軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三百七十五話 ボスを倒そう

今現在、交易都市ウーミンに向かって迫りつつあるオドイートリーチという魔物だが、本来は山の日の当たらぬ木々のウロの中や、草葉の影、または河原の岩の透き間などにいることが多く、日の当たる場所に長時間居続けるような魔物ではない。

故に平野のこんな場所に、それも大量に出現するような類の魔物ではないのだが、オドイートリーチに限らず魔物というものは上位種からの指示には従う習性があり、高度な知性を得たボス格の魔物によって集められ、街々を襲う現象が時折起こることがある。

そして風音たちの目の前、今はオドイートリーチの壁によって遮られた先にいる黒い巨大ヒルこそがこの群れのボス格の魔物。かつてのベアードドラゴンのように悪魔に浸食され操られている個体だろうと風音は考えていた。

「にゃーー」

「グォォオオオオ!!」

迫り来る魔物の大群に狂い鬼が棍棒を振るい、ユッコネエの爪が切り裂いていく。オドイートリーチの魔物としてのランクは高くない。故に高ランクの魔物である狂い鬼とユッコネエの攻撃ならばヒルたちは一撃でその命を奪われる。だが、それでも魔物たちの勢いが衰えることはない。

「あーもう、まったくキリがないよねえ」

風音も蹴りでオドイートリーチを撃退しながら、トンファーの長い柄の方を掴んで、グリップをまるで引っかき棒のようにして、オドイートリーチの死骸を放り投げていく。倒しても倒しても襲いかかってくるし、そして倒した魔物の死骸がそのまま壁となるのだ。かき分けでもしなければ目の前にどんどん積もっていくばかりだった。

だが、その処理の繰り返しで十分に風音たちの疲労は蓄積されていく。

如何に優れた力を持っていようがスタミナは有限だ。神狼化した弓花ならいざ知らず、このまま戦い続けては、疲れ果ててヒル共の餌食となってしまうだろう。

「ま、だから多少は強引に行かないとダメってことなんだけど」

そう言いながら風音がスキル『ブースト』をかけて特攻する。これだけ敵がいればキックの悪魔のコンボも直ぐに溜まっていく。

風音は正面から迫るヒルを蹴り上げ、そしてさらに左右に迫る敵をトンファーを振るって払い落とす。『柔軟』によって全身の動きが良くなった風音は、まるで竹のようにしなったハイキックを出してオドイートリーチたちを弾き飛ばし、そのまま踵落としで二体ほどを地面に叩き潰す。

「にゃにゃー!!」

「グォッ」

その風音だけではさばききれないオドイートリーチはユッコネエが前に出てその炎の爪で切り裂き、さらには狂い鬼が棍棒を振るって一気に押し返す。そこに風音がコンボをつないだ蹴りで潰していく。

8撃目までくれば溜まった闘気により両腕両足が赤く染まり、両腕を突き出したトンファーの一撃で、オドイートリーチ数体を衝撃により爆散させ、巻き込まれた10匹近くを弾き飛ばし、そして……

10撃目の蹴りの際に赤い闘気が一気に解放され、巨大な刃となって正面の魔物たちを切り刻んだ。

(スキルが追加? 蹴斬波?)

突然ウィンドウが開き、新しいスキルが追加されたのを確認しながら、風音は今放った技は、『キックの悪魔』からの派生スキルだろうと推測する。

そして、正面が一気に広がったこの好機をユッコネエは逃さない。

「うにゃああああッ!!」

尻尾に宿った金色の炎の球を飲み込んだユッコネエは、その能力をブーストさせる。そして黄金の炎を全身に包みながら、爪を突き出して一気に特攻する。それはクロマルのブラックブリットやシルバーブリットと同系統のゴールドブリットと呼ばれる突撃技であった。黄金の弾丸が魔物たちを切り裂き、焼き尽くしていく。

そして、魔物の壁がさらに開き始め、

「狂い鬼。叩き潰せぇッ!!」

「グォォオオ!!」

続けて風音の命令により、狂い鬼が黒い棍棒に力を込めて巨大化させる。膨張する棍棒の内側からバキバキとドラゴンの牙がいくつも生えていき、狂い鬼はそれを強引に振るってユッコネエの切り開いた道をさらに広げていった。

「よっし! 一気に進むよッ!!」

その 僕(しもべ) たちの生み出した道を風音が突き進む。その道に飛び込んで強引に迫るオドイートリーチを風音は蹴り飛ばし、『空中跳び』で宙を駆け抜け、近づいてくるオドイートリーチの群れをさらに蹴りつける。

その勢いで宙を舞いながら、背中の翼を羽ばたかせ、ブーストで加速して魔物を蹴り、トンファーで強引に弾き、踵で潰し、蹴り上げ、殴り、蹴り、潰し、そして、

「ううりゃああああッ!」

先ほど覚えた『蹴斬波』で最後の壁を切り裂いた。

やはり『蹴斬波』は『キックの悪魔』の派生スキル。それもテンカウントのコンボ限界点で発動する蹴り専用スキルのようだった。

(もしかすると成長するともっと技が出たりするとか?)

そんなことを考えながら、風音は開いた道を歩いて進み、ようやくの目的の相手の前に出る。

「ふぅ、やっとまた会えたね」

そして風音はそう口にする。そこにいるのは最初に姿を現してからここまで、ひたすらに配下の魔物をぶつけて風音たちから身を守り続けてきた黒い巨大ヒル、悪魔に操られた『ジャイアントマナイートリーチ』である。

その前に風音は立っている。

両者の前を遮るものはもはやない。一度抜けてしまえば、狂い鬼、ユッコネエ、ダークオーガたちが周囲のオドイーチリーチたちを寄せ付けないように取り囲んでくれている。

そして風音と黒ヒル『ジャイアントマナイートリーチ』は対面し、巨大ヒルは間髪入れずに攻撃を仕掛けた。それは全身から突き出た触手攻撃。ヌルヌルのニョロニョロとしたそれが想像以上の速度で風音に迫る。

「スキル・ワイヤーカッター」

だが、風音もこんなところで触手プレイに甘んじる気はない。エロ担当などもってのほかだ。故にその不埒で冒涜的なぶっといモノを、硬質化した蜘蛛の糸で切り裂いていく。

ここまで大した活躍のなかった『ワイヤーカッター』だが、この『ジャイアントマナイートリーチ』には絶大な効果があるようだった。ゼラチン質な魔物相手には絶対的な効力を発揮するこのスキルは『ジャイアントマナイートリーチ』のような魔物にはまさしく天敵とも言えるスキルであった。

「ああ、思ったよりもいけるんだ」

そう風音は口にして、飛び出す触手をさらに『ワイヤーカッター』を出して切り裂いていく。使い方はどちらかといえば鋼糸というよりはカマイタチに近い。そして触手の途切れたところに風音は『炎球』をブチ込んだ。

『プギュルアァァアアアア』

魔物の叫び声が木霊する。腹にあたる部分が燃え、奇怪な悲鳴を発して地面に転げる黒ヒルに、風音はさらに追い打ちをかける。スキル『ブースト』による突撃に『キリングレッグ』の威力を乗せた蹴りで、頭部を思いっきり蹴り上げたのだ。

「うわっ、気持ちワルッ」

風音の顔がゆがむ。まるで巨大なナメクジを蹴りつけているような気分だが、そんなことは気にしてはいられない。

そして風音は足の先の竜爪を解放した。これも防具が竜喰らいし鬼軍の鎧(真)に変化してからはさらに鋭く、さらに長く変化していた。ここまではオドイートリーチを外へと弾き飛ばす必要があったので普通の蹴りを優先して使ってこなかったが、この相手であるならば遠慮の必要はない。

竜爪による蹴りにより風音はさらに巨大黒ヒル『ジャイアントマナイートリーチ』を切り裂いていく。

その場で黒ヒルが崩れ落ちそうになっても『猿の剛腕』で強化した腕により回転させたトンファーで殴り付けて、浮き上がらせる。

その暴力に抵抗できる力はもはや黒ヒルにはなかった。触手は切り刻まれ、配下のオドイートリーチも狂い鬼とユッコネエたちに止められている。元々が司令塔であるだけで戦闘力が高いわけではない魔物だ。風音に目の前に立たれた時点でほとんど終わったも同然だったのだ。

『キックの悪魔』の力でコンボにより増幅された攻撃がさらにジャイアントマナイートリーチを弱らせ、テンカウント目の竜爪付き『蹴斬波』の発動を感じた風音は翼を広げ天に舞い、

「ほわっちゃーー!」

踵落としの形で『蹴斬波』を解き放った。

そして、大地へと叩きつけるように出された赤い刃によってジャイアントマナイートリーチはその身を真っ二つに引き裂かれて絶命する。

のみならず、その背後にいるオドイートリーチたちまでもが巻き込まれて切り裂かれ、吹き飛んでいった。

「はいっ、完了ッ」

風音はそういって地面に降り立つ。

そしてレベルが上がったことを知らせるウィンドウが出て、一緒に『 体内魔力(オド) 吸収』が『魔力吸収』というスキルに変化したとの報告のウィンドウが表示されるのも確認する。『オドイートリーチ』から手に入れたらしいスキルが『ジャイアントマナイートリーチ』の上位スキルに上書きされたようである。

( 体内魔力(オド) 吸収は掴んで吸い取って、 自然魔力(マナ) 吸収は、寝てると魔力の回復量が上がるのか)

どうやら風音は 体内魔力(オド) だけではなく、 自然魔力(マナ) も吸収できるようになったようである。恐らくはジャイアントマナイートリーチがその巨体を維持するために生んだスキルなのだろうと風音は考えたが、 自然魔力(マナ) 吸収に関しては、眠ると魔力回復率が倍に上がるというものらしく、戦闘時に使用できるモノではないようだった。

「チィッ、出遅れたか」

そして風音が自分の変化の確認をしている後ろから声がかかった。

「あれ、ジンライさん。もうここまで来たの?」

「おうともッ。まあ、間に合わんかったがな」

風音が後ろを振り向くと、悔しそうな顔をしているジンライがいた。大物相手に参戦できなかったのを悔やんでいるようである。

その少し後ろでは、やはりここまで進撃してきたリンドー王国軍の兵たちが、風音の戦いを目撃していたらしく「おおおおーー」と声を上げていた。

「天使の子があんなでかい魔物をひと蹴りで切り裂いたぞ」

「なんて子供だ。化け物か」

そんな声も上がるが、だが全体的にはその驚きは好意的なものだった。

ジンライの 雷神砲(レールガン) の化け物ぶりを目撃してビビっていたリンドー王国軍の兵たちであったが、こちらはまだ自分たちの常識の範囲内だったのだろう。風音の武勇を見て沸き立っていた。

ボス退治は、魔物の群れの討伐においては重要な意味を持つ。

統制が崩壊し、魔物の能力が著しく落ちるためだ。そして兵たちの間を伝令が駆け抜ける。天使カザネの名がこの戦場に広がっていく。

一方で街の中では『別の天使』の名が領主の館を中心に呼ばれ始めてた。もちろん、それは……