軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四十五話 助太刀を呼ぼう

風音は恐らくブレア・デッカーマンとは人ではなくアストラル系、純粋魔法生物の魔族だろうとアタリを付けていた。これは別に風音が高い推理力によって導き出した……というものではなく、臭いがないので物理存在でないアストラル系、ウィンドウに開かれた王様の呪いの分類が魔族となっていたのでそう判断しただけのことだった。

ともあれ、アストラル系の魔族などという終盤の中ボスクラスに該当するような相手と戦っても今の風音達には正直勝ち目はない。また目の前の余裕ぶりからツヴァーラの兵たちが攻めてもお約束通りに蹴散らされる可能性が高いと読んでいた。

そして風音はブレアの能力は知らないが背後にいるルビーグリフォンの能力は知っている。殲滅魔獣と言われた広域戦闘型の召喚獣、あれは千の兵隊を殲滅することが可能な存在だと理解している。

そしてブレアはこちらの戦力も見切っているだろう。そして圧倒できると考えている。ブレアの視点から見た場合にはそれは正しい判断なのだろうが

だが、それは『油断』だ。

ブレアは知らない。風音がブレアに対して切れる強力なカードを持っているということを。聖霊の守り手という大仰な職業の超越戦士、ゲームでの最強を現実に体現した反則的存在。

そう、あれならば倒せる。戯れに遊ぶ程度の気持ちでやってきたあの悪魔を滅ぼすことができる。

そして風音はその最強のカードを、

切るべきタイミングを、

飛び出した一人の男によって完全に崩された。

「ブレアァアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

(あんのバカっ)

風音はそのあまりにも愚かな行動に舌打ちをする。

既に配置は完了していた。宮廷魔術師たちの遠距離からの魔術一斉射撃と、それに合わせての騎士たちの突撃。しかしツヴァーラの兵たちはそれを第一王子によって完璧に潰されてしまった形だ。アウディーンへの誤射を恐れて魔術は撃てず、兵たちは王子を守るために突撃する。

「ははは、全部台無しだ」

ブレアは笑ってアウディーンに向き合う。

(もうやるしかないっ)

「やってジークッ!!」

風音は指輪を前に突きだし、最強足る存在を呼ぶ。

そしてそれは、指輪から照らし出される光の中から稲妻のように素速く飛び出し、アウディーンすらも追い抜いてブレアに斬りかかった。

(ああ、やっぱりダメだ)

しかし、風音は悔しさを顔に滲ませる。ツヴァーラ兵の一斉射撃に合わせられれば或いは通ったかもしれない一撃が、たった一人の暴走で失敗に終わった。

「貴様、いったい……?」

もっとも、対するブレアは明らかに動揺した顔でそれを見ていた。撃たれる魔術を防ぐために用意した防壁がほぼ破壊されてしまった。目の前の男の一撃でだ。

「なんだ、お前は!?」

そして動揺したのは背後から走るアウディーンも同様だ。突然現れた男の恐るべき一撃にさきほどの怒りも霧散する。だが、男の、ジークの憤怒の形相はアウディーンにも向けられ、

「邪魔だッ」

放たれた怒りの声と共に天鏡の大盾で弾き飛ばされる。

「ぐあっ」

アウディーンは3メートルは後ろに飛ばされ、倒れ込む。

(なんて力、これほどの猛者がなぜ)

何故今ここにいるのか……そう、倒れ込みながらふと冷静に考えたことがキッカケだったか。あるいはたまたま向けた視線の先が自分を守るように戦うツヴァーラ兵だったからか、アウディーンは周囲の状況がようやく視界に入ってきた。ただブレアを殺すと視野狭窄していた自分に気付いた。

(ああ、我が兵たちはすでに攻撃の準備を終えていたか)

風音ののんびりとした会話に憤り、誰もいかぬならばと飛び出した自分の、その愚かさに今気付いた。

(私はすべてを台無しにしたのか。この国を、兵たちを統べるべき私が取り乱したばかりに)

そう考え、自暴自棄に陥りかけたアウディーンの頬に

パンッ

と風音が平手で叩いた。

アウディーンは自分が叩かれたことで呆気にとられ、呆然と風音を見る。

「目、覚めた?」

その声は限りなく冷たい。

(……当然であろうな)

自分の失態を目の前の少女が理解できていないわけがない。

「ああ、すまな……」

「なら、いいよ」

謝罪をかけようとしたアウディーンの言葉を遮り、風音は『許した』。

「カザネ?」

「王様、死んじゃったんだよね」

「ああ……亡骸を見た」

「そっか。だから悲しいんだよね」

「……そう、だな」

それは悲しい。

「だったら娘まで奪われるわけにはいかないよね」

そう言われてアウディーンはそのことに気付いた。父が殺されたから、娘が奪われたから、

だから殺す?

娘を取り戻すではなく?

そんな簡単なことになぜ自分は気付かなかったのかと痛感し、本来の自分を取り戻す。

「そうだ。娘は、ティアラは取り戻す……絶対に」

さきほどの怒気のこもった叫びとは違う、信念に満ちた男の声が聞こえた。それを見て風音は微笑み、そして手を差し出す。

「じゃあ立って」

「あ、ああ」

(……こんなに小さいのに力強いのだな)

完全に娘と同じ心境を胸に抱きながら、アウディーンはその手を握り立ち上がった。

「さてと弓花とジンライさん、ウォーミングアップはオーケー?」

風音が後ろに来ている二人に声をかける。

「そんな余裕ないって」

そう言う弓花に

「さっさとやらねば、まずいぞ」

戦況を見ていたジンライが焦りの声をあげる。

戦場は今、二つに分かれていた。暴れ回るルビーグリフォンと囲むように戦うツヴァーラ兵と、もはや人外の域の戦闘となっているジークとブレア。

だが風音の表情にはまるで焦りや緊張の色はない。

「いやールビーグリフォンが本来の力を出してたらまず勝ち目はなかったんだけどさ。正直弱体化も良いところでちょっと気が抜けちゃってるんだよねぇ。半分黒くなってるせいでレベルも半減してるっぽいし」

あれでか……という言葉をジンライは吐き出した。ツヴァーラ兵がまるでゴミのように蹴散らされている様を見ているからだ。

「あれが本来の力で来たら軽く中庭ごと吹っ飛ぶから。後ブレスが出てこない理由は弓花も分かるでしょ」

弓花は少し考えてから言葉を返す。

「多分、召喚者のレベルが低い……せいだよね? 術者の能力が低いから通常攻撃しか出せてない」

その答えに風音が頷く。ルビーグリフォンの本来の恐ろしさはその獣の巨体ではなく広範囲・大威力の炎のブレスだ。それが出せないのであれば、風音が想定していた戦いの難易度を大幅に下げることができる。

「術者のレベルが低い? では、まさかあれは?」

アウディーンはここでひとつの可能性に思い当たる。

「うん、そう。あれはティアラが召喚してる。しかも自分をコアに使って無理やり呼んでるみたいだね」

通常、術者が召喚した存在は術者から離れ単独活動を行うものだがルビーグリフォンを呼ぶには契約したティアラ自身のレベルが足りなかったのだろう。風音の見る限り術者本人を媒介に強制的に顕現させているようだった。

「あんなのルビーグリフォンどころか普通のグリフォン並じゃない。あんの根暗男、さんざんビビらせといて……」

そう風音が口にするが、それはブレアにとっては不本意な話だろう。本来であれば、ルビーグリフォンの能力が低くともブレア自身がいれば十分に事足りた。ジークという存在がなければすべてはブレアの想定通りの展開になっていたはずなのだから。

「まあアンタが漏らすほどだもんね」

「はっ? なんで分かんのさ」

弓花の指摘にあからさまに動揺した風音が叫んだ。そんなことないと言おうとしたが弓花が風音の下の方を指さしている。

「えーとね、シミてるよ」

その言葉に風音が「えっ」と自分の下腹部を見た。よく見れば風音の服装は寝間着に不滅のマントだけで、下着とは薄布一枚隔ているだけで、つまるところ確かに股間の部分が微妙に湿っていた。

「おお、ホントだ」

「見んな、バカァアアア!」

横からのアウディーンの言葉に風音は涙目だ。前にかがみながら羞恥のあまり顔を真っ赤にしている。

「いやなに、カザネも恐怖と戦っているのだな……と、思えば私も寧ろ勇気をもらった気分だ。気にするな」

要約すると少女のお漏らしを見て勇気の出た男である。紛れもない変態であろう。

「うーー、ともかく私はブレアをちょちょいと倒してくるから弓花とジンライさんとアウディーン様は兵たちを率いてルビーグリフォンの相手をお願い。ルビーグリフォンは足止めだけでいいから」

そう言って風音はジークと戦うブレアを見る。

「あいつさえ倒せばルビーグリフォンも止まるはずなんだから」