軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四十話 涙の再会をしよう

◎王都グリフォニア

「冒険者二人か。今は一度入ると当分出てこれないが平気かい?」

「そいつは覚悟の上だよ。今の状況で荷物を届けりゃ、結構金を弾んでもらえるんだよ」

「まあそうだろうな。こちらとしても物資が入ってくるのはありがたい話なんだ。よし、通れ」

というやりとりが王都グリフォニアの正門で行われ、ジンライと弓花は荷物を運んだ馬車と共に中に入ることに成功した。

「師匠、上手く行きましたね」

「肝は冷えたがな。成功して何よりだ」

城門前では獣人族の兵もいた。匂いでバレるのではと思ったがインビジブルの性能は想像以上のものだったらしい。

「まあねえ」

と風音はジンライに返事をするが、ジンライと弓花からは声は返ってこなかった。

「二人とも本当にわたくしたちが見えてないのかしら」

「見えてるし、存在は理解しているけど認識できないんだよ」

さきほどの獣人兵も同様だ。匂いから存在を理解はしていたが認識できていなかった。あの場で完全に姿を隠していては逆に匂いだけで気付かれたかもしれない。

「二人にはこのまま王宮の近くまで行ってもらうことになってる。私たちはそこで勝手に降りて、ティアラのお父さんのところまでいく予定だよ」

「本当にカザネはなんでもできてしまうんですのね」

ティアラはそう言って風音を抱きしめる。

「私は言ったよね、お父さんのところにまで連れていくって」

「ええ、分かっていますわ。カザネはわたくしの王子様ですもの」

「お任せあれ、お姫様ってね」

そう風音が冗談混じりに言うとティアラは心底幸せそうに再度風音に抱きついた。

風音とティアラは王城の近くまで来ると手を繋いで馬車を飛び降りた。

「よしっ」

「おっとっと。動いている馬車から降りるのは結構勇気がいりますわね」

そう言ってる間にも弓花たちの馬車は過ぎていく。

「彼女らはどうするんですの?」

「元々王城への物資運搬っていうギルドの依頼で馬車を手に入れたからね。それを完遂させるだけだよ。首尾よくいけば後で呼びに行くつもり」

風音はティアラを連れて、そのまま王都中央の王城の堀の先を進んでいく。

「こっちに王家専用の脱出口があるんだよね」

「はい。けどホントにこちら側からは開かないようになってるんですわよ」

「とは言っても正面からは入れないしね」

インビジブルの弱点は扉などを『自主的』に開けると認識されてしまうということだ。城を真正面からその制約をこなしながら入っていくのはさすがに無謀というものだった。また狭い通路などで正面にいると否が応でも視界に入り気付かれやすくなる。

「ここですわ」

少し進んでいった先にある堀の横の岩をティアラが指さす。

「あの裏側が入り口なんですの」

「へえ」

と、風音が興味深そうに岩をグルリと見ながら後ろに回ると普通にただの岩だった。

「岩だね」

「ゴーレムと同じような加工がしてあるんですのよ。でもいくらゴーレム使いのカザネでもこれを解くのは」

(まあ私じゃ無理だけどね)

そう心の中で返事をしながら風音はコーラル神殿で手に入れた無限の鍵を取り出し、何もない空間に差し込みカチッと開けた。

「え?」

ティアラが驚いている前で静かにカコーンカコーンと岩が動き、地下への道を作っていく。

「じゃあ行こっか」

風音はティアラの手を引きながらその中に入っていく。ティアラはますます胸がキュンッと締め付けられるが、風音は気付かない。

(何もかも事も無げに出来てしまうんですね。本当にスゴい人)

ティアラは思わず風音をギューッと抱きしめてしまう。

「いや、階段で抱きつかれると危ないから」

風音は迷惑そうだった。

◎王城グリフォニアス 最上階

カコンと静かに壁が開いていく。ティアラの話によれば脱出用だけに敵に気付かれないための静音仕様の魔術がかけられているとのことだ。

「まさか支柱のひとつが螺旋階段になってるとはね」

「ハァ、降りるのはともかく上がるようには、ハァ、できていませんわね」

風音は少し、ティアラはかなり息を乱している。そこらへんはステータスの差が如実に出ている。

「とはいえ、後少し…」

と、風音は奥から男が一人歩いてきているのに気付く。

「ッ!?」

それを見てティアラが騒ぎそうになるのを風音は抑え、壁の裏に隠れる。

(なんだ、あれは?)

風音は直感的にあれがヤバいものだと感じた。

カツン、カツン…と歩いてくる。

「ふむ」

そして風音達のすぐ近くで止まり

「気のせいか」

また歩き始めた。

そして足音も消え、危機が過ぎて安心すると

「ふぅうーーー」

と息を吐いた。

「ティアラ、もう大丈…?」

大丈夫と言い掛けて風音はティアラの様子がおかしいことに気付く。

「どうしたの?」

「あれですのよ」

「あれ?」

「あれがわたくしをさらった第二王子シェルキンの執事ブレア・デッカーマンなんですの」

「あれが執事?」

風音はそこに猛烈な違和感を覚えた。

(あれは誰かに仕えるような生易しいものじゃないような…)

そう考える風音だったが、ともあれ目的地までは後少しである。

「ティアラと似た匂いの人が二人いる。若い方の、多分こっちだと思う」

風音はティアラの手を取り、そちらのほうに進んでいく。

するとそこには廊下に立てかけてあるティアラの肖像画の前で一人佇んでいる男がいた。

アウディーン・ツルーグ・ツヴァーラ、このツヴァーラ王国の第一王子にして王位一位継承者である彼は憔悴しきっていた。

一週間前に行方不明となった娘の行方がまるでつかめない。捜索隊は出したが、娘の誘拐は表に出すわけにもいかない。

誘拐犯からの理不尽な要求が届いているのだ。身代金だけではなく、いくつかの条約破棄や、直接的にではないが弟に王位を渡すような要求まで含まれていた。

無論、要求に応えるわけにもいかないが、万が一それに近いことをすれば娘のために国を売ったと風潮される恐れもある。それは王族として許されない。

周囲では娘の誘拐が弟の仕業だと考えている者もいるが、アウディーンはそうは思わない。アウディーンは弟が聡明な人物だと理解している。

(あいつは国を支えられる器ではないが、その頭脳を国のために役立てることを第一に考えている)

アウディーンはそう評していた。だがしかし、彼の派閥にいる貴族どもはそうではないかもしれない。或いは隣国ミンシアナに軍事的行動を起こそうとしているソルダードなどの外部勢力の仕業という恐れもある。弟がソルダードと通じているという悪質なデマが流れ出したのも怪しい話だ。寧ろ標的は弟のシェルキンなのではないかとすら思えてくる。

疑問は尽きず、また解決する手段は何一つない。

そうして何もかもが堂々巡りでアウディーンは疲れ切っていた。あるいはもう娘は死んでいるのではないか…となどと考えてしまうと強く胸が締め付けられる。

だから背後からの気配に懐かしいものを感じて、そして振り向いたとしても

目の前にいるそれが愛娘の姿をしていたとしても、アウディーンにはそれが分からなかった。ただ…

「ただいま、お父様」

自分にかけられたその声を聞いたとき、アウディーンの瞳から枯れ果てるほど流したはずの涙が、また一気にこぼれ落ちた。