軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四百三話 死者と語ろう

「ぐ、ギギギギ……」

さて、どうしたものかと考えていたジンライの目の前で、動き出す者がいた。それはさきほど血の海に沈んだ暗殺者モバロである。それがおかしなうめき声をあげながら動き出していた。

やはり、敵もそれなりの強さなのだ。いかにジンライといえど一撃で倒せるわけがなかった……というわけでもなく、どうやらその死体を操る行儀の悪い者がいるらしいとジンライは認識していた。

「ふむ。早々に燃やしておくべきだったか」

そのジンライのつぶやきにモバロが反応する。

『はははは、我々以上に容赦のない男だな』

あまりおかしそうではない笑い声がソレから発せられた。

『手並みは見事。勝てるとは思わなかったが、まさか勝負になる前に殺されるとは……その腕、見誤っていたようだ』

そしてモバロは立ち上がり、そう口にした。さきほどまでのモバロとは違う、どこか年輪を重ねた声だとジンライは感じた。

「ふん。お前がワシ等の敵か?」

今度はジンライは不意打ちはせずに口を開いて対話の姿勢を見せた。目の前の死体は所詮操り人形だ。それを始末することの意味は薄そうだとジンライは考えた。もっともそれよりも、先ほどまで放置されていた現状が唐突に変化したことの方が重要だろうか……とも思考する。

『そういうことだな。我々の目標はティアラ王女だが、その護衛であるお前たちの始末も請け負っている』

その言葉にジンライが目を細める。

「手強いことは知れたのだろう。ならばワシなど放っておいてティアラ様たちを先に狙えば良かったのではないかな?」

ジンライの言葉に、モバロから発せられる空気が変わる。作戦目標を第一に、そして弱き者から先に狙うのは当然の判断だ。だが、それを目の前の男はしなかった。

『我々は……』

「ふむ……時間稼ぎか」

ジンライはそう呟いた。それに声の主から若干の苛立ちのような気配を感じる。

「よほど 雷神砲(レールガン) を撃たせたくないと見えるな」

そうジンライは断言した。モバロの表情が険しくなる。

『存外に賢しいな、ジンライ』

「相手の嫌がることを考えるのが戦術と言うものだろう殺し屋?」

モバロを操る者にジンライはそう返した。確定である。キッカケは恐らくさきほどのモバロの『テメェが中で暴れてたから結界の修復にも時間がかかったのかよ?』という言葉だろう。そもそもこの小男がジンライの前に出てきたこと自体がおかしくはあるのだが、続けてジンライを狙うのも妙だ。わざわざ第一目標から脅威である弓花とジンライを離したのだから、さっさとティアラたちを狙えば良いのだ。なのにジンライに構おうとする。

であればジンライを放っておけなくなった事情が出来たのだろう。

『まったく馬鹿な仲間は手強い敵以上に厄介だな』

モバロの口からそう愚痴が漏れた。隠す意味がないと知れたのだ。その言葉にジンライは風音と直樹を思い浮かべる。

風音の馬鹿な行動は良い馬鹿で、直樹の姉馬鹿は悪い馬鹿だな……とジンライはひとり頷き「まあ馬鹿も種類によるだろう」と返した。

そしてモバロという男の馬鹿は悪い馬鹿であったのだろう。

ジンライは当然知る由もないが、ジンライが殺したモバロという男は暗殺ギルドの盟主から送りつけられていた組織の暗殺者でありボルジアナのピエロの監視役でもあったのだ。監視が鬱陶しい以上にいずれ仕事でボロを出すだろうと考えていたマドルがここでついでにモバロを始末しようと画策してジンライに当てたのだが、懸念は最悪の形で現実となっていた。

雷神砲(レールガン) が有用と知られたのだ。

故にマドルがジンライの前に来ざるを得なかった。当面は放置しておく予定だったジンライに対して最大の戦力であるマドルが出向かなくてはならなくなったのである。

ここまでマドルたちが仕掛けられなかったのは何も弓花の槍のせいだけでなかった。途中で放たれたジンライの 雷神砲(レールガン) にもマドルは結界の修理に時間を費やされていたのだ。

『一応、訂正はしておこう。時間稼ぎではないよ。私なら殺せると判断したからここにいるのだ。仲間の元へ送ってやろう、ランクS』

「それも間違いだな。まだ『誰も』死んではおらん」

『そう思っておけばいい』

挑発に挑発を返したジンライの言葉にモバロの死骸は胸の槍を抜いて片手で構える。その反対の手にはヨルムンの毒針という武器を持っていた。

(ふん。ルイーズ姉さんたちにはシップーをつけておる。何も起きていないのは明白だがな)

ジンライは自分がここに落とされる際にシップーをルイーズたちの元にいかせていた。そして連絡こそ取れていないがジンライもユッコネエと同じようにシップーとリンクしているためにシップーが倒されればすぐさま感じるだろう。

そして先にパーティから離された弓花についてはジンライはまるで心配もしていない。

(負けることがないとは言わんが、死ぬことはあるまい)

ジンライは己の弟子をそう判断していた。ここまでの過程でジンライは弓花の資質を把握している。驚くべきなのは、その負傷率の低さだが、同時に撃破数においても風音の大量破壊技を抜かせば常にトップなのである。

何故か気付いたらジンライよりも戦果をあげていることが多い、油断ならない弟子である。

ジンライは闘うために槍を握るが、弓花は生きるために槍を握る。そうしていくうちに戦いを効率よく殺しに特化させていった天然の殺し屋のような存在というのがジンライの弟子の評価だった。だからジンライは弓花がやられるなど微塵も考えていない。それだけの信頼を寄せている。

ともあれ、今は自分の相手だ。

そして空中に突然出現して背後から迫ってきた針をジンライはすぐさま弾いた。

『チッ!?』

その反応速度の速さにモバロが驚くが、それもジンライにしてみれば不思議と言うほどのものでもない。

今の空中からの針の攻撃は転移術によるものだ。転移術には出現の際に空間に僅かばかりの魔力反応がある。そして転移の出掛かりを直樹との特訓で理解しているジンライは、容易にそれを察知することが出来ていただけのことだった。

(悪魔がやらんとも限らんからな)

そうジンライは心の中で呟く。転移術は悪魔の 十八番(オハコ) ではあるが、その用途の多くは移動手段である。しかし直樹のように攻撃に転換している悪魔がいてもおかしくはない。それに対抗するための特訓をジンライはまだわずかな時間ではあるが行っていた。

そして、今弾いた針は目の前のモバロの死骸が持っているモノのようだった。であれば、次手を防ぐのは容易である。

「ジン、そろそろ出てこい」

『了解した』

その会話にモバロが目を見開く。そして一気にモバロが貫かれた。

それを行ったのは骸骨竜騎士ジン・バハルだ。その右手には再度モバロを貫いた黒の竜牙槍『悪食』が、そして左手には今モバロから奪ったヨルムンの毒針という武器が握られていた。

ジン・バハルの召喚の媒介はモバロが握っていた黒の竜牙槍『悪食』だ。つまりジンライは『悪食』を持っていたモバロをいつでも再度倒せたのである。それ故に会話に応じるほどの余裕を見せていた。

そして、そのままジン・バハルはジンライの元に戻り、ヨルムンの毒針を手放した。

『それなりに強力なもののようだ』

「暗殺者向きか。レアアイテムならカザネも喜ぶかもしれんな?」

まるで孫への土産のような気分でジンライはそれを不思議な袋へと入れる。

そしてジン・バハルは続けて黒の竜牙槍をジンライへと手渡し、ジンライも左手に持つ白の竜牙槍『神喰』から召喚槍グングニルを呼び出してジン・バハルへと手渡した。

『それで、これからどうする主よ?』

そのジン・バハルの言葉にジンライは笑う。

「まあ、 雷神砲(レールガン) でさっさと結界をぶちこわしたいところなのだがな」

そう言いながら、両腕の槍を構えて、そして突然飛んできた何かを弾き落とした。

『ギャンッ』

その落とされた何かは叫んで、そしてその場から飛んで逃げた。

「硬いか」

ジンライはそう口にしながら、飛び下がった何かを見た。ジンライは確かに襲ってきた何かを狙って突いたつもりだった。だが、その相手はピンピンしていた。

『やーい、お兄ちゃん潰されたー』

『うるっせいやい。次はちゃんとあの首をかっ斬ってやる』

そして、そこにいたのは子供たちだった。いや子供の姿をした人形たちのようだ。

女の子の人形には巨大な鉈が、男の子の人形には巨大なハサミが握られていた。ボールジョイントをギリギリと動かしながら、子供の人形たちはジンライとジン・バハルに視線を向ける。

『人形とはな』

「カザネが見たら喜びそうではあるが」

ジンライとジン・バハルは槍を構える。さきほどのモバロとは違う、恐るべき速度と防御力。油断ならぬとジンライは理解する。その正体は風音があれほど欲しがっていたものだった。つまりはそれだけ強力なシロモノだということ。

そして、それは動き出した。人形使いの操る人形。 猿(ましら) の如き機動力を誇る古の殺人機械がジンライに対して飛びかかってきたのだった。