軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四百六話 シロクマさんと遊ぼう

(……どうする?)

ライルは己の中でそう自問する。

迫るシロクマの攻撃に再び特攻したタツヨシくんノーマルが見事に弾き飛ばされる。タツヨシくんノーマルもその場で転がりながらもゴーレムメーカー付与によるスペル『ファイア・ヴォーテックス』を放つが、体勢が悪い状態で撃ったためにシロクマには命中しなかった。

そしてノーマルを放って迫りくるシロクマの攻撃を、ライルも竜牙槍を構えながら避けた。一撃で命を刈り取られそうな手甲の爪がライルのすぐ横を通り過ぎる。その風の勢いだけで、ライルは吹き飛びそうだと感じた。

「ッあっぶね!」

ライルは思わず叫んだ。また、馬車の方でもルイーズたちが苦戦しているようだった。あの気色の悪い肉塊は存外に強かったらしい。それにしても……とライルは思う。

ジンライと弓花は途中で離されてしまった。風音も直樹もこの場にはいない。主力を欠いた自分たちでは力不足なのは否めない。

(これで死んじまえよ、クマ公ッ!!)

後ろに回り込んだライルは、ようやくシロクマに一撃を与えられると考えた。だが、ソレは甘い。

「マジかよッ」

次の瞬間には大きく腕を振るうシロクマの攻撃が迫り、ライルは反射的に竜牙槍で受け止めて吹き飛ばされた。

(チックショウ)

しかしライルも伊達に鍛え上げているわけではないのだ。飛ばされながらも空中で体勢を整えて、そのまま着地と同時に槍を地面に突き立てて勢いを殺す。だが殺しきれずに、その場で体勢を崩して転がっていく。

「チィッ」

全身がバラバラになりそうだとは感じたが、それを気にして動かないわけにも行かない。目の前から迫る巨大な影があるのだ。

「グルォォオオオオ!!」

それは単純な頭突きからの特攻。しかしシロクマの自重とその速度があれば、ライルひとりを簡単に葬ることは可能だ。また避けるには左右の幅があり過ぎる。下を回り込むのは無理。であれば上……と判断したライルがシロクマに向かってダッシュして直前で飛び上がる。

そしてライルはシロクマの攻撃を避けることには成功した。そのままシロクマの背後へと勢い込んでゴロゴロと転がってから立ち上がる。

「どうだ、チクショウッ!」

どうにか危機は脱せた。しかし、ただ一回避けただけだ。

ライルは間を置かず、アダマンチウムの槍を不思議な袋から抜く。

実はジンライ、弓花、ライルはアダマンスカルアシュラから手に入れた『アダマンチウムの槍』を槍収納用の不思議な袋に詰めてそれぞれ分割して所持していた。

アダマンチウム製の槍は強力ではあるが、特に加工もされていないために作り自体は甘い。なので今のライルたちの装備には及ばないが、投擲用として使う分にはきわめて威力は高い武器になる。

そして、今のライルにとっては竜牙槍を除けば、アダマンチウム製の『雷神槍』こそが最大威力の攻撃であった。

「ホーリー、ノーマル。特攻だ!」

ライルの叫びと共に、ホーリースカルレギオンとタツヨシくんノーマルが走り出してシロクマに突き進む。そしてシロクマがそれを強引に薙ぎ払おうとするが、さすがに二体同時は厳しいのだろう。

タツヨシくんノーマルは弾き飛ばされたが、ホーリースカルレギオンはどうにか抑えられた。

「喰らえぇええ!!」

そこにライルの渾身の『雷神槍』が投げつけられる。

「グルォッ!?」

そしてシロクマの背にアダマンチウムの槍が突き刺さった。全身に稲光が走り、確かにその攻撃は通った筈だった。

(マジかよッ)

しかしライルの顔は歪んでいた。目の前の現実を前におののいていた。

シロクマの気勢は衰えていない。その動きも鈍くなった様子はなかった。

渾身の一撃を込めたハズのその槍は、シロクマの筋肉を通しきることは出来なかった。その事実がライルの心に絶望という感情を浸食させる。

(いや、まだだ。まだ、やりきってねえ)

しかしすんでのところで、ライルは折れそうになる心を必死に奮い立たせた。まだ、すべての手を尽くしたわけではないのだ。

( 殺(や) るなら頭でも狙うしかねえッ……か!?)

思考するライルの目の前にまたソレがやってきた。

その再び突撃してくるシロクマに対してライルは今度は右に飛んで避ける。しかし避けきれない。

「くっ!?」

シロクマとの衝突をライルは反射的に竜骨製のライトシールドで受ける。それで直撃は免れた。しかし思いっきり弾き飛ばされた。

「がぁあああああああっ」

そしてライルの身にあまりにも激しい衝撃が走る。

周囲の光景がグルグルと回り、そして地面を盛大にライルが転がっていく。何度、地面に落ちたのか。ライルの全身はもうズダボロになっている。

だがライルはまだ耐えていた。ここで意識が刈り取られなかったのが不思議なくらいだろうが、風音から授けられた竜鱗の鎧の防御力がわずかながらではあるが辛うじてライルの命を救っていた。

「考え中だぞ。バカやろうッ!」

どうにか立ち上がったライルは腹立ち紛れに思わず叫ぶが、当然シロクマがそれを考慮することなどない。

タツヨシくんノーマルとホーリースカルレギオンがそのシロクマを追うが、シロクマの視線は完全にライル一人に定められていた。

もっともそれも当然ではあるのだろう。ここまででシロクマにダメージを与えているのはライルの放った雷神槍のみなのだ。そしてホーリースカルレギオンとタツヨシくんノーマルを操っているのもライルだろうとはシロクマも気付いていた。

(カウンター……特攻……ゼロ距離……やるしかないか)

対して全身にダメージを負っているライルはもうここで覚悟を決めるしかなかった。腹を据えるしかなかった。

(チクショウ。マジで追いつめられてやがる)

この白き一団に入ってからは常に近くに自分より強い誰かがいて、ライルは最終的には手伝う立場であったことが多かった。だが、今は違う。

ライルは口の中に溜まった血を地面に吐き出すと、シロクマに向かって構える。しかし今度はシロクマは特攻ではなく、両腕を振り上げて襲いかかってきた。

(ははは、泣けるぜ)

覚悟を決めたが、突撃でなければ、カウンターは決められない。であれば、それを狙わせるしかないと考え、ライルは叫んだ。

「うぉぉおおっ!」

そしてライルが槍を持って突撃する。

「グルォッ」

シロクマも叫んで走り出す。そして右手を振りかぶってライルに殴りつけ、それをライルは飛び上がって受け止めた。

「グッ、ぁぁあああああ!?」

全身を走る痛みにライルが悲鳴を上げる。身体が千切れそうになりそうだと感じながら吹き飛ばされる。そして空中をまるで独楽のように回りながら、ライルはシロクマから10メートルは飛ばされた。

それをライルは耐えた。耐えきった。狙い通りだ。距離を離して仕切り直し。もはや身体を動かせるのが不思議なほどのダメージを負いながら、立ち上がった。そして槍を構えようとして、

シロクマが特攻してくる。『狙い通り』だ。今度こそ突進攻撃がやってきた。

(もう、ここを狙うしかねえんだよ)

意識は薄れる。だが、悪くはない。体が軽い。体が熱い。いつもよりも調子が良い。そんな幻想を、ライルは全身から湧き出る闘気を纏うことで現実へと変える。それは風音が修得した『赤体化』そのもの。

そして狙うのはカウンターだ。今ライルが持っている最大の攻撃は雷神槍。そしてそれを本来は防御手段である『反響の盾章』の反発力を槍そのものに掛けて強引に速度を上げて、

「喰らえぇえ!!」

「グルォォオ!!」

飛びかかるシロクマに、ほぼ溜めなしのゼロ距離『雷神槍』を放った。

そしてシロクマの頭部が粉砕される。同時にライルもそのままシロクマに弾き飛ばされる。

全力で撃った。だが護りは考えていなかった。頭部を破壊されようとシロクマの勢いは止まらない。ライルはその場で大きく跳ね飛ばされ、弧を描きながら宙を舞って、そして地面に激突した。

「兄さんッ!?」

それを見たエミリィが叫んだが、ライルはピクリとも動かない。生きているのか死んでいるのか。そしてシロクマは……

破壊された頭部が煙を上げながら修復されていた。