軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四百六十三話 親方を招こう

◎ゴルディオスの街 西地区 白の館

風音たちの拠点が完成した翌日。

周囲に住む者たち、或いは興味本位にそれを見に来た者たちは、突然出来たその白亜の建物を物珍しげに眺めていたが、それが白き一団の住居だと知れるとそのほとんどの人間がすぐさまその場から立ち去っていった。

残った者も中庭にいる水晶馬には目が惹かれたが、そこには他に大中小の動く甲冑や恐ろしく大きい甲冑馬や巨大な猛獣たちなどもいたのだから、やはり先に帰った者に続いて去っていった。触らぬ神にたたりなし。近付いたら何をされるか分かったものではないと最終的に皆、戦々恐々として離れていったのである。

また、カルラ王襲撃直後から『白き一団には近付くな』とのお達しがゴルディオスの街の中のアウターの間では広まっていた。

元々の悪名に併せて最近では白き一団の周囲に権力の臭いが強く漂ってきているとも言われている。であれば、法の外と内を行き来するアウターにとっては触れただけで致命傷になりかねないため、利用など考える馬鹿が出ないように接触禁止令が出たのである。

なお、騒動の日に出現した天使が風音であるという噂も僅かながら出てはいたのだが、鬼殺し姫と天使をイメージの違いと胸のサイズの違いから同一視する者は今はまだ少なかった。

そんな話が街中を飛び交い、一晩で『白の館』で定着し始めている風音たちの拠点にバトロイ工房の親方はひとりやってきていた。「入るぜー」と言いながら、玄関を開けて中庭へと進んでいく。

「おー、おはよー親方」

『おはよーございます』

「あ、ども」

「おうよ。朝から頑張ってるじゃねえか」

その中庭では風音と直樹が早朝の特訓を行っていた。そして風音が親方に気がつくと一旦打ち合いをストップして、風音は親方の元へと駆けていったのである。

「親方、朝早くからなんの用? 朝ご飯たかりに来た?」

「いきなり失礼なことを言うんじゃねえよ。昨日受けたオーダーの確認に来たんだよ。訓練中なら、装備もすぐにみれると思ったんだが、他の連中はどうした?」

その親方の問いに風音がばつの悪そうな顔で言葉を返す。

「私と直樹は今日は二刀流の稽古だけだけど、他のみんなは街の外でやってるんだよね。ウチのはみんなやること派手だし見られると困るのも多いから基本、人のいない場所で特訓してるんだよ」

『ビカビカだったりメラメラだったり忙しいですからね』

風音の言葉に頭の上に乗っているタツオがくわーっと鳴いた。街の中にも練習場のようなものはあるが、そこでロクテンくんや狂い鬼を暴れさせるわけにもいかない。 炎の鷲獅子騎士団(フレイムグリフォンナイツ) とダークオーガ軍団の激突など以ての外だった。

「なるほどな。色々とかかえてるなオメェらも」

その親方の問いに風音は「まあねえ」と微妙な笑顔を返した。親方と別れた頃に比べて能力も秘密も異様に増えた白き一団である。併せて、しがらみも随分と増えていた。いつまで気軽な旅が出来るのかもわからない状況である。

「まあ、ちょうどいい時間かな。直樹、今日はここまでにするよ」

「あ、ああ、了解」

風音の言葉に直樹がドッと息を吐いて、その場に倒れ込んだ。

「おい、坊主。大丈夫か?」

その様子に親方が声をかけるが、直樹は平気だという風に手を振った。

「え、ええ、親方さんでしたっけ。いつものことですんで。というか今日はここで止まったんだから、いつもよりも楽な方だし」

親方は「ほぉ、そうなのかい」と返したが、その直樹の言葉は決して親方を安心させるための方便などではなかった。

風音のスキル『二刀流』はそれほど強力に技量が上がるわけでないが、それに『戦士の記憶』『直感』『身軽』『柔軟』『猿の剛腕』といった常時発動しているスキルが上乗せされている。それはジンライに言わせれば、実力を上回る能力に振り回されて読みやすい……ということになるのだが、直樹レベルでは脅威そのものであったのだ。そんなのと毎日のように特訓を重ねる直樹は日々ボスキャラと対戦しているようなものだった。

『母上は偉大なのです。いつか私も母上と手合わせをしたいです』

「まあ、タツオにこういう稽古付けるのはもっと大きくなってからだね」

タツオの言葉に風音がそう返した。現状でタツオは風音と接近戦を行えるほどの力はないし、メガビーム一本では勝負にならないし、そもそもあれは特訓で使うものでもないのである。

ともあれ、疲労困憊な直樹は放っておいて、風音はひとまずは家の中へと親方の案内をすることにしたのであった。

◎ゴルディオスの街 西地区 白の館 風音コテージ リビング内

「はー、随分と立派なもんだな」

風音コテージのリビングへと案内された親方はそう口を開いて周囲を見回している。家の中に入ったら、その中にさらに別の家があったのである。元々外から見える中央の建物の中身は空で、風音コテージがその中に収納されるように出来ている。そして、ダンジョンに潜るときなどには風音コテージだけが『空間拡張』スキルの大型拡張スペースに収納されることとなるのである。

また、直樹がコーラル神殿からパクってきた不滅シリーズの調度品もテキトーに飾られてて、そうした造形には意外に詳しい親方の目を惹かれさせてもいた。

そして、親方が部屋を眺めながら窓の外まで見てみると、庭の端の奇妙な光景を目撃した。それは小さな水晶の人形たちが空いている穴の中から滑車を使って土を次々と出している姿だった。滑車を引っ張る人形と土を出す人形とソレを端に持っていってる人形たちが忙しく動いているのだ。

(あれが温泉を掘ってるってヤツか)

親方の推測したとおり、庭にいるのは穴掘りクリスタル風音ちゃん部隊である。穴の中では昨日に親方も見た不滅のスコップ持ちのクリスタル風音ちゃん人形がずっと掘っているようで、積まれた土ももう結構な量になっているようだった。

(掘った土ってどうすんだろうな?)

あの人形たちのペースではすぐに土塊の山が出来るだろうと親方は気になったが、その溜まった土は後ほど風音がゴーレムにして加工するか、街の外に捨てにいく予定であった。

そして、親方が穴掘りの光景をじーっと見ているとお風呂に入って特訓の汗を流してきた風音とタツオがリビングへと戻ってきていた。

「親方、お待たせー」

風音と一緒にタツオがくわーっと鳴いた。

「いんや。別に大して待っちゃいねえさ。ジンライたちももうじき戻ってくるんだろ?」

「その筈だけど、ジンライさんはちょっと鼻息荒かったから長引くかも」

「落ち込んでるって聞いてたが?」

親方は弓花がそのようなことを言っていたのを思い出して口にしたが、風音は「そうだったんだけどね」と言葉を返す。

「昨日の夜辺りからふがいない自分に渇を入れるッて感じで色々とやる気になってるみたいだよ」

『大きな焼き鳥を料理してやるって言ってました』

「つまりは立ち直ったのか。まあ、いつも通りではあるがな」

それなりの付き合いではあるジンライと親方である。ジンライがどのように考え、どのように動くつもりなのかは、それなりに理解もしているようだった。

「ま、とりあえずはリーダーであるお前に確認を取っておけばいいだろうな。これに目を通してくれや」

そう言って親方が依頼内容がリストアップされた用紙をテーブルにおいて風音に見せる。

「神々の種火を分けてもらったわけだからな。その対価の契約としておめえさんらの武具を優先して扱うことになったわけだが、一応頼まれたもんを纏めてみた」

「あいあいさー」

そう言って風音は目の前の用紙に目を通す。

「基本的には、パーティの装備品のほとんどのメンテだな」

「エミリィの白翼の竜鋼弓は一度キチッと見てもらいたいけど他はどうかなぁと思うんだけどね。ライルの装備もジンライさんの竜牙槍も自己修復するし」

ライルのジーヴェの槍や竜装備一式は今やライルの一部と言っても良いものになっている。着脱こそ出来るが、魔力のパスで繋がり竜気を交わしあうことも出来るのだ。またジンライの白の竜牙槍『神喰』と黒の竜牙槍『悪食』も神槍グングニルとジン・バハルの宿ったもので普通の武器ではなかった。

「いや一応、魔物素材装備も時々はちゃんと見てやらねえといけねえぜ。結構見えないところで負荷が掛かってたりするからな」

「そういうもん?」

「ああ、そういうもんだ。どんなものにもちゃんとした手入れがあった方が長持ちするし性能も上がるもんだ。それで、お前さんの『竜喰らいし鬼軍の鎧』は見ないでいいのか?」

その親方の言う通り、ドラグホーントンファーなども風音はメンテの依頼をしていたが、リストには『竜喰らいし鬼軍の鎧(真)』の表記はなかった。

『竜喰らいし鬼軍の鎧(真)』は、かつてはバトロイ工房製の竜鱗の胸当て、ドラグガントレット、竜鬼の甲冑靴だったものに、そのほかの装備が混ぜ合わさって出来た鎧である。風音はさきほどの特訓でも身に着けてはいたが、室内ではさすがに脱いで部屋着になっている。

「うーん」

そして、風音は少しだけ唸りながら、アイテムボックスから『竜喰らいし鬼軍の鎧(真)』を取り出した。そして出てきた鎧は、中に何も入っていないにも関わらず、その場に直立不動で立ったのだ。その姿を親方は改めて見るが強力に禍々しい雰囲気がそこから溢れ出ているのは理解できた。近付きがたい雰囲気とはよく言ったものである。

「な、なんか、動きそうだな」

「動くよ。狂い鬼、左手上げて」

風音の言葉に従って『竜喰らいし鬼軍の鎧(真)』の左手が上にあがる。それを見て親方の目が丸くなる。

「狂い鬼とその仲間たちが中にいるから、もう鎧というか鎧型の魔物なんだよね。だから、ちょっと他の人には任せられないんだよ。暴れるから」

「なるほどな。あの街を襲ったオーガの角から出来たものだからな。さすがに俺もそれを相手に死にたくはねえな」

そう親方は言って肩をすくめた。

今でこそ風音にも従順に従う狂い鬼だが、事実として風音は一度狂い鬼に殺されているのである。『致命の救済』スキルによりなんとか風音は助かったが、主であってもその始末であるのだから他の人間が触れればどうなるかは明らかであった。それに風音もアガトの一件で懲りていたのである。

「まあ、手入れについてはおまえ自身がやるしかねえな。後で、ウチの連中を寄越すから、自分で出来るようになれや」

「うん。了解した」

そして、風音は『竜喰らいし鬼軍の鎧(真)』をアイテムボックスに仕舞い、リストに視線を戻した。

「他のみんなや私の鎧以外の装備の一通りは問題ないね。後は弓花の装備だけだけど」

風音の言葉に親方が頷いた。

「そうだな。シルキィと名付けていたようだが、あの槍を見せられたときには俺も正直目を疑ったからな。まるで何十年と使われてきたようなガタが来てやがった」

親方がそう言って苦笑する。それは弓花の槍の扱いに対してではなく、弓花の能力に耐えきれなくなった槍の造り手としての苦笑である。もっとも人間の為に造られた槍では、今の弓花に耐えられないのも仕方がないことではあるのだが。

「すでに少し前から、弓花には手紙で銀の調達を依頼されていてな。カザネが 神聖物質(ホーリークレイ) を造れるからって大量に今ウチの工房に運んでんだよ。で、造れるんだよな?」

「うん。弓花からも話は聞いてるし、私も弓花のために骨を折ることにするよ」

親方の言葉に風音は頷く。ツヴァーラを最初に離れたときから、ずっと変わらなかった弓花の装備がようやく新調されるときが来たのであった。