軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四百五話 マリーちゃんと遊ぼう

(さってと、これはどういう状況なのかしらねえ)

前から迫る敵と後ろから迫る敵。どちらも異様な気配を漂わせているがルイーズは後ろから迫る肉塊の方にこそ、どこか恐ろしい予感を感じていた。そしてルイーズは決断をする。

「ライル、あんたは前のヤツを対処してちょうだい。後ろはあたしたちが片づけるわ」

そのルイーズの言葉にライルが「了解ッ」と言って御者席を下りた。

そのライルの横に、周囲警戒に当たっていたタツヨシくんノーマルがやってくる。

現在のタツヨシくんノーマルはオダノブナガ・アシガルの甲冑装備に竜骨槍とクリスタルタワーシールド持ちである。攻撃力には不安があるが盾役としては申し分ないパートナーだ。

さらにライルは専用の不思議な袋を取り出して中身をその場で振るって出した。そして中から出てきたの大量の金属製の骨であった。ライルが双骨玉を発動させると見る見る内に、その散乱した骨が集まり、巨大な骸骨の集合体の化け物が現れた。

それは勿論、ヨハンによって作られたスケルトン『ホーリースカルレギオン』である。その武器には『神聖物質のバルディッシュ』を持たされている。

またホーリースカルレギオンの胸からは、並の大きさの骸骨兵も上半身だけ出ていて、アダマンチウムソードをふたつ握っていた。

そしてマントに覆われた大男に向かってライルたちが駆け出すのと同時に、もう一つの編成が不滅の馬車の前では行われている。

「ティアラ、 炎の騎士団(フレイムナイツ) をお願い。あの肉の塊を囲んで様子を見てみましょう」

「分かりましたわ」

ルイーズが馬車の中に声をかけ、ティアラが頷く。

「エミリィは私と一緒に。シップーはあれに対して牽制をお願いね」

「了解ッ」

「ナーゴ」

エミリィは馬車から飛び出し、シップーは後ろから迫る肉の塊を見ながら頷く。ルイーズも己の装備である迅雷の杖を取り出し構えた。

「そんじゃあ、戦闘開始。相手は魔物じゃないけど、油断しちゃダメよ」

そしてルイーズはライトニングスフィアを呼び出して、迫ってくる肉の塊へと飛びかからせる。

(見た目は酷いけど人間? 女なの?)

ルイーズは改めて相手を見て、その醜悪な姿に眉をひそませる。その敵は異常に肥満化している人間、それも羽織っている布切れから、どうやら女のようだとは理解できた。しかし肌の色は紫がかり、デキモノがところかしこに出来ていて、非常に醜悪な印象がある。そのあまりにも不健康そうな身体にルイーズは顔をこわばらせた。

「近付かないでもらいたいわね。これはっ!」

そう言いながらルイーズはライトニングスフィアを巨大な槍の形にして特攻させる。一撃で決められるなら決める。そのルイーズの意志を宿らせ、雷の槍の速度は上昇していく。それを肉の塊は、

「ビガビガだねえ」

ボゴッとその身体から何かを飛び出させた。それは銀色のクラゲのようなものだ。それが触手を周囲の地面に突き刺す。そしてライトニングスフィアと接触し一瞬光った後、気が付けばライトニングスフィアは消失していた。

「何よ、それッ?」

ルイーズが叫んだ。ライトニングスフィアはクラゲに雷撃を浴びせたが、それは触手を通してすべて地面に流れていったようだ。

「マリーぢゃん、 賢(がじこ) い。お花 咲(ざ) かすの」

グチャリとした笑顔でマリーと名乗った肉の塊は、クラゲを体の中に戻すと再度歩き出した。

『 炎の騎士団(フレイムナイツ) 、取り囲みなさい』

ティアラが 炎の騎士団(フレイムナイツ) を動かす。アダマンチウムの槍と大盾を構えさせながらマリーを扇状に囲んで特攻する。

「真っ 赤(が) なお人形さん 可愛(がわい) いねえ」

そしてマリーは 炎の騎士団(フレイムナイツ) と接触し炎の大盾を焼きごてのように全身に受けた。そうなると当然、肌の肉は焼け焦げるがマリーは特に気にした風でもなかった。それどころか……

「いただきまず」

虫の足のようなモノが腹から生えて、そして腹自身が割けて、口になった。

そのままマリーは 炎の騎士団(フレイムナイツ) を2体ほど噛みついて喰らったのである。

「ええい。なんなのよ、あれ!?」

エミリィが生理的嫌悪感に全身を震わせながらも竜牙鋼の矢を放つ。

「ぐぉんっ!?」

その矢に当たったマリーが仰け反るが、刺さってはいない。

「頭を狙ってるのよ。なんでよッ!」

そうエミリィが叫ぶ通り、エミリィの矢はマリーの頭部に命中していた。それも放ったのは鳥人族のモーフィアから教わった『滅竜』と呼ばれるものだ。それは振動破壊を起こす竜気を用いた技で、普通であれば接触した瞬間に振動による衝撃波が起こり、頭が吹き飛んでもおかしくないハズなのだ。それが当たったことは当たったのだが、そのまま弾かれていた。その原因は頭部の変形である。

「マリーぢゃん、 頭(あだま) が良いの。 凄(ずご) く、 凄(ずご) く良いってマドルも褒めるの」

そう口にするマリーの変形した頭部はどことなくブルートゥザに似ていた。そしてそれを見たルイーズは、ようやくその正体に思い当たるものを思い出した。

「まさか……キメラ種?」

「ナーーー!!」

背後へと忍び寄ったシップーが、飛びかかってマリーを襲う。

「ダメよ、シップー。戻って!?」

ルイーズがそう叫ぶが、攻撃を既に仕掛けたシップーもさすがに止まれない。雷の帯びた爪でマリーを切り裂こうとして、

「 可愛(がわいい) い 猫(ねご) ぢゃん、マリーの 中(なが) で 遊(あぞ) びましょう」

ぐるりと180度首を曲げて後ろを見たマリーの背中から巨大な口が生えた。

「間に合えっ」

「フニャッ!?」

バグンッと音がした。シップーはその場で弾かれて地面を転がっていた。そして転がしたのはルイーズが再度呼び出していたライトニングスフィアで、それはもう目の前の巨大な口の中で喰われていた。

「あ゛れ、 猫(ねご) ぢゃんが転がっでる。増えた?」

モグモグと巨大な口を咀嚼させながら、マリーがそう言う。ライトニングスフィアも内部で舌に絡め取られながら徐々に分解されているようだった。感覚がフィードバックされてその気持ち悪さにルイーズが崩れ落ちる。

「な、ナーゴ」

シップーも最初、何が起きたのか分からなかったが、どうやらライトニングスフィアが自分にぶつかって弾いて、代わりに喰われたのは理解したようだ。

「それじゃあ、また 猫(ねご) ぢゃん食べる。いっぱい食べる」

「逃げなさいシップー。それには近付いちゃダメよ」

膝を突きながらもルイーズが叫ぶ。シップーはマリーに見られて全身が総毛立った。捕食者の目がそこにあった。

「あれがなんなのか知ってるんですかルイーズさん?」

「ええ、知ってるわ。アレは多分キメラ種。魔物喰らいと呼ばれている突然変異した人間よ」

エミリィの問いにルイーズは嫌悪感を露わにして、そう口にした。

「なんです、それは?」

「カザネがスキルを魔物から奪うのと同じように、魔物自身を喰らって魔物の力を奪う存在が世の中にはいるのよ」

その言葉にエミリィは先ほどの光景を思い出す。身体から現れた何かは、確かに魔物の一部のように見えた。

「まあ、ドラゴンステーキとか食べると竜気が出るようになったりと私たちにもその傾向はあるのだけれど、それが異常に高いのが時々生まれて、魔物の肉などを食べて肉体にその力を発現させてしまうことがあるのね」

「そんなの聞いたこともない」

エミリィが視線はマリーに向けたまま、そう口にする。

「こっちの地方じゃほとんどいないわ。大陸の西の方だとそこそこいるらしいけど」

ルイーズも長い人生の中で、3人ほどしか見たことはない。その内、ひとりは暴走状態に陥り、ルイーズも冒険者ギルドの依頼で始末している。

「最悪、人の形に留まれなくなって暴走する場合もあるわ。抑制するのも大変らしいし。でも……」

ルイーズは目の前のマリーを見る。それは制御できているのか、暴走しているのか。しかし、それが自分たちに牙を向いているのは確かなことのようだ。

そして今の自分たちで手に負えないのではないか……ともルイーズは感じていた。一方でライルが相対しているマントに包まれていた大男だが……

**********

「受け止めろ、ノーマル!」

ライルの言葉にタツヨシくんノーマルが前に出て、それを受けようとするが、

「グルッォォォオオオオ!!!」

マントを外したソレの攻撃に構えたクリスタルタワーシールドごと吹き飛ばされる。

「くそったれがッ!?」

ノーマルを見ずにライルが、ソレに特攻する。そのマントの中から出てきた『巨大な白い熊』に槍を繰り出す。

「グルッ」

だが、シロクマは手にはめた巨大な爪付きの手甲でその槍を受け止める。パワー勝負ではまるで歯が立たない。それどころか目の前のシロクマは人間のように体術も使う。

「くっ」

ライルはシロクマにそのまま弾かれて地面を転がる。そしてさらに追い打ちをかけようとシロクマが進むが、それを留めたのはホーリースカルレギオンであった。

「グルォッ!?」

ホーリースカルレギオンが真横に薙いだバルディッシュの一撃をシロクマは片腕で受け止める。さすがにホーリースカルレギオンの巨体から繰り出された一撃は重い。だがシロクマはホーリースカルレギオンの懐に飛び込み、もう一方の手でそのまま貫こうとする。それをホーリースカルレギオンの中に潜むもう一体の骸骨兵がふた振りのアダマンチウムソードをクロスして受け止めた。

ギリギリと両者の力が拮抗する。

「雷神槍ッ!!」

「グルッォォオオ!!?」

そして激突するモンスター同士の戦いの横から一筋の光が貫いた。

「命中ッ!」

ライルがそう叫んだ。ライルが不思議な袋からアダマンチウムの槍を取り出して『雷神槍』を放ったのだ。それは確かにシロクマのわき腹を貫いていた。

だがシロクマの動きは鈍らない。烈火の如き怒りの視線をライルに向けると、ホーリースカルレギオンを力任せに吹き飛ばして、ライルへと特攻してきた。

「マジかよ!?」

ライルはその様子に顔を曇らせながらも構える。まだ本気ではなかったのだ。同時に加減して闘う知恵もあったということもライルは理解する。そして戦いはまだ終わらない。この絶望的な状況にライルは奥歯を噛みしめながら、目の前のシロクマと向き合った。