリークレイ) というレア素材で構成される贅沢な造りとなる予定である。防具に関して言うと弓花はここまで攻撃をほぼ回避していて、大してくたびれてはいなかったのだが、常に突き続けた槍の方はもうガタガタの状態であった。
「銀から抽出した 神聖物質(ホーリークレイ) なら神狼化の時も今まで同様に共鳴現象で力が増すし、銀系統素材では上位のものだから今使ってる白銀装備よりも随分と強度が増すよね」
弓花の神狼化は銀系統の鉱物と反応しその性能を増す。弓花の愛槍であったシルキィが保っていたのもそれに依るところが大きい。
「そうだな。これより上って言うと、もう神聖銀しかねえ。神々の炎と竜の炎を併せて 神聖物質(ホーリークレイ) を溶かして、さらに不純物を取り除いてやれば出来るらしいが」
「ドラゴンの炎なら出せるよ」
風音の言葉に親方も「それは知ってるんだが」と返す。風音の頭の上にはドラゴンのタツオがいるのである。それに風音も竜体化できるし、ユッコネエも直樹の竜炎の剣でも代用は可能だ。
「銀から抽出した 神聖物質(ホーリークレイ) からさらに搾り取るんだ。ぶっちゃけ金の問題だ」
神聖物質(ホーリークレイ) を取り出すだけでも大量の銀を消費する。そこから更にとなれば湯水のごとく金が飛んでいくのもやむを得ない話ではあった。
「うーん、槍の先だけでもどうにかならないかなぁ」
しかし、風音としては金銭がかかるのは承知でも、目の前に強化できるものがあるのならばどうにかしたいとも考えていた。金で命が買えるのならば買っておくべきだと風音は思っている。
「ま、そいつは弓花次第だろうなあ。そもそも加工前の 神聖物質(ホーリークレイ) 自体がほとんど手にはいらねえ素材だ。であれば、神聖銀なんてのはそれこそ酔狂なヤロウが、コネクションをフルに動かして生み出すしかないわけだしな。だから当然俺も扱ったことはねえし、今の時点では 神聖物質(ホーリークレイ) からどの程度採れるかも未知数だから。おめぇが 神聖物質(ホーリークレイ) を作れるって言っても金銭的にも相当無茶だぞ?」
その言葉に風音もニヤリとして親方に答える。
「まあ、弓花はここまでにほとんど使ってないし相当ため込んでるはずだから、案外いけるのではないかと思うよ?」
友人の財布を空にさせる気満々の風音であった。普段、お金を大切にと口うるさい親友である。それに今までのお金をカラッケツにしてしまうほど散財させれば、自分への矛先がなくなるのではと考えたのだ。非常に底の浅い少女であった。
「それと武器についてはそこらへんでいいか。後はカザネのオーダーだがな」
そういって、続いて親方が取り出したのは、風音が弓花に渡して親方に届けられたタツヨシくんの設計図であった。
「手をかけるのは、ヒポ丸くんに、タツヨシくんドラグーンと、量産型タツヨシくんA・Bだな。名前をタツヨシくんサワンとウワンに変えるとあるが?」
「そうだね。それぞれが腕になるから 左腕(サワン) と 右腕(ウワン) で」
結構どうでも良いことだったので「あー」と親方は受け流して、そのまま続ける。
「そして完成後はケンタウロス型のタツヨシくんか」
「ここ最近はパワー負けしてるし、技量も追いつかないしで、盾役にしかならないからねえ」
タツヨシくんシリーズも個々としての性能が低いわけではないのだが、風音たちの闘う相手が相手なだけにヘイト稼ぎ程度の役立たずな状態が続いていた。それを打開する意味でも風音は合体を求めたのである。
「技量の上昇はライルにノーマルを育ててはもらってるけど、それ以上は目処がつかないからね。巨体化してパワーとスピードを上昇させる方向で進めていきたいんだよ」
風音の言葉に親方も頷いた。
「なるほどな。それで名前はタツヨシくんケンタウロスか?」
「いや、タツヨシくんケイローンで」
それはギリシャ神話の半人半馬の賢者の名である。名前だけ覚えていた風音の厨二知識がここで役に立ったということだった。
風音もセントールとケイローンとケンタウロスのどれにしようかと悩んでいたのだが、最終的には強そうだからということでケイローンとなったようである。
「んじゃ、ケイローンと。それで、基本的な外骨格と内部のフレームはアダマンチウム素材と書いてあるんだが、それはあるんだろうな?」
「うん。いっぱい拾ったので。後で見せるよ」
いっぱい拾ったと気軽に言う風音の言葉を聞いて親方が少しうめいた。
とはいえ、浮遊島でのアダマンスカルアシュラ素材は未だに大量に在庫がある。骨はホーリースカルレギオンの材料になったり、槍は 炎の鷲獅子騎士団(フレイムグリフォンナイツ) 用だったり、投擲用に弓花たちに分割して渡したりしているが、剣と斧、それに残りの骨がまだまだあるのである。
また、それは今は風音コテージの一階の倉庫に置かれているのでリビングを降りればすぐの場所に置いてあったりもする。
「以前と違うのはこの……これもまた貴重な鉱物のヒヒイロカネだが、それが動力石部分から延びて全身に巡るような作りになってるよな。こりゃあなんだ?」
「マッスルクレイを通してでも魔力は伝達できるんだけどね。魔力伝達率は専用のラインを通した方が早いらしいんだよ。それと合体する際にも、切り替えはこのヒヒイロカネ同士を接触させることで魔術式を送り出すことが出来るからね」
「なるほどな。アガトのマッスルクレイの報告資料は読んだが確かに魔力伝導率はそれほど高くはないからな。そういう工夫も必要ってわけかい」
風音の言葉に親方も頷いた。元々は魔鋼を使用して対応する予定だったのだが、運良く精神感応石とも呼ばれるヒヒイロカネが手に入ったので、それを使用することになったのである。
「後は構造でいくつか分からねえところがあるんだが」
「それはアレだねえ。古イシュタリア文明の 神機兵(マキーニ) とかいうものの構造を参考にさせてもらったんだよね」
それは以前に浮遊島で出会った『バットラー13号』が、当初に風音たちに攻撃を仕掛ける予定だったロボットを参考にしたものである。風音は浮遊島にいる間に、それらについて『バットラー13号』に質問をしてメモを取っていた。
「古イシュタリアの技術ねえ。俺もその 神機兵(マキーニ) ってのを見せてもらいたいもんだが」
「浮遊島まで行くのも難関だし、ロボットの置いてある遺跡も難所なんだよねえ」
その風音の言葉に親方も渋い顔をする。しかし、そう簡単にたどり着ける場所ではないから、ジン・バハルたちの遠征以降には人がほとんど立ち入らなかったのである。親方個人ではとてもいける場所ではなかった。
「動力のベビーコアと魔力伝導線にしたヒヒイロカネを繋げてそれをフレーム内を通してマッスルクレイに伝達させるか」
親方が設計図を見て唸る。
「しかし、こんだけやるんなら、最初から一体で作っちまった方が良さそうだがなぁ。構造もシンプルになるから壊れにくいし」
「うーん。街中とかで連れていくにはちょっと大きすぎるしね」
と風音は言うが、親方としては(今更気にするところかねえ)と首をかしげた。
3メートルはあるロクテンくんを普通に連れ回している時点でその言葉の根拠は崩れている。だが、風音の本音は「合体とか好きだからー」なのでその言葉は建前である。それは合体好きを人に知られることを恥じらう乙女のさりげない嘘であった。
「まあ、お客様のご要望にはなるべく従うようにはするがよ。後はこれ、合体後はベビーコアの制御になるんだから、他の動力って無駄にならねえか」
その親方の懸念には風音は首を横に振った。
「まあ、ゴーレムメーカーは魔物と同じようなコアを擬似的に魔力で造って動かすものだからね。動力石があった場合はそこを中心に魔術式が展開されるわけだから、別の動力石と動きの同期や魔力を上乗せとかも出来ないんだけど」
故に単純にチャイルドストーン2個でパワーアップとは行かないのであった。もっとも風音は「ただし」と言葉を付け加える。
「それも工夫次第でね。ソフトウェア的にダメな部分はハードウェアでどうにかすればいいだけだからさ。合体した状態で過負荷がかかった際には、その圧力を感知して別の動力石でパワーアシストするようにしてるんだよ。そのために合体後のベビーコアに接続出来るマッスルクレイと、各タツヨシくん制御石接続のマッスルクレイを分けて二重構造にしてるんだよね」
「なる……ほど?」
その説明では親方にはよく分からないようだった。簡単に言えば、それは風音の世界で言うパワーアシストスーツに近い構造である。力で押し切られそうだった場合には、圧力を感じた動力石の擬似コアがマッスルクレイを用いてカバーするのである。
「後はまあ、付与した魔術が連続4発撃てるのは強みかな。ゴーレムメーカーでの付与魔術は発射したらク-ルタイムが必要だったから」
「そっちは分かりやすいな。まあ、よくわからねえことも多いがそういうのはお前に改めて説明してもらうしかねえな。カザネたちも当分はここにいるんだろ?」
親方の問いに風音は頷く。現在の風音たちの目的はこの街にあるゴルド黄金遺跡改め『 金翅鳥(こんじちょう) 神殿』の攻略である。どこか別の場所にいく予定はなかった。
「そうだね。とりあえずはそろそろ軽く潜ってはみようと思うんだけど、もうダンジョンの中って入れたっけ?」
「どうだろうな。ギルドにいって聞いてみてくればいいんじゃねえか?」
「そうだねえ。まだ中に入ってるらしいミナカさんのことも気になるし、一度足を運んでみるかな」
風音は親方の言葉にそう返した。
ちなみにタツオは風音と親方の会話についていけず、今は風音の頭の上で夢の世界に突入しているようであった。
そして、そうこうと話している内に外から声が聞こえてきた。ジンライたちが帰ってきたようである。それからいつも通りの朝食を取り、その中に親方はちゃっかり混ざって食事をすると満腹になって工房へと帰っていったのであった。