軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三十四話 デマを流そう

「来やがったな。俺たちの勝利の姫様に乾杯だ!」

風音が酒場にはいると、そんな感じで出来上がってるギャオに絡まれた。

「酒クサい」

風音はイヤそうな顔でシッシとやるがそれで酔っ払いはそれをものともしない。

「連れねえじゃねえかカザネ。おれっちとお前の仲じゃねえか」

「私に対してそういうのはいいから」

妙に馴れ馴れしいのだ。この獣人は。

(それがモテるコツなのかもしれないけどね)

と風音も思うが、特に惹かれるものはない。まあ「明日死地に向かうおれっちに勇気を分けてくれ」などと抜かして受付嬢をコマす男は風音の好みではないということもある。

「よおカザネェ。たいそうな活躍じゃねえか」

「お久しぶりだねカザネちゃん。タルト食う?」

「ああ、マッツンにヤンさん、おひさ〜。タルトは食べるよ」

ギャオを無視して中に進んでいくと何人かが風音に声をかけてきた。彼らはコンラッドで風音が情報収集に花を咲かせていたメンツである。他にも遠巻きから見ている男たちがいるが、そちらはギャオとともにウィンラードからきた冒険者。その目線はどちらかというと憧れのようなものが混じったもので、それを見たコンラッドの冒険者たちが何故か「どうよ?」とドヤ顔をしていた。

「まったくよ。ちょっと前までひよっこだったヤロウがエラい出世頭じゃね ええ?」

「ヤロウじゃないし、この街出たのもまだ十日くらいなんだけどね」

「言ってみたかっただけだよ、バカやろう」

まあ、こんなノリである。

そんなこんなで話題は風音を交えて狂い鬼討伐に移り、風音の噂話が真実であることが明らかになるにつれてコンラッドの面々もかなり引き始め、フィアボイスをねだられて何人かとんでもない状態になったりした。

その後、話は風音がここにきた目的に移ると風音はプランにした説明と同じ内容を口にして意気揚々と布団を取り出したが、その反応はいまいちだった。もっと夢のようなお宝を期待していたのだろうし『実際にそれはあるのだが』風音はそちらを話すつもりはなかった。強力すぎるアーティファクトや指輪の存在はあまり人目についてよいものではないと風音は考えている。もっとも不滅の布団は酒などをぶっかけてもシミどころか濡れもしないのを見て何人かは驚愕したが、調子に乗ってゲロをぶっかけようとしたお調子者が壁にめり込むほどの蹴りを喰らって周囲は静かになった。ちなみにそのお調子者の名前はギャオといった。

「ところでよ。さっきは話に出てこなかったんだがジローのヤツはどんな活躍をしたんだい?」

「「は?」」

話も多少落ち着いた頃に降り注がれた突然の爆弾発言に風音とギャオは揃って聞き返してしまった。

「あいつ、ガーラのパーティに入って大活躍だったらしいじゃねえか」

(してた?)

(知らねえぞ)

二人は目と目で通じ合う。実際のところ二人は結構仲がよい。

「鉄騎ガーラと共にいの一番に狂い鬼に向かっていったって聞いたぜ」

(えーと、それは嘘じゃあないよね)

(そりゃガーラの旦那のヒッポーくんに一緒に乗っていたわけだからな。何故だかな)

「ランクCに成り立てだってのに奇襲部隊に選ばれたんだ。並みの腕ではないだろう」

これはウィンラードの冒険者の言。

(キンバリーさんが実はテンパってて気付かなかった説が濃厚らしい)

(戦いの後にジローにすげえ土下座して謝ってたよな)

(ジローくん、めちゃくちゃ居心地悪そうだった)

「あれだけの激戦で傷一つなかったって聞くぜ」

(そりゃ戦う前に気絶してたものね)

(あー)

「ヤツはコンラッド出身の俺たちの希望の星なのさ」

(あーあーあー)

(止めたげて。ジローくんのHPはもうゼロよ)

「「で、どうなんだい?」」

周囲の男達の期待の目にギャオは自分の中からアルコールが引いていくのを感じていた。そして風音だが…

「これは本人から口止めされてたんだけどね。でもそこまで知られてるんなら仕方ないよね」

俄然乗り気だった。ヤケクソだったとも言う。

「おいカザネ、それは」

さすがのギャオも「やめた方が…」と言おうとしたがすでに遅い。風音の口はここからが本番だった。

そしてここより風音の口から語られた冒険譚はその場の冒険者達からの語り草として次第に広がっていく。それは様々な人の手を渡り、脚色され、壮大なサーガとなってやがて大陸中を湧かせることになる

…かもしれない。

まあ、ジローの英雄度が本人の意志を超越し始めたのは間違いなかった。そして彼は胃が痛いとシクシクと泣くのである。

◎アカナ街道 翌昼

「ぱからーぱからー大勢だー」

「なんの歌だよ?」

商人たちが集まったキャラバンの中央の馬車の屋根の上。風音はそこで陽気に歌っていた。

「パカラ旅 純情派」

「意味分からん」

「私も分からん」

「なんだそりゃ?」

「知らないよ」

横にいるギャオも欠伸をしながら風音にどうでもいい話をしている。

「まったくなんでこんなんがあんな活躍できるんだろうな」

「それこそ知らないよ。まったくなんでなんだろうね」

風音自身、自分のこの力がどういった類のものかは分からない。

「お前に分からないものをおれっちが分かるかよ」

「ああ、まったくだね」

じゃあ誰が知ってるんだろうと風音は心の中でぼやく。

「ところでさあギャオ」

「なんだよ?」

「メロウさんと別れた?」

ブフォッとギャオが吹き出した。

「な、なな、なななな、何言ってんだよテメェ」

「いや、動揺しすぎだから。一緒じゃないから気になっただけだよ」

「別に別れてなんかないからな。ちょっと冷却期間とってるだけだから」

(ありゃ、マジっぽい?)

と風音は思ったが、特に気に病むこともなかった。

そんな呑気に話している二人に、「仕事をしろ」とか「サボってるな」とかいう人間は一人もいなかった。その代わりと言ってはなんだが馬車の前で歩いている冒険者たちは、二人をチラチラと見ながらヒソヒソ話をしている。

「あれ、本当だったんだなぁ」

「ギャオも怖ぇえヤツだとは思ってたんだが」

ギャオはあんな飄々とした性格だけに気まぐれなところのある男だ。自分からあまり仕掛けてることはないが売られた喧嘩は買うし、虫の居所が悪いときに絡んできた冒険者がほぼ半死の状態にさせられたこともある。だが今はそれどころではない脅威がギャオの横にある。

「あの鬼殺し姫だけには逆らわないようにしねえと」

馬車の上で会話をしている二人の横、そこにはさきほど手に入れた鬼の角が七組ある。

5組、10本の角が風音の取り分。残り二組、四本はギャオが倒したオーガのもの。うち一体は風音の倒し切れなかったオーガで、実質的には風音の取り分は6組でもおかしくはなかった。

つい一刻前のことになる。

七体のオーガが突然森からやってきたときには冒険者達も、そして商人たちも死を覚悟した。

一体二体でも大事のオーガである。この冒険者の数で対応できる限界を遙かに超えていると誰もが思った。そして商人たちはギルドの誘いに乗って馬車の上で謳うだけの子供を押しつけられた自分たちの迂闊さを呪った。

しかし、まるでオーガたちの出現が分かっていたかのように風音とギャオはすぐさま飛び出し、オーガたちがキャラバンの前に来る前にすべて仕留めてしまったのである。その際に商人たちが見た他の冒険者達のあっけにとられた顔はこれが尋常なものではないのだと知らしめるには十分だった。

「まあ、おれっちのデリケートな事情はいいとしてだ。カザネ、お前、やっぱり手に入れただろ?」

「何が?」

風音はすっとぼける。

「知らねえよ。知らねえけどなにかだ」

「意味が不明だよ?」

もうバレていると気付いた風音だが重ねてすっとぼける。

「はっ、今なら狂い鬼もひとりでやれんだろうな。お前」

風音が肩をすくめる。それは答える気はないという意思表示。

(まあ、別に話してくれるとは思ってねえけどな)

実力のある人間が手の内をあかさないのは普通のことだ。ギャオは風音の反応を不快には感じていない。冒険者同士は仲間であると同時に同業者でライバルだ。むしろ対等の相手であると認識されているとギャオは考える。

ギャオは風音が何を手に入れたかは知らない。だが、さきほどファイア・ヴォーテックスを合わせて六発は撃ってもまるで魔力が減っていないのが、相手の身体や生理的な状態が匂いで判断できるギャオには分かった。

そしてそれが風音の腰に下げた袋の中にある、まだ風音の匂いの付いていない何かが原因であろうことも。

「ま、日々成長してるんだよ。私も」

「し過ぎだろう。それは」