軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四十一話 王子様と話そう

◎王城グリフォニアス 王家の寝室

「グッ、すまんな。この歳になると涙もろくなっていけない」

「お父様ったら、いい加減泣き止んでくださいませ」

アウディーン第一王子は泣けるだけ泣いた後、ようやく話ができる状態にまで落ち着いてきた。

「いい加減抱きつくのをおよしになって。カザネも見てます」

恥ずかしそうに言うティアラに「すまん」と照れて返し、ようやく娘から手を放したアウディーンは風音を見た。

「それでカザネであったかな」

「はい」

「この度は娘を助けていただきまことに感謝する」

アウディーンはさらに深々と頭を下げた。

「国王代理としては頭を下げること許されておらぬが、今はただ一人の父親として感謝したい」

聞けば、娼館に売られ掛かったのだとも、実際には殺されるはずだったともアウディーンは娘から聞いていた。そしてオーガに連れ去られ孕まされそうだったということも。どれであってもアウディーンは恐らく娘の惨状に気付かずただただ探し続けていたはずだった。今も、恐らくは死ぬまで。そう思うだけでアウディーンは心が張り裂けそうになる。

「お父様…」

横でティアラは父親の憔悴した姿を見て心配そうにしている。

「ティアラ、お前にも苦労をかけたな。まさかお前に冒険者の真似事をさせてしまうとは」

そう言うアウディーンにティアラは笑って言葉を返す。

「いえ、お父様。旅は存外に楽しいものでした。美味しいシチューに我が王家でも味わえないような最高級の布団の寝心地、難攻不落と聞くアルゴ山脈すらも易々と踏破する乗り物、石のお馬があれほど乗り心地が良いなど知りませんでしたわ」

「む、そうなの…か?」

アウディーンには娘の言葉の半分も理解できない。

(年頃の娘の言葉は親にとっては異次元の言葉のようだとも聞く。これがそうだというのか?)

「何よりわたくしにはずっとこのカザネが一緒にいてくれたんですもの。苦労など何もございませんでした」

ティアラは風音を見てそう口にする。

風音はえへへと頭をかいて照れて笑う。褒められるの苦手なのです。

(ああああ〜〜)

それを見てティアラの頬もゆるむ。

(おおおお〜〜)

アウディーンの頬もゆるんだ。お前もか。

ともあれ、親子の再会は無事果たした。後は今後のこととなる。

「ふむ、経緯は理解した」

アウディーンは改めて風音とティアラを並び立たせ、状況の確認をとる。

「王家の秘密通路についてはこの状況だ。不問といたそう。ゴーレム使いには突破できるとするならばあの通路は廃棄するしかないであろうしな」

「すんません」

風音が謝る。さすがにどんなものでも解除する無限の鍵の存在は告げられないのでテキトーな理由をでっち上げるしかなかったのだ。

「しかしティアラよ。お前をさらったのが、その、シェルキンだというのは真だろうか?」

と、ここでアウディーンの声のトーンが落ちる。

「間違いありませんわ。あの方はお父様を失脚させ、自らが王となるために今回の非道を働いたに違いありません」

ティアラはそう強く主張する。

「お父様はわたくしの言うことが信じられぬのですか?」

ティアラとしては自らを貶めようとした相手に遠慮する父親が信じられなかった。

「だがなあ、ティアラよ。今回の騒動でいち早く動き、お前の捜索を進めたのはあいつだぞ。寧ろ積極的に情報を公開し他国にも働きかけるべきだとまで進言してきた。私が止めなければおそらくは実際にそうなっていただろう」

(それは…?)

風音はさきほどから覚えている違和感に新たな情報が加わった。

「ですが、それはお父様を失脚させるための」

「すでに私が王となることは内々で確定している。式の準備も含めてな。そしてヤツは既に王位継承権を破棄しているのだ。お前がさらわれた日にな」

「それは…なんで?」

ティアラは呆然とするが、アウディーンは続ける。

「表向きは私が王となるので無用な争いを回避するため…ではあるが」

第二王子シェルキンは数多い貴族たちの支持を受けている。彼を王に…とする者も少なくはない。

「その時期に鑑みればお前の誘拐を重く見て、周囲を制するために自ら退いたことを主張したのであろう」

そういわれてはティアラも反論の余地はない。ただひとつの事実をのぞいては。

「ですが私は見たのです。あいつの執事が、ブレア・デッカーマンが私をさらい、慰み者にし殺せと指示をするのを」

「ぬう…」

激昂するティアラと唸るアウディーン。

と、そこで風音の手が上がった。

「えーと、ちょっといいかな」

「なんだねカザネ?」

剣呑な面構えでアウディーンは風音を見る。

「あのブレアとかいう執事、あれが単独で動いていた可能性はありますか?」

「なっ!?」

ティアラは信じられないものを見るような目で風音を見る。ここでまさか風音からティアラの言葉を否定する言葉が出てくるとは思わなかったのだ。

「分からん。あいつの執事は2年ほど前から雇われているのだ。優秀な男だとは聞いていたが」

アウディーンはブレア単独を否定しなかった。

「風音、どういうことなんですの!?」

「落ち着いてティアラ。アウディーン様、もうひとつお聞きしたいんだけどさ。今この城に第二王子さんはいるの?」

「いや、今は詰め所で娘の捜索の指揮をとっているはずだ」

捜索対象はここにいるわけだが。

「じゃあもう一つ、この階ってアウディーン様と王様以外に人はいる?」

「ああ、父王は病気でな。信頼できる医師が一人ついている。後はここは王族のプライベートエリアなのでな。本来は何人も立ち入れないはずだ」

その言葉にティアラがハッとなる。

「そうですわ。なんでアイツがここにいるんですの?」

「あいつ?」

首を傾げるアウディーンに風音は言う。

「ブレア・デッカーマンはさきほどまでここにいたよ。それも王様の部屋の方から歩いてきていた」

その言葉にアウディーンの目が見開く。

「であれば、たとえ王女誘拐に係わっているかどうかの有無は兎も角として捕まえるには十分な理由だと思うけど?」

「レイゲルッ!」

アウディーンが机の上の水晶球に声をかけると、水晶球から「ハッ」と声が響いた。

「賊が城に侵入した。シェルキンの執事のブレア・デッカーマンだ。至急、拘束し我が前に引っ立てよ」

そして「了解であります」という声と共に水晶球がフッと静かになる。

「ふむ。どのみちシェルキンには話を聞かねばならぬか。すまないが、二人はここにいてくれ」

そういってアウディーンは部屋から走り去っていった。

「どういうことですの、カザネ?」

ティアラは風音の方を向き、訪ねる。

「さっき言ったとおりだよ。ブレア単独犯か、最悪第二王子さんは操られてる可能性がある」

ティアラ捜索のことが本当なら操られている可能性は低いだろうけどね…と付け加える。

「それにあいつからは臭いがしなかったんだ」

だから風音も最初にあの男の存在が分からなかった。そんなことを気に止められないほどにブレア本人の存在が異様だったので今の今まで気付けていなかったのだが。

「そんなものに該当するのは完全に気配を絶てる高位斥候職か、或いは物理存在ではない」

「アストラルタイプの魔物ぐらいだろうね」

その後、ブレア・デッカーマンの姿は王都内の総力を挙げて捜索したが発見できなかった。まったく何一つ形跡を残さず姿を消していた。