作品タイトル不明
第四百三十五話 中で寛ごう
ツヴァーラ王アウディーン。
正式にツヴァーラの王として認められたその男は、自らの名を冠した塔に視察に来ていたようだった。そして風音たちの前へと姿を現した。
もっとも王都を出る前に風音たちもそのことは当然聞いていた。王様いないけど、気にせずに旅に出発だ!……というようなこともなく、普通にレイゲルに聞かされていたため、特に驚くこともなく笑顔での再会となったのである。
「ほぉ、これは塔側から吊り下げる形で橋が付いているのか」
そして、アウディーンの塔の入り口ではたった今造られた入り口の橋を前にアウディーンが唸りながらその出来映えを確認していた。
「実のところ、ここまで船を渡そうか橋を造ろうかと検討中であったのだが、さすがだなカザネよ」
「まあ、欠陥品を渡すのもなんだしねえ。サービスだと思ってよ」
アウディーンの言葉に若干顔色の悪い風音がそう返した。
「ふむ、大丈夫か?」
その風音を心配そうにアウディーンが見るが、風音は「うん、大丈夫」と言葉を返すだけだった。
橋を造り切ったところで魔力がほぼ枯渇したことと、大量消費による反動で調子を崩しているのである。思った以上に湖岸と塔までの距離が長かったので、本当に魔力ギリギリで出来上がったのだった。
「魔力が回復したら、橋の方ももうチョイ補強しておくね。今だとあんま重いのが通ると危険かもしれないし」
「それはカザネに任せよう。我々ではどうにもならぬことではあるしな。それでは、ローランド。こちらの白き一団の方々を塔の中にご案内しろ。我々のために神竜皇后陛下のお力を使っていただかれたために、お疲れのようだ」
「ハッ」
アウディーンの言葉に、名前を呼ばれた鷲獅子騎士のひとりが返事をして前へと出た。ちなみにティアラの 炎の鷲獅子騎士団(フレイムグリフォンナイツ) は彼らを元にした召喚体である。鷲獅子騎士を始めとするグリフォンライダーは、ハイヴァーンにおける竜騎士のように、人々の憧れの存在でもあるのだ。
もっとも、グリフォンたちは契約によりすべてルビーグリフォンの眷属として存在している。
それ故にかつてルビーグリフォンが乗っ取られた時には、その眷属であったグリフォンも動けずその力を発揮できなかった。また、それはアウディーンも同様で、本来のアウディーンは召喚体剣士であり、ここまでも自ら召喚したフレイムグリフォンに乗ってやってきていたのである。
「それではこちらです、皆様方。馬車の方は我々の方でお預かりしましょう」
白き一団全員が馬車や馬から下りるのを見計らってそう口にしたローランドに風音が首を振る。それを見て首を傾げるローランドに風音が口を開けた。
「ああ、これは消しちゃうから」
そう言って風音がパンッと手を叩くと、サンダーチャリオットは紫の雷となって霧散した。その様子を見ながらローランドは「召喚体だったのですか」と驚いていた。
こうした馬車などの無機物系の召喚体の存在はあるにはあるが、あまりメジャーではない魔術である。魔力があれば一定品位以上の武器を扱える召喚剣などはそれなりに知られてはいるのだが、わざわざ召喚体として覚える必要がないような召喚術はマイナーな存在なのである。
「そんじゃヒポ丸くんたちは基本的にはなんでも言うこと聞くのでテキトーに置いておいてください。餌もいらないんで」
「あ、はい。了解いたしました。それじゃあ、お前たち、そういうことだからな。丁寧に運ぶんだ」
風音の言葉にローランドも頷き、部下たちに声をかける。
凶悪そうな衝角付きの巨大黒甲冑馬に、水晶で出来たゴーレム馬二頭である。どう扱っていいのか分からず、とりあえず騎士たちは手綱を引いてみると、普通に動くので安心したようだった。実際には口で指示すればそれに従って動くのだが、馬に慣れているのであればそのままでも良いかと思い、風音もそれには特に何も言わなかった。
「それでは、中にご案内いたします。とは言っても、カザネ様のお造りになった塔ですし、中は熟知しているのでしょうが」
「んーそれほどでもないよ」
風音の返答にローランドは再度首を傾げながら、案内をし始める。風音も見取り図は見ているが、実際に中に入ったのは初めてではあるのだ。
◎ツヴァーラ王国 アウディーンの塔 一階
「それでは、こちらでお寛ぎ下さい」
そう言って案内されたのは、そこそこに広い部屋の一つで、内装もどうやら整えているようだった。そしてローランドは踵を返して、部屋から出ていった
そして、ローランドを出たのを見計らって風音たちも、席についてくつろぎ始めた。
「思ったよりも明るいみたいね」
エミリィが天井を見ながらそう口にする。天井の隙間から光が射しているようだった。
「外周の部屋だからね。ミラーコーティングと合わさって基本的にはどこの場所も日が出ている時間には光が入るような作りになってるはずだよ」
エミリィの言葉には風音もそう返した。とはいえ風音が設計したわけではなく、元々そういう造りなだけであるので風音が凄いというわけでもない。
「けどよ、これが400階だかあるんだろ。いや地下もあるんじゃなかったっけ? すげーよな」
『我の記憶に寄れば、地上406階、地下406階と聞いているようだな』
ライルの問いには、ジーヴェの槍がそう答える。ジーヴェはライルと同化しているために、任意でライルの記憶の中も探れるようだった。脳内検索くんであった。
「それでよく倒れないわね。というか、倒れないわよね?」
弓花の不安げな声に風音も頷く。
「ウィンドウのシステム的なもので調整して出来てるんだから大丈夫だよ。多分ね」
「まあ、 魔力の川(ナーガライン) の 自然魔力(マナ) を根こそぎ使ったみたいだし、実質的にあれって神様の力だもの。それぐらいはできるんでしょうねぇ」
「神様か。竜と獣統べる天魔之王って書いてあるけど」
風音は己の冒険者ギルドカードを出して見せる。そこにはしっかりと『竜と獣統べる天魔之王(見習い)』と書かれている。弓花の冒険者ギルドカードにも今は『化生の巫女』と表記されているのだが、スペリオル化で変わった職業は変更が不可となるようだった。
冒険者ギルドで変えようとしても、ウィンドウの強制力のせいか変更が出来ないのである。
「名前なんてどうでもいいのよ。やってることが神様の技ってことなの。 魔力の川(ナーガライン) の魔力を直接使って魔術を行使するのは神術って分類されるものでね。それこそ人間でも扱える神術になると守護兵装って言われる白剣やルビーグリフォンとかそこらへんぐらいなのよ」
想像以上に大仰な話のようである。
「まあ、見習い解除しても、3分しか使用できないし、ぶっちゃけ使い勝手悪いんだけど」
ルイーズの言葉に風音はそう返す。実際、風音の感触では普段使ってる魔力がホースで水を出している印象なのに対し、まるでダムから水をダバーッと一気に流すかのごとく、無尽蔵の魔力を垂れ流す感じなのである。
それでいて風音の身体に何かプラスされてくるわけではなく、自分自身が強くなった感触はなかった。強力ではあるが使いきるのが難しいと風音は感じていた。
「3分でこれだけやれるんなら十分なんてもんじゃないでしょ。それにここに戻ってきて分かったけど、アレはあまり使わない方がいいわね。今も 自然魔力(マナ) の濃度が低いから、たぶん魔術も出しにくくなってると思う。魔法具の類も今は使いにくいはずだし……まあ、そのうち元に戻るでしょうけど」
そのルイーズの言葉に風音が神妙そうな顔で唸る。
「うーん」
「どうしたのよ?」
そのルイーズの問いに風音が口を開いた。
「実はカザネーランドを造ってる途中なんだよね。魔法温泉街で造った家とかを並べて都市をね……ゴーレムメーカーでちょっと造ってて。今度、レベルが上がって見習い解除できたら造ってみたいなーって」
「いや、そもそもそんなモノを造ってなんに使うのよ?」
「うーん、魔法温泉街の近くにお城とかと併せて、用意してみたいなと」
呆れ顔のルイーズに風音はそう返した。それを聞いて今度はルイーズが唸る。
「むぅ……今回ほどのでなければ、その……三分の一くらいなら 魔力の川(ナーガライン) も一週間程度で落ち着くと思うわ。必要以上のモノを造らないように規模を小さくして、それとユウコ女王様に許可は取っておきなさい」
「はーい」
さすがに自分の街の建設に組み込もうと考えているのであれば、ルイーズとしても無碍に反対は出来ない。周辺への影響を考えてのアドバイスと、責任者への承認を促したルイーズは大人であった。
そして、カザネ魔法温泉街はどうやらお城が建つ予定のようである。
なお、アウディーンの塔にゆっこ姉は対抗意識を燃やしていたため、説得は容易であると予測された。