軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四百二十二話 スキルを試そう

ユーイ・ツルーグ・ツヴァーラ。

現ツヴァーラ国王であるアウディーンの弟、シェルキンと美人の奥さんから生まれた13歳の少女は今、この世に生まれてから初めての体験三昧な時間を満喫していた。

姉のように慕っていた従姉妹のティアラと久方ぶりに再会し話を進めていく内にトントン拍子に決まっていったオーリオル海岸への旅は、当初の想定していた旅とは大きく変わっていた。

最初、ユーイはいつも通りの侍女や執事などを連れての馬車の移動を考えていたのだが、それが神竜帝ナーガの妻である神竜皇后直々に自らの背に乗っての移動を提案してきたのだ。父のシェルキンは危険ではないかと口にしていたが、反抗期であるユーイはその父の態度に反発することもあってその予定はすぐさま確定した。

そして、初めての空の旅である。

竜船搭乗の経験もユーイにはなかったが、神竜皇后の背は『風の加護』によって不思議と空の上でも強風にも煽られることなく、むしろ包まれるような暖かさがあった。それはそれは快適な旅だとユーイは思った。

そして後ろを見れば、新たなるツヴァーラの象徴足るアウディーンの塔も見えていた。それを造り上げた神竜皇后という存在の背に自分が乗っている。それだけでユーイはまるで自分が物語の中の人物のようだと感じられたのだ。

そして、夕刻を過ぎ、その日は神竜皇后の住まう屋敷へとユーイは案内されることとなる。人の姿へと変化した神竜皇后が地面に杖を突き立てると、大地が動き出して四角い土俵が生まれ、そして天よりまるで水晶のような鏡に覆われた宮殿が降りてきたのだ。

それは風音コテージとも天使宮殿とも呼ばれているとユーイはティアラから聞かされた。ティアラ曰く、神竜皇后であるカザネは天使でもあるらしい。ミンシアナの王族でもあり、他にもいくつか呼び名があるそうである。

そのティアラに手を引かれてユーイは天使宮殿こと風音コテージへと足を踏み入れる。空の旅もユーイにとっては色々と衝撃的ではあったが、しかしコテージの中は、まるで別世界のようであった。

自動で開くドアに、動く階段、水の出るトイレ、水晶で出来た浴場に、味わったこともないような感触の布団。また食料庫の中身はまるで宝石箱のように、水晶で出来ていた肉や野菜、果物などがゴロゴロとしていた。それらすべてがユーイには新しく、新鮮に感じられていたのだった。

◎ツヴァーラ王国内 風音コテージ 夜

「にゃー」

「あ、ユッコネエ。ユーイを連れてきてくれたんだね」

部屋の扉を器用に尻尾で開けてユッコネエが女子部屋へと入ってきた。その背にはユーイが眠りながら乗っていた。どうやらはしゃぎ疲れて寝てしまったらしい。

「とはいえ、今はもう21時を回っているのか」

風音はウィンドウの時計を見ながらそう呟いた。この世界の平均的な就寝時間にはすでに入っていたのだから、ユーイも特に早く寝てしまったというわけでもなかったのである。

「ティアラたちはまだ下で話してるの?」

「にゃぁ」

風音の問いにユッコネエが頷きながら鳴いた。二階のリビングでは 所謂(いわゆる) 女子会が開かれていた。風音はあまりそういうのを長く楽しめるタチではないので先に寝室に戻って、今はゴーレムメーカーをいじっていたのである。

そしてユッコネエは尻尾をクルリンとユーイに巻き付けて、ベッドへと運び、そのままくわーっと鳴いて寝ているタツオの横に置いた。

「にゃっ?」

それから風音の横に寝そべったユッコネエだが、風音が何をしているのか気になって首を傾げながら風音に向かって鳴いた。それに気付いた風音が「ああ、ちょっとね」と口を開いた。

「海で遊べるものを作ろうと思ってさ。ゼクシアハーツのライブラリから面白そうなのをピックアップしてたんだよ」

その風音の言うゼクシアハーツのライブラリとは、要はゼクシアハーツで使用可能な3Dモデリング等のデータ集のことである。そのデータを元にゴーレムメーカーで加工することで、ただの女子高生だった風音でも家やゴーレムやマーライオン、浴場などの様々なものを造り出すことが出来るのである。

もっともステータスの『知力』や『器用さ』の増加、それに『直感』スキルなどにより現時点での風音は一人でタツヨシくんの設計図を起こせるほどに普通の女子高生ではなくなってはいたが。

「まあ、とりあえずはこれでいいかな」

そう言って風音は、ユッコネエから見れば何もない空間をポチポチと押していった。それは、あるモノを簡単にカスタマイズだけしてそのデータを保存してそして閉じる……という作業が行われていたのだが、当然ユッコネエには分からない。だが、主の仕事が終わったことは分かったので、そのまま風音にすり寄って転がった。

「うんっしょっと」

「うにゃあ」

そして転がったユッコネエのお腹の上に風音はポフっと乗った。

ユッコネエも風音と触れあえて満足そうである。そしてユッコネエの感触を味わいながら、少し気になっていたことを思い出して、風音は今度はスキルウィンドウを開いた。

そのウィンドウのスキルリストから風音は『技の手』を選択する。するとポイントを振り分ける用のスキルリストがさらに開いた。

(えいやっと)

風音はそのスキルリストから『技の手』を選択すると、

[ポイント適用外です。別のスキルを選択してください]

というウィンドウが出てきたのを見て肩を落とした。

(ありゃ、ダメなのかぁ)

もしかして最初に『技の手』のスキルレベルから上げておけば、最終的にはウッハウハになるのではないかと思ったのだが、そうはうまく行かないようである。

それから風音は他にも適用できないスキルがないかを試してみたのだが、『見習い解除』『無の理』『技の手[1]』『進化の手[1]』はダメだが、同じ『竜と獣統べる天魔之王』のスキルである『光輪』はレベルが上がるようであった。また他にも 理(ことわり) 系統と『精神攻撃完全防御』『魂を砕く刃』『致命の救済』にも適用は出来ないようである。

(これ以上の成長の余地がないのか、もしくは他に条件があるのかな?)

因果を改変して死を回避する『致命の救済』や完全と表記されている『精神攻撃完全防御』、それに対悪魔戦において異常な強さを見せる『魂を砕く刃』はそれぞれがスキルレベルとは関係なしに強力過ぎるスキルではある。魔術の根幹である 理(ことわり) もそもそもが知識そのものであり、強化するという概念がないのだろうと風音は考えた。

その後も少しウィンドウをいじりながらユッコネエの腹の上をゴロゴロしていると弓花たちもようやく話し終えたのか、部屋へと戻ってきた。

そして、その日はそのまま素直に就寝となり、早朝訓練と朝食の後は目的地であるオーリオル海岸へと、また風音ドラゴン先導による空の旅となったのである。

◎ツヴァーラ王国 ロノイ地方 沿岸部

「このまま一旦海を進むことになりますけども、大丈夫ですの?」

風音の背の上でティアラが尋ねる。空を飛べるならば沿岸に沿って進むよりは海を越えた方が速い……ということで、風音は海上を進んでいた。風音も海の上を飛ぶのは初めてだが、しかし海と大地に違いはなく問題は特にはないようだった。竜体化のスキルレベルも上がり、魔力値も高い今は魔力切れで竜体化が解ける心配もない。

『うん、大丈夫。空の上じゃあ土も海も関係ないしね』

そう風音は言って海上を跳び続ける。そして海をより間近で見ようと、低空飛行を取りながら風音ドラゴンは進んでいく。

「うわ、すごいなあ。ずっと水が続いてる」

「あれ? エミリィは海初めて?」

弓花の問いにエミリィが頷く。

「シロディエ湖と同じようなものと思ってたけど全然違うのね。ここまで広いとは思わなかった」

水平線を見ながらエミリィがそう口にした。

「でも、エミリィさんは運がいいと思いますわ。毎年、オーリオル海岸には行っておりますけど、こんなに素晴らしい光景はわたくしも初めてですもの」

ユーイの言葉にエミリィが「へぇ」と言いながら、再度周りを見回した。太陽の光が波に反射しキラキラと光っている。

『タツオも問題はない?』

『はい。海の上に出たときに少し、ザワッとしましたが、大丈夫です』

その言葉に風音が首を傾げる。タツオの言葉に不穏な何かを感じたのだ。

『ザワッ?』

『はい。あっちの下の方から大きい気配のようなものが臭います。これが海というものなのですね』

そうくわーっと鳴いているタツオに風音の中で嫌な予感があふれてくる。

タツオには風音から継承されている『犬の嗅覚』スキルがあるのだ。風音が後ろを向くと、小型竜船にくっついている馬車の中でユッコネエが前足を外に出してにゃんにゃんと振っていた。危険信号である。危険ですよという合図である。

そして、風音が警戒しながら海を見渡していると、正面の海が渦を巻き始め、その中心部から山のような何かが盛り上がってきていた。

『海が山になっていきます。これが海ですかー』

「へえ、そういうものなんだ」

タツオの呑気な言葉を聞いて、エミリィも初めて見る光景に感心する。己の知らない光景をあまり恐れてもいけないだろうと考えて、ひとまず落ち着いてエミリィは見ていたのだ。もっとも落ち着いていたのはタツオとエミリィだけである。

「お姉さま。なんですか、アレ?」

「分からない……けど凄く大きいような?」

顔が青ざめたユーイの言葉に返答しながらティアラも目を丸くしてソレを見ている。

「不味いよ。風音、上昇ッ!!」

『はいなっ。タツオも飛ぶよ』

『あ、はい。分かりました母上』

弓花の言葉に従って風音とタツオが上空へと飛び上がる。それを小型竜船も追従する。

その直後だ。それは海から現れたのだ。

「うわっ、二体いる!?」

『それもどっちも大物だね』

弓花の言葉に風音もそう返す。どちらの声にも余裕はなかった。

なぜならば、そこにいたのは巨大なクジラのような魔物である大怪獣『リヴィアタン』と、巨大なイカのような魔物で船砕きとしても知られる『クラーケン』の二体だったのだ。

それは共に世界最大級のサイズを誇る海の魔物であった。