軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四十六話 悪魔を倒そう

さて、今この戦場において、もっとも予想外の状況に追い込まれている人物が誰かといえばそれはブレア・デッカーマンその人であろう。人であるかはさておき。

彼は自ら口にしていた通り、王を精神的に追いつめ、ルビーグリフォンを完全に変質化させて手に入れてからツヴァーラ王国を去るつもりだった。そのために五年前から準備をして、二年をかけて信頼される地位にまで昇りつめた。しかし、いざ事を起こそうとティアラを誘拐したところでケチが付いてしまう。雇っていた盗賊が金に目が眩み、殺す予定だったティアラを売り飛ばそうとしてしまったのだ。

そしてブレアの不幸はまだ続いた。ティアラは盗賊たちの手から冒険者によって救い出されてしまった。それでも王都に戻る途中で発見されれば第二王子の執事であるブレアはいち早くそれを察知し殺してしまうことも可能だったのが、冒険者は監視を振り切り、単独で王城のアウディーンの下にまでたどり着いてしまう。

ティアラ誘拐の関与も知られたブレアはここまできて計画を大きく変更せざるを得なかった。呪いが解かれてしまったメフィルス王を殺害し、扱いやすそうなティアラを代わりとして使うことに決めたのである。

だが去り際に『あの冒険者』を見つけてしまった。本人は認めはしないだろうが、ブレアは今回の事態を相当に腹を立てていた。激怒していた。

だからつい遊びに興じようと考えてしまった。大立ち回りを演じ、鬱憤を晴らして堂々と帰還しようと考えてしまった。

(その結果がこの状況か!?)

目の前にはジークと呼ばれた途方もない強さの戦士がいた。

斬りつける斬撃はすべて必殺。魔法障壁を何枚も重ね、それでも尚破壊されていく。本来物理攻撃の効果の薄いブレアが容赦なく追いつめられていく。

一方でジークにしてもそこまで余裕があるわけではなかった。相手は物理耐性のある防御型でジークにとって一番苦手なタイプに分類される。実力的には戦い続ければ倒せないわけではないが、ジークには10分しか活動できないという制限がある。このまま逃げに徹されると逃げ切られるかもしれない。

だからこそのあと一手。それが勝利のために必要だった。

そしてその一手がここで届く。

「スキル・キリングレッグ!」

「なんだとっ!?」

ブレアが突然の真上からの攻撃に驚きの声を上げた。

狂い鬼の角から作り上げた強固な足装具は同族のスキルに反応し更なる力を引き出していく。

「うりゃああああ!!」

風音の一撃は、ジークの攻撃を受けて脆くなった魔法障壁の一部を破壊する。

「ちぃッ」

ブレアは予想外の攻撃に舌打ちをしたが、しかしそれを見逃すジークでもない。

『大翼の剣・解放モード!!』

それはコーラル神殿で石仮面ジークの見せた大翼の剣の最大攻撃。

叡智のサークレットによって、障壁の破壊された部分のさらに脆い箇所を導き出し展開した八つの翼を突き立てる。

(障壁を越えた!?)

ブレアの顔が恐怖で歪む。恐るべき量の魔力が翼の先に集中していく。

「ここで滅びよ!!」

そしてジークの宣告とともに八つの翼から八属性のエネルギーが魔法障壁内部で照射される。『ゼクシア・レイ』と呼ばれる文字通りの必殺技が、莫大な破壊の力がブレアの肉体を分解していく。

『ギィイイイヤァアアアアアアアアアアアア!!!!』

断末魔の悲鳴が、中庭に響き渡る。本来ブレアを守るはずの障壁内部が恐るべき破壊力の光で満ち溢れ、もう夜だというのに中庭を昼間のように照らし上げた。

「なんて魔力だ」

ジンライが呆気にとられた声で呟く。ソレは周囲の誰もが思う気持ちの代弁だった。

そしてブレアの障壁はそのあまりの破壊力に耐えきれず、ヒビ入り、そのまま爆散して魔力風が吹き荒れ、小さなクレーターを作り出した。周囲を土煙で盛大に舞わせながらゼクシア・レイの攻撃は終わりを迎えた。

「やったの?」

風音が問う。

その場にいた誰もがジークたちを見ていた。ルビーグリフォンも動きを止めている。

「ああ、いや」

肯定の言葉を返そうとしてジークが言いよどむ。

「『存外』にしつこいな」

ジークはそう言ってそれを見据えた。

「しつこい……というのは心外だな」

ジークの視線の先、爆発の中心にブレアは事も無げに立っていた。

「あなたの強さが異常すぎるのだろうに」

「そんな、嘘でしょ!?」

あの爆発の中で無傷でいるブレアに動揺する風音に対しジークが答える。

「騙されるな、我が半身よ。あれはハッタリのようなものだ」

ジークの装着している叡智のサークレットはそういった幻覚の類を一切無効化する。

「ふむ。さすがに分かりますか」

「逃げ通したか。見事……と言っておこう」

その言葉にブレアの笑いが起こる。だがそれは酷く自嘲的な笑いだった。

「本当に自分でも不思議なくらいですが、まあ、原因は分かっています。これは私の特性ですので」

「それで、もう殺る気はないのだろう?」

本体は既に知覚外に逃げているのがジークには分かっていた。

「ええ、正直今回はさすがに疲れました」

そうは言うがその瞳は風音達を睨みつけていた。

「ですが、この世に存在してからこの方、ここまでの屈辱を与えてくれたのはあなた方が初めてです。故に」

口元を歪ませ、怒りの形相で宣言する。

「この悪魔『ディアボ』の名にかけてあなた方は殺します、いつか必ず、もっとも苦しむように残酷に!!」

(それが本当の名前か)

名を明かす意図は分からないが、そこには何かしらの意味があるのだろうと風音は思う。

そしてブレア改めディアボは「ですが」と続ける。

「私を見事退けたあなた方に敬意を表し、今回は褒美を取らせることと致しましょう」

そのディアボの言葉とともにルビーグリフォンが唸り始めた。

「ティアラ?」

アウディーンがルビーグリフォンからディアボに視線を向け叫ぶ。

「貴様、何をした?」

ディアボはそれに笑って言葉を返す。

「何って私の支配から娘さんを解放して差し上げたんですよ」

だが、ディアボの言葉は予想外のものだった。

「なんだと?」

「もう彼女は私の支配下にはありません。彼女は自由となったのです」

ディアボは「ですが」と言葉を続ける。

「ティアラさんはあれを操るにはまだまだ未熟でしたから、私も若干力を貸し与えていたのですよね」

風音はその言葉の意味を悟る。

「ちょっと、それってッ」

風音の焦りの顔に、ディアボが本当に嬉しそうに笑う。

「さて、果たして彼女一人であのルビーグリフォンを操れるのか、それとも使い潰されて死んでしまうのか。それは乞うご期待……ということで」

そう言ってディアボはフッと消えた。

「消えた?」

「ああ、もういないようだ」

弓花の問いにジークが答える。

「どういうことだ?」

そう質問しながら風音に駆けよるアウディーンに風音も焦りながら答える。

「あー、ようするにティアラはルビーグリフォンを呼ぶにはレベルが足りてないんだよ。それをあいつが多分自分の力を上乗せして無理やり召喚してたんだと思う」

「つまり?」

途端、ルビーグリフォンは周囲の炎をブワッと燃え広がせ

「クェエエエエエエエエエエエエエ!!!」

と雄叫びを挙げた。

その声に視線を風音からルビーグリフォンに移し顔を強ばらせるアウディーン。そして背後にいる風音が告げる。

「術者の制御の離れた召喚獣は暴走する。このままだとティアラが危ないんだよ」

その声にはさきほどまでの余裕の色はなかった。