軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四百二十話 海に行こう

デミクリスタルドラゴン。

それが今回の暗殺事件解決の褒美としてアウディーンより風音が頂戴した80階層のチャイルドストーンと、水晶馬たちにも使用していたクリスタルドラゴン素材の竜晶石残りすべてを併せて生み出された水晶型ドラゴンゴーレムの名称であった。

そのゴーレムは風音の竜体化の姿を模したドラゴンの形をしていて、水晶の槍と水晶の大盾の武装を施されている。タツヨシくんノーマルの戦闘経験を移植されており、槍使いとしてもそれなりの技量がある。

何より全長4メートルの巨体はそれだけで脅威だ。また背の翼は天使化した形態のモノで、その翼で飛ぶことは出来ないが広げて鋭利な刃としては使用できる。併せて尻尾の一撃も強力だ。

さらには翼があるのだからとフライの魔術を付与されていた。80階層クラスのチャイルドストーン動力なので一分程度ならば飛び続けることが可能であり、空中戦闘もこなすことが出来るのである。

その戦闘力は、現状の白き一団での追加戦力とするには一歩足りなくはあるのだが、野にいる通常の魔物相手への戦力として考えれば十分過ぎるものだ。

そして、そのドラゴンゴーレムは普段はカザネ水晶大浴場の屋根の上に鎮座するようにセットされていて、マッカの指示か、街を守るために行動するよう命令を入力されているのである。

それが風音がカザネ魔法温泉街の役に立てるためにマッカに贈った魔法温泉街の守護竜デミクリスタルドラゴンのデミゴンくんだった。

◎リンドー王国 交易都市ウーミン

「ということのようですな」

交易都市ウーミンのアングレーの屋敷の私室でアングレーはオウギから報告を受けていた。それはカザネ魔法温泉街にいるプレイヤーのカンナからメールで送られたもので、風音が用意した街の守護用のゴーレムのことが書かれていたのである。

「ということって、アレだろ。そりゃガーゴイルじゃあないのか?」

アングレーがオウギの報告を聞いて、そう答える。

ガーゴイルとはダンジョンや遺跡などで見られるゴーレムの一形態であり、宝箱や門、建物そのものの守護を目的とした魔物である。アングレーが話を聞く限りは、そのデミクリスタルドラゴンというのは、ガーゴイルに該当するもののように聞こえた。もっともその造形から実力まで考えれば、並のガーゴイルを凌駕するのではないかと思われたが。

「まあ、そうでしょうな。あの付近に存在する魔物相手であるならば申し分ない戦力でしょうし、その剛力は街の建設にも役に立つでしょう。しかし、これでまたかの国がうるさくなるやもしれませんな」

オウギがそう口にする。

「トゥーレ王国か。確かに、あの国からミンシアナへの抗議は日増しに強まっていると聞くな」

トゥーレ王国はゴーレム魔術を覚えるためのグリモアフィールドを有しているために、ここ数百年は唯一ゴーレム使いを輩出することが可能な国として存在してきた。そのために風音本人やマッスルクレイやゴーレム馬などのことも含め、ゴーレムの術はすべて自分たちのモノであり、それを漏洩している人物、或いは技術や素材を引き渡すようにミンシアナ王国に抗議しているのだ。

当然のことながら、言いがかりも甚だしいことを知っているゆっこ姉はそれを完全に突っぱねている……ということをアングレーも耳には入れていた。

「しかしガーゴイルか。当然トゥーレの技術ではなく、プレイヤーとしてのスキルなのだろうが」

「そうでしょうな。トゥーレの抗議は完全な言いがかりでしょう。もっともあの国にとってはゴーレムは宗教のようなものですからな。ああいう反応になってしまうのもやむをえませんが」

オウギはそう口にする。それから「ふむ」とアングレーは考える。

「しかし、チャイルドストーンがあればそのガーゴイルを大量に造ることもできるということか。死をも恐れぬ兵団を生み出すことすらも可能だと?」

『その目は止めておいた方がいいわよ。あなたが失敗するのはいつもその目をした時だから。欲をかきすぎるとロクなことがないわよ』

アングレーの言葉を膝に乗っていた白猫エリザベートがたしなめる。

「チッ、うるさい。分かっておるよ」

そのエリザベートの言葉に対してバツの悪そうな顔でアングレーが返事をする。

「気を付けなされよ。女王の手がどの程度延びているか。多少なりとて風音殿に悪影響があれば、我らもどう処理されるか分かりませんからな」

オウギもそう忠告する。外から見たゆっこ姉というのはそれだけ恐れられる存在ではあるのだ。そして同じプレイヤーであるならば尚更その存在を異質と感じてしまうのも無理のない話だろう。

「まったく、厄介な話だな。しかし、他にもカザネたちにチョッカイをかけそうな連中もおるだろう。先ほど言ったトゥーレの連中とかがな」

「そうなった場合にはトゥーレという国が終わる可能性も考慮すべきかと思いますがね」

アングレーの言葉にオウギはそう返した。それをアングレーもひきつった顔で笑う。そんな相手とは敵対したくないものだと改めてアングレーは考える。そしてアングレーが余計な考えを捨てたと感じたオウギが口を開いた。

「さて。それはそうと今回もカンナは風音殿たちと接触できなかったみたいですな」

「まあ、それは仕方がないだろうよ」

そのオウギの言葉にはアングレーもそう返した。

実のところ、アングレーとオウギは仲間のプレイヤーであるカンナを風音たちと接触させようと考えていたのだが、現在まで空振り中であったのだ。

カザネ魔法温泉街でずっとカンナも機会を窺っていたのだが、なにぶん相手は領主様である。情報屋という胡散臭い商売をしているカンナが接触できないのも無理はなかった。

「そのカンナからですが風音殿たちはすでに街を去っていて、当面は帰らぬそうです」

「相手は領主様だ。接触するなら場所を変えた方が良いだろうな」

「であれば?」

「A級ダンジョンのゴルディ黄金遺跡に向かうと公言しているそうだからな。ゴルディオスの街に移動させるしかなかろう」

オウギの問いに、アングレーはそう答えた。

「では、そのように伝えておきましょう。本人も温泉ざんまいも飽きてきたらしいですし」

そして、オウギもカンナに連絡するメールの準備に取りかかる。プレイヤー・カンナが風音たちに接触するのは、またしばらく後のことになりそうだった。

また、オウギたちの会話の中にあったように、既に風音たちはカザネ魔法温泉街を去っていた。そして、向かった先はツヴァーラ王国の王城グリフォニアスだった。

◎ツヴァーラ王国 王城グリフォニアス

「海?」

風音の質問にティアラが「そうですわ」と頷いた。

カザネ魔法温泉街に直樹の転移で移動し、家造りも一段落した風音はツヴァーラに戻って来ていた。そして戻ってきて早々に風音はティアラからその提案を出されたのであった。

「ほら、ウーミンに行く途中にカザネもソルトヤキソゥバーを食べたいとおっしゃっていたじゃないですか。だから、どうかと思ったのですけれど」

「海かぁ」

そういえば、そんなことも言ってたなぁ……と風音は思い出した。馬車に乗ってウーミンに向かっていたことが懐かしいくらいに最近は動き回っていたので忘れていた。

「それに最近カザネも働き詰めでしたし。偶には休みも入れませんと倒れてしまいますわ」

「まあ、そうだねえ」

ティアラの言葉に風音も頷く。確かに最近は、戦って働いてと随分と頑張ってきた気がする風音である。それにすぐに回復したとはいえ『竜と獣統べる天魔之王』の見習い解除の後には実際、倒れているのだ。

「いいね。海。姉貴、海、水着、姉貴、水着、姉貴、良し!」

その風音の横で、不審な男がひとりでブツブツ呟いていた。風音はそれを聞こえないように意図的に無視しながら考える。隣の不審者の言葉を聞いていると無意識に却下したくなってくるのだ。その不審な男の顔はよく見れば弟の顔だった。というか弟だった。認めたくない事実である。

そして風音が他の仲間たちを見回してみたが、特に異存がある者はいないようだった。風音としても横にいる気持ち悪いのがいなければ全面的に大賛成なので、良しと頷いた。

「うん。それじゃあ、お言葉に甘えようかな。行き先ってツヴァーラの王族専用のビーチってとこだよね?」

「ええ。眺めも綺麗で、素晴らしいところですわ」

風音の問いにティアラがそう答える。

「あー、そういうの最近なかったし楽しみだなぁ」

弓花が呑気にそう口にして、タツオも『海初めてです』と目を輝かせている。他のメンバーも楽しみといった顔である。ジンライだけは「砂浜か。捗るな」と訓練メニューを考えているようだった。

その全員の反応を見て、ティアラもホッとした顔をして、それから、また風音に口を開いた。

「それでですね。一緒に連れて行ってあげたい子がいるのですが、よろしいでしょうか?」

少し遠慮がちに尋ねるティアラに風音が首を傾げる。風音にはその一緒に連れて行って欲しい子に心当たりはなかった。

「ん? 良いけど……どちらさん?」

首を傾げる風音にティアラが答える。

「その……シェルキン叔父様の娘のユーイなんです」