軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三百六十五話 闘争に興じよう

そしてジンライはようやくの得心がいった。目の前のソレが何であるのか……ということを理解した。

「つまり、お前がワシの敵か」

「そうだ、お前がワシの敵だ」

ジンライにはその右腕に覚えがある。その顔は覚えてなくとも自らと共にあった腕だけは忘れていない。黒く染められていようと鎧の隙間から見えるそれを見間違えはしない。

理屈は分からないが、目の前のソレはもうひとりの自分……のようなものらしいとなんとなくだがジンライにも理解は出来た。それで理由は『十分』だ。奪われたモノが戻ってきたのだ。であれば取り返すしかあるまい。

「弓花、ヤツはワシが引き受けた。あのドラゴンは、任せて良いか?」

そうボソリと口にするジンライに弓花は唸りつつも頷いた。目の前の老人ジンライの正体は分からないが、それが今弓花の隣にいるジンライに匹敵する力の持ち主であることは何となく把握できている。であれば、ドラゴンとの共闘はさせるべきではないと弓花も考える。

「状況が悪かったら逃げます」

「それでいい。頼んだ」

弟子の言葉にジンライも頷いて前へと出る。

「それじゃあ」

「殺し合おうぞ」

そして双方のジンライが駆け出した。共に二つの槍を構えて、共に二つの槍を突き出した。

その突き出された槍の先と槍の先が激突し、互いの闘気も衝突して衝撃波が発生する。それに当てられて地面はヒビが入り、窓ガラスが割れてゆく。

ふたりのジンライはその中心で、犬歯を剥き出しにして互いに笑みを浮かべあっていた。それは共に獲物が飛び込んできたことを歓喜し、貪り尽くそうかという肉食獣の笑みだ。

そしてその対峙する横を黒竜ハガスがズンズンと通り過ぎてゆく。主の獲物を奪うつもりはなく『残り物を始末する』つもりらしかった。

「ちょっと、ジンライくん!?」

唐突に戦いだしたダブルジンライと迫る黒竜ハガスに、白き一団その他の面々が慌てルイーズが声を上げたが、それを問うている余裕はない。

「黒竜ハガス……まさか、本物の?」

『いや、しかし』

ティアラとメフィルスの言葉が周囲の緊張を呼ぶ。目の前のドラゴンは大きさこそ伝え聞くものよりも小さいが、しかし確かにかつて存在したという黒竜ハガスに瓜二つの姿をしている。もっとも、だからといって何もせずに殺されるわけにも行かない。今は現実的な対処が必要だ。そしてドラゴンを見ながら弓花は全員に声をかける。

「あーもう、みんな下がって。ジンさんッ、前に出るよ。ルイーズさん、ティアラ、サポートをお願い」

『任された!!』

「了解ッ!」

「はいですわ!!」

そして弓花とジン・バハルが走り出す。ティアラは、 炎の騎士団(フレイムナイツ) を周囲に散らばせて敵の注意の分散を狙い、ルイーズのライトニングスフィアも戦闘に参加しようと再度召喚を開始する。ザックスたちは対竜装備でもあれば別だが、現時点では残念ながら戦力にはならない。悪魔ヒルコを警戒しつつ、後衛の護りに入ろうとしていた。

だが、そう動こうとしたルイーズたちを見ていたのか、その黒いドラゴンは息を吸い込みながら、喉袋を膨らませていく。

(不味いっ!?)

それには弓花が戦慄する。自分だけならば避けきれる自信はあるが、後衛はまだ十分に距離がとれていない。今炎を吐かれては、届いてしまう可能性がある。

「ジンさん、何かブレス防ぐ技は?」

「ないっ」

ジン・バハルの堂々とした返答に弓花は頭をかきながら、早々の完全狼化を考えてたとき、

「任せなさい」

上から声が聞こえた。

そして街の通りをドラゴンの黒い業火が走り、そのまま……

切り裂かれた。

「なっ!?」

それには弓花が目を見開いた。それはティアラやザックスらも同様だ。そして彼らの前に屋根を飛び越えてトンっと地面に降り立ったのは、ひとりの老人だった。

「オウギさん!?」

弓花は老人オウギを見て声をあげた。いきなりの登場もそうだが、目の前の老人はブレスを斬撃で切り裂いたのだ。それはジンライに聞いたとおりに尋常ではない刀の冴えを持つ剣士のようだった。

「グギャァアアアア!?」

切り裂かれて、周囲に燃え広がった自らの炎に巻き込まれてハガスが叫んで転げる。それを後目にオウギは弓花の方を向く。

「やあ弓花さん、風音さんとはいっしょではないのですね?」

そして弓花に声をかけたオウギの表情はさきほど会ったときと変わらぬものだった。弓花もハガスを警戒しながら、オウギに言葉を返す。

「あ、はい。これから風音のところに向かう途中でして」

「ふむ。まあ、今はそれどころではないようですが」

弓花の言葉に、オウギはそう返し、そして、

「来ます!」

「あーもうっ!?」

両者は頭上から振り下ろされたドラゴンの腕を避けるべく、その場から飛び去った。

**********

「よし、ここらでよいだろう」

『まあ、あのブレス直撃じゃなきゃなんとかなるかしらねえ』

「あら、アングレー様とエリザベート」

そして、弓花たちが黒竜ハガスに立ち向かっている後ろでは、後衛にいるティアラたちの元にアングレーたちがやってきていた。

「やあ、ティアラさん。みなさまがた、ごきげんよう。ここでご一緒させてもらってもよろしいですかね」

「え、ええ。けど危ないですわよ?」

そう口にするティアラを前に、アングレーは首を横に振りながらその言葉を否定する。

「残念ながら、今はここが一番安全なんですな。屋敷もヒルコで溢れておりますし」

『それに目の前にいるドラゴンたちが今回の犯人ならば、戦力を集中して倒さないと結局やられそうじゃないの?』

「オウギひとりでは厳しいだろうしな」

そう言いながらアングレーの視線がドラゴンに向く。

「ふむ。黒竜ハガス……の召喚体ですかな。伝説に比べればかなり劣った感じのようですが」

アングレーの商人の目がそう評する。

「分かりますの?」

黒竜ハガスだと認識して震えていたティアラは、不安そうにアングレーに尋ねる。

「ええ、もちろん。私もハガスの絵画や像はなんどか見ておりますしね。それにドラゴンの状態もある程度は把握しとります。まあ、見たところ成竜から神竜の間と言ったところでしょう。当然油断できる相手ではありませんが」

アングレーの視線が、彼らよりも前にいるオウギと弓花に向けられる。

「しかし、『刀神』と『 血塗れの狂戦士(ブラッディベルセルク) 』が揃ったならなんとかなるのではないですかね」

**********

そして、弓花たちとハガスの戦いが開始されたのと同じ頃、二人の男の激突によって街の中で火花が散っていた。

「ぐぬぅっ!」

「ぬぉぉお!!」

家と家の間を縦横無尽に飛び交いながら突き合い、斬り合う様はもはや暴風のようであり、それを逃げまどっていた人々は呆気にとられて見ていた。

「それが新しく手に入れた作り物の腕か。パワーはあるが荒いなッ」

「そんなものは他で補えばよいのだ」

ジンライとオールドジンライの戦いはすでにドラゴンの前からかなり離れて、小路地へと移されていた。

その力量は互角。されど両者ともに未だ様子見。オールドジンライの身体的なスペックは人を凌駕し、対して義手と 補助腕(サブアーム) によってジンライは部分的にオールドジンライを超えており、まさしく一進一退といった状況となっている。

「ええい。小さい腕をチョコチョコと動かしてからに。蜘蛛か、貴様は!」

着地の衝撃を吸収し、家々を飛び交う際にもジンライの動きにあわせて補助する 補助腕(サブアーム) にオールドジンライは苛立ちを見せるが、ジンライもそう言われては黙ってはいられない。

「喧しい。お前とてその鎧で底上げしておろうが」

オールドジンライはジンライの言葉に「ハッ」と笑う。

「気付いておったか」

「それは黒竜ハガスの素材で作った鎧と槍だろう。だからあのドラゴンも呼び出せた」

ジンライの言葉には応えず、オールドジンライは笑う。つまりは肯定の笑みだろう。ジンライは、魔物素材によって身体を強化し、召喚すらも行う鎧を知っている。故にその理解に至るまでの時間は大して掛からなかった。

「あれもオリジナルに比べれば随分と性能は低いがな」

「どこで手に入れたのか知らんが、貴様には過ぎたる力よ。ここで主たるお前を倒して、早々にドラゴンともども退場させてもらおうかッ!」

そう叫ぶジンライに、オールドジンライが笑いながら槍を構える。その時である。

「なんだ?」

「む!?」

一瞬だが、空を何かが通り過ぎた。それは一本の剣のような何かだった。そして、共にそれに気付いたジンライは、オールドジンライに対して笑みを浮かべた。

「ふむ。どうやら、揃ったようだぞ?」

「なんの話だ?」

訝しがるオールドジンライに、ジンライはなおも笑う。

「さてな。ワシも負けてはおられんということだろう」