軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

王国の守護神

ソルダード王国。

かつて隣国であるミンシアナ王国と正面衝突にまで入ろうとしていたその国は今は突如として現れたバローム・ソルダードという男により王権を簒奪され、バロームと落ち延びた貴族たちとの内戦状態に入っていた。

とは言っても、今や王族は第三王女であったミリエール・ソルダードただひとりであり、その夫であり現国王であるバロームに対して、貴族たちが持ち得る大義名分は少ない。またバロームにしても国内の粛清をある程度終えるまで反抗勢力を敢えて泳がせているというだけに過ぎなかった。

下手に地下に潜伏されるよりは、旗印として置いておいた方が管理もしやすいというもの。追い立てられた貴族たちがそうして動いている間にバロームは徹底して王侯貴族を弾圧し、自らの望むように国を造り変え続けていた。

「バローム、今日はお空が暗いわねえ」

「ああ、夕方には雨も降るだろう。そのお腹にはこの冷たい風は毒かも知れない。もう中に入っていたほうがいい」

王都マウアーデント中心にある王城バロルガ。その王族専用のバルコニーにいるのはかつて第三王女と呼ばれ、現在はソルダード妃であるミリエール・ソルダード。

少女のような幼い容姿のその女性へ声をかけてから、バロームは王の間へと進んでいく。未だ二十歳を越えたばかりのまだ年若い男だ。だがその表情は歴戦の戦士のソレであった。

「まったく良い気なものだな」

『まあ、そういうな。あれはあれで中々に 強(したた) かだ』

王の間に入って呟いた言葉に、どこからか声が挙がる。

『お前に対しては愚かな女であることが望ましいと理解している。子が産まれれば、外の貴族たちと手を取り合ってお前の暗殺に乗り出す気だろう』

「そう誘導しているのはお前だろうに」

バロームはそう言いながら王座にドサッと座り込んだ。

『そうした餌があればこそ、従っているとも言えるな。市井の男の子を身ごもるなどアレにとっては業腹以外の何物でもあるまい』

その声にバロームは笑う。

「自分の肉親を俺に殺させておいて抜け抜けと。血を継がせることが条件でなければ、早々に始末したいところだよ」

『それは困るな。 某(それがし) にとってソルダードの血筋が消えるのは自身の喪失と同じことだ』

「どうせ、俺の知らない血の流れも確保しているだろうに」

バロームの皮肉の入った言葉に、その声はかすかに笑った。

『簒奪者から王の血の者が王位を取り戻すのは物語としては定番であろう』

「チッ、相変わらずだなエルバロン。久々に戻ってきたと思えばそれか」

『戻ってきたと言っても 某(それがし) の本体は常にこれ一つなのだがな』

その声の主は王座の後ろに立つ4メートルほどの真白い甲冑であった。その中には誰も入ってはいないが、確かに気配はそこから出ているし、声もまた同様である。

その鎧の正体こそソルダードの守護兵装、守護騎士『エルバロン』。

それは、ミンシアナの宝剣『白剣』、ツヴァーラの守護獣『ルビーグリフォン』、ハイヴァーンの神槍『グングニル』などと同様に 魔力の川(エーテルライン) と接続し強大な力を振るえる意志ある鎧である。そしてハイヴァーンのノーマンのように神と称される存在でもあった。

市井の出であるバローム・ソルダードが王位につけたのは王女を娶っただけではなく、このエルバロンがバロームを認めたことが大きい。そのエルバロンにバロームが尋ねる。

「本体はともかく、お前の意識は憑依した鎧の中にあるはずだ。確かリンドー王国に行っていたはずではなかったのか?」

バロームの言葉に、エルバロンはやや嬉しそうに言葉を返した。

『失敗した』

「……ほう」

その言葉にバロームの目が細まる。

「ここ最近はそればかりだな」

『そうでもないが、まあ、今回は愚かなる仲間が本来避けるべき相手に遊び心で手を出したのが原因だ。手痛い火傷を負わされ、這々の体で帰ってきたというわけだな』

「なんだ、そりゃ。おまえたちが恐れるような相手がいるのか?」

バロームが愉快そうに笑う。

『然り。我らが手を出すには様々な意味で厳しい相手だ。『白き一団』、わずか数ヶ月であそこまで強くなるとはな』

「ほう。その名は聞いたことがあるな」

ここ数ヶ月でドラゴンを何体も殺している生粋のドラゴンスレイヤーのパーティだとバロームは記憶している。ミンシアナとハイヴァーンの中枢とも親交があるとも聞いていたが、ここでも名を口にされるとは当然バロームも思ってもみなかった。

「そいつら、何をしたんだ? いや、しようとしたお前たちが止められたのか?」

『リンドー王国内を浸食するのに中々手間がかかっていてな。邪魔になっていた男を街共々始末するついでに見せしめに我らが力を示そうとしたのだがな……』

「杜撰だな」

『所詮は子供の考えることだ』

そっけなく答えるエルバロンにバロームが「ははは」と笑った。

『 某(それがし) はただの助っ人だからな』

そう、言い訳をするように話すエルバロンにさらにバロームが笑うが、ひとしきりり笑い終わるとひとこと口にした。

「酷い話だ」

『とはいえ肥え太りながら不老不死を望み続ける連中が相手だ。成功していれば問題はなかったのだろうが』

「しかし、失敗したと……その割りには嬉しそうだな」

さきほどからエルバロンの機嫌は良いようだった。

『まあ、そうだな。今回の手伝いの理由は、強き剣士と戦うためだったが、相手は違ったがそれも達成はできたしな』

喜色に満ちた声で返される言葉に、バロームは嘆息する。そして長きにわたり、このバトルジャンキーに支配されている自分の国を心の中で嘆いた。

「いや待て。あの武具はどうした?」

バロームが目を見開いてエルバロンに尋ねる。

『増魔の鎧は破壊された。夜王の剣と天鏡の大盾は奪われただろうな』

その言葉にバロームはうなる。いずれも国が管理するほどの強力な武具であったのだ。

「勿体ない。我が国から奪われたものだから返せとでも言っておくか?」

『アレを手にする権利があるのは勝者のみ。無粋な発想だな庶民』

「はいはい。冗談だよ、クソ」

バロームはそう言って舌打ちをする。

『とはいえ、仲間も当分は動けないほどに痛めつけられた。ブラックポーションの問題も恐らく知れ渡ることだろう。少なくともリンドー王国への介入は失敗に終わるだろうよ』

「それはご愁傷様で」

実のところ、ブラックポーションそのものの存在も、それが問題を起こしていることもバロームは把握しているが、しかし黙認しているだけで特に関わりもない。

製造出来る場所も手段も限られ、乱造される恐れもないからコントロールさえ出来ていれば国が傾くという事態も起きぬのだから、エルバロンたちの望むままにさせている。

『もっとも、元々の目的は達成したから問題はないがな』

「それはさっき言ってた強者と戦うというやつか?」

バロームはエルバロンの鎧を見ながらそう尋ねる。

『いや、ブラックポーションの実験だ。アレを媒介とした 魔力の川(エーテルライン) を通じたネットワークの構築。数百人規模ではあったが、それは確かに推定値のラインを超える動作を見せた』

ヒルコ化の暴走に至る摂取量が想定よりも少なかったことの確認がとれたのは重畳であったとエルバロンは口にする。無論、バロームにはその言葉の意味はほとんどが理解できてはいないが。

『精神干渉波による非媒介干渉よりも効率は高く、摂取量も微量でも平気なようだった。つまりは量に関してはそれほど問題ではないことが判明した。増産の計画も考えていたがそれもあまり必要ではなくなったということだな』

「ねっとわーく? それは確か魂を効率よく奪うとかいうものだったか?」

『そのようなものだ。かつて雷を用いた情報網を介して悪魔に魂を喰われた者たちが、同じことを繰り返そうとしているワケだ。因果は巡るというわけだな』

「よく分からん」

そう答えるバロームにエルバロンの笑い声が響いた。

『まあ、お前はお前で国を正しく動かせていれば良いさ。最終的にソルダードが今のまま残っていれば 某(それがし) は特に構わん』

支配者が変わろうと、信仰さえあればエルバロンにとっては何一つ問題のない話であった。そしてその言葉が終わると、ガシャンとこの王の間の左右に飾られている鎧の一つが動き出した。

『それでは、国は任せた』

「ふん、せいぜい頑張るさ」

王座の裏からではなく、動き出した鎧から響く声にバロームは手を挙げて答え、鎧が外に出て行くと王座にだらしなく座り込んだ。そして誰もいない王の間の天井を見ながら考える。

(白き一団、或いは連中ならアレを仕留めることも……?)

神殺し。その可能性も考え、バロームはこの時より白き一団の情報収集に乗り出すのだった。