軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四百三十九話 あの人に会おう

「カザネ、お久しぶりです」

『グルルゥッ』

「やは」

降りてきたカーザとジーク王子に風音は仏の笑顔で挨拶を返した。

以前のジーク王子の熱視線に怯えていた風音はもうそこにはいなかった。現在の風音は、己のセクシー度数を自己チェックし、その能力が格段に上昇していると愚かにも自覚していた。旅での経験が自分を成長させたと考えていた。故に己の色香に惑った子羊が、求愛行動に出ることなど当然。それに動じぬ私セクシーと考えていたのである。

腹立たしいことこの上ない話ではあるが、子供の考えることである。さらにジーク王子に関してはその認識も大体あってるので、誰も口を挟まなかった。いや、ひとりだけ黙ってはいられない人物もいた。

ジーク王子とカーザに後からやってきた王宮騎士団長ロジャー・ルートバーグが王城デルグーラの中へと案内している途中で、直樹が前に出たのだ。

「直樹……」

弓花が心配そうに、前に出た直樹を見る。その弓花に直樹は「大丈夫だ」と返す。なお、弓花はジーク王子が直樹に殺される可能性と、連動して直樹がゆっこ姉に殺される心配をしていた。負の連鎖である。

「ナオキ師匠、お久しぶりです」

ジーク王子が緊張した面もちで直樹に頭を下げる。なぜだか尊敬の眼差しで直樹を見ていた。

「ジークか。姉貴とのおしゃべりも良いが、少しは成長したのかどうか、この俺に見せてはもらえるか?」

「はい。しかし……」

せっかくの風音と話す機会なのだ。ジーク王子は風音をチラッと見るが……

「相変わらずの腑抜けなのかジーク? 母親の背中に隠れているようなふざけた根性のままなのか?」

「そんなことはありませんッ」

その直樹の挑発にジーク王子はギュッと口元を引き締めて直樹を見た。

「ご指導、お願いできますか」

「いいだろう。俺がお前の成長を見てやろう!」

その言葉にジーク王子は頷き、風音たちに挨拶をすると、妙に偉そうな直樹を連れて去っていってしまった。

「どうにか、直樹も落ち着いたようね」

その弓花の言葉に、隣にいたエミリィが首を傾げる。

「どういうこと?」

「直樹はね。ゆっこ姉、いやユウコ女王様からジーク王子を鍛えるように頼まれたのよ」

戴冠式でツヴァーラにいる間にそうしたやりとりがあったのであった。直樹もミンシアナの王族扱いで仲間たちと離れて動いていた時のことであるので、エミリィはそうした事情を把握していなかった。

「へぇ。さすがナオキね。ミンシアナの王族に頼りにされるなんて」

その王族に直樹も仲間入りを果たしているのだが、その実感はエミリィにはない。また直樹としても、ゆっこ姉の頼みもこなせる上に風音と出会う機会の少ないジーク王子を修行漬けにすることによって風音との接触を断つことが出来て万々歳というわけである。

直樹も戴冠式後でジーク王子と出会い、その態度で風音への思いを知っていた。最初は姉に近付かせないようにフルボッコにしておきたいとジーク王子の行動を見て思っていたのだが、ゆっこ姉が先んじて直樹をフルボッコにしてきたので、それは出来なかった。

一国の王子にガンを飛ばしたのだからやむを得ない話ではあるのだが、それにしてもゆっこ姉は容赦がなかったと直樹は思う。「回復魔術で回復させながら無限に痛めつける拷問がこの世界にはあるのよ?」と言うゆっこ姉に「勘弁して下さい」と泣いた記憶は直樹の心に深いトラウマを作っていた。謀略を尽くして今の地位にいる女王様は拷問がお得意であらせられたのだ。

ともあれ、実際の剣技の腕はそこそこでしかない直樹だが、魔剣使いとしては『魔剣の支配者』というスキル持ちな上に、魔剣を解析して己が力として自由自在に扱えるようになるまで調べ上げる男である。中でも魔剣をエネルギー体にして使役できる『魔剣解放』状態は直樹がスキルとして昇華させた努力のたまものであった。

つまりは白剣の使い手の師匠としては正しいチョイスではある。また、直樹は姉関連以外では基本的にオールラウンダーなイケメンであるのだ。悲しい話だが姉が絡まなければ理想的な兄貴分でもある。そして直樹はジーク王子と接触するときには風音から離れるのである。ジーク王子の視点からすればどう映っているかは一目瞭然であった。

つまりジーク王子にとって人生の模範とすべきイケメンが師匠となっていた。

それは風音のいるときにしか直樹とは会ったことのないゆっこ姉にとっては想定していない大誤算であり、直樹にとっては労せずして勝利の図式へと入っていたのである。すなわち量産型直樹の誕生であった。

そして風音はといえば、

「タツオー、叔父さんだよー」

『グルルゥ』

『お久しぶりですカーザ叔父上。なるほど、叔父上は聞いた通りの美しい白の竜だったのですねえ』

タツオと共に白竜カーザとスキンスップを取っていた。

カーザは黒岩竜ジーヴェのチャイルドストーンから生まれた存在であり、ジーヴェの因子でドラゴンと化す風音の姉弟分である。そしてタツオにとっては叔父と呼ぶべき存在であった。

「ええと、そうなると俺とも兄弟って事か?」

『一応そうなるな。あまり気にするものでもないが』

ライルとジーヴェの槍がそう話す。なお風音視点での竜族関係図は次の通りである。

アカ(長兄)

ライル・ジーヴェ(次兄)

風音・ユッコネエ(姉)タツオ(息子)ナーガ(夫)

カーザ(弟)

ジーヴェとユッコネエはそれぞれが、風音とライルと因子を共にしているため、同一扱いとなっていたりするが、竜族内での呼び方程度の問題でそれほどの深い意味はない。

そして直樹とジーク王子が去った後、中庭を過ぎて城内の入り口に着くと案内していたロジャーが立ち止まった。

「それではカーザ、お前はここで待っているんだ」

『グルゥ』

ロジャーの言葉にカーザも素直に頷く。しゃべることこそできないが、竜騎士契約に近い形でカーザもジーク王子と知識を共有し、ある程度の人語を理解することができる。それを聞いて風音は頭の上に乗っているタツオに話しかける。

「タツオはどうする? カーザと一緒にいても良いよ」

『そうですねえ。カーザ叔父上ともそんなに会う機会もないでしょうし』

タツオは少し考えた後『それでは私もここで待っています母上』と口にした。

「そんじゃあ、俺も一緒にいようかな」

『まあ、良かろう』

タツオがカーザの元へと飛んでいき、ライルも残ると告げた。ドラゴン親族会議である。何を話すのかは不明ではあるが。

そして、タツオたちに「また後でねー」と告げて風音達は城の中へと入っていく。

**********

「そうだ。女王陛下の下に行く前に、ひとつ言っておかねばならぬ事があるのですが」

「何?」

城内を入ってしばらくしてのことである。突然のロジャーの言葉に風音が首を傾げる。そしてロジャーはティアラと、ルイーズの腕に抱えられているメフィルスを見る。

「ここから先のことは他言無用でお願いします。現在、ユウコ女王陛下の下にはひとりの男の方がいらっしゃいます」

「スキャンダラスな話?」

風音の問いに、ロジャーは首を横に振る。

「そうではない……と思うのですが、ことは我が国だけで収まるものではなく、特にツヴァーラの王族の方々には冷静に努めていただきたいのです」

ロジャーはメフィルスの素性も知っている。それ故の言葉なのだろうが、その理由は不明であった。

『ふむ、ティアラ。頼む』

「はい、お爺様」

ティアラはメフィルスの願いを聞き、メフィルスへと魔力を送る。

「何を?」

『何かしらの事情があるのであれば余も正装でおった方が良いであろう』

そう言いながら、メフィルスはルイーズから離れる。そして、床に降り立つと幼体グリフォンから徐々に 炎の騎士団長(フレイムナイツリーダー) へと姿を変えていく。重装甲の炎の騎士ではあるが、その頭部は兜をかぶっておらず晒されていて、そこには生前のメフィルスの顔があった。

「おお、メフィルス王」

それにはロジャーも頭を垂れざるを得なかった。

その場にツヴァーラ前王その人が降臨したと、そうロジャーは認識したのだ。

『良いよ。余はすでに孫娘の召喚体でしかない。余には他に 柵(しがらみ) はない。自由な存在なのだ』

そう口にするメフィルスはどこか解放されたというような顔をしていた。そしてルイーズの肩を抱きしめる。戦闘状態ではないために、その炎は何者をも燃やすことのない幻炎だ。ただ暖かさだけがそこにある。

「あら、暖かいわね。夜もこうだと良いのだけれど」

『残念ながら性欲は湧かんからな』

生前の枯れた状態がそのまま継続されているので、人型になってもメフィルスにはそうしたものは出てこないようだった。

「というか、ようやくお爺ちゃんも出番増えたよねえ」

『本当になあ……ここまでが長かった』

風音のシミジミとした言葉にメフィルスがシミジミと頷いた。基本、役に立たない幼体グリフォンの召喚体であったメフィルスは、場合によっては戦闘中は口をつぐみ、召喚解除されることすらもある存在だったのだ。それがようやくである。

『ともあれ、行くとしよう。その男というのは我らに関係がある者ということなのだろう?』

「はい。ユウコ女王陛下は、近頃レイサンの街に赴きまして」

そこまでのロジャーの言葉で風音は理解する。レイサンの街のセスの宿屋にゆっこ姉が一度行っていることは風音もメールで聞いてはいたのだ。

(ということは、ゆっこ姉と一緒にいるのは……)

「ロジャーさん、早く」

「あ、はい。お待ちを」

そして、風音の歩みが早くなる。風音の考えが正しければ、この先にある女王の間で待っているのは、ゆっこ姉と……

「達良くんっ!」

バンッと力強く開けられたドアの先、その王座に座るゆっこ姉の横には、小太りの気弱そうな青年がひとり立っていた。

「やあ、風音。久しぶり……かな?」

そこにいたのは、紛れもなく風音の知ったままの姿の剣井達良であったのだ。