軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四百三十八話 王都に進もう

「という夢を見たんだよ」

という夢を見たそうである。

なんでも、お風呂でのぼせて倒れていたときに風音は夢を見たそうである。風呂でのぼせて変なポーズで倒れていたという話を意識的に封じながら、風音はそう切り出したのだった。秘めたるセクシーを流出せぬ為に風音は黙して語らなかった。

そして、その場にいるのはプレイヤー3人にタツオだけである。たまたまそのメンバーが揃っていたので風音も元の世界の話を切りだしたのだ。

「ええと、あのポーズって」

しかし夢の話よりも風音が倒れていたポーズが気になって仕方がない男がひとりいた。その名は直樹である。しかし風音は言いたくない。というか直樹に望まれてると思うと気持ち悪い。だから風音はこう叫んだ。

「ビークワイエットッ」

なんと風音さんはお利口さんなので英語が堪能であらせられたのであった。意味は「もっと大切なお話があるので静かにしてください、このお馬鹿さん」である。だが直樹はお利口さんにはほど遠い存在なので通じないのである。寧ろ英語とは何か? そんな哲学的な質問を返しかねない危険な男なのだ。

「あのポーズってなんだ?」

そして、風音は空気の読めない直樹に思いっきり蹴りを入れて転がすことで、その口を封じた。つまりはセクシャルハラスメントに対する制裁である。基本的にセクシャルハラスメントの定義は相手がどう思うかという曖昧な部分があるので注意が必要なのだ。イケメン度が高いと見逃されることもあるらしいが、直樹をみる限りその噂は嘘のようであった。

「久しぶりにあっちの世界の夢を見たんだよね」

「ああ、なるほど。風呂でのぼせて、元の世界の夢を見たと」

ともあれ風音は話を戻し、姉の望みを蹴りによって正確に悟った直樹は、まったく蹴られたことを意にも介さず話に継続して参加する。それが姉弟の日常であった。仲の良い姉弟である。そして、弓花はため息をついて、タツオは特に気にしなかった。

「まあ……もう、内容もあんま覚えてないけどね」

そう風音は苦笑しながら直樹に答える。

起きたばかりの時は鮮明に覚えていた筈なのだが、時間が経った今ではもう夢の内容もかなりおぼろげだ。ただ、マックンやマロン、宮迫にJINJIN、やすと話したことを風音は覚えていた。父親と母親と、まだ成長する前の直樹とも出会っていたことも覚えている。その話を聞いて弓花も「宮迫に栗本かぁ」と呟いた。

「あー、ふたりにももう随分と会ってない気がするけど、半年ぐらいにはなるのかな」

弓花はそう言い、その横で直樹は「懐かしいなあ」と答える。

「真理恵さんか。俺が会ってないのは4年ぐらいになるかな。もうすっかり、こっちに馴染んじまったけどさ」

直樹は少し寂しそうにそう口にする。真理恵とは宮迫の名前である。宮迫真理恵、寂しがり屋で男前な女と評判であった。

「そういや、直樹はミヤーとは結局付き合わなかったんだっけ?」

「3回ぐらいデートはしたけどなぁ。それからすぐに他に彼氏出来たんだよ」

風音の問いに、直樹はそう答える。

「ああ、同じ部活の北条先輩ね」

弓花の言葉に直樹が頷く。

「多分、その人だと思うんだけど。ムッチャ、睨まれたことがあったんだよなあ。ありゃ、怖かった」

直樹が肩をすくめて、そう口にした。中学生にガン睨みしてくる高校生である。そりゃ怖い。もっとも今となっては直樹にとっても懐かしい思い出ではある。

「ま、お父さんとお母さんにも会えたし、懐かしくて良かったです。以上」

そして風音はそう締めくくって、パンッと己の頬を叩いて立ち上がった。

『母上、大丈夫ですか?』

「うん。問題なし。タツオもありがとね」

風音はギュッとタツオを抱きしめる。

(うん。夢なんかじゃないよね)

タツオも風音の家族だ。夢の存在などではないとその鼓動を感じる。タツオも風音の想いの篭もった竜気を受けたことで嬉しくてくわーっと鳴いていた。

その風音に直樹がさらに尋ねる。

「それでポーズは」

「黙れ」

風音は、今度は直樹に通じるように正しく伝えたのである。バカにも分かるように心を篭めて伝えたのだ。

そして風音はガンとしてそのことについては答えることはなかった。セクシー道とは秘めるもの。牙は隠し、一撃必殺で獲物を仕留めるべし。それを風音は知っていた。

なお、風音を介抱した弓花としては荒ぶる鷹のポーズで倒れていた風音の何を秘密にすればいいのか分からなかったので、とりあえず口を閉じていた。何が地雷なのかが不明すぎたのだ。

そして、白き一団はトルダ温泉街をその日のうちに出ることとなるのであった。

狂い鬼とユッコネエの噂が広がりきる前に、風音達は早々にトルダ温泉街を出て行った方がよいと判断したのだ。夜逃げスタイルである。有名人は辛いということであった。

それからトルダ温泉街を出た風音たちはミンシアナへと進んでいく。

続いて着いたオルドロックの街にあったカザネ双竜温泉御殿には風音も目を丸くしたが、もっと目を丸くしたのは風音分の収入はそれへの改築費にすべてつぎ込まれていたということだった。

風音は考えた末に、御殿を管理している商人のザクロの案を受けてカザネ双竜温泉御殿をカザネ双竜温泉旅館へと名を変えさせて、自分はルイーズ同様のオーナー扱いとなり、そしてキチンとお金を送金するようにと、ザクロに言われた通りにザクロに指示しておいた。

また、終わった後に分かったことだが、よくよく思い返してみると風音は何も考えていなかった。全部ザクロの指示通りだった。恐ろしい話である。特に問題があるわけではなかったので、ルイーズも特に何も言わなかったので尚更気付かなかったのだ。

それから送金先はカザネ魔法温泉街へと指定した。ミンシアナのマッスルクレイの特許料や、ハイヴァーンの建築技術特許料などの収益の先もカザネ魔法温泉街一本に纏める予定であった。それらの管理や運用は、領主代行のマッカへとお願いする予定である。きっとマッカならそれらを上手く運用して、さらに増やしてくれるに違いないと風音は考えていた。頑張れマッカ。

そのカザネ魔法温泉街といえばだが、順調に建設が進んでいるようである。風音が贈ったデミクリスタルドラゴンも立派に動いて、ここ最近も何度か魔物たちを追い返したとのことだった。

ただ、デミクリスタルドラゴンは自動防衛以外はマッカの指示しか従わないので「わたくしが前線にかり出されるのはちょっと」と泣き事を返してきていた。

取り敢えず「頑張れ」と返信しておいたが次に行ったときにはキンバリーにも従うように設定しなおす予定であった。頑張れマッカ。

併せて、カザネーランド建設についてもスペースを確保してもらうことにして計画の方は進めていた。こちらはゆっこ姉も絡むのでマッカの胃がさらに痛む予定だった。頑張れマッカ。すべてを乗り切ればゼニス商会のギルドマスターか上級幹部くらいにはなれるはずだ。

そんなこんなで、風音たちは無事ミンシアナ領へと入っていく。そして何事もなく旅は続き、一行はトルダ温泉街から実に6日ほどで王都シュバインへとたどり着いたのである。

驚くべき事に、途中で巨大な魔物や、魔物の集団や、悪魔に妨害されることもなく、普通に目的地に着いたのである。それはまるで、何か不吉なことが起こる前兆のようにも感じられた。

◎ミンシアナ王国 王城デルグーラ

「ちょっと、弓花。お城に着いちゃったよ。大丈夫なの?」

「気をつけなさい風音。もしかすると私たち、幻覚の中にいるのかもしれないわ。実はまだ暗殺者たちと戦っている途中で『良い夢見れたか』とか言われて目覚める可能性があるかもしれない」

「ねえよ」

ここまでが順調すぎてすべての状況を疑っている風音と弓花に、後ろから直樹がツッコミを入れる。そもそも普通に旅している分には、早々に大きな問題など起こらぬモノなのだ。

魔物や盗賊が襲ってくる可能性もあるが、風音たちの馬車の速度に追いつける存在は少ない。また馬車の上のユッコネエの気配やヒポ丸くんの衝角の竜気が漂っているのだから、ミンシアナの平野にいる魔物レベルでは近づこうともしないだろう。要するに、よほどのことがない限りは風音達が襲われることはないのである。

とはいえ、ここまでがここまでだ。よほどのことが続いた白き一団である。何もないということはないだろうと構えるのも無理もなかった。

そして警戒する風音と弓花にタツオが声をかける。

『母上。ドラゴンの気配がします』

その風音の頭の上のタツオの声を聞きながら、風音は上空を見上げた。

「ああ、カーザの匂いだね」

風音もスキル『犬の嗅覚』でそれを察知したのだ。

『グルォォオッ』

「カザネーーー」

そして城のバルコニーから白い竜であるカーザが飛び出して降りてくる。その背には当然ジーク王子が乗っていたのである。