軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四十三話 襲撃を受けよう

血色も良くなり、目に見えて活力を取り戻し始めたメフィルス王。

そしてそれを見て泣いて喜んでいるシェルキンとティアラ。アウディーンはさすがに自制が利いていたが目からにじみ出るものは隠しようもなかった。

(いやーホント好かれてるお爺ちゃんなんだなあ)

とその様子をしみじみと見ていた風音だが、とりあえず分かっていることは告げておいた方が良いだろうと思い、頃合いを見てメフィルス王に話しかけた。

「ふむ。ここ数年来が嘘のように軽いな。カザネ、そなたには本当に感謝する」

「いやいや、それほどでもあるよ」

横で弓花が「自重しろ」と口パクで伝える。無論伝わらなかった。

「それで王様、ちょっと聞きたいんだけど」

「なんであろう。なんでも言ってみせよ」

「王様は今もルビーグリフォンとの繋がりを感じられる?」

その風音の言葉にメフィルス王は眉を若干しかめるが、しかし風音の言葉が確認であることを理解し、隠せるものではないと素直に言葉を返した。

「感じるだけならばな。しかしこの病んだ身体では呼び出すことはおろか今はあいつの気配の半分も感じられぬよ」

アウディーンは横で「それは真ですか?」と尋ねる。どうやらアウディーンにも知らされていなかったようだ。

「いや、王様のその認識はかなり正確だと思うよ。実際、ルビーグリフォンはもう半分以上存在を変質化しているみたいだしね」

その言葉にメフィルス王は目を閉じ、何かを感じたのか、再び眼を開いて風音を見る。

「ふむ。確かに言われてみればそうした感じはあるやもしれぬ。それは先ほどの呪いと関係があるのだな」

メフィルス王の問いに風音は頷いた。

「王様の中にあった呪いはルビーグリフォンの主要素である炎のファクターを闇のファクターに書き換える変換装置だったみたいだね。王様が弱っていったのはその負荷のせい。だから正確に言えばあれは王様への呪いではなくルビーグリフォンへの呪いと言った方が正確かも」

「待て。それはつまり、この呪詛の狙いは父上の命ではなく、我が国の守護獣だと?」

アウディーンの問いに風音が「そうだろうね」と言う。

「まあ解呪はできたし、王様自身の気力が戻れば次第に元には戻るはずだよ」

そう風音は締めくくる。少なくとも先ほど無限の鍵から得た情報ではもうこれ以上伝えられることはなかった。そしていくら元気を取り戻したとはいえ、メフィルス王も長年病んでいたご老体ではある。ひとまずは休んでいただこうということで、この場は解散となった。

◎ティアラの寝室 夜

「ふぅ」

風音達も同席の食事を終え、ティアラは自室に戻り布団の中に入ったが、まだ興奮はまだ冷めやらなかった。

(わたくしを救ったばかりかお爺さままで助けてしまうなんてカザネは本当にスゴい……)

ティアラは意識を失っていたが、最初にオーガからティアラを直接助けたのは風音だという。

(何も言わずにわたくしを王都まで送ると決めて)

道中はとても楽しかった。

(布団だって、これよりも肌触りが良くてもふもふで)

横には炎の入った水晶球がある。便利だからと風音にもらったものだ。宮廷魔術師の一人に見せたが、たいそう驚いていた。なんでもただ明るいだけに特化しているがその構造自体は神々の秘宝クラスだとか。

(ヒッポーくんの名前は意味が分からなかったけど、あれは乗り心地が良かったな)

ティアラは馬車には乗ったことがあるが乗馬経験はない。今度挑戦してみようと思えた。

(二人で旅して、その前のハナビでしたっけ? あんな綺麗なものがあるなんてわたくし知らなかった)

その後の怒られた風音もかわいかった。慰められている風音が愛おしかった。

(宿屋でずっと二人でいて、風音を抱き締めていられて嬉しかった)

とても楽しかった。嬉しかった。風音に会えて本当に良かった。

(なのに……)

ティアラはいつしか涙が止まらなくなっていた。

『それ』はもう終わってしまったのだ。

このまま風音は冒険者としてこの国を去るだろう。ティアラはこの国で王族の責務を果たすだろう。だからもう二人の人生が交わることはないのだろうと。

時折風音が会いに来て、旅の話をしてくれるかもしれない。またティアラの知らない色々な事を教えてくれるかもしれないし、助けを呼べばきっと来てくれるに違いない。

でもそれだけだ。

もうあの時のようにいっしょにはいられない。きっと横に並んで手を繋いで歩くこともない。

「……どうしてわたくしはカザネと一緒にいられないの?」

答えははっきりし過ぎていて、どうしようもないのは分かり切っていた。だからティアラはただ泣き続けるしかなかった。

そう、部屋が漆黒の炎に包まれるまでは。

◎王城グリフォニアス 中央階 来客室 数刻前

「うーん」

風音がベッドに大の字になって伸びをする。

「やっぱり寝心地は不滅の布団の方が良いねえ」

「あの寝心地を覚えちゃうとねえ」

弓花が風音に同意する。

「でも、ご飯は美味しかったかな。魚介ものも多かったし」

「中世っぽくても魔術があるからねえ。冷凍保存はお手の物だよね」

そういう点ではこちらの世界も風音達の元の世界に引けを取らない面もある。

「それで、今回のクエストっていうの? なし崩しでここまで来ちゃったけどさあ。これでクリアってことになるの?」

「ま、それこそゲームじゃないし、オチなしって事もあると思うよ」

弓花の問いに風音がそう返した。

「じゃあ明日からどうしよっか」

「こっちでしばらく頑張るってのも手だけど、拠点は今はウィンラードがいいなあ。親方もいるし武器作成を依頼しやすいし」

「だあね。私も道場もあるしあっちがいい」

「ま、明日は街を散策してさ。明後日かそこらで帰ろっか」

「うん、そうだね……でもティアラ様はどうするの?」

あの執着度具合から一波乱はありそうだと弓花は思っていた。

「うーん、ティアラと一緒に冒険できたら楽しいだろうなぁ」

だが返ってきた答えはただの願望だった。そう口にする風音に弓花は微笑む。相変わらず寂しがり屋な性格だなと。

「まあ、あんたがそんなに入れ込むなんて珍しい気もするけどね」

「ん、そうかもね。ゆっこ姉に似てるからかも」

ゆっこ姉とは風音のゲーム仲間である。近隣の大学生でおっとりとした性格とは裏腹にゼクシアハーツでは殲滅魔術の使い手であった。弓花も風音を通じて面識がある。

「似てるかなあ?」

ただ、ティアラと雰囲気は結構違うと弓花は思う。

「んー、やっぱゴメン。嘘」

そして風音は先ほど言ったことを撤回する。

「余計な理由はいらないよね。単に私がいっしょに居たいだけだ」

そう素直に口に出せる風音が弓花は少しだけうらやましくて、なんとなしに「えいやっ」と抱きついたりした。

しかしそんな穏やかな時間は終わりを告げる。

「っ!?」

突然風音の目が見開いて、ベッドから立ち上がる。

「ちょっと風音、どうしたのよ」

「……血の匂い」

「はい?」

弓花は一瞬何を言われたか分からなかった。

「これ、そとの兵隊さんの?」

そういって風音はベッドから飛び降り、扉を開く。

「お客人。いきなりどうされました?」

外には見回りの兵が二人。バタンと開いたドアに驚き、風音のもとまで駆けてくる。

「ちょっと風音。なんなのよ」

部屋の中から弓花も飛び出す。

「敵かも。弓花はジンライさんを呼んで戦闘準備を。ほかの兵隊さんにも声をかけてね」

そう言いながら風音もアイテムボックスから不滅のマントと狂鬼の甲冑靴を出して履き始める。剣と杖も合わせて取り出す。

「ちょっと困ります。城内では」

いきなり武器を取り出す風音に兵たちも慌てる。

「いいから着いてきて。多分二人ほど死んでる」

風音の言葉に兵たちの顔つきが変わった。

「それはどちらで誰が死んでるんです?」

「知らないよ。ともかく早く一緒に来てってば。私一人でいったらそれこそ犯人扱いされちゃうじゃん」

兵たちはお互いの顔を見合わせて頷き、風音の後をついていった。

◎王城グリフォニアス 中庭

「うっ」

ここまでくればもう風音でなくともわかるほどに血の匂いが漂っていた。そして風音達は匂いのもとにたどり着いた。

「ライアスッ、カイエルもか」

顔見知りだったのだろう。風音と共に来た兵の片方が中庭で崩れ落ちる二人を見て悲痛な声を上げる。

「まっずいなぁ」

それを見た風音がしかめ面でそう口にする。

「何がです?」

もう一人の兵は動揺はあるが冷静な表情で風音に問い返す。

「殺した方の『臭い』がしない。あと、この死体。首を斬られてたのってブレア・デッカーマンの雇ってた盗賊と同じ死に方だ」

その言葉に兵は背筋がゾワッとなる。

「それはつまり、ブレアが来ている?」

兵の問いに風音は頷く。

「それもヤツの狙いは王様の召喚獣だよ。マズいでしょ、これ」

「それは本当ですか!?」

兵はその言葉に衝撃を受けよろめく。さすがにそこまでは知らされていなかったようだ。

「なんて夜だ。すぐにでもレイゲル騎士団長にこのことを」

伝えなくては……という言葉の先が、だがそれ以上続かない。なぜならば

爆炎と共に城の最上部が破壊されたのだから。

そして煌々と黒く輝く炎を纏い、ツヴァーラ王国の守護獣が崩れた壁の中から姿を現す。その傍らには風音が廊下ですれ違ったあの男、ブレア・デッカーマンが立っていた。

「あいつはッ!」

風音が声を上げると、それに反応したのかブレアが風音の方を向いた。

(ッ!?)

視線が合わさる。ブレアは風音の姿を認めると裂けるほどに口元が歪んだ笑みを浮かべてルビーグリフォンと共に跳んだ。

風音に向かって一直線に。