軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四百二十三話 尻尾を巻いて逃げよう

それは呆気にとられるような光景だった。

巨大なクジラの化け物『リヴィアタン』が魔力を海面に込めると、急速に海が渦を巻き始めて、そのまま渦の中心から錐揉み状に海水の槍が風音ドラゴンに向かって放たれたのだ。

そして同時に巨大なイカの化け物である『クラーケン』も、その触手を一気に伸ばして、風音ドラゴンへと襲いかかってきた。

「キャァアアアア」

それを見たユーイが叫ぶ。弓花たちにも緊張が走り、このまま戦闘かと思われたとき、風音の瞳が光った。

『メッガビィィィィイイイムッ!!』

そしてドラゴンの瞳から光線が放たれる。その光によって海水の槍も、伸ばされた触手も等しく焼かれ蒸発する。また、それらを貫通したビームは海面を切り裂き、その衝撃で大きく水の壁が出来ていた。

「風音。あんた、今ドラゴンなのにスキル使えんの?」

弓花の驚きの言葉に風音が『あー言ってなかったっけ?』と声をあげる。

『竜体化のスキルレベルが3になった時に、スキルが一個だけならセットできるようになってたんだよね。弓花の『化生の加護』みたいな感じだね』

ちなみに戴冠式の際、王城グリフォニアスの広場で風音ドラゴンが突然出現したように見えたのも、スキルをセットしていたためであったのだ。あのときは周辺を驚かせないようにインビジブルをかけて城まで飛んできて、それをあの場で解除したために突然出現したように見えていたというわけである。

『それより逃げるよ』

『倒さないんですか母上?』

くわーっとタツオが言うが、風音は首を横に振る。

『メガビームはもう後一発しか使えないし、それだけであれを倒すのは無理だからね』

『リヴィアタン』と『クラーケン』。どちらも闇の森の魔物を抜かせばこの世界では上位に位置する魔物である。全力で戦闘を行えば倒せるかもしれないが、今無理に倒さなければならない相手ではないのだ。そして風音たちは巨大な魔物たちの手の届かない空まで飛んでいく。

その風音ドラゴンの背に乗りながら、後ろを警戒している弓花が声を上げた。

「あ、あの二体が喧嘩してる」

その言葉に、背にしがみついていた一同が後ろを向く。

「あらあら。仲良しさんではなかったんですのね」

「美味しそうな匂いにつられて一緒に上がってきたんじゃないかしらね」

ティアラの言葉にエミリィがそう返す。もうあの魔物たちとは随分と離れていた。なので二人の顔にも余裕が戻ってきていたようだった。

「お姉さま、怖いですわ」

そして怯えているユーイをティアラは抱きしめながら「もう大丈夫ですわよ」と頭をなでていた。さすがにゴブリンなどすら見かけたこともないユーイには刺激が強すぎたようである。

『低空は危ないみたいだね。もちっと上行こうか』

『了解です母上』

そしてタツオのくわーっという鳴き声と共に、風音ドラゴンはさらに高い空へと舞い上がる。そのまま上空500メートル付近を飛び続けた風音たちはオーリオル海岸までは何事もなく無事にたどり着いたのであった。

◎海の街オーリオル ツヴァーラ王族別荘

「よく生きていましたなあ」

風音たちがツヴァーラ王族の別荘に着いてからリヴィアタンとクラーケンの報告を屋敷の者にすると、驚きの顔でそう言われたのである。

「あの海域は海流の関係か、巨大な海洋魔物が多く生息しておりましてね。とりわけリヴィアタンとクラーケンは要注意魔物として漁師たちの間でも有名で、あの付近には普段は誰も近付こうとはしませんのですよ」

その屋敷の執事ベンハーの言葉に風音が唸る。

さすがに風音の持っている地図にはそうした情報までは書かれていなかった。海路図ならばそうした注意もあったかもしれないが、風音は入手していない。海を渡るには準備不足だったことは否めなかった。

「やっぱり行ったことのない所はもっと警戒しとかなきゃいけないねえ」

「そうだな。海の上ではワシもまともに戦えんしな」

風音の言葉にジンライも頷いた。足場のない海の上ではジンライとて投擲攻撃くらいしか出来る攻撃はなく、せめて船を用意できなければ戦いようがない。

ともあれ、海である。

このオーリオル海岸に面したオーリオルの街はツヴァーラ王族の別荘を中心として出来た街だ。そして王族専用の砂浜を見下ろす崖の上にこの別荘は建てられていて、崖を降りていけばすぐにでも海に入れるのである。

もっともそれから別荘の住人たちとの挨拶などもあり、風音たちが海に向かったのは昼食の後であった。

◎オーリオル海岸 王族専用ビーチ

「塩焼きそばを銀の皿に盛ってあんなにお上品に食べるのを私は初めて見たよ」

「文化の違いって奴ね」

さきほどの昼食のことを言い合いながら、風音と弓花が砂浜を歩いている。

そして今の風音は水着姿で若草色のビキニであった。並んで歩く弓花は風音と同じデザインの黒のビキニで、その後ろにいるエミリィは赤のワンピースな水着である。それぞれの擬音はぴたー、ぽよよん、ちょーんという感じであろうか。なんの擬音かは不明だが。

さらにその後ろを歩いているティアラとユーイはお揃いのフリルのついた菜の花を思わせる黄色の花柄の水着で、付き添っているルイーズは白いマイクロビキニである。布面積の狭さが危険である。ちなみにユーイはティアラと同じ血を引くに相応しいサイズをしていた。まあ、達良くん因子は特には関係ないはずだ。

なお、男はジンライさんは黒いブーメランパンツで後は以下略である。どうでもいいのだ。

「ヤバイな。ルイーズさんの前に出ると、俺のグングニルが覚醒しそうだ」

『我は直立不動のままだがな』

「とりあえず海に入ろうぜ。そして冷やそうぜ」

そしてライルと直樹は海へと入っていった。ジーヴェの槍がピョンピョンと跳ねてついて行くのが微笑ましい光景だが、言っていることは最低であった。

ちなみにだが、基本的にこの王族用のプライベートビーチは日光療法のために用意されているもので泳ぐことを目的としたものではない。そのため日焼け止めの液体を塗って、ティアラとユーイとルイーズはその場でくつろいでいた。ユッコネエもついでに横で丸まっている。

そして風音はであるが、

「んー、こんなもんかな」

「透明度が高くて、ほとんど水と見分けつかないわね」

弓花がそう言いながら、クリスタル製の板を歩いていく。それは海面の上に張った水晶化で固めた砂で出来た板である。透明度が高いために水面に浮いているように見えている。

「最近は実用重視だったからねえ。こういう遊びで作るのも久しぶりだよ」

『凄いです母上。水の上を歩いています』

タツオもくわーっと鳴きながら、テクテクと歩いて、そのままドボンと海に落ちた。そして、くわーっと鳴いた。

「タツオー、そこはもう普通に海だから」

『ショッパいです。けど海の中も嫌いではありません』

「そお?」

タツオの言葉に風音が首を傾げた。青竜は氷属性だが、水の属性も持つドラゴンなのである。実際風音ドラゴンやタツオの吐くことが出来るコールドブレスは水属性と氷属性の複合魔法であり、タツオは水竜としての側面も持っていた。

「うわー、なんかカラフルな魚とかいるわー」

そのクリスタルの板の上でエミリィが海面をのぞき込んでいる。赤や青の色を散りばめた魚たちが、そこらかしらを泳ぎ回っている様子が見えていた。

「あっちにはデッカい島があるねえ」

「あれは島亀ですわね」

楽しそうに遊ぶ風音たちに釣られてやってきたティアラが弓花の言葉にそう返した。ユーイも一緒に来ていて、下を見ながら「うわわ、凄いですわ」と言っている。微笑ましい限りであった。

「島亀?」

そしてティアラの言葉に弓花が首を傾げる。

「あれは巨大な亀の甲羅なのですわ。海岸線を渡りながら行商を行う商人たちが住んでおりますの。このオーリオルには大体、一体か二体かの島亀がいますわね」

「へぇ」「おっきいなぁ」

弓花とエミリィがそう言って感心している。風音は知っていたようで、特に驚きはないようだった。

「ちなみにジンライさんは、あそこまで遠泳してくるって言って泳いでっちゃったよ。シップーも一緒に」

「ああ、道理で姿が見えないと思ったら」

風音の言葉に弓花が周囲にジンライがいないのを確認しながら、そう口にした。その後は風音たちは、日が暮れるまで遊んで別荘へと戻っていった。

その日の夜、ジンライとシップーは帰ってこなかった。

遠泳の前に風音はあちらで飲むかも知れないとはジンライから聞いていたので、特に心配はしていなかった。だが島亀については、気になって間近で見たくはなっていた。

なので、風音の要望で明日には島亀に行ってみようということになったのである。