軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四百三十四話 見学に行こう

さて、海から王都グリフォニアに戻った風音たちだが、二日ほど王都で留まった後はまたすぐさま旅に出ることとなった。

元よりティアラは修行の旅の途中ということになっている。一時的ではあるが王族としての立場も放棄している。本来であれば王都に戻ることは良しとはされぬのだ。

それが戴冠式での特例として戻ることが許された形であるので、当然の事ながら王女とずっといるわけにもいかず、また修行の旅に送り出されることとなったのであった。

なので、現在はヒポ丸くんに引かれてのサンダーチャリオットに乗って移動中である。目的地はアウディーンの塔。風音が生み出したあの巨大な塔の見学と、制作主としての一応のチェックのために赴くことになっていた。

◎ツヴァーラ王国 街道

「むふふふふ」

そして、馬車の中ではちょっと気持ち悪い笑顔をしたチンチクリンがいた。

手に持っているのはトンファー入門書である。それも待望の下巻だ。風音は王都を出てからずっとその本を読み続けていた。

「レイゲル騎士団長の伝手で手に入ったんだって?」

弓花が風音の横で寄り添っているティアラに尋ねる。こうなった風音はダメな子状態なのである。なので本人に聞くよりも事情を知っているティアラに聞いた方が早かった。

そして名前の出たレイゲル騎士団長とは、栄えある王宮騎士団長であるにも関わらず、以前にアウディーンの指示で風音たちのストーカーをしていた不遇の男の名である。

頼りになるその男に相談して手を回してもらった結果、風音はトンファー入門書の下巻を手に入れることに成功したようだった。

「ええ。なんでも今でも海軍の一部ではトンファーを武器として使用しているらしいですわ。ただ、今のツヴァーラのトンファー使いの指南の先生は修行の旅に出ているらしくて、どうにかその書物だけをいただくことが出来ましたの」

弓花の質問にティアラがそう答えた。

「へぇ。そうなんだ」

そして弓花は風音の読んでいるトンファー入門書を眺める。どうやら今度こそキックだけではなく、トンファーの扱い方が書かれている本のようである。

表紙にはキャッチフレーズが書かれている。

『叩く・突く・護る・払う・キメる・撃つ・そっとやさしく抱きしめる。トンファーのすべてを極めたい方への必読本』

……だそうである。

風音はその本に読むことに集中していて、退屈していたタツオが頭の上で踊っていても、まるで気にも留めてもいないようだった。そしてダンスは白熱していく。

『ふう。母上の集中力は凄いですねえ』

タツオは創作ダンスを踊りきると不滅のタオルで汗をふきながら弓花の頭の上に飛び移った。どうも最近母親の行動に似てきているようだと弓花は不安に思っている。竜族の未来が心配だった。

「こいつは昔からひとつのことに集中すると、他が見えなくなるところがあるからね」

『それが母上の強さの秘密ですか』

そのタツオの言葉に弓花は唸ると、完全ではないが、肯定の言葉を返した。

「んー、そうとも言えるかな。まあ、強さの秘密のひとつってところじゃない?」

『なるほど。それだけではないのですね。分かります』

タツオがくわーっと鳴いた。そのタツオを頭に乗せながら弓花は正面側の窓の外を見る。

「それにしても、改めて見てもアレでっかいわね」

そう弓花がつぶやいた。もう何度となく誰かの口から出た言葉だ。

アレとはアウディーンの塔であった。

王都グリフォニアを出てからずっと見えているのにも関わらず、馬車は未だにそこへはたどり着かない。そもそもアウディーンの塔は王都からは普通の馬車で二日はかかる場所にあるのだ。それが見えているというだけでも、その大きさの異常さが分かるというものだった。

なお、風音たちも今日は塔にはたどり着くことはなく、途中の街で一泊する予定であった。

「ま、ノンビリいきましょう。誰に急かされているわけでもないんだし」

「うん、そうだね。塔の後はルイーズさんのホテルへ直行だし、そっちも楽しみだなあ」

ルイーズの言葉に弓花が笑って返す。

実のところ、ヒポ丸くんをもっと飛ばしたり、或いは風音がドラゴンになって飛んでいけばその日のうちにはたどり着ける距離ではあるのだ。

けれども、もう請け負っている依頼があるわけでもないし、お家を造らなければならないワケでもない。特に急いでいる旅でもないのだ。

だから、風音たちは今まで通り、自分たちのペースでのんびりと進むことを選択していた。旅を楽しもうと考えていた。

なお、のんびりと思っているのは本人たちだけの認識であることをプレイヤーではないルイーズ達ですら忘れかけていた。

現時点においても普通の馬車の二倍以上の速度で移動しているため、他から見れば明らかに速すぎる速度で進んではいたのだ。慣れって怖い。

そして、その日は道の途中にある街で宿を取り、翌日の朝には出発して風音たちは昼前にはアウディーンの塔に到着したのであった。

◎ツヴァーラ王国 アウディーンの塔 外周湖前

「ほほぉ、こりゃあ見事なもんだわね」

『まったくよのぉ。余もこれぐらいのものが出来ていれば歴史に名を残せたのにのぉ』

その光景を見てルイーズが思わず声を上げて、その腕とおっぱいに挟まれた位置にいる幼体グリフォンのメフィルスがそう返した。

「ああ、メフィルスの塔って言っちゃっても良かったんだよねえ。いつまでも前王様が見守ってるーとか言って」

そう風音が口にするが、後の祭りである。メフィルスも苦笑するだけで何も言い返さなかった。

そして、塔の周囲だが、まるで薔薇のような形状に抉られた岩場に、なみなみと水が流されて、大きな湖が形成されているようである。

「水が綺麗ねえ。普通は出来たばかりなら泥だらけになっているはずなんだけど」

そうエミリィは口にする。それには横にいたティアラが口を挟んだ。

「なんでも、ローイ川という川からの水がこちらまで流れてきて、この湖は出来たらしいですわ。元々この周囲の岩は固められていたようですし、泥も混ざりにくかったのでしょうね」

塔を形成する際に周辺大地そのものもある程度固定化されていたのである。故に、ここら一体の地面はやけに固くなっていて、泥が多く出るようなこともなかったというわけだ。そして、現在は綺麗な水が溜まって見栄えのする光景となっていた。

その水の先に塔がある。

巨大なアウディーンの塔へはどうやらこの湖を越えていかねばならぬようだった。

「さて、どうする?」

御者席からジンライが中にいる風音に尋ねる。対して風音は難しそうな顔をして、空中を見ている。どうやらウィンドウを広げて何かをしているようであった。

「魔力ギリギリかあ。まあ、造ったモンの責任としては、最後までしっかりやらないといけないでしょってことだよね」

『おお、橋を造るのですね母上』

風音のウィンドウを見れるタツオがそう言ってくわーっと鳴いた。その言葉を聞いて、周囲の仲間たちもなるほどという顔をする。

外で水晶馬に乗っている直樹とライル、それに一緒に走っていたシップーは「なんだ?」という顔で、風音達の乗っている馬車の中を見ているようだった。ちなみにユッコネエはいつも通り馬車の上でお昼寝である。

「本当に魔力保つの?」

「うーん、ベストを尽くすんだよ、私は」

弓花の言葉に風音は、そう返しながら馬車を降りていく。

「カザネ、橋を造るんですの?」

「そうみたい。ゴーレムメーカーで準備はしてて、今長さを計算して調整してたっぽい」

ティアラの質問に、弓花はウィンドウの操作画面を思い出しながら答える。そんな弓花たちの見ている前で、風音は湖の前まで来ると杖『白炎』を持って、ゴーレムメーカーを発動させる。

この『白炎』は、以前に親方からもらったもので、強化補正1.2倍、消費量85%の効果がある杖だ。風音自身が前衛のため、戦闘中にあまり使用する機会はないのだが、魔術系統を使う際の使用頻度は中々高いものなのである。描写はないので忘れられがちではあるが実際には使ってはいるのだ。

そして風音が杖を地面につけると、周囲から土塊が集まって、湖の上を伸びていく。柵もない道が水の上を通って橋となって伸びていき、そのまま塔の入り口まで進んでいく。そして塔と完全に繋がると、橋の左右から柵ができ始めて、その柵からはさらに細長い棒が塔に向かって斜めに伸びて、塔と接続し、塔から吊すような形になってその橋は固定されていった。

そして、湖を渡る白亜の橋が完成したのである。

馬車ならば2列程度には通れる幅のある橋だ。湖を越えた塔の入り口で控えていた兵士が驚きの顔で風音達を見ていたが、その姿に気付いたのか、さらに慌てて塔の中に入っていく。

「あちらも気付いたようだな」

「うん。そんじゃあ、とりあえず渡っちゃおっか。そんで私はユッコネエに乗ってこう。姿が見えた方があっちも分かりやすいだろうし」

そう風音が言うと、馬車の上からユッコネエが「にゃー」と鳴きながら降りてくる。いつの間にか起きていたようだった。そして馬車の中から『母上、私もー』とタツオが出てきた。

風音はタツオを頭に載せたままユッコネエに乗って進み出し、それにヒポ丸くん、サンダーチャリオット、それに直樹たちを乗せた水晶馬が続いて、悠然とその橋を渡っていく。

「お出迎えしてくれるみたいだね」

ユッコネエの上でそう風音が口にする。

どうやら塔の入り口にいたのはグリフォン乗りの騎士だったようで、塔の中からはクエーと声が聞こえてきていた。さらには入り口から騎士たちを率いて、ある人物も橋の前へとやってきていた。

「ようこそ、アウディーンの塔へ」

そして、塔にたどり着いた風音達の前で、アウディーン王が笑顔で出迎えたのだった。