作品タイトル不明
第四百三十六話 その名を知ろう
「カザネよ。正直に言うとすごく怖いのだが」
「あーうん。分かる分かる。やべえ。これマジでやべえ」
アウディーンの言葉に風音が震えながら答える。
「ええと、あたしたち、もっと上から落ちてきたのよねえ」
「怖いのはどうしようもありませんわね。ええと、腰が抜けて立てないんですけど……申し訳ありませんけど、誰か……助けて」
ルイーズもよろよろとしながら元の場所に戻り、腰が抜けたティアラは直樹に抱えられてその場所から下がった。
「恐ろしいか?」
「んーー、俺ももうドラゴンだからかなあ。特に問題ないや」
そしてジンライの言葉にライルも首を傾げて答える。
『怖いのでしょうか? よく分かりませんね』
『我もだ。人の恐怖のツボというのはよく分からんな』
ライルの横では、タツオとジーヴェの槍が会話をしていた。竜族同士、通じ合うモノがあるらしい。
今回、風音がこのアウディーンの塔にきた目的は塔の現在状況の確認ではあったが、同時に橋のない入り口と殺風景な屋上の手直しも考えていたのである。
そして風音は魔力を回復させた後、1600メートル上の屋上へとエレベータでやってきて、柵やいくつかの小屋やアウディーンの王座などの作成を実行したのである。さらにはもうひとつ、昔テレビで見たモノに近いものを作ってみたのだが、それは想像以上の破壊力であった。
「風が強いから尚更怖いのかなあ」
塔より突き出た、床が透明な水晶バルコニー。それを風音はゴーレムメーカーと水晶化で作り出したのである。そして、そのバルコニーの床からは下の風景がよく見えていた。見え過ぎていた。1600メートルの高さを見下ろす恐怖は実際に味わった者にしか分からないだろう。
「ええと、ほら、あれだ。成人の儀式とかで、あそこでジッと立っていられたら大人と認めようとかそういうのを作ってみてはどうだろう?」
「なるほどな。しかし私はもう大人だからいいのだよなカザネよ。私は王様だしな」
プルプルふるえながら風音とアウディーンがそう言い合っていた。お后話が消滅した途端に普通に仲良く出来る辺り、風音も相当に現金な性格である。直樹の目が鋭くなっていたが、アウディーンも幸せそうなのでまあ良しだろう。
「けどドラゴンになると気にならないのに、人間のままだと怖いってのも不思議なもんだね」
「感覚的なモノもあるんだろうけど、けど、姉貴もフライで飛ぶときには大丈夫なんじゃないのか。なんていうか空飛べるっていう身体が認識できてないと落ちる恐怖が出てくるんじゃないかって思うんだけどさ」
さりげなく風音のそばによってきた直樹の言葉に風音も「そうかー」と唸っていた。ちなみにユッコネエとシップーは柵の上に飛び乗ろうかどうかと、グルグル回りながら「にゃー」「なーご」と思案しているようである。
「ふぅ、ティアラよ。どうだ。ここの眺めは?」
そして、アウディーンは風音たちと離れ、ひとりグッタリしている己の娘の元へと向かう。腰が抜けて動けないようで、ティアラは立ち上がらずに顔だけアウディーンに向けて口を開いた。
「ええ、もうあの下だけは二度と見たくないですわお父様」
ティアラは父親の言葉に正直な感想を述べた。ティアラは暗殺者との戦いの時、落下中は意識を失っていたので落下時のことは覚えていない。なので、なおさら耐性がないようだった。
「ふむ。そこまでの恐怖か。カザネの言う通りに、王の試練とかにして用意してみるか?」
「お父様、それを条件にするのでしたらわたくし故郷を捨てて、二度と戻ってきませんわ」
「いや、冗談だ」
アウディーンの言葉に、ティアラがプイッと横を向いてしまう。
「あーいや、その、そういうことを言いたいわけではなくてだな」
「なんですの?」
ブーッという顔をするティアラにアウディーンが苦笑する。
「ルビーグリフォンを呼び出せるようになったと聞いたのでな」
「お爺様からですわね」
そう言いながらティアラは少し離れたところにいるルイーズの腕の中のメフィルスを見る。
「レベルはまだ27と聞いたが、修行の旅帰還の最終条件であるルビーグリフォンの召喚には成功した。ここで国に戻るという選択肢もあるが」
「戻りませんわ。まだレベル30を超えておりませんし……わたくしはまだ、自分を伸ばしていきたいのです」
ティアラはキッパリとそう返した。
「カザネたちと旅をしたいだけではないのか?」
「否定はいたしませんわ」
再びブーッという顔をするティアラにアウディーンは笑う。自分の娘も随分と砕けてきたものだと思ったのだ。
「素直でよろしい。まあ、私は6年、父上は5年も修行の旅に出ていたのだ。お前ほど急激にレベルも上がらなかったしな」
「そうなんですの?」
そうティアラは尋ねる。普通に冒険者として旅した程度では早々にレベルが上がるわけでもないのだ。ティアラ自身は他に比較対象がないので分からないようだが、風音達と共に戦ってきたティアラのレベルアップは非常に早いモノだったのである。
「だからな。当面は好きに旅をしていてくれて良いさ。風音と共にいることは城でジッとしているよりも有意義なことも多かろうしな」
「お父様……」
「ついでに婿殿を連れてきても構わんよ」
アウディーンの視線が直樹に向けられたのを見て、ティアラの顔がボッと赤くなる。
「ちょっと、お父様?」
「くっくっく、どうやらあの弟殿はミンシアナの王族になったらしいな。であれば愛人ではなく正式な婿としても申し分ない。それにカザネとも親戚と言うことになると私もお父様とカザネから呼ばれる可能性もあるわけか」
「親類関係的に離れてるから、それはないと思いますわ」
直樹にとっては義理のお父さんになることはあっても、風音にとっては弟の義理の父親である。お父様と呼ばれることはないだろうと思われた。それを聞いてアウディーンが残念そうに「そうか」と呟いたが、すぐさま、機嫌を取り戻したようだった。
「ま、頑張れっ。私も応援しているからな」
「はいっ」
父親にニイッとそう言われてティアラも意を決したように笑顔で頷いた。
そして翌日。
屋上の改修と橋の更なる補強も終えた風音たちは、アウディーンと騎士団に見送られながら、アウディーンの塔を後にすることとなった。そして街道を進みながら風音コテージで一泊をして、その翌日にはルイーズホテルのあるトルダ温泉街へとたどり着いたのである。
◎ツヴァーラ王国 トルダ温泉街 中央広場
ー達良からの譲渡クエストの発生を確認。当該箇所『レイサンの街 セスの宿屋』にてクエストを達成し、譲渡アイテムを入手してください。ー
「お、ウィンドウが出た。これが達良さんの譲渡クエストってヤツなのか」
トルダ温泉街へとたどり着いた後、風音は弓花と共に、直樹を達良の石碑の前まで連れて行っていた。前回、直樹がここに来たときにはブルートゥザ戦でゴタゴタしていて近付かなかったのである。そして直樹がその石碑を読んだ途端に譲渡クエスト開始のウィンドウが表示されたようだった。
「ふーん。どれどれ、レイサンの街のセスの宿屋か。やっぱり私らと一緒だね」
ウィンドウをのぞき込みながら、風音がそう口にする。
「どこなんだよ、そこ? 600年前のクエストなんだから、もうなくなってたりしねえ?」
「いんや、ミンシアナの街の一つで、その宿屋がまだあることも確認済だよ。ゴルディアスの街の途中で寄れるから、元から行こうとは思ってたんだけどさ」
風音の言葉に、弓花が引き継いで口にする。
「ただ、ゆっこ姉は引き返したみたいなのよね」
それを聞いて直樹が眉をひそめる。ゆっこ姉の現在のレベルは96。ゲームであるゼクシアハーツの認識で言えば、通常この世界では50を超えれば達人で、100近くでは大陸を救う力を持つ英雄といった感じである。レベル100を超えると人外の領域であり、二度目のスペリオル化は人を超えるような選択が多いともされている。故にゆっこ姉も今はまだ100を超えないようにレベルを上げないようにしているとのことだった。そして、ゆっこ姉はジーク王子の成人後、王位を譲った後にレベル100超えして二度目のスペリオル化をする予定とのことである。
なお、アオや風音の一度目のスペリオル化の選択は明らかにイレギュラーであった。
ともあれ、今のゆっこ姉はレベルこそ96だが、プレイヤースキルと補助魔法具の力もあわせるとレベル300のカンストキャラにも対抗できるほどの、人類としては最強の存在の一つである。ソレが引き返したと聞いては直樹が眉をひそめるのも当然ではあった。
「そんなにヤバいのか?」
「うーん、ヤバいというか」
直樹の質問に風音が唸る。
「戻った理由は後で直接話すってメールに書いてあって、教えてくれなかったんだよねえ。ただ、譲渡クエストの内容は確認がとれたんだよ。どうも達良君作成のガーディアンとのタイマンっぽくてね」
「ガーディアン?」
直樹の問いに風音が頷く。
「そう、達良君が設定した宝物の番人。ええと、これなんだけど」
風音がメールリストを開いて、ゆっこ姉からのメールを指で押すとメール全文が表示された。そして、その中に書かれている一文を風音は指差した。
「どれどれ……って、なんだこりゃ?」
直樹が風音に見せられたゆっこ姉のメールの表記は次の通りである。
個体名:殺魅オルタナティブ・白スクエディション
レベル:278
ステータス:不明
装備:
右装備:亜空間接続擬似無限サイクルレールカノン(非殺傷)
左装備:収束レーザーソードTAIYO×100(非殺傷)
バックパック:重金属粒子ビーム拡散放射型自由機動ミサイルランチャー十連式(非殺傷)
アクセサリ:グラヴィティキャンセラー
アイテム:エーテルフレア・グラヴィティボム・元気になるお注射
必殺技:アリ
「非殺傷ってつけりゃいいってもんじゃねえぞ」
直樹が叫んだ。
ーささやかだけど贈り物を残しておきます。
BY 剣井 達良ー
石碑に書かれた文字が今となっては腹立たしく思えてくるような内容である。
「そっちか。私は名前の方がアレかと思ったけど」
「いやまあ、そこは達良さんだし」
「達良君だしねえ」
弓花の言葉に、姉弟がそう返した。
「達良君の殺魅は紺ベースのスク水だったし、多分白いのに変えたスク水なんだよ」
「紺に拘りがあるって言ってたけど、年とって嗜好も変わったのかなあ」
二人の言葉に弓花は頭が痛くなった。
「まあ、非殺傷に再チャレンジアリとかの要素を加えていったら、戦闘難易度が相対的に上がったらしいんだよね」
「というか、アイテム渡す気ないでしょ、あのデブ」
弓花の愚痴に風音も苦笑いをする。その言葉には、さすがの風音も同意せざるを得なかったのである。
何にせよ、その白スクの何かを倒さねば達良の譲渡アイテムは手に入らないようである。そして、それは非常に無理ゲー臭い話だった。