軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四十七話 夢から覚めよう

「おい、ついにアイツ等がやったんだってよ」

「難攻不落と言われた移動ダンジョン『クリカラの巨岩男』を攻略したって聞いたぞ」

歩く先々でその話題で持ちきりだった。

超A級ダンジョン『クリカラの巨岩男』。ランクSの冒険者たちが挙って挑み、そのすべてが失敗した巨大ダンジョンをカザネとわたくしティアラのコンビがたった二人で攻略してしまったのだから無理もないのでしょう。

「みなさん、わたくしたちのことを話してるみたいですわね」

「ふーん、別に有名になるためにやってるワケじゃあないのにね」

そう風音は言うがわたくしは誇らしい気持ちでいっぱいでした。それはただ単に有名になったからじゃないのです。このわたくし、ティアラ・ツルーグ・ツヴァーラがカザネの相棒として人々に語られているからですわ。

「ジンライさんは腰痛で弓花はその付き添い。二人を待たずに攻略しきっちゃったのはマズかったかなあ」

「二人ともきっと目を丸くして驚きますわよ」

その様子が目に浮かぶよう。お二人には気の毒ですが、今回ばかりは鼻にかけさせてもらいましょう。

「まあ、いいか」

「ええ、カザネ。今は超A級ダンジョンの完全攻略を悦びましょう」

「そうだねえ。ティアラとももう3年か。あのころに比べて本当に強くなったし色んなところにも回ったよねえ」

「そうですわね。ハイヴァーンの竜の隠れ里にエルスタの浮遊王国、ここ最近だけでも大冒険でしたわ」

もう大陸中を回りきったと思えるほどに旅をし続けて、今日わたくしは自分の国ツヴァーラ王国に帰ってきていた。

あの誘拐事件から3年、わたくしは見事ブレアを倒したカザネとともに旅立っていた。

そして月日は流れました。様々な冒険を乗り越えたわたくしはカザネとともに歩いているという実感がようやく得られた。そしてその気持ちをお父様に報告することを決意しました。

「ねえカザネ」

「なあに?」

「わたくし、本当にカザネと出会えて良かったですわ」

「そんなの私だってそうだよ」

そうカザネは笑って返してくれる。

「すっかり冒険者らしい顔になったな、ティアラよ」

お父様がそう言って褒めてくれる。気がつけばわたくしは王城に帰ってきていたようだ。

「よくやったわティアラ。わたくしも自分の娘がこんなにも成長するだなんて鼻が高いわ」

お母様も笑ってくださっている。どうやらお父様と仲直りできたようですわね。それはとてもすばらしいことですわ。

「ええ、お母様。お父様。わたくしは本当に」

そこにお爺さまが声をかけてきた。

「幸せかな? 愛しいティアラ」

「ええ、お爺さま」

わたくしは素直な気持ちをお爺さまに口にする。

「そうかい」

だがお爺さまは悲しそうな顔をしてわたくしを見ている。

どうしたのかしら?

「お爺さま、何か哀しいことでもありましたの?」

今のわたくしはもう昔とは違う。お爺さまの悩みだって解決できてしまう。そう、カザネといっしょならきっとできるはずだ。

「ああ、あったよ。余の大切な孫娘がずっと泣き続けているのだ。ずっとずっと一人で泣き続けているのだよ」

それはとても哀しい事ね。シェルキン叔父様の娘のユーイのことかしら。きっとまた叔父様のことで悩んでいるのかしら?

「いいや、そうではない。大切な者と別れることが悲しいんだろう。だから泣き続けている」

それはとても哀しい話ね。ねえカザネ?

「そうだね。私もティアラがいなかったら悲しいもの」

ええ、わたくしもよカザネ。

「カザネ、カザネか。それはあれのことかティアラ」

お爺さまは窓の外を指さした。

「あら?」

そこには傷だらけで、必死な顔で何かを叫ぶカザネの姿をした誰かがいた。

「お前のカザネはあれではないのかね?」

いいえ、お爺さま。わたくしのカザネはわたくしの横で微笑んでいますわ。

「うん、そうだね」

カザネの返事にお爺さまはさらに哀しい顔をする。いったい何がいけないのかしら?

「……悪魔は余を殺したのだ」

あらあら、おかしいことを。お爺さまはそこにいらっしゃいますわ。

「そしてお前に目を付けたのだな。一人泣いていたお前は恐らく都合が良かったのだろう」

止めましょうお爺さま。そこから先は幸せな話ではない。

「余の亡骸を見たお前は半狂乱になった。心の隙間ほど悪魔の居着きやすい場所はない。すんなりとお前は魅入られてしまったのだ」

いいえ、いいえ、それは違うわ。

「お前はあの声は聞こえないのか? 余には聞こえるぞ」

声? いいえ。わたくしを呼ぶ声などどこにも。

「あの娘がお前を呼び続けている。このままではお前が死んでしまうと泣いている」

カザネは泣かない。わたくしの横にいる。

「あの娘は悪魔を退けた。お陰で余の魂もここまで来たのだ」

お爺さまもここにいる。お父様も、お母様もここにいる。

「一人で泣いているのだよ。余の孫娘はたった一人、幸せな夢を、偽りだと知りながら縋るしかないと悪魔に誑かされ歩くことを止めてしまったのだ」

いいえ、いいえ。

「だがいいのか。お前は。あの娘はお前を救おうと足掻くぞ。或いは本当に自力でお前を救ってしまうかもしれん」

ええ、カザネならいつだってわたくしを助けてくれる。

「しかしな。お前はそれで良いのか? ただ救われるだけで果たして良いのか?」

カザネはわたくしの王子様。ただただ、わたくしを助けてくれる。それはとても素敵なことで

「でも、それはイヤだと思ってしまいましたの」

わたくしは二人で駆ける草原を、あの宿で寄り添う暖かさを知ってしまった。

「なぜなら、わたくしはカザネの、あの娘の横にいたいと願ってしまったから」

『私だって一緒にいたいよ! ティアラと一緒に旅をしたい!!』

声が届いた気がした。

そして自分の気持ちに目を背けていたことに気付く。夢で終わろうとした自分に気付く。

涙がこぼれ続けている。暗い寝室で一人で泣いている女の子がいる。そこには最初からわたくし一人しかいなかった。空想の中で笑いあって、現実を忘れられないから泣いていた。

「目は覚めたかな、我が愛する孫よ」

「ええ、しっかりと」

ティアラは自覚する。ここがどこで、何がどうなったのかを。

「わたくしはブレアに操られていたのですね。そして無理やりルビーグリフォンと契約させられて、今はルビーグリフォンのコアとなっている」

ティアラの言葉にメフィルス王が頷く。

「どうやら正気に戻ったようだな。さすがに余も間に合わぬかと思ったよ」

「お爺さまは本物?」

「肉体が消えども魂は残る。あるいはそう願うお前の妄想の産物かもしれぬが、だが今は些細なことだろう」

メフィルス王はそう言うと再び窓の外を指さした。

「カザネは今、お前を救おうと戦っている」

そこには風音や弓花、アウディーン等もいた。不滅の布団を持ってブレスを防ぎ、根気強くルビーグリフォンに語りかけ続けている。

「すでにあのブレアは去った。しかし未熟なお前一人ではこの獣は操れなかったのだ」

「ええ。わたくしが不甲斐ないばかりにカザネたちを危険にさらしていますのね」

ルビーグリフォンを傷つければティアラも傷つく。コアとなった召喚者は召喚獣と一心同体。風音達はルビーグリフォンを殺すわけにも傷つけるわけにもいかなかった。

だからティアラを呼び続け、目覚めるのを待っていた。

「であればどうする?」

「この召喚獣をわたくしが制御する。それだけですわ」

事も無げにティアラはそう言った。

「ふん。先ほどまで泣いていた小娘がよく言う」

「いいじゃありませんか。どうせそれぐらいできなければあの娘の横に立つことなんてできっこないですし」

それに……とティアラは声を出す。

「あれを夢のままで終わらせるのなんてもったいなさ過ぎてわたくしには無理ですもの」