軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三百七十六話 救いの手をさしのべよう

風音がボスを倒してオドイートリーチ討伐も山場を越えた頃、街の中の領主の館でもまたひとつの奇跡が終わりを告げ、そして人々の歓喜の声が響き渡っていた。

◎交易都市ウーミン 領主の館

「天使様じゃー」

「おおお、奇跡が起きた」

「あの子が元に戻ったわ」

「天使様が我らを救ってくださった」

弓花たちが領主の館に入ったときには、すでにこの騒がしい状態であった。

時間も差し迫ったところで直樹とフーネがフライの術で先に中央に向かって飛んでいったため、弓花たちはヒポ丸くんに乗って遅れて領主の館にたどり着いたのだが、そこで見たものは涙を流し喜び合っている家族や恋人たちであり、その中心で拝まれてオロオロしている直樹であった。

英霊フーネは時間切れにより既に消滅しているため、残った直樹がその場で祭り上げられていたようであるが、あまりの感謝に直樹もどう反応して良いのか分からないらしかった。

「どうやら間に合ったみたいね」

弓花とティアラの後ろに乗っているルイーズがそう口にしながら周囲を見渡した。恐らく喜び合っているのは、ヒルコになりかけた人たちやその身内なのだろう。そして領主の館に集まっていたヒルコたちも『 天よりの光(ヤコブズラダー) 』によって元に戻っているようで、入り口近くに意識を失った人々が裸の上に毛布だけ掛けられて寝かされていた。

つまりは当初予定していた計画通りに物事は進んでいた。だが、それでもすべてが万事オーケーというワケには行かないのが現実だ。

ズルリズルリと館の外にはヒルコたちが集まりつつあった。それは時間切れで戻れなかったヒルコたち。その外の様子を見てルイーズがため息をつくと、目を細めながらそれらを睨みつける。

「さて、ハッピーエンドはここで締め切りみたいね」

ルイーズの言葉に、弓花やティアラ、ライル、エミリィの顔が引き締まる。直樹のフーネも打ち止め。次の十日後まで待つわけにもいかない。

現時点でも元に戻れない者もいるのだ。ヒルコとして定着してしまえば、もうどうにもならないのだ。ここから先は倒すしかなかった。

しかし一緒にいたタツオが、空を見て『あ、母上ですよ』と声を上げた。

「へ?」

そして一同が空を見上げると、そこには確かに天使のチンチクリンがいて、ルイーズたちの前へと降ってきたのである。

「おっとっと」

バサァッと翼を広げた風音が領主の館の入り口前に着地する。少しよろけながらも、無事降り立った風音に、離れてみていた周囲の人々は目を丸くして口々に声を上げた。

「天使様だー」

「戻ってこられたんだー」

「だが厳つい鎧のようだぞ?」

「おっぱいがない」

「貧乳だ」

「貧乳だ」

「貧乳だ」

「貧乳だ」

「貧乳だ」

「貧乳だ」

そんな声が一斉に聞こえてきた。何故に貧乳連呼なのか。そもそも鎧に隠れて見えないはずなのに。しかしそれほどにフーネの爆乳は人々の印象に焼き付いていたのだ。すごく震えてたのだ。故に比べてしまえば一目瞭然である。そしてその声に耐えきれず風音が崩れ落ちていると、直樹が駆け寄ってきた。

「姉貴、大丈夫か?」

「モーマンタイさ、直樹」

風音は辛い気持ちを押し殺してグッと直樹に親指を立てる。その風音の頭の上にタツオが乗る。

『母上、お帰りなさい』

「ただいまタツオ」

風音がタツオの頭をなでるとタツオも気持ちよさそうにすり寄る。

「カザネ。あんたは外で戦ってるハズじゃあなかったの?」

その横からルイーズが一歩前に出て尋ねる。当初の予定では風音とジンライは外のオドイーチリーチの群れへの討伐を行っているはずであったのだ。それに対して風音はにんまりするとこう言った。

「あっちはひとまず問題なし。ボスも倒したし、今はジンライさんやリンドー王国軍の人たちが残りを始末してる。そんで私は私が出来ることをしに戻ってきたってわけだよ」

「出来ることって、この状況でまだ何かができるってこと?」

そのルイーズの言葉に、風音は強く頷いた。そして外で集まりつつあるヒルコたちを見ながらこう口にした。

「ヒルコを水晶化で封じる。そのためにヒルコを捕縛する人を集めて欲しいんだ」

だが、それにはルイーズは首を傾げながら言葉を返した。

「封じるってひとりふたりって数じゃないのよ。そもそもカザネの魔力はもうほとんどないじゃない」

水晶化は人ひとり分程度をかけるのにもそれなりに魔力を食うものである。ルイーズはウィンドウのステータスが見れるワケじゃないが、魔術師としての目で風音の状態はある程度把握できる。今の風音の魔力量はここまでの戦いでその多くを消費していて、残りわずかであるようだった。だが風音は「問題なし」とハッキリと言った。

「直樹、手を出して」

「お、おう?」

直樹が風音の言うがままに手を差しだし、風音がその直樹の手を握る。もちろんそれには直樹は満面の笑顔となったが、だが風音の「スキル・魔力吸収」の言葉とともにその笑顔が薄い感じに変わっていった。

「ナオキ!?」

エミリィが心配そうに直樹を見るが、風音は「もういいかなっと」と、言いながら直樹から手を離す。

「っと、なんだ、これ?」

直樹がフラリと倒れそうになり踏ん張るが、しかし先ほどよりも体調に変化が生じているのは間違いなかった。ウィンドウのステータスを見ると魔力値がほぼゼロになっているようである。

「ちょっと、吸いすぎちった」

風音がテヘッと笑う。

実は今、風音はスキル『魔力吸収』の能力の一つ『 体内魔力(オド) 吸収』を風音は直樹にかけていた。直樹が倒れかかったのは急激に魔力を吸収されたことにより気力が保たなかったためである。ソレを見てルイーズが苦笑する。

「ホント、多芸になっていくわね。けど、私たち全員の魔力を吸収したって……いや、そうじゃないわね」

ルイーズが風音の意図に気付いた。そして領主の館の中庭にいる人々を見る。

「 白き一団(わたしたち) だけじゃ無理でも、 ウーミンの住民(ここにいるみんな) の力があれば、魔力量の問題は解決するよ」

つまりはこの場にいる住人たちを魔力タンクとして、水晶化を実行しようというのである。住人ひとりひとりの魔力は微々たるモノだが、これだけの人数が入ればヒルコを水晶化するには十分な量だろう。

「なるほど。であれば善は急げですな」

「うわっと」

不意に声がかかったので風音が驚きの声をあげる。そして後ろを振り向くとそこにはオウギがいた。

「オウギさんか。驚かせないでよ」

「ほっほ、申し訳ありませんな」

風音の抗議の声に、オウギが笑って返した。普段『犬の嗅覚』や『直感』によって風音への不意打ち行為は難しいはずなのだが、オウギはそれを難なくこなしてしまうようである。

「ヒルコを討伐ではなく捕縛に切り替える旨、早々に民兵団と冒険者ギルドに連絡をして対応させましょう。ヒルコの数も現時点ではかなり減っているのでそう難しくはないはずです」

すでに英霊フーネの『 天よりの光(ヤコブズラダー) 』によって相当数が元に戻り、或いは消滅している。冒険者たちに狩られたヒルコも多く、現時点ではヒルコの存在はほとんど驚異とは言えないものになっていた。

「それと魔力の多い者を順に選ぶように領主とも掛け合って、魔力吸収の方も滞りなく行えるように早急に手配いたします。それでよろしいですかな?」

「あ、はい」

カザネは自分がやろうとしたことをすべてやってもらうことになったので、それらの指示をする手間が省けて、肩すかしを喰らった気分になっていた。が、それらが過ぎ去って冷静に周りが見れるようになってくると、周囲の視線が異様に熱いことを感じてきた。

「ん、なにこれ?」

住人からの熱視線に風音が狼狽えていると、となりで弓花が苦笑しながら答えた。

「多分、あんたと直樹の英霊を同一視しているみたいね。まあ、無理もないけど」

「あーー」

風音は自分の未来像(予定)である英霊フーネを思い出し、納得した。

(メインシナリオ後でも、確か街に銅像が建つぐらいに祭り上げられてたんだっけ)

そんなことを考えながら、ひとまず風音は飛び立って館の周囲にいるヒルコたちに水晶化をかけ始めている。そして指示されたザックスたち冒険者等がそれらを運び、領主の館の中へと運んでいく。

風音は「天使様のお助けになるなら」「握手してください」「おお、こんなにやつれてしまって……胸が」などと言われながらも『魔力吸収』を繰り返し、ヒルコたちに水晶化をかけ続けた。

そして、外で戦っていたリンドー王国軍の兵たちも半数を街の中へと戻り、ヒルコの捕縛に参加していく。また火災の鎮火も併せて行われ、それらすべてが完了した時にはもう翌日の朝日が出ている頃合いだった。