軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四百二十六話 発見をしよう

「これは鋼鉄だねえ。タツオ、次のを頂戴」

『はい、母上』

風音がそう言って、持っていたインゴットを床に下ろす。

風音が発見した工房の中にあったインゴットは長い年月、海に沈んでいたせいで表面が汚れていてほとんど見分けがつかなかった。それを風音は商人必須の鑑定メガネをかけて鑑定をしながら振り分けていた。

そして、ここは海底に沈んだトォールの街の工房。そこで風音は竜体化を一旦解除して、ルイーズの作った水の膜の中に入って鑑定を始めていた。そして水の膜の外からタツオが別のインゴットを持ってくる。

『神竜皇ご……いえ、カザネ様は商人でもあるのですね』

『そういえば、オルドロックの温泉の時に商人ギルドにも入ってたんだっけ』

それを弓花とユーイの水騎士が見ている。手伝おうとしたのだが、タツオが『母上の手伝いがしたいのです』と言って、せっせとインゴットを運び始めたので弓花たちは手持ちぶさたになっていた。なお、周囲は不滅の水晶灯によって照らされているので、特に暗いと言うこともなかった。

そして、その場にあったインゴットはその多くが鋼鉄ではあったが、中には珍しいインゴットもあるようだった。アダマンチウムやヒヒイロカネ、それにオリハルコン等のインゴットも僅かだが置かれていたのだ。

もっとも一番の成果はそれとは別にあった。

「燃えてるね」

「気をつけなさいよ。おっそろしく貴重なシロモノなんだから」

整理されたインゴットの山の隣に置かれているもの。それはランタンだった。そして、妙に豪奢な造りのそのランタンの中には透き通るような白い炎が燃えていた。

それは工房の瓦礫の中に埋もれていたシロモノだ。風音たちが発見したときからすでにそれは燃えていた。ここまで600年は誰も立ち入ってない筈だから、恐らくは600年という年月の間ずっと燃えていたと思われた。そしてランタンもまったく傷一つない状態であったのだ。

「これって、神々の種火って表示されてるねえ」

鑑定メガネによりウィンドウにそのアイテムの説明が表示されている。

名称:神々の種火

レア度:S

効果:原初の火の種。その火をくべた炉でならば最上位の鉱物をも溶かすことも可能となる。

所有者:立木 弓花

「なんか鍛冶関係のアイテムっぽいけど、所有者が弓花になってるよ?」

「……うわぁ」

不思議そうな顔の風音の言葉にルイーズが頭を抱える。

『え? え? なんでルイーズさんがそんな顔してるの?』

そのルイーズの反応に弓花が急速に不安になっていく。ドラゴン顔がショボンとなるが可愛くない。普通に怖い。しかし、ルイーズはルイーズで明らかになんかやばいなーという顔をしていた。そして口を開いた。

「そのね。神々の種火ってのはね。ドワーフにとってはもっとも大切なもので、貴重で、鍛冶の巫女ってのが管理してるのね」

『……はぁ』

かみ砕いて説明するルイーズに弓花が目をパチクリとしながら聞いている。

「その炎をくべられた炉を使えば、オリハルコンとか、たぶん黒岩竜の角なんかも鍛えることが出来ちゃうはずなのよ。それはそれは鍛冶師の間では垂涎ものというか、本当に貴重なシロモノでね。ぶっちゃけ、最上位の鍛冶師ってのは、その種火からくべられた炉の神々の火を消さずに維持し続けられる工房を持ってることが必須条件なのね。ジョーンズも、種火を承ることをずっと願って申請してるのね。まあ、それはいいんだけど。それでその種火はね。本来、こんな場所にあっちゃダメなの」

その言葉に風音が首を傾げる。当然の疑問が頭をよぎったからだ。

「それが、なんでここにあったんだろうね?」

「たぶん、竜帝ガイエルとの戦いがそれだけ切羽詰まってたってことでしょうね。そもそもここは工房と言ったって、個人のものよ。置いてある素材といい、ちょっとおかしすぎるわ」

そうルイーズが口にする通り、今風音たちがいる工房は普通の武具店程度の大きさの工房だ。神々の種火の炎を維持するのであれば、もっと大きな炉を用意する必要がある。

「金貨のあった貴族さんの館からも近いってことはここはそういうエリアってことだよね」

風音の言葉にルイーズが頷く。ユーイの操る水騎士も真剣な表情で聞いているようである。

「多分ここで秘密裏に強力な武器を造るつもりだったんでしょうね。種火があるなら、耐久性さえあれば普通のサイズの炉でも問題はないはずよ。種火と巫女はセットでいるはずだし、探せば鍛冶の巫女の亡骸もあるんじゃないかしら?」

そういうルイーズが周囲を見渡すが、かなり崩れていて、その様子は分からない。そこに風音が質問を投げかける。

「それで、なんで弓花に登録されたの? 最初に触ったからかな?」

見つけたのは風音の 無限の鍵(インフィニティ・キー) だが瓦礫を退けて拾い上げたのは弓花だったのだ。であれば登録されたのはその時だろうと風音は考える。

「最初に触ったからって可能性もあるけど……多分、化生の巫女だからじゃないかしら? 神々の種火は普通の炎じゃないの。精霊でもなさそうだし……多分、化生の類だと思うわ?」

ルイーズも最後は推測でしかない言葉を返した。そして弓花が首を傾げながら尋ねる。

『ええと……つまりどういうこと?』

弓花の質問にルイーズが両手を挙げて万歳しながらこう言った。

「鍛冶の巫女就任おめでとう。大陸全土の鍛冶師がユミカを狙うことになりました」

『え?』

弓花ドラゴンの顔が固まった。その弓花にルイーズが畳み掛ける。

「ドワーフのボンゴ帝国に知れれば、超VIP扱いしてくれると思うわよ。王様の玉の輿って線もあるわねえ。ああ、でも今の弓花って仙族ってことはエルフの仲間だから、メガルド魔法王国からも横槍入るかも。あ、メガルドはエルフの国家のことね」

『待った待った』

いきなりまくし立てられて弓花の目が回る。話が大きくはなったが対処の方法は出てこない。

『それで私はどうすれば?』

「それはユミカ次第。屈強な肉体のドワーフをはべらせる未来も選択できるってことよ」

『全員髭モジャ親父ですよね、それ?』

弓花的にはイケメンが良い。親父はノーサンキューだった。

「ぎゃ、逆ハー?」

『やかましいわッ』

風音の言葉に弓花がキレた。勢い余ってコールドブレスが吐き出されて弓花の目の前の水が凍った。さすがに失言だったかと思った風音が真面目な顔をして提案する。

「ひとまずはゆっこ姉に話して、対策立ててもらおうか」

そして、とりあえずブン投げる風音であった。過去最速のブン投げであった。神々の種火の有用性も高いのでゆっこ姉も無碍にはしないだろうという打算もあったのだが、しかしこの娘はブン投げるのが大好きである。

もっとも冒険者というのは探索して手に入れたモノを金持ちに売ったりして生活しているわけで、それはそれで冒険者としては正しい行為ではあった。

「その前にツヴァーラの方にも声をかけた方が良いわね。ちょうど未来の女王様も上にいるわけだしね」

「ああ、そっか」

ルイーズの言葉に風音も頷く。ここがツヴァーラ領で、国がらみになりそうな案件なら、尋ねないわけにいかない。そして、そう言い合ってる風音たちにユーイの水騎士から声がかかった。

『その、お姉さまもお話があるそうですので、一旦上に上がりませんか?』

ユッコネエの『情報連携』の選択は潜水組のみであったので、船の上から遠隔操作しているユーイを通じての伝言となったようだった。そんなわけで、風音たちはインゴットを不思議な倉庫に仕舞い、一旦海上に戻ることにした。

『今回って平和で何も問題もない、イージーでラクチンな旅じゃなかったっけ?』

「誰がそんなこと言ったのよ?」

弓花の涙声にルイーズが肩を竦めて、そう言葉を返した。問題はいつだって突然やってくるものなのだ。

そう、問題はいつも突然やってくる。

『ドラゴンの気配……』

『ガイエルの手の者か……』

『殺せ……彼の竜帝の手の者を……』

『ツヴァーラ海軍の怒りを込めて』

『……殺せ』

『殺せ』『殺せ』『殺せ』『殺せ』

『殺せ』『殺せ』『殺せ』『殺せ』『殺せ』『殺せ』『殺せ』『殺せ』『殺せ』『殺せ』『殺せ』『殺せ』『殺せ』『殺せ』『殺せ』

海の底で、何かが目覚めつつあることを、海の上に上がっていく風音たちは未だ気付いていなかった。

そして海の底に沈み、朽ちていた軍艦が今、静かに動き出したのだ。