軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三百六十六話 あいつに任せよう

『ォォオオオオン!』

『ォォォオオオオンン!!』

二頭の狼の遠吠えが響きわたる。それはスキル『深化』によって完全狼化した弓花と、クロマルに銀狼二頭が合体したホーリーケルベロスの遠吠えだ。その二重の叫びが迫る闇の炎をかき消していく。聖属性の鎮める効果のある遠吠えが、闇属性の炎を浄化したのである。

「……ふむ」

ソレを見てオウギが、頷く。

「なんというか、お若いのに人間止めてますなぁ」

『そういうこと、言わないでください!?』

しみじみ言うオウギに弓花が涙声で返した。

「しかし、やはり強いですな」

炎の消えた隙に、オウギがそう口にしながら一気にハガスに踏み込む。

『はやっ!?』

その弓花の言葉通りにまるで瞬間移動でもしたかのようなすさまじい速度でオウギは突進して一気に刀を鞘から抜いて斬り付ける。そしてオウギが斬り付けたハガスの腕が爆発した。

『オウギさんっ!?』

ユミカが叫ぶが、その爆発の煙からオウギが弾き出されて、そのまま地面に転げていく。

「くぅっ」

『クロマル、回収ッ!!』

うめくオウギを全長3メートルの銀色の三頭犬がダッシュで近付いて咥えあげ、追い打ちで吐き出されたドラゴンのブレスをギリギリで避けた。そして、クロマルによって弓花の近くまで運ばれたオウギはクロマルに「大丈夫です」と言って、そのまま地面に降りたった。

『無茶しすぎですよ!?』

「申し訳ない、ちょっと試してみたかったので」

声をかけてきた弓花にそう返すオウギであったが、目の前の黒竜ハガスを見て「困りましたね」と呟いた。

そして黒竜ハガスが叫び声をあげると、周囲の建物がボロボロと破壊される。叫びが衝撃波となって周囲への範囲攻撃を行っているのだ。弓花とオウギもそれにはバックステップで範囲外へと逃げた。

ジン・バハルは逃げきれない場所にいたため、今は無理をして特攻に入っている。手に持つグングニルであればダメージも通るが、

『ぐがぁああ!!?』

やはり鱗を攻撃しても爆発してこちらがダメージを受けてしまう。ダメージを喰らいすぎてもうそろそろ消滅しそうだった。

「しかし厄介な」

オウギがそうぼやく。さきほどから戦っていて分かったことだが、弓花たちが攻撃しても、ハガスの鱗は削れそうになると内側から外側へと爆発するようなのだ。

( 爆発反応装甲(リアクティブアーマー) 持ちのドラゴンとか反則じゃないですかねえ)

オウギがそう心の中でつぶやく。

爆発反応装甲(リアクティブアーマー) 。あのドラゴンの防御が実際にそう呼ばれているかは分からないが、ダメージを受けた際に内側から外側へ装甲を爆破して衝撃を抑える戦車の補助装甲をオウギは思い出していた。

それは接近戦メインのオウギや弓花にとっては相性が最悪の相手であろう。鱗を削ろうにも一定以上のダメージが入ると内側から爆発してこちらだけダメージを受けるのである。その上、鱗の再生力が早く再度の攻撃にも間に合わない。

オウギは二度試して失敗し、今は少し踏み込んで二連斬りで切り裂こうとしたものの、爆発に邪魔されて鱗の先まで届かなかった。つまりはオウギたちは未だに黒竜ハガスに有効打が出せないでいる。

そして現在は完全狼化弓花とホーリーケロベロスがスピードでかき回してどうにかその場に留めておけてはいるが、その動きに黒竜ハガスも次第になれ始めているのがオウギには分かった。

(成長途中か。この戦いの中で、あれは強くなっている)

その認識はオウギだけのものではなく、弓花にも理解できている。

(師匠か風音がいれば、どうにかなるのに)

そう考えて歯噛みする。オウギ自身の能力も高く、彼がいなければ現時点でもう逃げるしか選択肢はなくなっていたはずだが、だが、それでも足りないのだ。

(アダマンチウムの槍の雷神槍なら……でも余裕がない)

さきほどからジン・バハルが何投かしてダメージを与えているが、だが単発ではやはり 爆発反応装甲(リアクティブアーマー) の爆発で弾かれる。

併せての攻撃ならばダメージも通りそうだが、機動力の高さから目の前の敵をかき回す役割のほとんどを弓花とホーリーケロベロスが負っていて抜けられない。残念ながらフレイムナイツは囮として多少は役に立っても基本戦力外。ライトニングスフィアも隙を見て攻撃を仕掛けてるが厳しい様子だった。

また量産型タツヨシくんも今は使うことができない。それは量産型タツヨシくんをハガスが驚異と感じて後衛に飛びかかられた場合、現時点において弓花たちに後衛に向かうハガスを抑えつけられる手段がないためである。ヘイト管理が出来ない以上、ハガスは前線に立つ弓花たちに集中しておいてもらうしかなかった。

『そういえばオウギさん、一度成竜をブッたぎってるんですよね?』

「年寄りに何を期待しとるんですかね」

試しに聞いてみた質問にオウギが肩をすくめて返した。

「あのクラス相手では今全力でやっても腕を一本と言うところでしょうかね」

『おお、やれますか!?』

弓花の期待のこもった目にオウギがニコリと笑って「あの爆発でワシは死にますがね」と返し、オウギの言葉に弓花が唸る。

「しかし、最悪そうするしかないかもしれません」

『いやいや。止めてください!』

そう弓花は言うものの、現実問題として弓花の完全狼化のタイムリミットも迫っている。オカワリに完全竜化も可能だが、完全狼化には劣る。

ここで決められなければ……と、弓花も焦っていた。

(あの爆発をどうにかしないと……うん? 爆発? ああ、爆発かぁ)

そして弓花はあることを思い出す。と、同時にメールが届いた。

『あ、あいつ、来てるのか!?』

「む、どうした?」

オウギは突然声を出した弓花を見て尋ねる。その視線がウィンドウを見ているのだろうとはオウギは気づいたが、何をしているのかまでは分からない。

『ええ、なんとかなるかもしれないって感じです。ええと、ここのここっと』

弓花はハガスの攻撃を避けながら、ウィンドウの操作を行っていく。それは風音のいるであろう場所を表記したマップウィンドウの共有化である。

そして弓花たちの上空を一本の剣が飛び去っていった。

◎交易都市ウーミン 正門前

それは弓花がウィンドウを操作する少し前のこと、そしてジンライが空を見上げるもう少し前のことだった。

交易都市ウーミンの正門前には1104名の兵士たちが並んでいた。彼らはここより北東から迫ってきているオドイートリーチへの迎撃のための待機をしていたのだ。この時点において魔物の数の多さを把握している者は少なく、また突然呼び出された彼らは街の状況もそれほど知らされておらず、未だに危機感が乏しい状況だった。その彼らの頭上、空の上を何かが過ぎ去った。

「ん、なんだ?」

「どうしたオーサ?」

「いや、ほらアレ」

オーサと呼ばれた兵の指さす方向に、街に向かって飛んでいく細長い何かがあった。

「なんだ、あれ?」

「分からないが、鳥とかではないみたいだな」

「隊長に報告しとくか?」

「だな」

そう言い合う兵たちの前で、それはそのまま壁を越えて街の中へと消えていった。

◎交易都市ウーミン スラム地区

「なんなんだ。こいつらは!?」

激高していたのは昼に風音たちに詰め寄った民兵団の隊長だった。

その彼は今怒り狂っていた。

「なんで、おまえ等がブラックポーションを使ってるんだーー!」

完全にノーマークだったところからの大量の悪魔ヒルコの発生に駆けつけた彼らは今、大量のヒルコたちを相手に戦いを繰り広げていた。

ここはスラム地区。家無き、街の民とされていない民たちの住まう地区だが、その彼らが一斉に悪魔ヒルコ化したのだ。老人から子供に至るまで、そのほとんどがだ。

「隊長、数が多すぎます!?」

「堪えろ。連中をこの地区で足止めして置かないと、この街は保たんぞ」

部下の叫びに隊長がそう返す。ヒルコ単体ならばそう強くはないが、元の素材が良ければその能力も応じて上昇する。またヒルコは集まると融合し巨大な人型へと変わっていくのだ。

今もスラム街の至る所で4~6メートルクラスのヒルコが見えている。基本的に連中は鈍く、特に意志もなく、目の前に人がいれば襲う程度の存在だ。

だがそれも時間が経てば、変わってくるハズだった。今はまだドロドロの中身が固定されてくれば魔物の本能が生まれて動き出すのは過去の経験からも明らかなのだ。故に時間はない。

だがそれにしても状況が厳しい。彼らの雇い主へも連絡が付かない。そして焦る隊長の頭上を一本の剣が通り過ぎた。それを彼らは気づかなかった。

◎交易都市ウーミン 商業地区

「フレア、燃やせっ!」

召喚剣士のマールが召喚炎『ドラグフレイム』のフレアにそう指示をして、襲ってくるヒルコたちを燃やし尽くす。

「ありがとうございます戦士様」

逃げる民衆から声が挙がるが、マールも軽く手を振るだけで、早々にまた走り出ていく。

昼過ぎに風音と再会したときの穏やかな時間が嘘のように今は街を絶望が支配している。東地区に巨大な黒い球体が出来、中央区画ではドラゴンが出たという話が先ほど飛び込んできて、さらなる悲鳴が上がっているようだった。

「与太にしても酷い話だ」

マールとしてはドラゴンの報告は信じていない。外のオドイートリーチの襲来や、突然の悪魔ヒルコ化に続いて、ドラゴンが出るなどとてもじゃないがありえないとマールは首を横に振った。

しかし、東地区の召喚院周辺が黒いもので覆われたというのは、気がかりな話だった。召喚院には風音やマグナたちがいる。あるいは自分たちだけで結界を張って籠もったと言う者もいたが、そこまでの大魔術を召喚院で使える者がいるなど聞いたこともない。

(本当にカザネさんたちは大丈夫かな?)

マールはそう心配はするが、だからといって自分にできることなどたかがしれている。今はこうして避難する住民の護衛で精一杯だ。

「あれ?」

と、その時、空を何かが通り過ぎた。

「今の白い剣……みたいなのは?」

それは召喚院のある東地区に向かったようだった。