軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三百九十七話 敵を知ろう

「娘が襲撃を受けているですと」

王の間にて、さきほどまで就寝に入ろうとしていたアウディーンが悲鳴のような声を上げた。それは、既に王城グリフォニアスに到着していた蒼焔のアオから突如面会を求められ、そして出会い頭に白き一団への襲撃を告げられたためだ。

「そうです。起きたのはジランの街とトルダ温泉街の間の街道でだと思われます」

「それは、真ですか?」

アウディーンの座る王座の横に付けているレイゲルがそう尋ねる。礼を失した行為だが、突然に夜やってきて王女が襲われていると騒がれては胡散臭くレイゲルが思ったとしても仕方のないことだろう。それが建国以来のツヴァーラの後ろ盾であろうとだ。

「ええ、私は風音さんたちと連絡を取る手段を持っています。風音さんは今は別の場所にいるそうですが、ティアラ王女とともにいる弓花さんたちは現在襲撃している 腐食鬼(グール) との戦闘に入っています」

風音と連絡出来ると聞いてアウディーンが一瞬ぐぬぬとなったが、それを顔には出さず(と本人は思っている)に眉をひそめてアオを見る。今は娘のピンチである。私情は横に置いておくしかない。

「レイゲル、ジランへ通達。すぐさま兵を率いて王女の救出に迎うよう伝えよ」

「はっ」

アウディーンの言葉に従い、王宮騎士団長レイゲルがその場から離れようとする。しかし、それをアオが引き留めた。

「お待ちください。現在、弓花さんたちは通常空間にはいないようです」

「どういうことです?」

「結界の中に閉じこめられたらしいのです。探索には高ランクの術士が必要となるでしょう」

「なんと。それは……どれほど高度な術士が相手にいるのか」

空間魔術という魔術は非常に高度な術だ。その魔術を扱う空間術士は見た目以上に様々なモノを詰め込める不思議な袋などを製造していることで知られてはいるが、扱える者が少ないことでも有名だ。

「だが、術者を倒せばよいのであればジンライ殿とルイーズ殿がいるのではないか?」

かつてはメフィルスと共に冒険者としてパーティを組んでいたふたりがティアラと一緒にいるのだ。それは数十人の兵よりも心強いとアウディーンは理解している。だがアオの顔は晴れない。

「それを期待したいところですが、相手も相当の手練れのようです。どう誤魔化してるのか、作られた空間は地平線まで見えるような場所らしく、世界の区切りも見えないそうです」

「それは……」

そこまでいくと人の仕業とは思いがたい。魔物の中には敵を逃がさぬ為に己の自在に操れる空間を造る種類もいるのだとアウディーンは聞いている。風音曰くボス空間である。

「暗殺を依頼した貴族たちが殺されたので解決したのでは……という期待もあったのですが」

「そうそう上手くはいかぬな」

レイゲルの言葉にアウディーンがそう答える。そこにアオが口を挟んだ。

「その、貴族たちの不審死については伺っていますが、どういった死に方であったかは分かるでしょうか?」

その言葉にアウディーンがレイゲルに説明を指示し、レイゲルが答えた。貴族の名は伏せたが、その死因や屋敷の人間が皆殺しにされていたことなどを聞いて、アオの顔が険しくなる。

「何か、心当たりでもおありですか、アオ殿?」

そのアウディーンの言葉にアオが頷いた。

「ここより西方の我が里の近くの話となりますが」

そう前置きながらアオは話を続ける。

「ヌマ共和国のタイハク山という場所に山老という存在がいます。神の一柱なのですが、それが『夜の安息』を司る者と言われているのはご存じでしょうか?」

アオの言葉にアウディーンが頷いた。

「暗殺者の崇める神ですな。確かその神を信奉する盟主と呼ばれる存在がいて暗殺ギルドに指示を出していると聞いておりますが」

そのアウディーンが答えた内容は定説と呼ばれるもののひとつで、事実に即しているかはアウディーンたちも把握はしていない。しかし、アオはその言葉に頷いた。

「おおむね間違ってはいません。ですが、盟主ではなく山老より直接、暗殺の依頼を受ける者たちもいるようなのです。その中で特に名を聞くのが『ボルジアナのピエロ』という特異な技を使う集団なのですが」

「それが貴族たちを殺したと?」

レイゲルが身を乗り出して尋ねる。

「斬殺、圧殺、毒殺、刺殺に血を抜き取られた衰弱死。それらが過去にボルジアナのピエロが殺害したであろう殺し方と特徴が似ていると思います。それに彼らは依頼主も殺すと言われています」

その言葉にはアウディーンがギョッとなった。

「それでは、依頼をする者などいないのでは?」

「まあ、普通に考えて暗殺を願った当人が依頼をかけることはないでしょうね。大概が配下の者に調べさせて連絡を取らせるそうです。そして連絡が付いた配下は証拠隠滅に殺されるわけですね。故に本来の依頼人も相手を知ることはない。そうして数百年と存在し続けているにも関わらず連絡経路が未だに掴めない存在がボルジアナのピエロなのです」

アオがそこまで話すとアウディーンとレイゲルが息を飲んだ。

「もちろん、そうではない可能性はありますが、しかし現在、弓花さんたちが別の空間にいるというのも気がかりです」

「というと?」

「ボルジアナのピエロに狙われた者はどれも移動した形跡もなく忽然と行方不明となり、数日後に忽然と惨殺された姿で発見されるのです。今回のように異界に連れ込まれていたと考えればなるほどとも思えるのですよね」

その言葉にアウディーンとレイゲルの表情はさらに曇る。そしてアウディーンはレイゲルにツヴァーラの空間術士の召喚とグリフォンライダー部隊を動かすことを指示し、自身はルビーグリフォンの契約を介してメフィルスとの連絡を取ろうと動き出した。

**********

「ックション。誰か、俺のことを噂してやがるな」

暗い夜の草原を、青白い焔のようなオーラに包まれている白骨馬に乗って男が進んでいる。そして、その先には炎が見えた。それはたき火の火であった。その炎の前まで男が近づくと、そのたき火の前で座っていた細身の男が声をかけてきた。

「遅かったな」

「すまないなボス。連中が存外に早くてな」

そう声を出したのは、かつて弓花とやり合い敗れた男イジカである。トルダ温泉街で潜伏していたイジカは水晶馬と不滅の馬車の速度に追いつけず、こうして後からやってきたのだった。

「けどまだ終わっちゃいねえだろ?」

イジカは細身の男にそう尋ねる。

「 腐食鬼(グール) ごときではな。まあ、とはいっても3時間だ。交代で対応しているようだが、疲労が蓄積していくのは避けられないだろうよ」

イジカもそれは最初から分かっていたのだろう。細身の男の言葉に口元をつり上げて笑うだけだった。

「アダジ、綺麗な花、咲かせたい」

それはたき火の前で座っているグブブブと笑う巨大な肉の塊からの言葉だった。

「はっ、その前に俺が全部腐らせちまうよ」

離れて座っている小柄の男が、肉の塊に服を着せたようなソレに対してそう返した。

「グルゥウ」

その言葉に一緒にいる巨大なマントにくるまった大きな者がうなり声を上げた。

「あ、いや。わーってるよゴーラの旦那。あんたの分はちゃんと残しておくさ」

小男がゴーラという大男に、怖々という顔でそう答えた。そして、うなり声が止んだ。

「モバロもあまり軽口を叩くな。そんなことを言っていると、せっかくの楽しみをお前こそ奪われるやもしれんぞ」

この集団の中心人物あろう細身の男の言葉にモバロは肩をすくめる。

そして、その細身の男の手には赤い丸い玉があった。そして、その赤い玉の表面には、どこかの荒野で迫り来る 腐食鬼(グール) たちと戦っている者たちの姿が映し出されていた。

「マドル。アダジ、早くグチャッてじたい。綺麗なの 潰(ヅブ) してもっと綺麗にずる」

「分かっているよマリー。今回は綺麗どころが多い。久方ぶりに色々と楽しめそうだ」

マリーと言われた肉の塊にマドルと呼ばれた細身の男が返す。

「さて、イジカも来たところで、そろそろ切り分けようか。今回の目標はツヴァーラのお姫様だが、牙の槍兵に 血塗れの狂戦士(ブラッディベルセルク) に悪魔狩りの虐殺姫様もゲストでお招きしている」

その言葉にその場の全員の目の色が変わる。

「よく喰らい、よく騒ぎ、よく殺そう。山老もそれをお望みだ」

「さあ、パーティの始まりだ」

そして男の持つ赤い玉に移る荒野に地割れが……