軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三百九十八話 一矢を報いよう

白き一団が突然訳の分からない空間に閉じこめられて、そして 腐食鬼(グール) の群れと相対し続けてから既に3時間が経過していた。

その間に分かったことはこの道は延々とループしていること。 腐食鬼(グール) は大量に出ているように見えて実のところ一定数しか出現していないようだということだった。

ルイーズが召喚精霊で馬車から離れた 腐食鬼(グール) の様子を確認したところ、不滅の馬車が通り過ぎた後の 腐食鬼(グール) はまるで泥人形のようにボロボロと崩れて消えていったとのことである。この 腐食鬼(グール) たちは弓花たちを襲うために現れて、離れると消えるを繰り返しているのだ。

もっともその行動に今の時点では変化はない。弓花とジンライもこの 腐食鬼(グール) の侵攻には次第に慣れていった。現在では他のメンバーたちも戦力として交えながらローテーションで回し、休みながらも戦闘し続ける。

そのように対応しても疲労は溜まることは間違いないが、少なくとも今はまだ保ち続けている。

問題はここから抜け出せないということだ。唯一の連絡手段はウィンドウのメールだけ。だが現在位置は分からない。打破するためには何かしらのきっかけが必要だった。

「はい。果汁水のヤツ」

「あ、あんがと」

白石馬の上でヘトヘトになっている弓花に、併走している馬車の中からエミリィが水筒を手渡す。今はジンライとティアラの 炎の有翼騎士(フレイムパワー) で 腐食鬼(グール) たちを蹴散らしている。やはり数は一定以上は増えないが減りもしないようだ。であれば、いずれはこちらも力尽きるのは目に見えていた。

「あれはたぶん、 腐食鬼(グール) の召喚体ね。それも結界内で魔力を循環させて動かすタイプ。魔力消費も術者にはほとんどないかもしれないわ。厄介なことだけど」

ギリギリと歯ぎしりしながらルイーズがそう口にした。

「私はまだ神狼化があるんで疲労はなんとかなるんですけど」

そう言いながら弓花はジンライを見た。先ほどに比べて動きがすべてコンパクトに変わっている。エネルギーロスを減らすために、その動きを最小に絞って動いている。それは一緒にいるシップーも同じでジンライと共にその動きを最適化し続けていた。だがそれでも限界はある筈だった。解決策がなければ、弓花たちは終わってしまう。

(いっそ、ルイーズさんの大技で地面でもぶち抜いて貰うとか?)

風音も狂い鬼の結界を破壊行為でブッ壊したと聞いている。無限に続いていそうな空ならばともかく、目の前の地面に放てば……と、そう弓花が思ったときだった。

突如として地割れが起きたのは。

「なっ!?」

弓花はそれに目を丸くする。その地割れは弓花のちょうど真下に広がったのだ。

そして、弓花のいる地面が割れ、馬車が上へ、いや弓花自身が下へと落ちていく。エミリィの声が聞こえたが、それすらも遠くに感じるほどに、下へ、下へと落ちていく。

「なんだってぇのよっ!?」

弓花は叫んだ。白石馬もこの状況では役には立たない。弓花は白石馬ヒッポーくんハイを飛び降りて、崩れる岩場を見ながら、ウィンドウを開き、素早くスキルの『ゾーン』を選択し発動させる。

(世界が広がるッ!?)

そして弓花は周囲が止まったように感じ始めた。集中力が高まり、その場のすべてを弓花は把握していく。弓花は崩れる岩場の岩を器用に飛び越えると、そのまま地面への激突にはバーンズ流槍術『反鏡』を用いて衝撃を相殺し、さらには落ちてくる岩を槍で弾きながら横へと飛んだ。

それはほんの一瞬の時間の中でのことだった。

岩が地面に激突し、土煙が上がる。白石馬ヒッポーくんハイは巻き込まれて粉砕されていたが、弓花は何とか逃れていた。しかし、弓花の視線は地面と激突した岩とはまた別の方角を見ていた。

(今、確かに?)

この落下の過程の中で弓花は、一瞬自身を覗く相手を見た気がしたのだ。スキル『ゾーン』によって研ぎ澄まされた集中力が不可視の空間内にある僅かな違和感に反応していた。

それはただの勘だ。だが、弓花の中ではそれは噛み合った。故にアイテムボックスからアダマンチウムの槍を取り出すと、

「そこかっ!」

その勘のままに何もないはずの空間に向かって槍を投げつけた。そして、その何もないはずの空間に投げられた槍が消滅し、その場で魔力の火花が散ったかと思えば、途端に世界にノイズが走った。

「やった……わけじゃあ、ないわよね?」

弓花はそう呟く。別に元の場所に戻ったわけではないようだ。そして周りを見渡すと、そこは崖の底のようであった。

上を見上げたが、とても登るのは無理そうである。どこまでも、それこそ無限のような高さで、その先は闇に繋がっていた。

だが、赤い月もそこにはなかった。見られている気配も、何かしらの意志も感じない。ただ制止した世界がそこにはあったのである。

「師匠たちは……大丈夫だよね」

弓花はそう考える。自分が大丈夫なのだからジンライも大丈夫だろうと無条件の信頼でそう判断した。エミリィたちは分からないが、少なくとも一緒に落下したわけではなかったし、その場に留まっていた筈だ。

そして弓花はクロマルを呼び出して、一度周囲を確認した後、その場で腰を下ろした。

腐食鬼(グール) たちも出てはこない。少なくとも、今の時点では敵の攻撃は止んだと弓花は見た。あの放った槍が何かしらの効果を生み出したとも弓花は判断していた。

その後、弓花は『化生の加護』スキルにより使用スキル『犬の嗅覚』から『直感』へと変更する。急な何かが起きたときの対応には『直感』の方が役には立つ。

そして弓花はクロマルに周囲を警戒をさせつつ、風音とアオへの連絡だけをして自分は体力を回復させるべく、しばしの休息に入ったのだった。

**********

一方で、弓花たちの閉じこめられた空間の外では悲鳴が響きわたっていた。

「グアァアアアアアアッ!?」

それは、ティアラを狙うボルジアナのピエロの集団の集まりの中で、リーダーのマドルがあげた悲鳴だった。メンバーたちの目の前で赤い玉から槍が飛び出しマドルの肩を貫いたのだ。

「くくく。やっぱりやるなあ、嬢ちゃん」

「笑ってるんじゃあないッ!」

口元を抑えて笑うイジカに怒鳴りながらマドルが肩から槍を抜く。

「 綺麗(ギレイ) ……」

その傷痕を肉の塊のマリーが嬉しそうに見ているが、その間にもマドルの肩の傷口がシュウシュウと煙を上げながら修復されていく。そしてマドルは手に持っている槍を観察する。

「なるほどな。アダマンチウム製か」

ギュッと槍を握る力が強くなる。

「特別な力は付与されていないようだし作りも甘いが、その材質だけでもアレの実力ならば結界を抜けるには十分ということか」

そう口にして槍をその場に突き立てた。そして怒りを吐き出すかのように息を吐くと、マドルの表情はいつものものに戻っていた。

「お前が入れ込むのも分かるぞイジカ」

そのマドルの言葉にイジカの口元がつり上がる。

「以前よりも成長している。素の俺じゃあ勝てないな」

そうイジカは口にするが、その表情は寧ろ歓喜に満ちあふれていた。そのイジカの表情にマドルが少し笑うが、しかし手に持つ赤い玉を見てため息をついた。

「だが、困ったことにはなったな」

マドルの持つ赤い玉は若干ひび割れ、そこからわずかに魔力の光が漏れながら不規則に淡い光を放ち続けていた。

「今の攻撃であちらへの接続が不安定だ。干渉が出来ん」

そのマドルの言葉にその場にいる一同がざわついた。

「もしかして、すぐには繋がらないってんですかい?」

小男のモバロの言葉にマドルが頷く。

「かといって、解除してかけ直すわけにもいかん。ジランの街からも探索の手が出てくるかもしれん。一旦、ここを離れて修復に入るぞ」

そう言ってマドルは仲間たちにこの場の撤退を指示し、その場を後にしたのである。そして彼らが当たっていたたき火の火も消され、マドルたちの痕跡も共に消えてしまう。そして数時間後にツヴァーラのグリフォンライダー部隊がこの上空を通り過ぎるのだが、彼らはたき火の跡すら発見することは叶わなかったのであった。