作品タイトル不明
第四百三十七話 ポーズを決めよう
◎トルダ温泉街 近隣岩場 早朝
トルダ温泉街に近しい岩場には、いつも通りの声が響いていた。
それは白き一団の訓練の声だ。
本日はその中でもいつもよりも気合いの入った鳴き声のタツオがいた。そして、くわーっとタツオの声が響くと空中に水晶のレンズが現れた。それを見ながらタツオの目がピカーンと光ったのだ。
『メッガビームッ!!』
そう叫んだタツオの瞳から放たれたビームは水晶レンズに吸い込まれていくが、光はそのまま屈折してあらぬ方向へと飛んでいき、そのまま空の彼方へと飛んでいった。
「うーん。ダメだねえ」
それを見ていた風音がそう口にする。
『難しいです。母上』
「まあ、イメージが大切だからねえ。何事も特訓あるのみだよ」
シュンとするタツオの頭を撫でながら、風音は手に持った水晶のレンズをタツオに見せる。それはたった今タツオが空中に出した水晶のレンズと似た形をしていた。
それは風音がゴーレムメーカーと水晶化で作り出した収束レンズであった。これそのものにメガビームを照射すれば耐久限度がきてすぐさま破壊されてしまうのだが、タツオの新たなるスキル『クリスタルシールド』は魔力で生成した擬似物質であるため早々には壊れない。
この収束レンズをクリスタルシールドで発生させ、メガビームを収束させて威力を強化した収束メガビームを生み出そうというのが、この特訓の目的であった。
「これをよく見て、寸分違わず同じモノを作るんだよタツオ。情報も良くおさらいしてね」
『はい、頑張ります母上』
あくまで生身だけのタツオは、ウィンドウのシステムのような正確なレンズを作ることは難しい。
しかし風音は実物のクリスタル収束レンズを用意し、ウィンドウを開いて図面を見せながらタツオへ講義をし、さらには情報連携による実際の歪みの数値などの体感的な認識の共有なども行う……などといった高度な英才教育を施していた。
それに加えてゴーレムメーカーなどによりレンズの反射角度などのシミュレーションを視覚的に、また数値的にも叩き込み、通常のメガビームとクリスタルフィールドの反射攻撃すらも今ならば可能としているのである。
タツオのメガビームは風音のものと違い、魔力消費の小さな低威力のメガビームである。しかし、それは風音のモノと比較すればというだけであって、その威力はそれなりに高いレベルにあり、それを極める方向で風音はタツオの成長を促していた。結果としてタツオは幼体のドラゴンとしては類を見ないほどの戦闘能力を有するに至りつつあるのであった。
またソレとは別の場所では、弓花は弓花で新たなる力の顕現に四苦八苦しているようだった。
「属性が変わってしまった」
弓花の中にある刃身一刀『マサムネ』にランタンから取り出した神々の種火が宿ってしまい、刃身一刀『ヒノカグツチ』へと変化していたのである。
「多分だけど『マサムネ』はこの種火からの火で作られた刀だったんじゃないかしらねえ。所有者に登録されたのも化生の巫女だけじゃなくて、そういう面で惹かれたってことがあるのかも」
ルイーズの言葉に弓花も「そうなのかー」という感想しかない。白き炎を纏った刀が体内から出て、白色電灯っぽい輝きを放っていた。人外ランクが上がったと同時にライト係にもなったようだ。ダンジョン探索が捗ること請け合いである。
「まあ、特に害はないと思うし、パワーアップしたと喜んでおけばいいんじゃないの?」
「私の武器は槍なんだけどなあ」
体内から出しての緊急回避用以外の使い道が難しい。寧ろ、刀を使えない自分が持ってて良いのかという思いが弓花にはあるのだが、どうあるにせよ懐かれている以上は他に譲るわけにもいかなかった。
さらには、そんな弓花たちと離れたところでは自立型となった黒マッスルミノスとロクテンくんやティアラ操る 炎の鷲獅子騎士団(フレイムグリフォンナイツ) を相手に、直樹たちが模擬戦を挑んでいた。こちらは特に 炎の鷲獅子騎士団長(フレイムグリフォンナイトリーダー) となったメフィルスが張り切りすぎていて、直樹たちが死にそうであった。
他はといえば、ジンライはシップーとの連携攻撃の訓練に余念がないようであり、ユッコネエと狂い鬼はほぼ真剣勝負の模擬戦を行っているようである。どちらも召喚体であるため、死ぬ危険性がない分、容赦がない。また、風音がスペリオル化した後は狂い鬼の風音への忠誠度も魔王指名からさらに上昇したようで、良い意味での制御が可能となっているようだった。
『にゃあああああ!』
「ガァアアアアア!!」
しかし黄金水晶竜と化したユッコネエと翼を広げて巨大棍棒を振り回す狂い鬼の空中戦はやり過ぎであった。
「ちょ、近所迷惑だから、それはッ!?」
風音がソレを見て、慌てて止めに入ったのは言うまでもない。空中でドラゴンとオーガが激しい激闘をしているのだ。それはトルダ温泉街からも十分に見れる距離だったのだ。
◎トルダ温泉街 ルイーズホテル
「ドラゴンと翼の生えた黒いオーガが殺し合いをしていたらしいんですよ。最近は闇の森付近で巨大な魔物が出てるって聞きましたし、物騒な世の中になったものですねえ」
使用人の言葉にルイーズはコメカミをピクピクさせながら風音に視線を向けた。
「カザネ、今すぐ冒険者ギルドに出頭して説明してきて」
「ら、ラジャー」
召喚体の失態は召喚主が請け負うのが基本である。何よりこのままだと、この街にいる最もランクの高いパーティの白き一団に黄金のドラゴンと黒い有翼オーガの討伐依頼が来る可能性は高いと見られた。
そして、風音が急いで冒険者ギルド事務所に行くと、そこは大わらわだったのだ。街の住人の間で噂になるほどなのだ。ギルドがそれを掴んでいないはずがなかったのである。
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「怒られたというか泣きつかれたよ」
一時間ほどでルイーズホテルに戻ってきた風音が、ルイーズにそう報告をしていた。ショボーンとなった風音にユッコネエが「ふにゃー」という顔で前足を前に出して寝そべっていた。ジンライ直伝の土下座のつもりらしかった。狂い鬼は鎧から出てこず自重中のようである。面倒だからダンマリという可能性もある。良い意味で制御可能とはどういう意味だったのか。
「怒られなかったのね?」
「うん」
さしもの冒険者ギルドも、二大怪獣を操りブルートゥザ討伐でも活躍した白き一団の鬼殺し姫に罵声を浴びせるほどの勇気ある者はいなかったようである。なので凄く懇願されていた。泣き落としされたのだ。
「はぁ、訓練する場所はもう少し街から離れておかないと厳しいねえ」
「さすがにうちのメンバーは成長しすぎて目立つものねえ。 炎の鷲獅子騎士団(フレイムグリフォンナイツ) だって見た目派手だし」
ルイーズの言葉通り、風音たちの戦力は非常に大きくなりつつあった。そして激しく目立っていた。
「かといって、街の訓練場とかは使えないのよね?」
「表に出すのが難しいのばかり揃ってるからねえ」
大きな街ならば、冒険者などに向けた訓練場も存在はしている。しかし、風音達の能力はあまりおおっぴらに見せられるものではなかった。具体的に言うと魔物が街に侵入して大暴れしているようにしか見えないためである。
「カザネの場合はいっそ狂い鬼の結界の中で戦わせてみたら? アレなら外からは見えないし」
「ああ、それがいいかもねえ。明日にでも試してみようか」
ルイーズの提案に風音も頷く。外にも多少の影響は出るが、なんにせよ見えないようにするのが一番重要だった。
「ま、ともかく疲れたから私はお風呂に入ってくるよ」
戻ってきて早々にギルドにひとっ走り行ってきたのだ。風音も汗まみれで気持ち悪かった。そして、ルイーズに見送られながら風音は温泉へと向かった。
◎トルダ温泉街 ルイーズホテル浴場
「……ふむ」
ザパーンと湯船に飛び込んだマッパ風音は周囲を見渡した。
「貸し切りか」
誰もいないのである。今回はタツオもいない。つまりは泳ぐことも可であり、ひとりダンシングをしていても問題はない。ウフンアハンとかセクシーなポーズを取ってみてもオーケーである。鏡に向かって腰をくねらせながら親指を噛んで、女豹のような視線を鏡に送ることで、自分のセクシー度を測ることも可能なのであった。
「ぼく、おねえさんといいことしない?」
うふん。
ふむと風音は頷く。風音は自分のエロかわいい仕草を鏡で見て満足していた。アイアムセクシーだと納得した。大人の女に近付く自分に恐怖した。
(こりゃあ、男たちが放って置かないわけだ)
そう、ひとり頷いていたのだ。そのセクシーさがいかほどのものかといえば、小学生が銭湯ではしゃいでいるレベルをわずかに凌駕するほどである。
「セクシービーム!」
ギュワンと両手を広げ、その腕をくの字に曲げてポーズを取る。
「ヤバいね」
ヤバいそうである。ここでは風音が王様だった。誰も彼女を止める者はいなかったのだ。さらに恐ろしい事実がある。ここから先も風音を止める者はいないという事実だ。そのまま風音はひとりセクシー道を極めていく。なんだか妙なテンションになっていたようである。
そして、それは風音がのぼせて倒れるまで続けられたのだった。