軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四百二十五話 海に潜ろう

島亀という巨大な亀がいる。

まるで小さな島ほどの巨体を誇るその亀は、フィロン大陸の周辺の海を移動しながらプランクトンなどを食べて生きる温厚な魔物で、その背の甲羅はまるで普通の島のように土があり、木があり、濾過された水すら存在している。そこに住む者と共存共栄をすることで島亀はその体を維持しているのである。

そして、その共存共栄している者たちは亀人族という種族で、蜥蜴族に近い、爬虫類顔に背には甲羅を背負っていた。彼らは島亀と共に移動し、行商を営んでいる種族であった。

そんな島亀の一頭がツヴァーラ王国のオーリオル海岸の近くの海に浮かんでいた。島亀には交代制のようなものがあり、別の島亀が来るまでは決められた街の近くに留まることが多い。オーリオルの街もそうした決められた町のひとつであるようだった。

そして、島亀の甲羅の端には簡単な港が存在していたが、そこには今朝方に仕留めた獲物である巨大な白い鯨が転がされていた。

「うぉ。なんだ、ありゃ?」

『ほぉ、昨日見た魔物だな』

それを白い翼をはためかせて飛んできたライルが目撃し、ジーヴェの槍がその何かの正体を答える。

どうやら、昨日に遭遇したリヴィアタンのようである。全身にいくつもの傷が付いているようだが、もっとも大きいのは横っ腹に貫通した3つの大穴だった。

それだけでもう致命傷だったのではないかとライルは考えながら、港へと下降していく。

そのライルの姿に気付いて亀人族が騒ぐ中、人族の男が前に出てきてライルを出迎えた。それは言うまでもなくジンライであった。

「ふむ。ライルではないか。どうかしたのか?」

「よっと。昨日振りだな爺さん。つーか、どうしたかっていうとこっちがどうしたかって感じなんだけどさ?」

ライルが驚きの顔で、目の前のすでに討伐されている魔物に視線を向ける。

「爺さんが倒したのか……これ?」

「ああ、こちらの亀人族の戦士の連中と一緒にだがな」

ジンライが後ろを向くと、蜥蜴族と同類と見られる亀人族の男たちが銛を握って立っている。警戒していたようだが、ジンライが親しそうに話しているのを見て、今はその銛を下ろしていた。

「エラく傷ついてるけど、これ昨日のヤツか?」

「固有の特徴があるわけでもないのだから昨日のモノと同じ個体かは正確には分からんが、恐らくはそうではないかな。最初から随分と弱っていたからな」

ジンライはそう言う。昨日、遭遇したリヴィアタンは風音たちが逃げた後にクラーケンと戦いに入ったはずである。ならば傷ついていた理由もそれによるものだと推測はつく。

「こやつが海にいるのを昨晩、亀人族が発見したのだ。普段、この付近の海にまでは入ってこないそうだが、倒すか逃げるかという話になってな。まあ『シンディ』でズドンとやって、後は接近して討ち取ってやったというわけよ」

ジンライは己の義手『シンディ』をライルに見せつける。よく磨かれていて大事にされているのがライルにも分かる。

「あー、 雷神砲(レールガン) は分かるけど、接近してって……海だよな?」

槍使いのジンライは、海の上では投擲攻撃ぐらいしか戦う手段がない。そうジンライ自身が昨日に言っていたハズだが、ライルの言葉にジンライがニヤリとする。

「ワシも知らんかったのだがな。シップーは海の上も走れるようなのだ」

そのシップーは今はリヴィアタンの肉を食べている真っ最中であった。特に体の変化は見られないが、尻尾は二又になっていた。

「マジで?」

「うむ。止まれないらしいが、風と雷の力で、水の表面を飛び跳ねることが出来るのだというのだな。まあ、今回リヴィアタンを喰ったので、水方面の能力が伸びているかもしれんが」

そうジンライは口にする。それをライルは「ハー」と感心したような、惚けたような声で返す。まさしくシップーはジンライの弱点をカバーした相棒であるようだった。

「それで、お前こそどうしたのだ? 空中遊泳でも楽しんできたのか?」

「ま、それはそれで楽しかったけどさ」

ライルには風の加護の力がある。なので他の人間よりも素早く飛べるし、島亀までたどり着けるだろうと判断されて、ライルは風音から渡された『天使の腕輪』の力で天使化して島亀のところまで来ていたのである。

『自力飛行はまだ翼が生えてないからな』

「いつか生えるのかねえ」

ジーヴェの槍の言葉にライルが唸る。あまり人間離れしたくはないなあ……とライルは思う。特に変身した弓花を見てると尚更そう思う。あれは嫌だと心底思う。

そして、急に一人でうなり始めた孫に対してジンライはひとまず黙って話が進むのを待っていると、ライルもその視線に気付いて、すぐさま話を戻した。

「あーいや、実はカザネたちとこの島亀に見学に行こうって話になったんだけどさ。途中で遺跡を見つけちゃったんだよね」

「遺跡?」

ジンライが首を傾げる。ジンライもトォール海底遺跡のことは知らなかったらしい。

「大昔に沈んだ街が海の底にあるんだよ。んで、それの探検に今カザネたちが潜ってるから、一応爺さんにも報告をしに来たってワケだ」

ちなみに、とりあえず報告しておかないとなんか拗ねそうだから……というのが、主な報告の理由である。そしてジンライは「そんなものが……」と口にして、亀人族のひとりに声をかける。このリヴィアタンの解体を頼んで良いかという話のようだ。リヴィアタンはどうやらジンライが 雷神砲(レールガン) でほとんどひとりで倒したようなものらしく、亀人族はそれを快く引き受けたようだった。

そして、10分後にはジンライは準備を終えて、ライルとシップーと共に水晶船『風音丸』へと向かい始めた。

一方で風音たちはといえば……

◎オーリオル海 トォール海底遺跡

『……こっちかなぁ』

薄暗い海底を照らすように風音ドラゴンは左手の不滅の水晶灯をかざしながら、右手に持つ 無限の鍵(インフィニティ・キー) を振ってダウジングをしては、引っかかるポイントを見つけては少しずつ進んでいく。

その現状の風音ドラゴンだが『風の加護』と同種の『水の加護』という魔法により水中でも空気が生成されて問題なく移動が可能であるようだった。

スキルレベルのアップに伴い、ドラゴンを倒して入手した[竜系統]と表示されているスキル以外にも風音は一個スキルがセットできるようになっていた。そのため現在は『直感』スキルをセットし、 無限の鍵(インフィニティ・キー) のダウジングと共に何かレアアイテムでもないかと探していた。

なお、竜体化時は常時スキル発動状態であるために同じドラゴンのルーツを持つ[竜系統]スキル以外はリソース不足でこれまでは使用できなかった。しかし、『竜体化』のスキルが成長したことでリソースに余裕ができたため、現在はスキルをひとつだけならばセットし発動待機状態としておくことで使用を可能とするように『竜体化』スキルは変化していた。

その風音ドラゴンの背には水の膜に囲まれたルイーズが乗っており、その後ろをタツオと完全竜化(青竜ヴァージョン)の弓花に、ユーイの召喚騎士である 水騎士(ウォーターナイト) が続いていく。

なお、今の弓花の格好は水着を来たドラゴンである。そこにはペットに無理矢理水着を着せたような微妙な痛々しさがあったのだが、誰も弓花に指摘が出来なかったので弓花も特に気にせずに、その姿のまま潜っていた。

「ふーん。こっちの方向って軍港かしら?」

ルイーズのつぶやきに風音が『そうみたいだね』と答える。ちなみにこれは音ではなく、ユッコネエを経由したスキル『情報連携』で繋がっての会話である。

『それにしても、最初っから引きがいいわね』

風音に平行して泳ぎながら弓花がそう言う。風音の竜気で完全竜化した弓花も『水の加護』により水中でも問題なく泳げていた。ちなみにユッコネエの竜体化した姿は太陽属性で水中には適応できないのでお留守番である。

そして弓花の視線は風音ドラゴンの背中、ルイーズの前に積まれている大量の箱に向けられていた。その中身はすべて金貨であった。

『母上すごいです!』

『本当にすぐに見つけちゃいましたからねえ』

タツオが誇らしげに口にして、ユーイも驚きの目でソレを見ている。

潜水後、わずか20分で発見したのがその金貨の山だった。崩れた大きな屋敷の中の隠し部屋にあったものである。完全に砂に埋まっていて風音ドラゴンが指摘しなければ気がつかないような状態だったので、これまで見つからなかったのも仕方のないことだろう。

『貴族か、富裕層の人の家だったんだろうねえ。こういうのってそのままもらっちゃってもいいのかな?』

「さすがに持ち主に返すってのはないわね。生き残ってても寿命で死んでるし。ツヴァーラの管理下にあるわけでもないし問題はないわよ」

風音の言葉にルイーズがそう答える。魔物に滅ぼされた街ならば、特に日数も関係なく、街のモノの所有権など存在しないも同然となる。600年も前ならば言わずもがなである。

『そっかぁ。む、こっちの方にもなんかあるっぽい』

ダウジングではなく『直感』により風音は下にあった建物の前に降り立つ。それは何かの工房のようであった。その工房の入り口を風音は『えいやー』と蹴りつけて破壊する。そして開いた入り口に不滅の水晶灯を持った弓花とタツオ、それを追うようにユーイの水騎士が入っていく。

『あーこりゃあ、すごいや』

『ん、何があったの?』

弓花の声に入り口で待機している風音が中をのぞき込む。

『インゴットがいっぱいあるわ。こりゃあちょっと多いかも』

『ほおほお、なんのインゴットかは分かる?』

風音の問いに弓花が『ダメっぽいなぁ』と返す。

『ウィンドウ表示でも未鑑定のインゴットって出てくるし、鑑定しないと分かんないよ』

弓花の言葉に風音が唸る。そして、さてどうしたものかと考えた。