軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三百六十七話 反撃に出よう

そこには一本の剣が突き立っていた。

それはたった今、漆黒結界を抜けてこの場に突き刺さった白い剣だった。

その剣の表面には何かしらの紋様が描かれており、そして柄の先には水晶の玉のようなものが鎖で繋がれて、ぶら下げられていた。

その剣を七つの大罪である 憤怒(イラ) のジルベールと 強欲(アワリティア) のエイジが見ていた。

『 某(それがし) の結界を越えただと!?』

ジルベールが驚いているが、その剣をエイジは覚えている。それは以前に大竜御殿を襲った際に、目の前の繭の中にいるユッコネエが咥えてエイジに斬り付けた特殊な剣だった。

それはすなわち『魔法殺しの剣』である。それが突然彼らの前に結界を越えて飛び込んできたのだ。だが、それ以上のことはないようだった。

「どうも外に風音の仲間がいるみたいだね」

エイジはそう考えた。恐らくは風音の仲間が結界を破ろうと大竜御殿の時のように剣で結界を突いて、そしてこの魔法殺しの剣だけが中に入ってきてしまったのではないかと。

『魔法殺しの剣……思い出したぞ。確かにその娘が大竜御殿に入るときに使用していたものか』

ジルベールも倒れている風音を見ながら、その剣を思い出した。

魔術や魔法の類を強制的に無効化する『魔法殺しの剣』は、本来この大陸のものではなく、別大陸に生息する巨獣という生き物の骨で出来ているものだ。分類上は魔剣に該当しないが、実のところこれは魔力で出来た構造体を分解する『魔力の振動波』を生じさせている特殊魔剣である。

その剣が今、目の前にある。耐性のあるジルベールとは違い、むき出しのアストラル体であるエイジには肌のピリピリする嫌なシロモノだ。そもそも一度切りつけられているので嫌な記憶しかない。

「なんなんだろうね、まったく」

すべてが上手く行ってる状況の中で唐突に現れたそれにエイジは眉をひそめる。だが、突然その剣が輝きだした。

『なんだ!?』

「これは?」

エイジとジルベールが構える中、その光の中から無数の影が現れた。

それは、直樹、そしてライルにエミリィに水晶馬のクリスとクリアであった。

「……へぇ」

それを見てエイジの口元がつり上がって笑った。

**********

時はわずかに遡る。

直樹たちが風音たちと別れた後、彼らは無事に山頂のコーラル神殿にたどり着き、そして目的を果たした後にすぐさま山を下りていた。

その後はカザネ魔法温泉街(仮)にたどり着いて一晩泊まった後に、翌朝には街を出てそのまま交易都市ウーミンへと向かったのである。

本来であれば温泉街で待っていれば良かったのだが、直樹はガンとして仲間との合流を主張した。それはアネキニウムエネルギーの枯渇により、直樹の精神が危険領域に入っていたためであった。

◎リンドー王国 ウーミン街道

「あっねっきーあっねっきー」

そして直樹がひとり、水晶馬クリスに乗って走っている。朝から走り続けて、関所を越え、すでにリンドー王国領内に入っている。

「ちょっとー待ってよナオキィー」

その後ろをエミリィとライルの乗っている水晶馬クリアが追っている。

「もう、あんなにはしゃいじゃって」

「まあ、あいつにとっちゃ待ちきれないってぇことなんだろうなぁ」

エミリィのプンスカ顔の言葉に、ライルが呆れた口調でそう返した。

「そんなにユミカと会うのが嬉しいのかしら。本当に……」

酷くどうでもいい言葉がエミリィから洩れたが、ライルは無視した。自分の妹がここまで頭が悪いとは今まで思っていなかったし、もしかして何かの病気なのだろうかと少し心配になったライルであるが、その病名はラブコメ病である。

ラブコメ病とは自分の好意に対して極度に不感症になったり、妙な勘違いをしてキークヤシーとなったり、告白が最終回付近まで厳禁だったり、照れ隠しに暴力を振るうようになったり、彼女でもないのに女房ヅラしたり、本番行為以外のあらゆることをされても不問だったり、幼なじみに負けフラグが立ちやすかったりする精神疾患のひとつである。

メインヒロインの妹やボーイッシュの勝率も低く、物語終了時点で恋に恋する少女から成長できて良かったね的なお茶の濁し方で終わったりするのである。恐ろしい話だ。

そんな重病に妹がかかっているとは知らないライルは、直樹がまた姉で暴走してることを的確に見抜いていた。とはいえ、朝から走り詰めの状況もそろそろ終わり、地図によればウーミンまではもうすぐそこではあった。

「ま、そろそろ着くんだし、そうすりゃ落ち着くんじゃねえの?」

「そうね。と、あれ、ナオキ?」

バーンズ兄妹がそんなことを話していると、目の前で直樹の馬の歩みが止まっていた。その視線はウーミンへの道への方角から離れた場所に向けられていた。

「おい、どうしたよ?」

「いや、ちょっと待ってくれ」

駆け寄ったライルたちをそう口にしながら手ぶりで制し、直樹は馬から下りて集中する。そして遠見のイヤリングから遠隔視を発動させた。

(『察知』のスキルが何かを掴んだ。なにか、ある?)

直樹の視界が遠見のイヤリングによって遠くへと飛ばされ、その先にあるモノを見る。そう、草原を駆け抜けるオドイートリーチの群れを。

「なんだよ、これは!?」

直樹の突然の声にライルとエミリィがビクッとして直樹を見るが、直樹はそれに気を使う余裕もなく、魔物たちの進んでいる方角が交易都市ウーミンに向かっていることも知る。そして、オドイートリーチの群れの中に一際大きくて『黒い』 蛭(ヒル) の化け物がいることにも気付いてしまう。

「これって、ドラゴンベアの時と同じ……悪魔の仕業か?」

「なんだって?」

その言葉にライルの視線が鋭くなる。

だが、直樹の遠隔視はさらなるモノを目撃する。それはウーミンの方角から見える黒い煙だ。

それは明らかに普通ではない、街が燃えている色の黒煙だった。

「街が襲撃を受けてる……?」

直樹のその言葉にはライルとエミリィが目を見開いて直樹を見た。

「おい、なに言ってんだナオキ」

「そうよ。いくら白き一団がトラブルとの遭遇の多いパーティだからってそこまで」

もはや懇願に近い思いのこもった声で、兄妹がそう訴えかけるが事実は事実である。現実と戦わなければならない。直樹はバーンズ兄妹に、遠隔視で見た光景を説明し、そしてさらなる確認を続ける。

「とりあえず、いったん探ってみる。この距離でも多分やれるだろうし」

そう言って直樹は操者の魔剣『エクス』と、姉から借りている『魔法殺しの剣』を取り出した。

この『魔法殺しの剣』は名の通りの効力を持つ剣で、一般的な分類では魔剣に該当されていないが、実際には魔法破壊効果を持つ天然素材の魔剣であり、直樹にも制御が可能だ。

むしろ魔力構造体の綻びを広げて破壊する性質上、ウィンドウの機能を介したプレイヤーの綻びのないスペル・スキル以外のノイズを消してくれるので発現効力が高くなっているようである。

それに中継を兼ねた遠見のイヤリングを括り付けて、直樹は『魔法殺しの剣』を街に向かって飛ばしたのだ。

そして直樹は目撃する。

街の惨状を、弓花たちがドラゴンと戦っている状況を、さらには弓花とのメールとのやりとりにより、風音と連絡が付かないが居場所は判明していることを知り、直樹は自分たちがそこに向かう旨を返信した。

そうして、今までの自分の操者の魔剣『エクス』の制御では最長記録になろう距離の魔剣を飛ばしながらも、直樹は姉がいるであろう場所にまで、たどり着いた。

そこにあったのは巨大な黒い球体で、魔力の防壁であると見抜いた直樹はそのまま『魔法殺しの剣』を突撃させた。そして飛び込ませた途端に遠隔視も魔剣の操作も出来なくはなったが、だが最初からそれは想定できていたことでもあった。そのこと自体は問題ではなかった。

直樹はすでにコーラル神殿で手に入れたアーティファクト『 帰還の楔(リターナーズステイカー) 』を所有している。であれば、魔法殺しの剣に刻んだ指定ポイントへと『飛べば』良いだけなのだから。

**********

そして時は現在に戻る。

直樹のいる場所は召喚院の裏庭だ。

一日一度しか使えない長距離転移に成功し、直樹たちは無事に目的地に到達したらしかった。そして直樹は目撃する。 憤怒(イラ) のジルベールの漆黒結界に覆われた中、ジルベールとエイジ、そして黒く染まった巨大な繭と、その前で倒れている風音がいるのを。

そう、直樹のこの世でもっとも敬愛する姉がそこに倒れていた。

意識を失い、悪魔たちの前に投げ出されている。それを直樹は目撃してしまった。

それを見た直樹の目の前が真っ黒になった。

怒りが、直樹の心を黒く染め上げてゆく。直樹の中の何かを変えてゆく。

そしてエイジが前に来て何かを呟いている。姉に罵っている。

弱かったと、とんだ間抜けだったとほざいている。お前の姉なだけはあると笑っている。

それをただ直樹は静かに……そしてその怒りのあまり、声を発することすらも出来ずに……

……スキル『魔剣の操者』が『魔剣の支配者』へと進化しました。

……スキル『 限界突破:魔剣(オーバーリミット) 』が解放されました。

……スキル『狂戦士』が……