軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四百四十話 勘違いをしよう

◎王城デルグーラ 鍛錬場

「そぉれッ!」

王城デルグーラの中にある鍛錬場。そこには今、ジーク王子と直樹の二人だけがいた。直樹が白剣を扱えることは現時点では伏せられているため、人払いがされていたのであった。そして直樹は白剣『ホワイトディバイダー』を握り、そのまま魔剣解放を発動させた。

「うわ、白く光って……」

ジーク王子が声をあげる。そして白剣が輝きだし、剣より発せられた光が人の形へと変わり、白き戦士へと変わっていった。それはジーク王子の知らない屈強な体躯の男だった。

「これが白剣を解放した姿?」

「ああ、ツヴァーラで見せてもらってから、ようやく白剣の中身が解析できたんだよ。内部に戦士の魂が込められているから、これはそれを形にしたものだな」

直樹は、風音がコピーしたという白剣の内部のスキル『戦士の記憶』を魔剣解放で引き出していた。

「姉貴もスキルで『戦士の記憶』を持っているが、実際のこの戦士の技量にはほど遠い。ウィンドウの機能でシンクロ率を100%にしたところで、この戦士の技術をお前が100%扱いきれるかと言えばノーだ」

「……そんな」

所詮、肉体的な差異は存在してしまう。扱えるのはジーク王子の肉体を使った100%。たとえ成長したとしても、自分ではない戦士の技量の再現はそれこそ同じ質の肉体でなければズレが生じる。

「そんで、まあこいつを使えッ」

そして直樹は、アイテムボックスからアダマンチウムソードを一振り取り出すとジーク王子へと手渡した。

「これは?」

「俺の魔剣じゃあお前には危険だし、かといってちゃんと打ち合えるのはそれぐらいしかなかったんだ。後で返せよ。これでお前はそこにいる白剣の解放状態と打ち合うんだ」

直樹の言葉にジーク王子が首を傾げる。

「どういうことですか?」

「いいか。結局のところ、白剣を扱う場合、お前の剣技は白剣に宿っている『戦士の記憶』とシンクロさせて扱わないとその力を正しく発揮することは出来ない。かといってお前の身体のまま、シンクロさせても真の実力は発揮できない。ここまではいいか?」

「はい」

ジーク王子が頷く。

「ただ合一するだけじゃない。お前は白剣と同調し、それを協力して戦う必要がある。そのために、お前は白剣の『戦士の記憶』そのものと向き合わないといけない。だったら実際にその身体にたたき込んでやればいいと思ってな」

「さすがナオキ師匠です」

ジーク王子が、よく分からないながらも直樹を素直に賞賛する。イケメンなのできっと凄いのだろうと考えている。

「それじゃあ戦ってみろ。全力でな」

「はいッ」

そして直樹の指示によって戦い始めたジーク王子を見ながら、直樹はひとり上を見上げた。吹き抜けの天井の先には王城デルグーラの先が見えた。そこには女王の間があるはずだった。

(姉貴、こいつはおれが抑えておくぜ)

そんなラスボスのいる要塞の途中の敵を引き受けたシチュエーションのような台詞を直樹は呟くが、やっていることは普通に鍛えているだけだった。またゆっこ姉の制裁が怖いので特に手は抜いていない。

そして、それはそれとして直樹の視線の先にある王城デルグーラの中の女王の間では今まさに、風音がゆっこ姉と、そしてもうひとりの人物と対峙していたのであった。

◎王城デルグーラ 女王の間

その女王の間で、目の前の達良にもっとも驚いていたのはティアラとメフィルスだった。

「シェルキン叔父様がなぜここに?」

しかし、彼女らは目の前の男をアウディーンの弟、そしてメフィルスの息子のシェルキンだと思っているようだった。それほどによく似ていたのである。

『いや、待てティアラよ。あの髪の色、ブロンドから黒に変わっている。つまりはだ。変装をして、ミンシアナへと亡命をしたということであろうな』

「は?」

呆然とする風音の横で、ティアラとメフィルスの会話が続いていく。ツヴァーラでゆっこ姉が風音と共にシェルキンのふくよかなお腹を揉み揉みしていたのはティアラとメフィルスのふたりとも知っていたのである。それでミンシアナのユウコ女王に取り込まれた……と疑っているらしかった。

『余の血を引いているからやむなきとはいえ、まさか色香に惑い妻と子を捨て、隣国の女王の愛人となっているとは』

「そういうだらしないところがないことだけは尊敬しておりましたのに。やはりお爺さまやお父様と同じ血が流れておりましたのね。ユーイを裏切るなんて見損ないましたわ叔父様ッ」

ヒートアップする二人である。なにげにティアラがひどいことを言っていたが父と祖父は自業自得ではあるので、反論する権利はない。

もっとも普通に考えれば風音たちの馬車を追い抜いてシェルキンがここに来ることなどほとんど不可能なのだが、二人は熱くなり過ぎて気付かないようだった。そして、この場でメフィルスが炎の剣を抜いたのだ。

『ええい、これでは我が血族の名折れ。タツヨシ王へも顔向け出来んわ。せめてその罪、我が手で償わせてもらおう』

「落ち着きなさいメフィルス前王」

飛びかかろうとするメフィルスにゆっこ姉が手を前に出して、力を込めた。すると動きだしたメフィルスの身体が一瞬で固まったのだ。

『ぬおっ』

メフィルスがそれには驚いた。しかしどう頑張っても身体が動かせない。それにはティアラもギョッとしていた。

「まったく、ツヴァーラ王家の方々にはよく説明しておいて欲しいといったのだけれど」

ゆっこ姉の視線がロジャーに向けられる。

「も、申し訳ございません」

それにはロジャーも冷や汗を流しながら受け答えるが、風音が飛び出していったために話す機会がなかったのだ。その上にティアラとメフィルスはまったく想像のつかない勘違いをしていた。こればかりはロジャーにも予測不能であった。

「う、動かせませんわ」

焦るティアラにゆっこ姉が声をかける。

「落ち着きなさいティアラ王女。私は最上位の炎精霊『爆炎竜サラマンドラ』と契約しているのよ。同属性の召喚体ならば、私は意識するだけで動きを止められるわ」

「そんな……」

密かに己の召喚術への自信を高めつつあったティアラにとってその返答は衝撃的であった。当然ゆっこ姉の支配力に対してレジストは働いていたはずだが、両者の実力の差がそれを容易く打ち砕いていた。

「本来、この間で武器を抜くなんてどんな罪を被せられても言い訳できない状況なのだけれどね。頭の中まで炎になったのではなくて? メフィルス前王?」

『グッ、相変わらずきつい女よの』

そう言いながら、戒めが解けたのを確認するとメフィルスは炎の剣をしまった。

『それではどういうことかは説明してもらおう。如何にミンシアナの女王とて、我が国の王族を捕らえるなど許されざることぞ』

「だから、この人はシェルキン殿ではないわ。あれはあれでレンタルで借りたいくらいではあるけど」

そういうゆっこ姉の言葉に、メフィルスもティアラもそこにいる人物を見る。

「別人?」

『シェルキンではないだと? しかしそのタツヨシ王のご尊顔にそっくりな顔は紛れもなく我が血筋』

「本当にその血筋がわたくしの顔に現れなくて良かったと思いますけど、間違いないですわ」

その言葉に「やっぱ、いやなんだなぁ」と落ち込む人物にゆっこ姉が「まあまあ」と慰める。そして、その人物が誰なのかの答えはメフィルスたちと共にいた風音からもたらされた。

「そっちのフクヨカさんは達良くんだよ。600年前のタツヨシ王本人……のコピーみたいなもの?」

「ご明察。まあ、君ならすぐに分かる話ではあるだろうけどね」

風音の言葉に達良が頷いたが、子孫にディスられて少し涙目である。それにはティアラとメフィルスが固まる。

「ふむ。どういうことだ?」

そこに特に動揺もないジンライが尋ねる。なお、シップーとユッコネエもいっしょにいて「にゃ?」「なー?」と首を傾げていた。

「この達良くんは譲渡クエストのナビゲーション、つまりは案内人だね。本人が600年前に用意したコピー……で良いんだよね?」

風音の言葉に達良コピーが頷くがジンライは首を傾げた。よく分からないようだ。だがティアラとメフィルスへの効果は劇的であった。

『タツヨシ王なのか?』

「えーと、どういうことですの?」

なお、現時点においてメフィルスは達良がプレイヤーであることは知っていた。風音からすでに告げられていたのだ。しかし、内容が内容だけに安易に広めるべきではないとタツヨシ王信奉者のメフィルスは考えて、ティアラには達良がプレイヤーであることは伏せられていた。

「風音、私にも分からないんだけど?」

そして同じプレイヤーである弓花が首を傾げる。弓花は譲渡クエストを受けたことも設定したこともないのでよく分からないようだった。

「えーとね。譲渡クエストを作成する場合には、発生場所と案内人を設定できるんだよ。デフォルトだとプレイヤーキャラが設定されてて、それをキャラメイキングも出来るんだけど、本人らしく演出するためにいくつかの質問や受け答えもセッティング出来るんだよね」

その言葉に達良が頷いて、そして風音の言葉に補足する。

「うん。この世界だと、その質問項目というのがなくて、僕の人格が丸ごとコピーされる仕様だったんだね」

そして弓花が疑問に思ったことを口にした。

「それが今ここにいる理由は? クエスト発生させたけど私たちの前には出なかったわよね?」

「出てくるのがクエストイベント発生ポイントだからね。私たちはまだ行ってないから出現してないってことだと思う」

そしてゆっこ姉は宿屋に行って、そして引き返してきたのだろう。ナビキャラを発生させたまま、クエストを放置したのである。

「戴冠式の帰りにトルダ温泉街に立ち寄った私も譲渡クエストを開始させたのよ。それで、そのままミンシアナに着いてからさっさとレイサンの街のセスの宿屋へ視察名目で行ってきてねえ」

その言葉に共にいるロジャーが苦い顔をする。戴冠式を終えてからまだ日は経っていない。おそらく相当に強行されたのだろうということは想像がついた。

「つまり、偽物?」

「身も蓋もない」

弓花の言葉に風音が「むう」と唸って返した。

『すまぬが、その……話についてこれないのだが、一応聞いて宜しいか』

ショックから立ち直ったらしいメフィルスが達良コピーに声をかける。それに達良コピーが頷く。

『あなた様はタツヨシ王陛下ご本人様ではないのでしょうか?』

その質問には達良コピーは「それはですね」と前置いた。

「あなたから見ればタツヨシ王の記憶を保持している精霊のようなものと考えていただければよいのではないでしょうか。コピーされた記憶は64歳のものですので、それ以降の記憶は持っていませんけどね」

そう達良コピーが返すと、メフィルスが激しく燃え盛った。

「ええ、何これ?」

風音の問いにティアラが苦笑する。

「感情が高ぶってらっしゃるみたいですわね。お爺さまはタツヨシ王の大ファンでしたから」

「メフィルス様は昔から、タツヨシ王の話になると長かったからな」

「うーん。寝物語によく聞かされたわねえ」

ティアラの言葉に、ジンライとルイーズが続けて口にする。

どうやらとても嬉しいらしかった。