軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四十二話 病気を治そう

◎王城グリフォニアス 謁見の間 翌日

「……となり、カザネ、ユミカ、ジンライの三名には王家より多大な感謝と、栄誉、そして褒賞を与えるものとする」

王代理のアウディーンの前で大臣の口から風音達に対して褒美などが告げられていく。

結局、王女誘拐の件は王女誘拐『未遂』という形で修正されて発表されていた。誘拐『された』という事実を認めないが為の処置ではあるが言葉遊びの類ではある。

そして例の第二王子シェルキンだが、やはり彼はなにも知らなかったということだった。もっとも執事のしでかしたことへの責任を取るためにいくつかの役職を下りることは決定されている。本人は全責任を取ると言っていたそうだが、アウディーンによれば現時点では実質的に父王に代わって国を動かしているのは彼だそうである。どうも非常に有能な人物だったのだ。

そんな第二王子も今回の風音達への褒賞を与える場には謹慎中のため姿を見せてはいない。

もっとも風音たちはこの式の後に第二王子とも会う約束があったのだが。

◎王城グリフォニアス 王の寝室

「ごめん。ごめんよぉ、ティアラちゃん。ぼくがだまされていたばかりにぃ」

まるまるとした小太りの男がティアラに土下座をしている。

何を隠そう、この小太り男が第二王子シェルキンである。

「だからもう分かりましたから、顔を上げてくださいまし」

ティアラも疑いをかけていただけにあまり強くも出られないのだろう。引きつった顔で目の前の叔父にもうやめてとお願いをしている。対してシェルキンは

「でもぉ、ぼくがあんなヤツを雇わなきゃぁこんなことには〜」

などと言ってはまた頭を下げていた。それがさきほどから延々と繰り返されている光景であった。

(あーー)

風音はそのやりとりで大体の事を察してしまう。

(達良くんに似てるんだなあ、第二王子さんって)

達良くんとはちょっと小太りの風音のゲーム仲間である。

「高校の時は女の子に丸められた雑巾って呼ばれてたんだ。えへへ」と寂しそうに笑ったときの達良くんに第二王子はよく似ていた。

そんな達良くん的な第二王子が女性に嫌われる傾向にあるのはここでも同じようで、ティアラのシェルキン嫌いは目の前で行われている通りのシェルキンの態度が生理的に受け付けないということと「多分侍女たちの悪影響だろうな」とアウディーンが横でぼそりと風音に語っていた。「あいつには汚れ仕事ばかり押し付けていてな。本当にいいヤツなんだが」と口にするアウディーンはどこか寂しそうだった。

ちなみにそのシェルキン、妻子持ち、奥さん美人で旦那の良き理解者という勝ち組に属している。ただ娘が父親をどう思っているかについては聞かないであげてほしい。泣いてしまうから。

「もう良い。シェルキン、お前も落ち着きなさい」

目の前のベッドにいる老人がそう声をかける。

「は、はい。父上」

その声にはシェルキンも縮こまって口を閉じる。

風音達の目の前にいる老人の名はメフィルス・ツルーグ・ツヴァーラ。アウディーン、シェルキンの父にしてティアラの祖父。そしてこの国の王である。

「カザネに、ユミカといったか。この度は孫娘の危機を救っていただきまことに感謝する。それにジンライも久しぶりだな。お主にはまた助けられたようだ」

風音と弓花は王の言葉に頭を下げつつも(知り合いだったんだ)とジンライを見ていた。

「ハッ」

ジンライは二人の視線など気にすることなく王に頭を下げる。

「それにしても牙の槍兵がうら若い娘を二人を連れて旅とはな。変わったなジンライ」

「いえ、求めるべきは何も変わってはおりませぬ、王よ」

そう返すジンライに王が笑う。

「確かにその実直さ、変わってはおらぬな。であればどちらかがそうであるのかな?」

「はい」

ジンライの視線の先には弓花がいた。

「ふむ。もはや生気の尽きし我が眼では分からぬが、良い戦士なのだろうな」

「今はまだ。ですがいずれは……」

そう遠くないうちにと、ジンライは言う。

その様子をキョトンとした顔で弓花は見ていたが、風音は(見込まれちゃってるねえ)とどこか嬉しそうに見ていた。

「して、賊どもは討ち取れたのかアウディーンよ?」

「ハッ、ブレア・デッカーマンに雇われていた盗賊どもの死体は発見されました」

(……死体?)

風音はどういうことだろうと疑問に思ったが、アウディーン以外は皆風音と同じような顔をしていた。

「死体は街の外の林の中で無造作に捨てられていました。現在検分をさせていますが死後数日は経過しているようです」

「原因は?」

「直接の死因は首を斬りつけられたこと」

アウディーンが手刀で自らの首を斬る動作をする。

「全員が無抵抗に殺されていました。なぜ殺されたのかについて不明です」

(多分ティアラを殺害せずに売ろうとしたことがバレたんじゃないかなあ)

と風音は思ったが、それも想像の域を出ない。

「それでブレア本人は?」

「申し訳ございません。未だ足取り一つ掴めず」

「そうか、なかなかに手際の良い相手だな」

メフィルス王は深いため息をつく。

「ご苦労だった。ふむ、少し疲れたようだ」

「大丈夫ですか?」

ティアラの問いにメフィルス王は頷く。

「うむ。ティアラの顔も見れて、いくばくかは気力も戻ってきたように思えたのだがな。どうにもこの身体はもう上手くは動いてくれぬようだ」

「お爺さま……」

ただでさえ弱っている老人の身に孫娘の誘拐という事態は心理的負担が大きすぎたのだろう。ティアラはそんな祖父の有り様を自分のせいだと感じ、胸を痛めた。

と、そこに風音が手を挙げる。

「あの、ひとついいですか」

「おいカザネ」

さすがに無礼だろうとジンライが止めようとするがアウディーンがそれを制する。

「なんだろうかカザネ。見ての通り父上はお疲れなのだが、手短にすむ話かな?」

「話というかちょっと試させてもらいたいことがあるんだけど」

「試す? 何をだ?」

アウディーンは首を傾げる。

「もしかしたら王様の病気、治せるかもしんないかな〜と」

「なんだと?」

その言葉にアウディーンが目を見開く。

「我が国の医師と癒術者が皆そろえて不治の病と結論づけた病をそなたがか?」

「うん。まあやってみないと分かんないけど」

「何を言うかと思えば。そんな分からぬかどうかのことを王にするなど許可するわけにはいかぬ」

「お父様ッ」

風音の言葉を突っぱねるアウディーンにティアラが声を上げる。

「ティアラ?」

「わたくしからもお願いします。カザネがそう言うのであれば、あるいはやってくれるかもしれません」

「しかしだな」

娘の要求とは言え、相手は素性知らぬ冒険者である。ただでさえ疲労している父親にこれ以上負担をかけるつもりはなかった。

「アウディーンよ、よい」

「父上?」

「老い先短い身だ。今更何が起ころうと構わぬ」

「何をおっしゃいますか!?」

アウディーンが嘆くが、メフィルス王は風音を見て尋ねる。

「して、どうするというのかな小さき旅人よ。余は何をすればいい?」

「いや、特に何をということはないよ。ちょっとそのままでいてもらえれば」

そういって風音はアイテムボックスから無限の鍵を取り出す。

「なんだそれは?」

アウディーンが警戒感を露わにして訪ねるが

(あれは昨日の……)

ティアラは抜け道を開いたそのアイテムを覚えていた。

「どちらにせよ解除できるかどうか試してみる価値はあると思うんだよね」

風音はアウディーンの言葉に返事をせず、メフィルス王の前の何もない空間に鍵を差し込んだ。すると風音の前にウィンドウが二つ出てくるのが弓花には分かった。

「なるほどね」

と呟く風音の横で弓花がウィンドウを覗き、その書いてある内容を見て驚きの声を上げた。

「なによこれ、呪われてるじゃない」

「呪い……だと?」

アウディーンが弓花を見る。だが答えが出てきたのは風音の口からだった。

「これは呪詛だね」

「呪詛!?」

アウディーンが再度驚きの声を上げた。

(紅玉獣の契約、こっちはアンロックできないか)

そちらは無限の鍵でも効果の及ばぬものらしい。

「いきなり何を言うかと思えば。無論呪殺の疑いはこちらとて考慮に入れていた。だが癒術師も呪術師も誰にも発見できなかったのだぞ」

アウディーンの言葉に風音も「そうだろうね」と頷く。

「どうも紅玉獣の契約に混ぜ込んで偽装してるみたいだよ。というかこれ、人間の術じゃないね」

驚きの顔のアウディーンに風音はそう返すとシェルキンも「なんと……」という顔をした。

「そ、それで治るのか?」

「呪いは解けるよ。おりゃっと」

風音がガチャンと鍵を回すと何もない空間がパキンッと音と共に崩れていくのをこの場にいる誰もが感じた。

「お、おおおおお」

そしてメフィルス王に劇的な変化が現れた。

「なんだ、この力は。まるで若返っていくような」

血の巡りが恐ろしく良くなったような、締め付けられていたものが取れたような感覚がメフィルス王を襲っていた。

「今まで随分と抑えられてたみたいだね。それが王様の本来の活力だと思うよ」

弱ってるのは間違いないから無理しちゃ駄目だよと風音が言うとメフィルス王は「う、うむ」と返すが爆発的に広がる身体の活力には興奮が収まらないようだった。

「父上、その大丈夫なのでしょうか?」

アウディーンが恐る恐る聞く。

「ああ。なんというかもう溢れんばかりな感じであるぞ」

「まことですか!!!」

そのあまりの変化にアウディーンが驚愕する。もうさっきから驚いてばかりである。

その裏ではシェルキンがむせび泣いて喜びを表現し、ティアラも感動のあまりメフィルス王に抱きついている。

「いいことしたなあ」

その横で風音はよかったよかったと頷いていた。